心理的安全性、保たれていますか?|MacFan

アラカルト “M世代”とのミライ

心理的安全性、保たれていますか?

文●松村太郎

最近になって、耳にする機会が急に増えた「心理的安全性」という言葉。英語では「Psychological Safety」といい、もともと心理学用語で、自分の意見や気持ちを安心して表現できる状態のことを指します。昨今組織やイノベーション、教育といった現場で注目が集まっています。

たとえば皆さんも、会議に出席したときに意見が言いにくい、あるいは会議の参加者から全然意見が出てこない、と思う場面に出くわしたことはないでしょうか。

もしくは子どもの頃、「親に怒られるから話すのはやめておこう」と言い留まった経験はありませんか?

こうしたモヤモヤは、「心理的安全性が確保されていないこと」に起因するとされています。

ほとんどの人は、何か意見や表現をするときに、馬鹿にされたくない、怒られたくない、デキが悪いと思われたくない、などと考えるものです。これらの思考は、謙虚さとは異なり、人の積極性や発言に制限を加える要因と考えられています。

自分が発言することで、不利益とは言わないまでも、ネガティブな印象を与えたり、そう評価されることを避けようとしたりする。それが結果として、シーンとした会議や、今日の出来事を話さない子どもといったアウトプットを生み出してしまうのです。

また、心理的安全性がないことは、イノベーションの敵にもなり得ます。イノベーションは必ずしもテクノロジーのブレイクスルーだけではありません。マーケティングによって人の行動が変わることもまた、イノベーションと評価すべきでしょう。

たとえば伊藤園は、シリコンバレーを「お~いお茶」の一大消費地へと昇華させるマーケティングを展開しました。具体的には、お茶やコーヒーといった既存のカテゴリで勝負するのではなく、緑茶をエナジードリンクと対比させ、より健康的な選択をさせることで、苦いお茶が飲めなかったアメリカ人が「濃い味」まで飲むようになったのです。

日本で破竹の勢いで拡大しているコンビニ型ジム「チョコザップ」も同じです。今までの常識であれば、フィットネスジムに通う人をターゲットとして展開するところを、チョコザップはあえてジムに行っていない、意識が低い圧倒的大多数の消費者に狙いを定めて、結果的に大ヒットとなりました。

同じことが、アップルウォッチ(Apple Watch)のヒットにも言えます。アップルウォッチは2015年の登場当初、「既存の腕時計へのリスペクト」を強調していました。つまり、既存の市場では戦わないという表明であり、それは現在時計をしていない人をターゲットにするという宣言でもあったのです。スマートフォンが「時間を知るため」の存在だった時計の役割を終わらせ、まったく新たな役割を与える、という画期的なマーケティングの結果なのです。

心理的安全性の高い組織や会議では、「馬鹿にされない」「無知だと思われない」「ネガティブな評価にならない」という安全な空気の中で発言できるようになるため、イノベーションのきっかけとなる、それまでの常識でははじめから除外されていた“気づき”や“アイデア”も生まれやすいのでしょう。

翻ってみると、皆さんの日常には、そうした心理的安全性は確保されているでしょうか。あるいは、それを見出すルールや仕組みを敷いていないでしょうか。もしかしたら、イノベーションのチャンスをスルーしてしまっているのかもしれません。

 

イノベーションは、心理的安全性が確保された環境で生まれやすいです。Apple Watchもそうだったのでしょうか。

 

 

Taro Matsumura

ジャーナリスト・著者。1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒業後、フリーランス・ジャーナリストとして活動を開始。モバイルを中心に個人のためのメディアとライフ・ワークスタイルの関係性を追究。2020年より情報経営イノベーション専門職大学にて教鞭をとる。