iPad法人アプリの開発の現状と課題、そして本来のあるべき姿|MacFan

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iPad法人アプリの開発の現状と課題、そして本来のあるべき姿

文●編集部

営業先でのプレゼンや社内での情報共有、はたまた店頭でのアンケートや工事現場での工程管理まで、さまざまなアプリを開発することで、iPadは1台であらゆるツールへと変貌する。デバイスが登場してから数年が経過し、iPadの法人導入が浸透する今、これまで見えてこなかったアプリ開発の傾向と問題点が浮上してきた。

難易度やコストによって段階的に進むアプリの導入




破竹の勢いで、iPadの法人導入が進んでいる。2012年7月の「ソフトバンクワールド」で講演した孫正義社長によると、国内においてiOSデバイスを導入している企業は「iPhoneで15万社以上、iPadで6万社以上」にのぼるという。最近では野村證券の8000台、全日本空輸(ANA)の2000台の事例など、大量導入を行うケースも枚挙にいとまがない。2010年5月に初代モデルが国内販売されてからわずか2年あまり。「ワークスタイルを変革し、個の力を発揮するためのツール」として、ビジネスの現場にも浸透しているのが今のiPadの姿である。
iPadをビジネスの現場で活用する際には、アプリケーション(以下、アプリ)の存在が非常に重要となる。iPadを使うこと自体が目的化してしまっては導入は決して成功しない。iPadで何を成し遂げたいのか、それを実現するためにアプリをいかに活用していくかが、導入を成功させるためのカギである。
現在、そしてこれまでの企業内におけるアプリの導入は、難易度とコストによって大きく3段階に分けられる。
標準アプリやアップストアで配布されているビジネスアプリを利用する。
スタンドアローンのアプリ、あるいはサードパーティ製ソリューション(ファイルメーカーの「ファイルメーカーGo」など)を利用する。
社内の基幹システムや業務システムと連携する、業務に特化したアプリを個別開発し利用する。
iPad導入したての頃は、iPad導入による効果測定を行いにくい。そのため、まずはコストをかけずにiPad標準アプリや市販アプリを利用する。メールやカレンダーを外出先のスキマ時間にチェックしたり、紙の資料を読み込んでPDFビューアで顧客に見せるなどの使い方だ。この段階では同時にユーザの声をキャッチアップし、以降の活用計画や投資計画(予算取り)を行っていくケースが多い。
そして一定の効果が得られたら、簡単な独自アプリの開発やサードパーティ製ソリューションの導入へと進む。自社だけのセールスアプリやクラウド&グループウェアと連携するアプリ、社内での情報共有や会議システムに利用するアプリなどを用い、デバイスの活用範囲を広げ、具体的に業務に役立つツールとする。このフェーズでは利用ログを取得して効果測定するケースもある。
第三段階になると、基幹システムとの連携のプロジェクト化が行われる。単純な見せるだけ、入力するだけのデバイスとしてだけでなく、業務に特化したリアルタイムな情報端末として活用を深めていく。このような大規模のプロジェクトにおけるアプリ開発は開発会社やSIer(システムインテグレータ)に発注するケースがほとんどで、スタンドアローンで動くアプリは1本当たり数百万円、社内システムと連携するアプリの場合は1000万円を超えることも多い。
 

業種業態は関係ない? アプリ開発に見る共通点




iPadを導入している多くの企業は、こうしたフェーズを経て活用度合いを深めてきた。特に初代iPadから先駆的に導入を進めてきた企業の多くは、2012年の今年に入り、導入効果が明確化するにつれ、より積極的な業務利用を図るため、第三段階のフェーズに突入している。iPadの利活用は一筋縄でいくものではなく、経験を経て段階的に導入を進めていくことが現実解である。
しかし、法人導入が浸透してきた今、アプリ開発における傾向や問題点も顕在化してきている。「iPhone、そしてiPad登場当初から導入企業様向けのアプリ開発を行ってきましたが、業種・業態の壁を超えて要件(用途)が共通化できるアプリが多いことに気づきました」と語るのは、iOSデバイス向けにこれまで50社以上に300アプリの開発を行ってきた実績を持つジェナの代表取締役社長・手塚康夫氏。同社がこれまでに開発してきたアプリの統計結果を見ると、カタログアプリが31%、プレゼンアプリが30%、情報共有アプリが18%という結果になっており、この3つのアプリで全体の約8割を占める。全体の8割が共通化可能なアプリを導入しているということは、iPadを活用したワークスタイルにベストプラックティスが存在し、より効率的なアプリ開発が可能なのではないだろうか。
 

アプリ開発の目的は何か? シープという次世代サービス




「共通のニーズを持つアプリを開発する場合、開発の効率化によってコストの削減や期間の短縮が可能です。多くの企業では1社あたり平均6~7アプリを開発するという統計結果が出ていますので開発の効率化を実現できれば、より個別性が高く、業務に直結したアプリの開発に投資を行い、アウトプットを高めていくことができるのではないでしょうか」
この思想のもと、ジェナが2012年10月から提供開始するのが「シープ(SEAP)」というアプリ開発プラットフォームだ。WEBブラウザからアクセスできるCMSを利用して、あらかじめ用意されている汎用的なテンプレート(カタログやプレゼン、アンケート、再ネージなどさまざまな業務向けのテンプレート)に画像や動画をドラッグ&ドロップして、iOSとアンドロイド端末向けにアプリを簡単に開発できる。プログラムの知識は一切必要なく、ユーザは専用サイトにアクセスして、開発したアプリをダウンロードして使い始められる。アプリの更新作業などもWEBブラウザ上で行え、各種セキュリティ設定や効果測定なども可能。月額利用料は、破格の月10万円(ユーザ数無制限)だ。
「ビジネスでよく使われるニーズの高いアプリの場合、シープを使えば年間100万円で行えます。シープの利用により削減できたコストを業務に特化したカスタマイズアプリに投資してほしい。つまり、iPadの活用レベルを一段階上げてほしいと思っているわけです」
目先のアプリ開発で利益を得ることではなく、業界全体の問題点を視野に入れ、iPadの法人導入のあるべき姿を実現させるために開発したのがシープというソリューションなのだ。
「今後1~2年後に、iPad向け法人アプリ開発の世界は二極化していきます。1つは先端的な事例や特殊な個別性が求められるアプリ開発。もう1つは、汎用化(共通化)するアプリ開発。前者はなくなることはないでしょうが、後者は価格競争に陥らざるを得ません。現に、海外でのオフショア開発で開発期間とコストを抑えるような事例も出てきています。そのため私たちはシープを開発し、いち早くこの汎用化する市場のシェアを獲得したい。同時に、汎用的なアプリを社内で内製化する環境を提供することは、導入企業にとってより迅速なビジネスを可能にし、iPadを使うメリットをもっと見出してもらえると思います」
デバイスが登場してから数年しか経っていないため、これまで明確なベストプラクティスが確立されていなかったiPadの法人導入。しかし、今では経験とノウハウを活かしたシープのようなソリューション、そして参考となるさまざまな事例が存在している。「前例のない」時代から、「前例を踏まえる」時代へ。iPadの法人導入は、もう第二のステージへと突入している。


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iOSデバイスを利用した大規模なシステム開発からアプリ開発、デバイス導入までサポートするジェナ。「シープは法人利用でニーズの高い用途をテンプレート化することで、さまざまなユースケースを知り、アプリをユーザ自身の手で簡単に作り出すことができます」と代表取締役社長の手塚康夫氏は語る。


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○iPad導入企業のアプリ開発
ジェナがiOSデバイスを対象に開発した法人向けアプリの内訳。カタログやプレゼン、情報共有アプリが全体の約8割を占める。10社あれば8社はこれらのアプリ開発を行っていることになる。

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○月額10万円でアプリ開発
一般的なスタンドアローンのアプリ開発の場合、初期開発に250万円かかり、アプリをアップデートするたびに50万円ずつ費用がかかるのが一般的。シープの場合はアプリをいくつ開発しても、月額10万円(クラウドにアップするコンテンツ容量が2GBまで。追加1GBはプラス月額2万5000円)。

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○94%はiOSデバイス向け開発
ジェナによるアプリ開発の実績統計データ。iPad向けアプリが6割、iPhone向けが3割と、実に94%がiOSデバイス向けとなっている。

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○SEAPという次世代プラットフォーム(1)
シープにはカタログやプレゼンテーション、アンケート、サイネージなどのアプリのテンプレートが用意されている。WEBブラウザからテキストや写真などの素材を組み合わせて、汎用的なネイティブアプリを簡単に作成できる。

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○SEAPという次世代プラットフォーム(2)
営業部のカタログアプリ、店舗のサイネージアプリ、部署の売上げ管理アプリなど用途に合わせて利用できる。内容を更新する際もスタンドアローンアプリのように開発者に依頼することなく、コストをかけずに社内で手軽・迅速に行える。



『Mac Fan』2012年11月号掲載