“伝える”から“伝わる”話し方へ|MacFan

アラカルト Dialogue with the Gifted 言葉の処方箋

“伝える”から“伝わる”話し方へ

見ることに困難さがある人と支援したい人をマッチングしてテレビ電話でつなぐ、画期的な視覚障害者支援アプリとして人気の「ビーマイアイズ(Be My Eyes)」に、「ChatGPT」などを手掛けるOpenAIの言語モデルGPT│4が搭載されました。今回はビーマイアイズのAI機能を筆者が実際に試用して感じた気づきについて考察しようと思います。

GPT│4の画像認識能力を利用した「バーチャル・ボランティア」は、画像からテキスト情報を読み取り、状況説明をしてくれるほか、追加で質問をすることでより詳細な情報を得ることができる機能です。たとえば1回目の回答では机の上に置かれている本や商品の概要がテキスト化され、追加の質問で本のタイトルや商品の詳細情報などを確認していくことができます。

質問を繰り返すことで情報を深掘りしていく言語モデルでは、すべての情報を詳細に読み上げるのではなく、まず大項目として概略を説明し、追加で知りたい情報を深掘りできます。1回で画像解析が終了してしまう従来の画像認識アプリとは異なり、情報提供の仕方に配慮を感じます。情報過多な時代にはいかに情報の届け方を最適化し、多くの情報を届けるよりも、必要最低限の情報から始めることが重要なのかもしれません。

ほかにもビーマイアイズでは、GPT│4の搭載によって、冷蔵庫の中の食材の写真を読み取って、そこからレシピを提案してくれる機能も追加されています。もちろん、AIで回答できない場合はボランティア(人間)のサポートを受けられるため、限られたボランティア資源の最適活用にもつながっています。この2段階のサポート体制はすでに多くのビジネスモデルでも導入されていますが、福祉や支援という文脈でも当事者満足度の高いケアモデルとして十分に機能する可能性を感じました。

ChatGPTは筆者にとって非常に有能で、忖度しない公平な思考の壁打ち相手として日々働いてくれています。AIとの対話が日常化していく中で、AIが回答する文章は構成がとても明確であり、誤認識が起こりにくい印象を感じるようになりました。皆さんは、同じ内容なのに、話す人によって理解しやすさに差があるように感じることはないでしょうか。ニュース番組のキャスターなどが話す内容をとてもわかりやすく感じるのは文章構造に理由があるようです。

係り受け可視化ツールは入力した文章の構造や語句の関係を視覚的にフロー化してくれるツールで、誤解を生みにくいクリアで簡潔な文章は構造的にもシンプルであると視覚的にも理解することができます。オンラインで公開されているので、ぜひ皆さんもさまざまな文章を可視化して、構造的な違いに由来する心象の違いを楽しんでみてください。

ビジネスでもプライベートでも関係なく、わかりやすく話すということは現代人の必須スキルであり、自分で書いた文章をより伝わりやすくするためのヒントが文章構造の可視化にあるのではないでしょうか。

大項目から話す、シンプルな文章構造で話す能力は、“伝える言葉”ではなく“伝わる言葉”で話すことの基本と言えます。かなり抽象的な質問でも構造的に大項目から回答してくれるなど、深掘りした質問ができる言語モデルの対応によって、我々人間が伝わる言葉、聞き心地がいい話し方を学ぶ時代が来ているように感じます。

 

相談相手にも、話し方の先生にも。

 

 

Taku Miyake

医師・医学博士、眼科専門医、労働衛生コンサルタント、メンタルヘルス法務主任者。株式会社Studio Gift Hands 代表取締役。医師免許を持って活動するマルチフィールドコンサルタント。主な活動領域は、(1)iOS端末を用いた障害者への就労・就学支援、(2)企業の産業保健・ヘルスケア法務顧問、(3)遊べる病院「Vision Park」(2018年グッドデザイン賞受賞)のコンセプトディレクター、運営責任者などを中心に、医療・福祉・教育・ビジネス・エンタメ領域を越境的に活動している。また東京大学において、健診データ活用、行動変容、支援機器活用関連の研究室に所属する客員研究員としても活動中。主な著書として、管理職向けメンタル・モチベーションマネジメント本である『マネジメントはがんばらないほどうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)や歌集・童話『向日葵と僕』(パブリック・ブレイン)などがある。