脳の健康を守る「脳にいいアプリ」は、なぜ“いい”と謳えるのか|MacFan

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脳の健康を守る「脳にいいアプリ」は、なぜ“いい”と謳えるのか

文●朽木誠一郎

Apple的目線で読み解く。医療の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

今後約700万人がなると予測される認知症を予防したい──そんな社会課題に取り組む「脳にいいアプリ」。データを集め、研究を進めているというが、そもそも“脳にいい”とは、一体どのようなことを指すのだろうか。全国の自治体と協業し、昨今話題の「ChatGPT」も活用。ユーザ数を約12万に伸ばす同アプリの開発元を取材した。

 

 

「組み合わせる」ことで効果

「脳にいいアプリ」というアプリがある。

ストレートな名称からとにかく「脳にいい」という印象は伝わるだろう。キャッチコピーとしてとても優秀だ。しかし、何が、どう“いい”のだろうか。

その実は脳科学に基づいた脳の健康維持アプリで、現在は全国の自治体とも協業し、話題の「チャットGPT(ChatGPT)」とも連係するという。一体どんなアプリなのか、開発・提供する株式会社ベスプラの代表取締役CEO遠山陽介氏を取材した。

「脳にいいアプリ」では「運動」「食事」「脳トレ(ーニング)」の3つの要素について、ユーザの活動を管理できる。2017年2月にリリースされ、同社によれば現在は日本国内で12万人以上のユーザがいる。

日本における65歳以上の認知症の人数は2020年時点で約600万人と推計されており、 2025年には約700万人(高齢者の5人に1人/国民の17人に1人)が認知症になると予測されている。同アプリがアプローチするのはこうした問題だ。

しかし、科学に興味がある向きは、いわゆる「脳トレ」で認知症予防ができるかどうかについて、議論があることを知っているだろう。同様に、特定の食べ物により認知症を予防できるかというと、そうではない。病気を防いだり治したりできるのは医薬品であり、食品ではないからだ。このことは遠山氏も認めるところだ。

では、なぜ同アプリは脳に“いい”と謳うのか。実は、それぞれの要素単独ではなく、これらを組み合わせることには、認知症予防の一定の科学的根拠がある。

同アプリが科学的根拠として挙げるのが、スウェーデンにあるカロリンスカ研究所による「フィンガー(FINGER)研究」だ。これは2009~2011年にかけてフィンランドで実施された「高齢者の生活習慣への介入による認知機能障害予防の研究」。1000人以上を対象に、食事指導・運動指導・認知トレーニング・生活スタイル指導などの複数の介入を組み合わせることが、軽度の認知機能障害の進行の抑制に有効であることを、世界ではじめて明らかにした。

同アプリが脳トレ要素を打ち出しているのはわかりやすい。ただし、重要なのはあくまでも運動と食事との組み合わせであるという点だ。

 

 

2012年に設立された株式会社ベスプラ。社会課題を解決するために、テクノロジーとサイエンスを組み合わせたサービスを展開。健康アプリ「脳にいいアプリ」のほか、フードロス削減アプリ「ザ・タイムセール」や家族の健康管理サービス「家族サイト」、運転免許更新時の認知機能テストサービスなどを提供する。
[URL]https://bspr.co.jp

 

 

 

株式会社ベスプラの代表取締役CEOである遠山陽介氏。

 

 

食事・運動・脳トレの「工夫」

「脳にいいアプリ」のユーザは、そもそもアプリやスマホに馴染みのない世代であるとも言える。どのようにアプリをアクティブに利用させているのか。「運動」「食事」「脳トレ」それぞれの要素を詳しく見ていこう。

運動では「歩数」「歩行ペース」を測定する。これらが「ウォーキングチャレンジ」としてヴァーチャル散歩コースへ反映される。たとえば「東海道五十三次コース」や「四国お遍路コース」などに挑戦可能だ。iPhoneの歩数は比較的、正確だが、歩行ペースは「位置情報なども活用しながらより精度を高めている」と遠山氏。

食事では「その日に食べた品目」の簡単な管理をする。いわゆるダイエット系アプリのような詳細な記録の機能を搭載したこともあるが、「高齢のユーザの継続が難しかった」(遠山氏)。そこで、体にいいとされる食品の頭文字を取った「ま(豆)ご(ごま)た(卵)ち(乳製品)は(わ/わかめなど海藻類)や(野菜)さ(魚)し(しいたけなどキノコ類)い(芋類)」をそれぞれタップするだけの簡単な仕様にしたそうだ。

脳トレでは楽しさを重視。手塚プロダクションからイラストの提供を受け、当事者たちの好みに合わせた。「思い出す」ことは認知症の治療法のひとつである「回想法」にもつながり、効果が高まるとする。こうした懐かしいアニメのキャラクターによる「まちがえ探し」ができて、このゲームでは対戦も可能。また多くの市区町村から提供を受け、いわゆる「ご当地キャラクター」のパズルも楽しめる。

それぞれの要素で目標を達成すると獲得できる「スター」は、今後、商品やサービス利用のポイントに変換できるようになるそうだ。

 

自治体連係や生成系AI活用も

医学的には長らく「認知症予防」には懐疑的な目が向けられてきた。潮目が変わったのは2017年7月、権威ある医学誌である『ランセット(Lancet)』に「認知症の3分の1は予防し得る」とする論文が掲載されたことだ。

この論文では、仮に「高血圧・糖尿病・肥満・運動習慣のなさ・喫煙・(幼少期の)質の低い教育・社会的な孤立・難聴・うつ」の9つのリスクを完全になくすことができた場合、認知症の3分の1は予防できるとした。実際には難しいわけだが、「脳にいいアプリ」は、こうした世界的な流れの中にあるといえる。

そう謳っている以上、アプリが本当に脳に“いい”と言えるかどうかは、常に医学的にチェックされなければならない。その点で、同アプリは東京都八王子市や埼玉県越谷市、京都府久御山町、静岡県浜松市、愛媛県松山市などとも協業し、ユーザを増やしながら、データを集めている。潮目が変わった以上、認知症予防への取り組みが進むことは、少なくとも“いい”ことだろう。

元々は遠山氏に「身内の認知症を間近にした機会があった」こと、2014年に将来の認知症患者の増加の予測が報じられたことから「できることはないか」と手を広げた事業。最近になってようやく「日の目を見た」と遠山氏は笑う。

2023年7月より話題の生成系AIであるチャットGPTを活用し、高齢者が困りごとを気軽に相談できる「なんでも相談」機能の提供も開始した。「高齢者の心のケア」と「情報格差の解消」が狙いで、実際に「ユーザから好評を頂いている」とのこと。遠山氏は最後に、次のように語った。

「このまま無料で多くの人に使っていただき、データを集めて認知症予防の研究を進め、日本の国民の皆さんに還元していきたいです」

 

 

脳にいいアプリ

【開発】BESUPURA, K.K.
【価格】無料
【場所】App Store>ヘルスケア/フィットネス

運動・脳トレーニング・食事などの複合的な活動が管理できる無料の健康アプリ「脳にいいアプリ」。「歩いて運動」「隙間時間に脳トレーニング」「脳にいい食品を食べる」ことで、簡単に脳と体の健康維持ができる。東京都や内閣府ImPACT BHQ2017科学者審査員賞などを受賞。
[URL]https://www.braincure.jp

 

 

その人に最適な目標を算出し、毎日通知してくれる。運動は歩くことが中心、食事はタップするだけの簡単な管理が行える。脳トレプログラムには脳科学に特化したものが用意されており、その日の活動への評価ももらえる仕組みだ。

 

 

「服薬」機能では、うっかり薬を飲み忘れることを防止するため、飲むタイミングを登録することで、適切な時間に服薬のリマインドをしてくれる(写真左)。また、手入力による健康管理機能も搭載されている(写真右)。

 

「脳にいいアプリ」のココがすごい!

□運動・食事・脳トレ要素の組み合わせによってエビデンスを強める
□高齢でも楽しめるように人気のキャラクターなども登場
□自治体と連係し利用者12万人、ChatGPT活用機能も好評