僕たちはどう生きるか|MacFan

コロナ危機で常識がいかに不確実であるかを実感し、生成AIの登場で創造性すら代行できるようになった昨今。時はまさに「VUCA時代(Volatility:変化、Uncertain:不確実、Complexity:複雑、Ambiguity:曖昧)」に突入したことを実感します。

今回は80歳を超えても多忙な父と、感情のままに生きる1歳児に見出した、VUCA時代に必要な五感について考察したいと思います。

最初は感謝とつながりについて。「老後問題」という言葉をよく耳にしますが、問題の本質は老いによる機能低下を理由に、やりたいことができない状態にある期間(老後)が長期化しているように感じます。生成AIにより絵が描けない画家や楽譜が読めない作曲家が実現する現在、老いにより自己実現できない人にすることなく、各人の人生経験という最強の知財とテクノロジーをフル活用して、老後を短縮することが必要です。

介護の世界では「きょうよう」のない老人問題という冗談があります。「きょうよう」とは「教養」ではなく「今日、用がない」老人のことです。たとえば引きこもりの子どもの話を聞くことは重要な役割であり、時間に余裕がある老人には最適な社会的役割にもなり、老人に用があることは社会全体の課題解決につながります。私の父の発言の中には、常に人のつながりに対する感謝が入っています。老人とは生きているだけで多くの人のつながりが成し得た奇跡の存在であり、1人でも多くの老人が老後を短くして自己実現できる未来の到来が必要です。

次は感動と感情について。1歳児は初めて知覚できた世界に対して、好奇心と探究心を持ってあらゆる物に感動し、まだ発声できない言葉の代わりにさまざまな表現で感情を伝え、時に常識に囚われない創造性を発揮します。探究心、好奇心、創造性は企業の社員研修でも伝える重要な要素ですが、人間は1歳にしてすでに持っています。社会性を身につける過程で忘却された根源的な欲求、未知なる世界に対して好奇の眼差しを取り戻し、未知を不安の対象として捉えずに生きる姿勢が必要です。

最後は感性と五感について。VUCA時代は正解のない世界であり、真っ白なキャンバスの上に自分なりの美的感覚で線を引くような決断を迫られる機会は多くなります。文学や芸術に触れることで感性が豊かになり、自然の中で五感を使って情報を受け取る体験をすることで、美的感覚や感性は育ちます。オンラインで受け取れるのは「情報」であり、リアルな体験が育てるのは「感性」や「関係性」です。便利なテクノロジーが溢れる時代には目的別に関わり方を選択し、豊かに生きるという目的と、便利であるという手段を取り違えることなく生きていく必要があります。

すべてのものは人の営みのつながりの先に存在しているという感謝。感情が動く瞬間を作り、探究心や好奇心、創造性を取り戻す習慣。五感を解放して芸術や文学に感性を磨く体験。先人が言い尽くしてきた大切な習慣の重要性を再確認し、実感できる世界がVUCA時代なのかもしれません。

皆さんはこの時代をどう生きますか? テクノロジーを便利な生活のために活用し、自分らしく、やりたいことができる豊かな未来への一歩はもう始まっています。本連載が何かの気づきにつながり、すべての人が自分らしくやりたいことができる人生を歩めることを祈っています。

 

真っ白なキャンバスを広げて、自分の色を見つけよう。

 

 

Taku Miyake

医師・医学博士、眼科専門医、労働衛生コンサルタント、メンタルヘルス法務主任者。株式会社Studio Gift Hands 代表取締役。医師免許を持って活動するマルチフィールドコンサルタント。主な活動領域は、(1)iOS端末を用いた障害者への就労・就学支援、(2)企業の産業保健・ヘルスケア法務顧問、(3)遊べる病院「Vision Park」(2018年グッドデザイン賞受賞)のコンセプトディレクター、運営責任者などを中心に、医療・福祉・教育・ビジネス・エンタメ領域を越境的に活動している。また東京大学において、健診データ活用、行動変容、支援機器活用関連の研究室に所属する客員研究員としても活動中。主な著書として、管理職向けメンタル・モチベーションマネジメント本である『マネジメントはがんばらないほどうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)や歌集・童話『向日葵と僕』(パブリック・ブレイン)などがある。