インストラクターがプロダクトを開発した双方向のフィットネス体験|MacFan

教育・医療・Biz iOS導入事例

インストラクターがプロダクトを開発した双方向のフィットネス体験

文●朽木誠一郎

Apple的目線で読み解く。医療の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

国内で苦境に立たされるフィットネス業界の中にあって、規模を拡大する“暗闇フィットネス”のパイオニア。「FEELCYCLE」は専用バイクでのオンラインバイクエクササイズを展開し、好調な売れ行きが話題を集めた。そんなプロダクト開発に当初から向き合い続けるのは、エンジニアリング未経験の現役インストラクターだ。

 

バイクの上でiPhoneを操作

自宅でフィットネスバイクにまたがる筆者に、備え付けのモニタ画面の向こうから「まだまだ行けますかー?」と励ましの言葉を投げかけるインストラクター。筆者は自分のiPhoneを操作し、Webアプリに提示される選択肢から「がんばる」を選ぶ。すると配信元のスタジオにいるインストラクターが「○○(筆者)さん、がんばって!」とインタラクティブに声をかけてくれる。

これはクラブのような空間で音楽に合わせてバイクを漕ぐ“暗闇フィットネス”の「フィールサイクル(FEELCYCLE)」が提供するオンラインバイクエクササイズ「フィールエニウェア(FEEL ANYWHERE)」のライブレッスンの様子だ。同サービスでは、前述の専用バイクと一体型のタブレットを自宅などに設置することで、人気インストラクターのレッスン約300種類をオンデマンドとライブで受講できる。

フィールエニウェアでは、2021年8月の先行販売時、26万9000円の専用バイク1000台が完売した。フィットネス業界で密かに広がるこうした熱狂について、フィールエニウェアを運営するフィールコネクション(FEEL CONNECTION)代表の橋本英治氏、同インストラクターでフィールエニウェアのサービス起ち上げから関わるシゲ(Shige)氏に話を聞いた。

 

 

2012年6月16日に株式会社ベンチャーバンク(当時)の新規事業としてスタート、東京・銀座に「FEELCYCLE」1号店を開店。現在は分社・独立し株式会社FEEL CONNECTIONとして運営、現在は全国に約40店舗を構える。2022年6月には銀座京橋に、2023年4月には京都河原町に、それぞれ大型スクリーンを設置し映像に合わせてエクササイズをする新店舗を出店。会員数は2023年10月時点で都度利用を含め約18万人に上る。 [URL]https://www.feelconnection.co.jp

 

 

コロナ禍で規模拡大の理由

フィールサイクルではインストラクターの指示で行う「コリオ」と呼ばれる振り付けの動作をしながら、フィットネスバイクを漕ぐ。コリオには腕立て伏せや腹筋などの要素も含まれ、有酸素運動と筋トレ両方が可能なエクササイズだ。

フィールサイクルは米国で流行していた暗闇バイクエクササイズを現地で体験した橋本氏が、いち早く日本に持ち込む形で2012年に起ち上がった。現在、全国に約40のスタジオ(店舗)を構える。

コロナ禍のあおりを受け、相次ぐフィットネス事業者の倒産が話題だ。フィールサイクルも「緊急事態宣言時の休業期間など危ない時期はあった」(橋本氏)と明かすが、この期間にも複数の新店舗を出店、会員数(都度利用を含む)を約10万人から18万人まで伸ばすなど、規模を拡大している。

その理由の一つが、所属するインストラクターだ。同サービスにおいて、インストラクターはレッスンの参加者を、コリオの指示や投げかけるメッセージ、歌、ダンスなどで励まし、盛り上げるアーティストやモデルのような存在。利用者の中では、インストラクターを中心としたファンダム(ファンによる文化や経済圏)が形成されている。

フィールエニウェアの売れ行きにも、インストラクターの存在が大きく影響していることは、橋本氏も認めるところだ。先行販売時に高額な専用バイク1000台が完売したのは、ファンダムによるいわば「買い支え」の面もある。

現在はフィールサイクルの会員だけでなく、医療機関やジムなどの施設への導入を進める。特に後者について、橋本氏は「従来型のジムではトレッドミルなどの有酸素マシンへ飽きも生じている」と見る。そこに目新しくエンタメ要素のあるフィールエニウェアを導入することで「利用者には楽しんで運動を続けていただき、従来型のジムとも共存共栄できる」と展望を語る。

そしてこのサービスには、インストラクター自身も、華々しい演者としてだけでなく、裏方として泥臭く関わっている。

 

インストラクターが開発も

オンラインフィットネスはコロナ禍の潮流になったが、フィールエニウェアはコロナ前の2019年から構想がスタートしていたという。この時期は「フィットネス業界のアップル」「次のネットフリックス」と持て囃されたオンラインバイクフィットネス「ペロトン(Peloton)」の最盛期に当たる。その後、ペロトンにバブル景気と急激な失速をもたらしたのが、新型コロナウイルスの感染拡大だ。

もちろん、フィールエニウェアの事業計画にも乱れが生じた。開発を急がざるを得ない一方で、世界的な半導体不足などの影響でプロダクトが行き届かない。開発は手探りだが、すでに確立したフィールサイクルと同等のクオリティを求められる。結果、先行販売時のベータ版ではコリオと音楽がズレるというユーザからの意見や、バイク配達の遅延が相次ぎ、対応を余儀なくされた。

当初から一つひとつのトラブルに向き合ってきたのが、インストラクターのシゲ氏だ。2013年にデビューした同サービス内ではベテランで、近年は運営の業務の割合も増えていた。そんな中で、フィールエニウェアのプロジェクトが起ち上がり、担当者として志願した。「もともと世界的なオンラインフィットネスの動向には興味があり、フィールサイクルのオンライン展開は面白そうだと感じた」(シゲ氏)。

シゲ氏のようなベテランインストラクターは、かねてからスタジオの音響や照明などの機材の故障にも対応してきた。しかし「いちから専用バイクを作ることになるとは思わなかった」と笑う。

バイクは自宅での利用を想定して設計され、低騒音・低振動を実現するように、内部の構造を変更。一体型モニタは独自に開発したもので、​​23・8インチの大画面かつ4基のスピーカを搭載する。業者を探して連絡を取り、相談を経て仕様を定める、といった行程をレッスンと並行して担当してきた。

「フィールサイクルとしても、インストラクターとしても、音楽を感じることを大事にしてきました。たとえばスピーカを後面に配置すれば開発は簡単でしたが、没入感が薄れます。橋本も『ゆっくり(サービスを)育てていこう』と言ってくれているので、今後もお客様の声を聞きながら、もう一つの事業の柱になるようにこだわっていきたいです」(シゲ氏)

 

 

株式会社FEEL CONNECTIONの代表取締役社長・橋本英治氏。専修大学経営学部卒業後、土木、外食、総合コンサルティング会社と、さまざまな業界を経験したのちに、2009年8月にベンチャーバンクに入社。アメリカで暗闇バイクフィットネスを体験したことをきっかけに、新規事業責任者としてFEELCYCLEを2012年に起ち上げ、2016年10月に株式会社FEEL CONNECTIONとして分社・独立。代表取締役社長に就任し、現在に至る。

 

 

インストラクターとしてレッスンも担当する株式会社FEEL CONNECTIONのShige氏。「FEEL ANYWHERE」の専用バイク開発にも携わった。

 

 

FEEL ANYWHEREでは、FEELCYCLEのレッスン約300種類を、トップインストラクターによりオンラインで提供する。有酸素運動と筋トレの両方の要素を組み合わせ、1レッスンあたり約800kcal(FEEL CONNECTIONによる)を消費。こだわった映像品質と、音楽に合わせ体を動かすことにより、従来のフィットネスでは得られない高揚感を味わうことが可能だ。[URL]https://feelanywhere.com

 

 

FEEL ANYWHEREの専用バイクは自宅用に設計されており、低騒音・低振動を実現している。必要なスペースはヨガマット1枚分で、集合住宅での利用も可能。バイク自体も各種センサを搭載するなど高性能で、耐久性にも優れている。

 

 

バイク前方に取り付けられている専用モニタは、「スタジオの最前列で参加しているような体験」をテーマに、23.8インチの大画面(iPadの約5倍の面積)で、4つのスピーカを前面に標準装備している(Bluetoothイヤフォンも利用可能)。

 

「FEEL ANYWHERE」のココがすごい!

□300種類のバイクエクササイズが自宅でオンライン受講できる
□先行販売で約30万円の専用バイク1000台が3日間で完売
□現役インストラクターがいちからプロダクトの開発を担当している