セキュリティと自由度を両立させるデザイン会社のツール管理術|MacFan

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セキュリティと自由度を両立させるデザイン会社のツール管理術

文●牧野武文

Apple的目線で読み解く。ビジネスの現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

株式会社コンセントは、徹底したセキュリティ管理によって新しいツールやサービスを試すことのできる土壌を整えている。たとえば、ホワイトボードアプリ「Miro」も従業員のニーズを受け、セキュリティ面の調査や検証を重ねた結果、全社採用に至っている。セキュリティを確保したうえで、自由度をもたせながら端末/ツール管理を行う方法と、このような体制を敷く理由を紐解いていく。

 

 

最新ツールを試せる環境を実現

株式会社コンセントは、書籍や雑誌などのエディトリアルデザインを扱う企業として事業を開始し、現在は企業のコミュニケーションデザイン支援や組織・事業開発の支援なども主力事業としている。同社はデザイン全般を広く扱う会社として、最新の技術や便利な機能が搭載されたツールの情報もキャッチアップするようにしている。そして同社では、さまざまな新しいツールを試すことができる環境が整備されているのが特徴だ。今回は、ツールの管理方法とその活用術について詳しく話を聞いた。

まず、同社の従業員数は約250名だ(2023年9月時点)。従業員全員にMacBookとiPhoneを配付するほか、Webサイトの動作検証などを担う一部の従業員にはウインドウズPCも併せて配付している。また「マイクロソフト365(Microsoft 365)」「マイクロソフト・チームズ(Microsoft Teams)」を全従業員の業務端末に標準でインストールしており、「アドビ・クリエイティブ・クラウド(Adobe Creative Cloud)」「ノーション(Notion)」「モリサワパスポート(MORISAWA PASSPORT)」など、デザイン業務で使用するものは会社でライセンスを管理している。

全従業員がMacを利用する同社では、従業員のツール利用に関して柔軟な体制を敷いている。「情報セキュリティ委員会」という組織を設けてツールのガイドラインを作成するほか、年に1回以上は従業員向けのセキュリティ研修を行ったうえで、業務データを扱わない/業務ツールと連結しないなど前提としているガイドラインを守れば、ソフトやアプリなどのツール類を自由に利用できる。

このような環境のなかで一部の従業員がさまざまなツールを使い始め、それが次第に社内に広がったこともあったそうだ。そして利用者が増えてきたり、本格的に使いたい/会社側で正式導入してほしいという段階になると、BPRチーム(同社の情報システム部門)と相談することになる。利用できるツールを一律で決めるだけのほうがセキュリティ管理は楽になるようにも思えるが、なぜこのような体制を敷いているのだろうか。同チームに所属する金子まや氏は、その理由を話してくれた。

「この“相談できる”という環境を整えることが重要だと思っています。弊社はデザインを中心に業務をしているため、最先端のツールにアンテナを張り、それらを使いこなすことはとても重要です。自由度を高くして、ツール導入に関して一つひとつ話し合うことで、業務の質が向上すると考えています」

多くの企業では、情報システム部門がルールを定め、従業員はそれに厳格に従うことが要求される。それは管理側にとっては効率的かつ、堅固に管理するためのひとつの正解ではある。しかし、特に同社のようなクリエイティブ業務を中心にした企業では、成果物のクオリティをより向上させるための“最適解”を常に模索している。これを追求するために、ときには時代の流れに合ったツールやシステムを利用する必要があるのだ。そのため、成果物のクオリティを向上させるための自由度の確保と、クライアントに対して安全・安心な環境を担保できる管理の両立が求められる。このような環境で判断を一方に委ねると、結果的に業務の質が損なわれるという考え方だ。

 

「ミロ」を使う4つのメリット

そんな同社では、ビジュアルコラボレーションツール「ミロ(Miro)」を一部の社員が使い始めた結果、その便利さが波及して全社導入に至っている。「ミロ」とは、会議室にあるホワイトボードのように、オンライン上でテキストや付箋、PDF、画像などを自由に貼り付けることで、思考整理や意見交換に役立てられるツール。同社で「ミロ」を使うメリットはいくつもあるそうだ。

1つ目は、データの一元化だ。「ミロ」で作成した「ボード(「ミロ」内でのファイル単位)」は描画スペースを無限に拡大できるため、ひとつのプロジェクトに必要なデータすべてを1枚のボードに収めることができる。そのため、必要なファイルをあちこち探したり、参照しなければならないファイルが複数あって混乱を招くなどの事態が起きにくいそうだ。

2つ目は、議事録としての活用だ。同社ではWeb会議のほか、対面の打ち合わせで「ミロ」を利用することも多い。状況にもよるが、基本的には同じツールを使うことで、会議の過程や結果をいつでも同じ方法で管理/確認できるようになったという。

3つ目は、アイデアの発散だ。急に「アイデアを出せ」と言われても、すぐによいアイデアが思い浮かぶものではないだろう。しかし、「ミロ」を使って会議を行う場合、ほかの人が出したアイデアがリアルタイムで出されているのを目にすることで、慣れていない人でもその延長線上のアイデアや視点を変えたアイデアが生まれやすいという。

そして4つ目が、「バウンダリーオブジェクト」としての活用だ。バウンダリーオブジェクトとは「異なるコミュニティ同士の境界線上にあるもの」という意味で、この場合は「ミロ」上のテキストや画像など、相手に意図を伝えようとするビジュアルを指す。たとえばプロジェクト関係者の間で、言葉ひとつとっても認識が異なることがあるという。これを擦り合わせて共通認識を形づくることが重要だが、テキストや対話だけでは難しい部分もある。そこでビジュアルをとおして思考を整理できる「ミロ」を媒介させることで、これまで以上にスムースに意思疎通できるようになったという。

 

ツールの進化にいち早く対応

「ミロ」のようなツールを企画会議など特定のシーンで利用している企業もあるだろうが、それ以外はテキストと音声ベースのコミュニケーションという場合も多いだろう。そのため、認識の違いによって問題が生じ、すり合わせのために会議や打ち合わせの数が増えていった経験がある人もいるかもしれない。しかし、「ミロ」のようなツールをさまざまな会議や打ち合わせでも使うことで、お互いが向く方向を限りなく近づけることができるのだ。しかも、先述のように議事録を標準化できるほか、「ミロ」に必要な情報をまとめておけば、必要な資料やビジュアルがあちこちに散らばることもなくなる。このようなツールは“ただのホワイトボード代わり”ではなく、実は問題の解消や効率化に大きく役立つのだ。

では、ビジュアルコミュニケーションツールを使い始めようと思った場合、どのようなことを意識するとよいのだろうか。同社でアートディレクターを務める斎藤広太氏にこう質問すると、難しく考える必要はないと話してくれた。

「『ミロ』と使い勝手が近い、アップルの『フリーボード』でもよいので使ってみるとよいと思います。また最初はプラベートで使ってみると気軽に試せるのではないでしょうか。たとえば旅行に行くのであれば、まず日程表を貼り付けます。そこに行きたい場所などの情報をどんどん書き込んでいくと、1枚のボードに必要な情報がまとまりますし、視覚的にもわかりやすいものが完成するはずです」

生成AI(人工知能)を応用したツールなど、昨今のツールの進化は目覚ましい。そのなかで、従来のように堅固な“だけ”の管理を続けていると、新しい技術についていけなくなる可能性があるだろう。デザインなどのクリエイティブを扱う企業でなくても、最先端をキャッチアップできる柔軟な管理方法を確立した同社の姿勢から学べることは多いはずだ。

 

 

BPRチームでは、全社で導入しているツールのガイドラインやマニュアルを作成/公開している。従業員はガイドラインで決められた範囲内で自由な使い方が確保できるほか、管理側としては操作に関する問い合わせが少なくなるため負担が減るという。

 

 

同社のBPRチームに所属する金子まや氏(左)と、アートディレクターの斎藤広太氏(右)。端末管理担当者とデザイナーが都度話し合うことで、業務に使う端末とツールを柔軟に管理/活用できているのが同社の特徴だ。

 

 

同社で「Miro」を使いながら会議したあと、内容を整理したボード。ボードをあとから整理すれば、それがそのまま工程表にも議事録にもなる。一部クライアントには、会議後に「Miro」のボードを成果物として提出することもあるという。

 

 

同社内のブレストで使われた「Miro」のボード。会議時には、対面でもリモートでも「Miro」を使うことが多い。付箋ツールにテキストを入力する、手書きで線を加えるなどの方法で各自アイデアを出し、それを移動させながら整理していく。無限の描画スペースが用意されたホワイトボードのような感覚で利用できるのが特徴だ。

 

 

「Miro」を使って、社内忘年会を行ったボード。「ベストチャレンジ」などのテーマの下に各人が付箋を貼ってコメントを書き込んでいる。他人の意見がいくつか掲示されている状態だと慣れていないメンバーでも意見を出しやすくなり、議論やアイデアが活発になるそうだ。

 

 

撮影現場での予定を記入した香盤表。ボードを「Miro」で現場スタッフに共有し、変更があればその場で修正することで即座に情報を共有できる。

 

コンセントのココがすごい!

□250名の従業員に標準でMacBookを支給
□最先端ツールを試しやすくするルールづくりと運用の徹底
□ホワイトボードアプリの活用で、相互理解を深める業務環境を構築