「すべての知識教育と学習を置き換える」という壮大な挑戦|MacFan

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「すべての知識教育と学習を置き換える」という壮大な挑戦

文●山田井ユウキ

いつでも、どこでも、iPhoneさえ持っていれば、仲間たちと背中を押し合いながら学習できる。スマートフォンを前提に開発されたソーシャルラーニングプラットフォームの「goocus pro」は、企業や学校での"学び"のスタイルをがらりと変える大きな可能性を秘めている。

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グーカスプロの開発元であるキャスタリア(ギリシャ神話に登場する「知識の泉」から名付けられた)は、「自由に学べる『知』を増やすことで、社会を豊かにする」ことを企業理念として掲げている。

icn_gucuspro.jpg   goocus pro
[価格]無料[販売業者]Castalia Co. Limited.


 

もっと効果的に学びたい




皆さんは今、学べているだろうか。語学、ビジネスマナー、知識研修…etc。大人になっても学ぶべきこと、学びたいことは山のようにある。だが、仕事に勤しみ、忙しい毎日の中で学習に時間を割くのは容易なことではない。
インターネットにはさまざまなオンライン学習システムがある。「eラーニング」と呼ばれ、さまざまな講座や授業をネット越しに受講できる。また、最近では社内研修をオンラインで行う企業も増えているだろう。しかし、そのほとんどはPCを前提として作られたもの。好きなときに、好きな場所で学べるわけではないし、効果的に学べているかと聞かれると首を傾げる人も多いはずだ。
スマートフォンやソーシャルが全盛の時代に相応しい学びの在り方とは? 主体的に学べ、楽しく長続きし、本当に身につく学びの方法とは? それを徹底的に突き詰め、誕生したのが「グーカスプロ(goocus pro)」だ。
グーカスプロを開発したのは、キャスタリア株式会社。これまでにウィキペディアの検索履歴をSNSでシェアすることで学習を促進する「グーカス(goocus)」や、インターネット上にある大学などの講義動画を使ってソーシャルに学習できるプラットフォーム「iUniv」をプロデュースするなど、ソーシャルを軸にした教育/学習ツールの開発、販売を主に行うIT企業である。そんなキャスタリアが満を持してリリースしたグーカスプロについて、開発を手がけた景山泰考氏と福留理氏に話を聞いた。
「『グーカス』によるウィキペディア以外の学びも促進したいという思いがあったんです。それを実現するためにコースウェア型のソーシャルラーニングプラットフォームとして開発したのがグーカスプロです。ソーシャルラーニングとは、 人とのつながりを利用して、より高い学習効果を得ようとする学習法のこと。競い合ったり、遅れている人を励ましたりすることで、学習効率の向上を期待できます。グーカスプロは学校の授業や組織内の知識研修などでクラスメイトや同僚と協力しながら学べるように、企業や教育機関、団体向けに開発したプラットフォームです」(福留氏)
 

PC向けの縮小版ではない




グーカスプロが従来のPC向けのeラーニングシステムと大きく異なるのは、最初からスマートフォンに特化して開発されている点だ。スマートフォンの携帯性の高さと、それに最適化したことによる常習性が、従来のeラーニングにはなかった特徴である。これまでPCが入り込めなかった場所-通勤や通学、待ち合わせなどのスキマ時間を活用することで学習機会が増え、無駄なく学習を進めることができる。
また、もう1つの特徴は「あえて小さく設定された学習単位」にある。スマートフォンの小さな画面で、スキマ時間に学べることを前提としているため、学習教材はiPhoneの画面を上から下に延々とスクロールし続けないとならないようなものでは不適切だ(PCを前提として作られた学習教材をスマートフォンで閲覧するとこのような場合が多い)。
グーカスプロでは学習教材を「プログラム」「コース」「クラス」「モジュール」という4つの単位に分け、モジュールを学習の最小単位としている(プログラムを“書籍”に例えるなら、コースは"章”、クラスは"節”モジュールは“ページ”に当たる)。モジュールとして、テキストや動画、クイズやアンケート形式の問題などが一画面に1つ、楽にスクロールできる範囲で表示される。こうした最小単位での学びならば気軽に行えるし、中断しても再開しやすい。また、次のモジュールへテンポよく進んでいくことで達成感を積み上げることもできるし、いつの間にかコースやプログラムが終了していることだってある。こうしたユーザインターフェイスのヒントは、ソーシャルゲームから得たものだと景山氏は語る。
「ボタンをポチポチ押していくと先へ進んでいくゲームがありますよね。動線をユーザに意識させず、迷うことがないようにしている。それをグーカスプロでも意識してデザインしています。例えば画面の遷移を横ではなく縦に統一しているのもユーザを迷わせないため。モジュール間の移動はスワイプではできないようにしていて、モジュールを下までスクロールするとニュッと出てくるボタンで次のモジュールへ移動させるようにしているのです」
 

学び合いと励まし合い




グーカスプロには学習につきものの“飽き”を防ぐための工夫もある。「学んだボタン」や「応援」といったソーシャル機能だ。「学んだボタン」はいわば「いいね!」ボタンのようなもので、モジュールごとに「学んだ」ことをコメント付きで表明できる。他人がどのモジュールで学んだのか、どんなことを考えたのかを共有することで、学習意欲をアップさせる効果がある。
また、「応援」は、ほかの学習者を応援する機能。応援された相手にはプッシュ通知で「◯◯から応援されました」というお知らせが届き、学習意欲の低下を防ぐことができる。
ソーシャル時代のeラーニングツールとしてはこれだけでも十分に新鮮だが、グーカスプロの真骨頂はここからだ。学習者がコースをひととおり終了すると、あらかじめ設定された「ワード」にポイントが加算されていく。
例えば「ビジネスマナー」のコースをクリアすれば、「敬語」に5ポイント、「ビジネス」に4ポイントが与えられるといった具合。ワードの内容とポイントは管理者が設定でき、誰がどのワードに対して何ポイント獲得しているのかも、各ユーザのマイページから自由に閲覧することができる。こうすることで、現時点で誰がどの分野に対してどれくらい理解度があるのかを的確に判断することができる。グループ全体の進行度を把握したり、仕事を割り振ったりするときの基準として、大いに役立つ魅力的な仕組みが整っている。
現在、グーカスプロは企業や学校を問わず、「学習」を必要とする多くの組織団体から注目を集めている。フェリス女学院大学の春木研究室では、株式会社旺文社の協力のもとTOEICの問題集をグーカスプロに収納し、学生の学びの動態分析や、ソーシャル機能/メンタリングによる学習効果の測定を開始している。
また、学校のみならず、企業でもさまざまな活用用途が見込まれる。ビジネスマナーやロジカルシンキング、英語…といった社内セミナー向けのコンテンツをグーカスプロで展開することで、座学学習やPCを前提としない、新たな社内研修のカタチが生まれるだろう。
すでに自社コンテンツを持つ企業はグーカスプロのプラットフォームのみを一人300円から導入することが可能だ。また、さまざまなコンテンツホルダーから提供を受けた学習教材を含んだ状態で導入することもできる。
キャスタリアは今後、コンテンツホルダーとの協業を深め、将来は海外展開もにらみながら、iPad版の開発なども進めていくという。iPhoneとグーカスプロが目指す"学習を変える”という壮大な試みは、まだ始まったばかりである。

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「ビジネスマナー基礎編」というプログラムの中には、「ビジネスでの基本」というコースがあり、さまざまなモジュールが並ぶ。各モジュールはテキスト形式のものや動画形式、クイズ形式などさまざま。問題を間違えたモジュールには×が付けられるのでわかりやすい。

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コースが終了すると、内容に応じた「ワード」とポイントが加算され、「自分は何を学習したのか」が視覚化される。

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各モジュールに用意された「学んだ」ボタンを押すと学んだ内容についてコメントを残し、他の学習者とシェアすることができる。また、そのコースについて、誰がどこまで達成しているのか、グループの平均進行度はどれくらいかなども一目でわかる。「応援」機能を使えばプッシュ通知で相手に応援が飛ぶ。

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WEBブラウザ上で操作できる専用の管理ツールを利用して、テキストや穴埋め問題などのコンテンツを作成できる。また、メンバーの学習管理・分析を行うことも可能だ。

『Mac Fan』2013年8月号掲載