現場第一主義の副校長が取り組む“子どもファースト”な学習環境|MacFan

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現場第一主義の副校長が取り組む“子どもファースト”な学習環境

文●三原菜央

Apple的目線で読み解く。教育の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

2021年4月に愛知県瀬戸市に開校した私立瀬戸SOLAN小学校。2023年より、Apple製品を活用し、先進的な学びに取り組んでいる教育機関、Apple Distinguished Schoolに認定されている。「グローバルシチズンシップの育成」を建学の精神に掲げ、学校教育の当たり前を問い直すことから始めた同校の取り組みについて、三宅貴久子副校長に話を聞いた。

 

 

未来感のある学校

2021年4月に愛知県瀬戸市に開校した私立瀬戸SOLAN小学校。現在、1年生から5年生までの児童、約240名が在籍している。「グローバルシチズンシップの育成」を建学の精神に掲げる同校では、自らの意思によって持続可能な世界を築き上げていける自立・自律した学習者の育成を目指しているという。立ち上げ準備から同校に関わっている三宅貴久子副校長は、未来感のある学校を作りたいと考えていたそうだ。

「これまでの学校教育の“当たり前”を問い直すところから始めました。たとえば、1コマ45分という時間割や、同じ方向に並ぶ机の配置など、私たちにとってはそれが当たり前だったけど、本当に適切なの? そう考えていくうちに、これまでの教育は、教師が効率良く管理できる、教師目線の仕組みだったことに気がついたんです。それを子どもファーストの視点に切り替えて、新しい仕組みを構築しました。たとえば、1年を4分割し、1学期を3カ月間とするクオーター制を導入したり、教室の概念を廃してPBL(プロジェクト学習)を目的とした学校デザインにしたり。また、児童1人に1台のiPadを整備して、校内のICT環境を充実させることで、いつでも・どこでもICTが使え、主体的・創造的な学びが生まれる環境を用意しています」

アップル製品を活用し、先進的な学びに取り組んでいる教育機関、ADS(Apple Distinguished School)の認定も受けた同校では、ICTを学習評価にも活用している。もともと学校図書館管理システムなどを開発していた株式会社教育システムが運営する同校(現在は学校法人)は、子どもたちの学びを蓄積・共有できるeポートフォリオ「まなポート」を開発。運営母体の強みを活かしながら、唯一無二の学び場を作っている。

 

 

三宅貴久子 副校長

瀬戸SOLAN小学校副校長。関西大学総合情報学研究科総合情報学専攻博士課程後期課程を修了。公立中学校、小学校、支援学校での勤務を経験した後、関西大学初等部の立ち上げに携わる。2020年度より瀬戸SOLAN小学校の開校準備に参画し、現在に至る。第一回文部科学大臣優秀教員受賞。Apple Distinguished Educator 2023。

Apple Distinguished Educator(ADE)…Appleが認定する教育分野のイノベーター。 世界45カ国で2000人以上のADEが、Appleのテクノロジーを活用しながら教育現場の最前線で活躍している。

 

 

ICTは筆記用具の1つ

同校だけでなく、過去には関西大学初等部の立ち上げにも携わった経験を持つ三宅副校長。もともとiPadの活用を始めたのは、関西大学初等部に勤務していた頃からだというが、ICTはあくまで筆記用具の1つとして活用することを大事にしているという。

「ICTは無理に使うものではないと思っています。あくまで授業をデザインしたうえで、これはICTを活用したほうが上手くいくよね!という場合に、使うようにしています。たとえば、交流学習で、お手紙を1通1通書いてやりとりするのは労力も時間もかかります。それをインターネットでリアルタイムにやりとりできれば、すぐに情報を交換することができますよね。また『総合的な学習の時間』では、多様なヒト・モノ・コトに出会わせることを大事にしているのですが、毎回学校に人を呼ぶのも大変です。そんなときこそICTの出番。ヒト・モノ・コトの学びをいかに豊かにしていくかを考えた際に、ICTという手段は非常にインパクトが大きいと思います」

三宅副校長は管理職でありながら担任として5年生を受け持っている。5年生の国語の授業では、清少納言の「枕草子」を題材に、春夏秋冬、4つの季節それぞれに出てくる言葉に着目。辞書で意味を確かめたり、その意味に近い画像を探したりして、それをもとに清少納言が思い描いた季節を自分なりにイメージし、絵で表現するという活動に取り組んだ。

「カリキュラムを開発するうえでは、やはり自分で実際に体験することが大事です。実践した中から理論を導き出すというのが、一緒に働く皆さんにも一番理解してもらいやすいと思っています。高尚な理論から引っ張ってきて何かを作るのではなく、やってみて、試してみて、こういうことが言えるのではないか?と考える。そんな授業の作り方が本校の大事にしていきたい文化です」

現場第一主義を貫く三宅副校長が、授業の中で大切にしていることがある。それが「思考ツール」を活用した思考スキルの育成だ。「考える技をゲットしよう」と題し、比較する・理由づける・多面的に見るなど、8つの思考スキルをマスターしていく。時間割に「考える技」という時間を毎週15分2コマ実施し、型を学習したあと、習得した技を使う場として、教科学習や探究学習、プロジェクトを活用しているそうだ。なぜ思考スキルの育成を大事にしているのだろうか。

「私は『考えること』をすごく大事にしています。昔授業をしていて、ふと子どもたちが『先生が求めている答え』を考えていると気づいてしまったときがあったんです。そのときに、やっぱり子どもたちが『自ら考えたい』と思うようにならなきゃダメだなと。そんなことを悩んでいるときに、関西大学の黒上晴夫教授からシンキングツールを活用しているオーストラリアのケリー小学校を教えていただき、訪問させてもらったんです。そこには幼稚園から思考ツールを使って、自ら考える子どもたちの姿がありました。そういった経験から、ツールを活用した思考スキルの育成に注力するようになりました。シンプルな図だからこそ、誰でも使え、いろいろな場で活用できます」

 

子どもファースト

今年、ADE(Apple Distinguished Educator)に選出された三宅副校長。ADEが集うインスティチュートをとおして世界が広がり、授業のアイデアがたくさん浮かんできたそうだ。

「実践者として活躍されているADEの皆さんとの出会いがうれしかったです。結局私たち教員は、未来で活躍する子どもたちを育てたいんです。その過程で、ICTは必須なんですよね。私も決して最初からICTが得意なわけではなく、iPadを使わざるを得ない状況が生まれて使っていたらおもしろくなっていきました。苦手なことをするのはツラいけど、でも、その先に何があるんだろう?と自分なりに考えて、子どもファーストで未来の教育を見据えながら取り組んでいきたいです」

三宅副校長は授業をデザインするうえで、2つのことを大切にしているそうだ。1つ目が、いろんなことに興味関心を持つこと。2つ目がいろいろなものを見る・触れる・感じる「体験」だという。その根底にあるものはなにか。

「私は子どもが大好きなんです。子どもは、こちらが本気でぶつかっていけば、本気で応えてくれます。それがすごくうれしいんです。私が子どもたちにいつも言ってるのは、授業は先生が創るものではなくて、あなたたちと一緒に創る作品なんだよって。だから、子どもたちからも意見をたくさんもらいます。先生が言うから従うのではなく、先生を超えていってほしいと願っています」

 

 

1人1台iPadが整備されている瀬戸SOLAN小学校。筆記用具の1つとして、iPadが学校生活に溶け込んでいる。

 

 

国語の授業の定番「ごんぎつね」の単元で、読書の世界を楽しむ子どもを目指して、物語を探究する実践を行った。

 

 

清少納言の「枕草子」を題材に、清少納言が思い描いた季節を自分なりにイメージし、Keynoteを活用し、絵で表現するという活動に取り組んだ。

 

 

「考える技をゲットしよう」と題し、比較する・理由づける・多面的にみるなど、8つの思考スキルを習得していく。その結果、考える力が身についていくそうだ。

 

三宅貴久子副校長のココがすごい!

□学校教育の当たり前を問い直し、子どもファーストの学習環境をデザインしている
□自ら試しながら、感じながら、現場第一主義でカリキュラムを開発している
□8つの思考スキルを日常的に使って、子どもたちの「考える力」を育成している