役員総出の寸劇の意味|MacFan

アラカルト “M世代”とのミライ

役員総出の寸劇の意味

文●松村太郎

日本時間9月13日に行われたアップルのスペシャルイベント。そこで発表された新しいiPhone 15プロシリーズは、一見これまでと似たデザインに思えますが、既存のユーザが触れると違いがわかるほどの質感・握り心地を実現しており、大幅な軽量化を果たし、さらにカメラ機能の大幅な向上など、さまざまな観点で進化を遂げました。

9月15日に予約が開始されるやいなや、争奪戦の様相となったのには驚きました。個人的には、こんなに新しいiPhoneに強い需要が見られるとは予想外だった、というのが感想です。

またアップルウォッチ・シリーズ9(Apple Watch Series 9)/アップルウォッチ・ウルトラ2(Ultra 2)は、新しいS9チップにより手首で機械学習処理の実行性能を高めたことで、「ダブルタップ」という新しい操作方法を備えることができました。

こうした新製品の付加価値の向上を手堅く、そして着実に実行してくる点は、さすがアップルと言えます。

そんな今回のイベントの中でもっとも印象深かったのが、アップルウォッチの革命的なゴールの達成、すなわちアップル初の「カーボンニュートラルな製品」の誕生というニュースでした。

アップルは2030年までに、あらゆる分野でのカーボンニュートラル達成を目標としており、すでに本社や直営店をはじめとする、いわゆるオペレーションの再生可能エネルギーへの転換は、世界レベルで達成済みです。2030年までに、資源調達、製品の製造、輸送、ユーザによる使用に至るまで、すべてをカーボンニュートラルにしていくことを約束しています。

その中で、カーボンニュートラルとなった初の製品として、アップルウォッチ・シリーズ9/SE/ウルトラ2が紹介されました。

そこで、“あの寸劇”が披露されたのです。まだこの動画をご覧になっていない方は、ぜひこの機会にチェックしてください(A https://www.apple.com/jp/environment/mother-nature/)。

アップルTV+の番組にも出演する女優オクタヴィア・スペンサーが「母なる自然」としてアップルの会議室を訪れ、CEOのティム・クック、そして環境を担当するバイスプレジデントのリサ・ジャクソンが同席する中、彼女の環境対策への「詰問」に応えていく、という内容の動画です。

今回のビデオでトレンドに敏感だと感じた点は、水資源に関する質問を入れていたことでした。アップルは2400億リットルの水資源削減を行ったことをアピールしています。昨今、AIの急成長によって、水を使ってデータセンターを冷却する必要に迫られ、水使用量が増加しているという点が問題視されているからです。

このビデオのゴールは、環境対策をわかりやすく伝えることで間違いないのですが、基調講演やこのビデオにリサ・ジャクソンが登場したことは、米国や日本のZ世代を沸かせていました。

ある役員と、イベント後のハンズオン会場で立ち話したときに「リサが出てきた!と娘からメッセージが来た」と言っていたように、環境問題はZ世代の購買決定に非常に重要な要素となっているからです。

取り組みそのものも重要ですが、その伝え方、表現の仕方にも非常にこだわっていると感じました。そして、カーボンニュートラルについて、決して「アップルオンリー」と言わせず、サプライヤー全体を巻き込んでいる点もまた、彼らの“本気の取り組み”であることを窺わせます。

 

女優オクタヴィア・スペンサーが演じる「母なる自然」に対して、ティム・クックCEOなどがAppleの環境に対する取り組みを説明するという寸劇が公開されました。【URL 】https://www.apple.com/jp/environment/mother-nature/

 

 

Taro Matsumura

ジャーナリスト・著者。1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒業後、フリーランス・ジャーナリストとして活動を開始。モバイルを中心に個人のためのメディアとライフ・ワークスタイルの関係性を追究。2020年より情報経営イノベーション専門職大学にて教鞭をとる。