会議室や小売りの現場を変えるセレンディピティ|MacFan

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会議室や小売りの現場を変えるセレンディピティ

文●海上忍

アップルTVを利用したエアプレイ/エアプレイミラーリングといえば、個人が音楽や映像を楽しむもの…という先入観がある。しかし、ワイヤレスで1080p品質の映像を出力できるその機能は、企業で急速に普及するiPadと組み合わせると、会議や商談の現場を変えるほどの可能性を秘めているのだ。

実はビジネス向きのエアプレイ




アップルTVは、iTunesストアやユーチューブ、Huluといった映像・音声コンテンツをテレビの大画面で楽しむための機器だ。8800円という価格設定からしても、コンシューマー向けの製品といえるが、企業でも便利に利活用できる、他のデバイスにない機能がある。それが「エアプレイ(AirPlay)」、そして「エアプレイミラーリング」だ。
エアプレイは、クライアント(iPadやiPhone)からレシーバ(アップルTV)に向け、無線LAN経由でほぼリアルタイムに映像/音声を送出する機能。エアプレイミラーリングは、そのエアプレイを利用し、iOSデバイス(iPhone 4S以降)で見る画面そのままをアップルTVへ送出できる機能だ。
一般的にMacやPCの画面をテレビに接続する場合は、HDMIケーブルという物理的な制約が生じる。HDMIの規格では、信号が減衰する都合上ケーブルは最長5メートルとされており、広い部屋で利用するには心許ない長さだ。「HDMIリピータ」で延長する手もあるが、今度は導入コストと床を這い回るケーブルという難問が待ち受ける。
ほかでもない、この問題を一気に解決する手段がエアプレイなのである。会議やプレゼンテーションの場で取り扱い商品に関する資料や映像をテレビやプロジェクタに表示することは、ビジネスの現場でよくあること。そんなとき、アップルTVをHDMI入力を備えたテレビに接続しておけば、iOSデバイス内のコンテンツを、iOSデバイスで見るよりもはるかに大きい画面に表示できる。
この優れた機能に着目して、最近ではiPadと一緒にアップルTVも購入し、会議室などに設置する企業が増えている。テレビやプロジェクタとはHDMIケーブル1本で接続するだけ。さらに9.8(W)×9.8(D)×2.3(H)センチというコンパクトなボディは設置に場所をとらない。そして何よりもiOSデバイス内のコンテンツを、ボタンをワンタップするだけでワイヤレスで大画面に投影できるという手軽さが導入の決め手となっているのだ。
 

会議の進行が円滑に




「おっとサーバ店」というリアル店舗の運営、Mac対応ストレージ「ドロボ(Drobo)の総代理店、各種コンピュータ製品の販売や保守サービス、各種ソリューション提案を業務とする国際産業技術株式会社も、そうしたメリットを感じてアップルTVを導入した企業だ。
「会議室の床を這い回るケーブルには悩まされていました。当初は、変換アダプタ(ドックからHDMI)を使いiPadをテレビに接続していたのです。しかし、外れやすいうえにケーブル長の問題がありました」(立花和昭取締役社長)
同社はコンピュータ製品の情報量を豊富に持ち、運用ノウハウにも長けた企業だ。情報戦略の一環として、営業社員を中心にiPadの配備を完了していたが、得意とする製品分野がPCの周辺機器やPCサーバなどウィンドウズ/UNIX系OSマシンという事情もあり、アップル製品を活用したソリューションはなかなか浮上してこなかったという。
それだけに、立花社長の目にエアプレイの機能は新鮮に映ったようだ。「話には聞いていましたが、iPadで表示されていたユーチューブの映像がワイヤレスでテレビに映る様子を目の当たりにしたときは、軽いカルチャーショックを受けましたね。これをウィンドウズマシンで構築しようとすると、DLNA(ホームネットワークに接続された機器やコンテンツを相互接続するための規格)ではこれほど簡潔にはまとまらないでしょうし、とても8000円台という価格には収まりません」
視覚的なインパクトのみならず、会議におけるアップルTV導入の効果も顕著だという。
「出席する社員はすべてiPadを持っていますので、見せたい資料があるときは各自エアプレイを使って画面を切り替えていくわけです。エアプレイミラーリングを使えば、アプリの画面もそのまま大画面で確認できますしね。ケーブルで接続していたときに比べ、会議の流れは格段にスムーズになりました。来社があった場合も、その方がiOSデバイスを持っていれば、すぐにプレゼンを始めていただくことができます」
同社がアップルTVを導入したのは、2012年7月。第3世代のアップルTVは1080pの解像度に対応、ピクセル・バイ・ピクセルに対応したフルHD対応テレビであれば、ボケのない鮮明な映像を鑑賞できる。WEBブラウザの画面をエアプレイミラーリングで出力しても、見づらいことはない。そして、この解像度の高さは、「ペーパーレス化」にも貢献している。
 

対面でスムーズな接客




「紙」というのは厄介なシロモノだ。一度プリントアウトしてしまえば、可搬性の高さゆえにどこでも簡単に閲覧できる。複製も容易なため、自分が意図しない相手に配布されてしまうこともある。自分の意見をそこに書こうものなら、それを言質とされる可能性すら否定できない。ビジネスの分野でペーパーレス化が叫ばれて久しいが、エコだから、時代の要請だからという理由だけではないのだ。
同社も、その「紙」が持つ特性に悩まされてきた。かつては売り上げに占める小売り(BtoC)の割合が高かったが、近年では企業向け(BtoB)の割合が増加。サーバ製品の商談で自社ショールームに顧客を招くことが多いが、その際「紙」が悩ましい存在だったのだ。
「弊社では、お客さまがいらしたその場で、チラシなどで価格を提示することはしません。価格について質問があった場合は、ワンクッション置いてからご案内するようにしています。弊社WEBサイトには価格を掲載していますから、エアプレイミラーリングでブラウザ画面をテレビに出しその案内をする、という流れです。ですから、ショールームの担当者は、iPadを片手に接客しています」
確かに価格表やスペック表などWEBをチェックできるものは、あえて紙で手渡されなくても支障はない。安易なペーパーレス化は顧客に不便を強いる可能性もあるが、より効率的な代替手段を案内するのであれば、顧客の利便性向上にもつながる。
このように、「iOSデバイス×アップルTV×エアプレイ」という組み合わせはビジネスの現場で大きな威力を発揮する。その活用用途は単にiOSデバイスのコンテンツをワイヤレスで大画面に表示するだけなのだが、それを実現できるのは今のところiOSプラットホームしかない。アップルTVとエアプレイというソリューションが用意されていることが、iPadの法人導入を加速させている理由の1つともいえるのだ。

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ガイアエデュケーションから発売されている。アップルTVを金属製の固定パーツにセットして、付属しているセキュリティキーでカギをかければロックできる。価格は8000円。


『Mac Fan』2013年1月号掲載