「眠れない」から1時間でカウンセリングを受けられるサービスの真価|MacFan

教育・医療・Biz iOS導入事例

「眠れない」から1時間でカウンセリングを受けられるサービスの真価

文●朽木誠一郎

Apple的目線で読み解く。医療の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

うつ症状を持つ人が大きく増えている。一方で、日本にはメンタルヘルスの治療に対する根強い抵抗感がある。そんな中、悩みを抱える人と有資格者のカウンセラーをAI(人工知能)の補助でマッチングするサービスが注目を集めている。登録から1時間で8割がカウンセリングを開始し、無料コンテンツを月3万人が利用する「Unlace」の真価に迫る。

 

 

日本人のうつ症状が2.2倍に

「うつ」症状を持つ人が増えていることを、複数の調査が示している。そのうちの一つである経済協力開発機構(OECD)の「メンタルヘルスに関する国際調査2021」では、うつ症状を有する日本人の割合が、コロナ禍前の7.9%(2013年)から2.2倍の17・3%(2020年)に増加したと報告された。

もともと日本にはメンタルヘルスの治療に対する抵抗感があるとされ、2016年の大規模調査では、日常生活に支障をきたしている場合でも、受診・相談は3割にとどまった。2017年の厚生労働省の患者調査の結果、精神疾患の潜在患者である「未受診」は1150万人にのぼる。

社会にウイルスだけでなく、不安も蔓延したこの数年、メンタルヘルスの改善は急務になっている。

オンラインの健康相談サービスが流行しているが、それは肉体的な不調に限ったものではない。オンラインでカウンセリングを受けることができるサービスも、ヘルスケア市場の中で存在感を増している。なかでも、臨床心理士・公認心理師といった心の専門家とユーザを「マッチング」するユニークなサービスが「アンレース(Unlace)」だ。

同サービスを運営する株式会社アンレース(Unlace)代表取締役の前田康太氏は、マッチングサービスの「ペアーズ(Pairs)」を運営するエウレカで、サービスの事業開発の責任者や、新規事業の責任者を経験した。その後、起業し、経営者として苦労する中で、自身がうつ状態を経験したことが、このサービスの開発につながったという。AI(人工知能)などのテクノロジーも取り入れながら社会課題の解決を図る同サービスについて、前田氏に話を聞いた。

 

 

株式会社Unlaceは、「選択できる感情に自由を」を企業ミッションに掲げ、社会的スティグマをなくし、すべての人の毎日の生活にメンタルウェルネス・メンタルヘルスケアが浸透している社会の実現を目標とする。 [URL]https://about.unlace.net

 

 

 

株式会社Unlaceの代表取締役・前田康太氏。2018年2月にエウレカに入社し、新規事業としてPairsエンゲージのプロダクトオーナーを務める。2020年1月にオンラインカウンセリングサービス「Unlace」を運営するUnlaceを創業。

 

 

AI「ロク」が愚痴を聞く

アンレースは2週間のトライアルが8800円、その後は月額2万2000円のサブスクリプション型オンラインカウンセリングサービス。ビデオ通話だけでなく、テキストチャット形式でもカウンセラーに相談できる。カウンセリングの料金の相場は、同サービスによれば、都内の場合およそ50分で1万円。回数無制限で相談できることを考慮すると、割安になる。

テキストチャット形式によるオンラインカウンセリングは24時間・365日対応を謳う。カウンセラーは最初のメッセージを受け取ってから、12時間以内を目安に返信するため、ただちにカウンセリングが始まるわけではないが、前田氏によれば、登録後の1時間以内に約8割の相談者とカウンセラーのマッチングが成立しているそうだ。「当事者にとっては夜中でも専門家にコンタクトを取れるメリットは大きい」と前田氏は説明する。

  「カウンセリングへのニーズはやはり夜、眠れないときなどに高まります。そんなとき、朝までつらい思いを抱えながら待って医療機関の予約を取ろうとするのと、すぐにアンレースでマッチングを試してみるのとでは、後者がより安心につながるという声をユーザから多く頂いています」

運営がカウンセラーを紹介するのではなく、利用者とカウンセラーがオンラインでマッチングする。

まず、ユーザは不安や悩みなどの相談内容をアプリに書き込む。それを基に自社開発のAIが解析を行い、カウンセラーによる過去のチャットのカウンセリングデータと照合。そして、相談者の悩みに似た案件を担当し、高評価を得たカウンセラーを、アプリが提案してマッチングする仕組みだ。

アンレースのユーザは、チャットでのコミュニケーションに親和性の高い20~30代が中心。「匿名で顔を出す必要もなく、好きなタイミングで連絡ができるため、ビデオ通話よりもチャット形式のほうが人気が高い」(前田氏)。

 

予防や治療につなげたい

会員登録したユーザが無料で使用できるオンラインツールもある。一つは、頭に浮かんだことを気軽に記録する“書く瞑想”の「ジャーナリング」。もう一つが聴くだけ・横になるだけで心身が穏やかになる「メディテーション」音源のアーカイブ。そして最後が、さまざまな角度で自分自身を知ることができる「心理診断」のアンケートフォームだ。認知の歪みのチェックや、若年層に需要のある恋愛スタイルの分析、アンガーマネジメントや睡眠のチェックも可能だ。

心理診断のアンケートフォームは、毎月約3万人の利用があるという。公開直後から合算した累計ユーザ数は、同サービスによれば約38万人。登録ユーザの約半数はこれまで通院経験がなかった人たちだという。こうした無料コンテンツは、サービスのPRにつながるだけでなく、メンタルヘルスへの関心の裾野を広げる役割を果たしている。

前田氏の前職であるペアーズも、いわゆる「出会い系」というスティグマの解消を目指していた。前田氏は現在アンレースで、精神疾患へのスティグマと向き合っている。

「自分自身、抑うつ型の自律神経失調症と診断されるまで『精神疾患は心の弱い人がなるもの』という思い込みがありました。友人・知人や専門家に相談することへの抵抗感を減らし、より早期にメンタルセルフケアにつながる社会になってほしい」

サービスの持続可能性も強く意識している。同サービスを運営するアンレース社としては、法人を対象にしたサービスとして「アンレース・フォー・ビジネス(Unlace for business)」を展開。緊急度の高い個人だけでなく、ストレスや心の不調の原因となる職場に同社のプロダクトを浸透させることで、予防的なアプローチとマネタイズの両立を狙う。

「アップルも心の健康を意識した『ジャーナル』機能をiOSに導入するなど、世界的にメンタルヘルスへの関心が高まっていると感じます。アンレースも日常の延長線で利用してもらえるようなメンタルヘルスケアサービスへと今後、拡張していく予定です」

 

 

Unlace

【開発】Unlace,Inc.
【価格】無料
【場所】App Store>ヘルスケア/フィットネス

のみが所属するオンラインカウンセリングサービス。無制限で相談可能なサブスクリプション型で月額2万2000円(税込)、2週間トライアルは8800円(税込)。利用者とカウンセラーのオンラインマッチングにより24時間365日、利用開始・連絡が可能。利用者は匿名・チャット形式で相談できる。[URL]https://www.unlace.net

 

 

カウンセリングサービスでは、まずは悩みの内容を入力。現在の状態を確認するために、悩みに関する質問に回答していく。カウンセラーからのコンタクトがあったり、自分の悩みに似た事例を探したりなどの条件設定により、好きな方法でカウンセラーを見つける。事前情報を入力し、その内容に基づき、選択したカウンセラーとカウンセリングを始めることができる。

 

 

「ジャーナリング」では頭に浮かんだもやもやを書き出すことで、自己理解を促進。「メディテーション」では一人で悩みやすい夜も自律神経を整えることで良い眠りをサポートする。「心理診断」では漠然とした不安や悩みを可視化することで、まずは自分を知ることができる。

 

「Unlace」のココがすごい!

□オンラインで悩みを抱える人と有資格者のカウンセラーをマッチング
□AI補助により登録から1時間で約8割がカウンセリングをスタート
□「精神疾患は心の弱い人がなるもの」というスティグマ解消を目指す