アドビのすべてを見てきた男が語る「画像生成AIの正しい使い方」|MacFan

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ラッセル・ブラウン氏 インタビュー

アドビのすべてを見てきた男が語る「画像生成AIの正しい使い方」

文●中筋義人写真●黒田彰

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かつては「エバンジェリスト」、今は「インフルエンサー」として活動しているアドビのラッセル・ブラウン氏が、2023年11月16日に東京ビックサイトにて開催されたイベント「Adobe MAX Japan」に合わせて来日した。ブラウン氏にPhotoshopの生成AI機能といった最新機能について話を聞いた。

 

アドビの歴史の生き証人

西部劇から飛び出してきたかのような格好の男性。この人物こそ、アドビおよびデジタル・クリエイティブの発展を長年を見続けてきたラッセル・ブラウン氏だ。ブラウン氏は、前回2019年に開催されたアドビ・マックス・ジャパン(Adobe MAX Japan)以来、4年ぶりに来日した。これまで日本に来た回数は25回ほどになるという。

「最初に日本に来たのは、1990年で日本で最初のフォトショップ(Photoshop)1.0のデモをやるために初めて日本に来ました。アドビで働き出したのは、38年前になります」

38年前である1985年といえば、アドビが設立されて3年目のころだ。

「私はデザイナーとしてアドビの仕事をスタートしました。そのころはまだフォトショップはおろかイラストレーター(Illustrator)すら登場していません。(ページ記述言語である)ポストスクリプト(PostScript)はありましたので、そのコードを書くことでニュースレターなどを制作していました。当時はパッケージからパンフレット、年次報告書までアドビのデザインは上司と私の2人で担当していました。それが現在は数千人です。昔は上司と私で『いいね!』となれば何でも作っていましたが、今はそうはいきませんね」

 

2023年11月に開催されたAdobe MAX Japanで、Photoshopのデモを行ったアドビ シニア・プリンシプル・デザイナー、ラッセル・ブラウン氏。カウボーイのコスプレでの楽しいデモで聴衆を惹きつけていた。

 

 

 

 

コスプレにこだわる訳

フォトショップ 1.0からその開発や普及活動にも関わってきたブラウン氏。現在、アドビでの正式な役職はシニア・プリンシプル・デザイナーで、写真家でもあるブラウン氏だが「今はインフルエンサーという肩書きがちょうど当てはまる」と語る。

「写真に興味関心がある人に驚きを与える画像を作成してInstagramやFacebookへ投稿しています。また、このようなイベントでさまざまなデモを行うのも私の重要な活動です」

ブラウン氏は、イベントでデモを行う際にコスプレすることでも有名だ。これまで扮してきたキャラクターは、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のドク、「スター・ウォーズ」のジェダイナイトなどさまざまだ。今回のアドビ・マックス・ジャパンでもカウボーイ風のスタイルで登壇していた。なぜ、コスプレでデモを行うのかを聞いてみた。

「コスプレすることで、エンターテインメント性と教育性が組み合わさると私は信じています。カウボーイになったりすることで聴衆へより近づくことができ、より深い話をすることができるのです」

今回のアドビ・マックス・ジャパンでのステージも、内容はもちろん、そのコスプレや話術と相まって、ほかのデモとはひと味違う、非常に楽しくわかりやすいものとなっていた。そのことを伝えると「それがアドビが長年私を雇い続けてくれる理由ですね」と笑って答えた。

 

画像生成AIと雪の結晶

ブラウン氏に、フォトショップに搭載された生成AI機能「生成塗りつぶし」について聞いてみた。

「最初のころの画像生成AIは、写真家としては面白いものではありませんでした。しかしフォトショップの『生成塗りつぶし』で、なかったものを足していくことができるようになったのは、すごいことだと思います。私が『生成塗りつぶし』で画像に花を足したら、それは私だけのイメージということになります。アドビ・ストック(アドビのストック画像サービス)でも花の写真はありますが、その画像は使えても唯一ではありません。生成AIでは同一の出力を2度生成することはほぼないので、ユニークな作品となるのです。それは、雪の結晶が1つとして同じものがないのと似ています」

デザイナーとしても生成AIの便利さを語ってくれた。

「『生成塗りつぶし』は写真家よりもデザイナーにとって有効な機能だと思います。画角を広げたり、不要な写り込みを消したり、非常にパワフルです。生成AIがなかったときにはもう戻りたくありません。すでになくてはならないツールです」

 

「正直であること」が重要

生成AIを使ううえで注意すべき点があるか、聞いてみた。

「写真が良くなるのであればなんでも使ってみるべきじゃないかと思います。AIを使って写真をどのように改変してもいいのだけど、“正直であれ”ということは守ってほしいです。それがクリエイティビティへの尊敬へとつながります。ただ、写真の改変というものは歴史上、延々と行われてきたことです。アンセル・アダムスというフィルム時代の名写真家がいました。彼は“覆い焼き”と“焼き込み”という技法の先駆者ですが、そうやって写真を改変していたわけです。AIはその新しい方法の1つと考えます。その改変がクリエイティブであれば、好き嫌いはあれど良し悪しをとやかく言うものではないです」

アドビ・マックス・ジャパン会場にはブラウン氏が「生成塗りつぶし」を使って制作した写真作品が展示されていた。

「私が作品を通じてもっとも伝えたいのは、生成AIを使えば『いい画像』を作れるということです」

ブラウン氏が特別に、その作品を生成AIを使って改変する前と後の画像を提供してくれたので、ぜひご覧いただきたい(下右図)。

また、ブラウン氏はデモで「生成塗りつぶし」機能のユニークで実験的な利用法も示していた。通常は「AIで生成するか、しないか」の2択である機能を、フォトショップのマスクの不透明度を変更することで効果の度合いを制御する試みだ。

「実際にやってみるとわかりますが、まだまだ研究する余地がある手法で、手順も複雑です。簡単に試すことができるフォトショップアクションのデータを公開しているのダウンロードしてみてください(下左図)」

最後にMacでクリエティブな作業をしている読者の皆さんへのメッセージをくれた。

「間違いを起こすことを恐れないでください。実験や失敗は素晴らしい結果を導き出してくれます。私自身、毎日10回ぐらい間違いをおかすようにしていますよ!」

 

 

Adobe MAX Japanでは「生成塗りつぶし」を使った実験的なデモを行っていた。その機能を使ったPhotoshopアクションのデータ配布サイトは以下のとおり。[URL]https://www.russellbrown.com/max/

 

 

ラッセル・ブラウン氏の作品の、生成塗りつぶしなどで加工する前の状態(Before)と完成形(After)。見比べると、ドレスの裾や背景など、元の写真を活かしつつも大胆に改変し、生成AIを作品作りに生かしていることがわかる。

 

 

ラッセル・ブラウン氏が作品や活動の様子を投稿しているInstagramのアカウント名は「dr_brown」。[URL]https://www.instagram.com/dr_brown/