体験を共有する魔法の時代|MacFan

アラカルト Dialogue with the Gifted 言葉の処方箋

体験を共有する魔法の時代

今回は「空間コンピューティング」という概念を打ち出した「ビジョン・プロ(Apple Vision Pro)」へのプロローグともいえる、iPhone 15プロシリーズやアップルウォッチの新機能に寄せる期待と妄想を馳せていきたいと思います。

まず驚かされたのがアップルウォッチシリーズ9/ウルトラ2で対応する新しいジェスチャ「ダブルタップ」です。アップルのWebサイトでは以下のように説明されています。

毎日のあらゆる場面で、Apple Watchの操作を一段と簡単にするのがジェスチャです。手がふさがっているときは特に便利。電話に出るのも、通知を開くのも、音楽を再生したり一時停止するのもトントン。人差し指と親指をダブルタップするだけです。

ダブルタップはビジョン・プロのジェスチャ操作のひとつであることから、それがアップルウォッチに搭載されたということは、ウェラブルデバイスの存在価値が新しい次元へとアップデートされた感覚があります。全盲の患者たちの中でもアップルウォッチは人気のデバイスであり、視覚障害者は移動時に白杖を使用し、白杖の保持に片手の自由を奪われるため、ダブルタップでアップルウォッチを操作ができることの恩恵はとても大きそうです。

2つ目はiPhone 15プロシリーズに搭載された「空間ビデオ撮影」機能です。ビジョン・プロの実機に触れた多くの方が「感動した」と表現する空間ビデオ。

私のカメラマンの友人は「プロは瞬間を空気感ごと切り取ることができる」とよく言っています。空間ビデオはまさにその言葉どおり、空気感を含めた空間ごと切り取り記録することを可能にします。

これまでのデータとしての画像の保存という概念から、空間を体験として保存し、過去を現在の視点で追体験できることはタイムマシンに近い印象であり、他人の人生を体験できる魔法の世界の実現とさえ言えるでしょう。

空間ビデオは、今後エンターテインメントや教育の分野にも大きな影響を与えると考えられます。たとえば、歴史の授業で過去の出来事を学ぶ際、テキストや写真だけでなく、空間ビデオを使用して当時の状況を実感しながら学ぶことができるようになるかもしれません。現実と仮想現実の境界が曖昧になる時代には、自分の目で物事を体感する習慣を持つことが大切です。

過去のモノクロなメディアをカラー化することで、リアリティを感じて自分事として考えられるという話を聞いたことがあります。それが空間ビデオの登場により、今目の前にある地球という緑豊かな星の生活が成立していることが、先人たちの不断の努力により生まれた奇跡の賜物であり、自分自身もその一員として責任を負っていることを実感できるようになるでしょう。

テクノロジーは人類を単純労働や一部の頭脳労働から解放し、便利な生活を実現した一方で、スマホ依存やブルーライトによる不眠、長時間のイアフォン使用による難聴等の健康障害も生み始めています。テクノロジーとの関わり方をアップデートして、人が人類の歴史の中で引き継がれてきた奇跡の系譜を実感できるようになることが、地球環境問題を考えるうえで大切な一歩であり、豊かな未来を生きる入り口になると私は信じています。いつか戻りたくなるような輝ける瞬間であるように、まずは今を大切に生きていきたいものです。

 

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Taku Miyake

医師・医学博士、眼科専門医、労働衛生コンサルタント、メンタルヘルス法務主任者。株式会社Studio Gift Hands 代表取締役。医師免許を持って活動するマルチフィールドコンサルタント。主な活動領域は、(1)iOS端末を用いた障害者への就労・就学支援、(2)企業の産業保健・ヘルスケア法務顧問、(3)遊べる病院「Vision Park」(2018年グッドデザイン賞受賞)のコンセプトディレクター、運営責任者などを中心に、医療・福祉・教育・ビジネス・エンタメ領域を越境的に活動している。また東京大学において、健診データ活用、行動変容、支援機器活用関連の研究室に所属する客員研究員としても活動中。主な著書として、管理職向けメンタル・モチベーションマネジメント本である『マネジメントはがんばらないほどうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)や歌集・童話『向日葵と僕』(パブリック・ブレイン)などがある。