未経験からADEへ─契機となった運命の出会い|MacFan

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未経験からADEへ─契機となった運命の出会い

文●小平淳一

Apple的目線で読み解く。教育の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

森村学園初等部の不破花純教諭は、元々デジタルへの興味が高い方ではなかった。iPadやiPhoneで何ができるのかもよく知らなかったという不破教諭だが、同校に入職して5年でADEに選出されるまでになった。不破教諭がADEに興味を抱いたきっかけは、ある先輩教諭との出会いだった。

 

 

本格展開の真っ只中

「元々、デジタルには疎かったんです。入職するまで、iPadで何ができるのかもほとんど知りませんでした。」

そう語るのは、神奈川県横浜市にある一貫校(幼小中高)、森村学園初等部の不破花純教諭だ。不破教諭は、2018年に森村学園に入職。大学を卒業して初めての入職先だった。ほんの数年前までデジタルに疎かったというが、現在は同校のICT担当を務めている。さらに2023年には、アップルが認定する教育界のイノベーター「ADE(Apple Distinguished Educator)」に選出された。不破教諭がADEを目指したきっかけとは、一体何だったのだろうか?

森村学園初等部は、2017年にiPadを導入し始めた。最初は教員分を含め80台のみだったが、そこからICT教育のノウハウを着実に積み重ね、現在では720台のiPadを導入している。児童に対して1人1台体制が整っている状況だ。

不破教諭が同校に入職した2018年は、まさに同校がiPadを使ったICT教育を本格的に展開しようとしていた真っ最中だった。

当時、同校のiPad導入の中心人物となっていたのが、榎本昇教諭だ。導入のための提案資料の作成から校内研修まで精力的に行った榎本教諭は、まさに同校のICT教育の立役者と言える。榎本教諭も2019年にADEに選出されており、不破教諭は同校で2人目のADEとなった。不破教諭は入職当時をこう振り返る。

「榎本先生は、iPadを使ってこんな面白い授業ができるんだということをいつも背中で示してくださって、そこから私もiPadの活用に興味を持つようになりました。最初の2年間は榎本先生を追いかけて、一緒にさまざまな研修にも参加したり、公開授業を行ったり、いろいろな経験をさせてもらいました」

数々のICT教育研修に参加する中で、自らの意識が大きく変わった最初のきっかけは、授業支援ツール「ロイロノート・スクール」の大研修会だったという。

「全国から先生が参加する300人規模の研修会でした。ロイロノート・スクール自体は以前から使っていたのですが、研修会を通じて、独創的なiPad活用を行っている先生が日本中にいることを知り、刺激を受けました」

その後、榎本教諭の勧めでほかの学校のADEが登壇する研修にも参加し、そこでも繰り返し刺激を受けたという。こうした経験を通じて、徐々に自分もそんな先輩教諭のようになりたいと思い始めたそうだ。

 

 

不破花純 教諭

大学卒業後、2018年度より森村学園初等部に入職。クラス担任を務める傍ら、ICT担当と教職員研修担当、総合部会の部長も兼任する。児童への映像制作の指導も行い、パナソニックが主催する「キッド・ウィットネス・ニュース(KWN)日本コンテスト」では指導を行った児童の作品が最優秀賞を獲得。Apple Distinguished Educator 2023。

Apple Distinguished Educator(ADE)…Appleが認定する教育分野のイノベーター。 世界45カ国で2000人以上のADEが、Appleのテクノロジーを活用しながら教育現場の最前線で活躍している。

 

 

国語教育への活用

不破教諭はまず、国語でのiPad活用を始めた。実践例がまだ少なく、表現分野が得意なiPadとの相性がよさそうだと感じたからだという。その中で不破教諭は、教科書の理解をより深めるため、児童に動画を作成してもらうという取り組みを行っている。たとえば、登場人物の紹介動画をつくったり、特定の場面にBGMをつけたり、文章を要約してニュース動画にしたりといった内容だ。

授業の中で使用するアプリは、現在はiMovieがメイン。中にはプログラミングアプリの「スプリンギン(Springin')」を使い、画面を動画収録して利用する児童もいるという。

不破教諭は、アプリの選択肢を提供しながら、使い方に関する質問があれば答えたり、一緒に考えたりしている。決して画一的な使い方を指導しているわけではない。

現在は1年生の担任をしているが、それ以前は長らく3、4年生を受け持っていた。3、4年生になると、多くの児童は自らアプリの使い方を調べ、自発的に学んでいくという。

iPadは、国語以外にもさまざまな授業で活用されている。たとえば総合学習では、キーノート(Keynote)のプレースホルダー機能を活用したビンゴカードを使って、校内にある森を歩いて、気になったものの写真を撮影するといった活用も行っている。森村学園では、セルラータイプのiPadを導入しているため、屋内外を問わず児童がiPadを活用できる。

 

受け継がれる未来へのバトン

森村学園では、パナソニックが主催する映像コンテスト「キッド・ウィットネス・ニュース(KWN)日本コンテスト」に参加しており、不破教諭は前述の榎本教諭と一緒に、児童の指導を行っている。同コンテストには日本各地の学校から作品が寄せられるが、そんな中で森村学園は、2018年から4回に渡って最優秀作品賞を受賞している。

「KWNの作品は、児童がアイデアを出し合い、絵コンテや台本をつくっていきます。そういった工程の中で、イメージを絵にまとめるプロセスが大切になっていきます。これには、国語の授業で行った、教科書の内容を動画にするといった取り組みが役に立っているのではないでしょうか。また、私の授業だけでなく、いろいろな先生がさまざまな教科でiPadを活用していることが活きているのだと思います」

最初はiPadについて疎かったという不破教諭だが、今や多彩なアイデアを授業に取り入れている。こうした不破教諭の変化は、榎本教諭にとっても驚くほどだったそうだ。

「入職した頃、彼女はたしかにデジタルが苦手でしたが、ICT活用に興味を持ってからの学習速度は目を見張るものがあります。今や先輩・後輩といった関係ではなく同僚として見ていますし、最近は不破先生から教わることも増えてきました。不破先生は、私が森村学園で取り組み始めたICT教育を未来につなげてくれる存在だと感じています」(榎本教諭)

不破教諭は、榎本教諭に対してICT教育だけにとどまらず、教師のあり方など大きく影響を受けたという。

「私は『自分が楽しいと思える授業をしよう』ということをモットーにしています。ICT教育に限らず、教師自身が楽まなければ、児童も楽めないと思います。でも、実はこれは、元々は榎本先生の言葉でした」

榎本教諭から不破教諭へ。2人のADEが開拓したiPadの活用は、新しいアイデアで枝葉を広げながら、より良いICT教育へと発展していくだろう。

不破教諭は、デジタルを活用して海外の学校との交流を持ちたいといった展望を語ってくれた。同校のiPadの活用がどのような未来に向かっていくかが楽しみだ。

 

 

国語の教科書に載っている「ごんぎつね」の物語にBGMや効果音をつけて動画を完成させようという授業。GarageBandや音楽学習ツールの「Chrome Music Lab」を活用して音楽を作成することでより深い学習につながった。

 

 

こちらも国語の授業の一環で作成したもの。「白いぼうし」という物語を宣伝するためのポスターや動画づくりに取り組んだ。図は、プログラミングツールの「Springin'」を活用した動くポスターになっている。

 

 

「うなぎのなぞを追って」という文章を元に動画ニュースを作成するという取り組み。使用するアプリは自由だが、iMovieを使う児童が多かったという。自宅で撮影やアテレコをしてくる児童もいたそうだ。

 

 

デザイン作成ツール「Canva」を使って児童が作ったポスター。「世界にほこる和紙」という4年生の国語の単元と連動。同じテンプレートを使いながらも、児童一人ひとりが自由にレイアウト変更を行い、個性豊かなポスターが仕上がった。

 

不破花純教諭のココがすごい!

□知識ゼロからICT教育を学び、新卒から5年でADEに選出
□国語の授業で動画を活用した授業を取り入れ、児童の内容理解を向上
□映像コンテストの指導にあたり、初参加で最優秀賞を受賞