Apple純正アプリをフル活用! 学校一丸で取り組む「夢中になれる授業」|MacFan

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Apple純正アプリをフル活用! 学校一丸で取り組む「夢中になれる授業」

文●小平淳一

Apple的目線で読み解く。教育の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

大阪府にある枚方市立小倉小学校では、実に多くの授業でApple純正アプリを取り入れている。同校が学校一丸となってiPad教育に取り組むことができた理由はどこにあるのか。同校のICT教育を管理者の立場で牽引した永山宜佑教頭に秘訣を尋ねた。

 

 

純正アプリならではの表現力

今年、枚方市立小倉小学校に我が子を入学させた保護者は、さぞかし驚いたことだろう。入学時に目にした「学校紹介ムービー」のつくり手が、なんと前年度の1年生だったのだから。

「iPadの『iMovie』アプリでクロマキー合成やピクチャ・イン・ピクチャを使うという、かなり手の込んだ動画でした。さらに、保護者向けの資料にQRコードを入れて、スマホをかざして動画を視聴できるようにしたのです。これは、我が校の先生たちのアイデアとスキルのおかげで実現できたことです」

そう語る永山宜佑教頭の顔は、どこか誇らしげだ。

このエピソードに限らず、小倉小学校では実に多くの授業でiPadを活用している。国語の授業では「キーノート(Keynote)」を使って自分の意見をまとめ、音楽の授業では「ガレージバンド(GarageBand)」を使って曲づくりをする。また、家庭科では「クリップス(Clips)」でレシピ動画を作成している。

さらに、2年生の生活科では、「iMovie」やキーノートなど複数のアプリを組み合わせて地域のお店を紹介するレポートを作成した。授業以外にも「クリエイティ部」をつくり、各種アプリを駆使しながら校内テレビ番組を配信した。iPadの活用トピックは、挙げ始めたらキリがないほどだ。

「アップル純正アプリは表現力が非常に高いと思います。たとえばキーノートのアニメーション機能などは本当に多彩な表現ができる。これからの子どもたちには、自分の考えを伝えられる表現力を身につけていってほしいと考えているのですが、アップル純正アプリはぴったりのツールです」

同校のICT教育は、iPad活用の幅が実に広く、そのうえ活用度合いも深い。すべての教師が一丸となってICT教育に取り組んでいることも伝わってくる。世の中にはデジタル活用におよび腰の教師もまだまだ多いが、同校ではなぜここまで積極的に活用できる土壌が出来上がったのだろうか。

 

 

永山宜佑 教頭

枚方市立小倉小学校教頭。大学卒業後に枚方市の小学校で教壇に立ち、その後3年間ベトナムの日本人学校に赴任。帰国して再び小学校に勤めたあと、枚方市の教育委員会へ。枚方市のICT教育モデルの策定にも携わった。2021年より現職。Apple Distinguished Educator 2023。

Apple Distinguished Educator(ADE)…Appleが認定する教育分野のイノベーター。 世界45カ国で2000人以上のADEが、Appleのテクノロジーを活用しながら教育現場の最前線で活躍している。

 

 

教頭自らiPad活用授業を担当

永山教頭は小倉小学校に赴任する前、枚方市の教育委員会で勤務していた。同市のICT教育モデルの作成にも関わり、iPadの利点を議会でアピールしていたという。

「とはいえ、アップル純正アプリを活用し始めたのは、教頭として小倉小学校に赴任してからでした。活用方法を模索していく中で、純正アプリの楽しさやクリエイティビティに気づいたのです。そこからほかの先生たちにもiPadの魅力を伝えるようになりました」

しかし、当時の小倉小学校というと、iPadの配備が始まったばかり。ほとんどの教師は授業での活かし方がわからない状況だった。

「iPadを使うことで、子どもたちの表情が変わるということをアピールし続けました。全体的な情報共有を行いながら、デジタルが苦手な先生に対しては、ピンポイントでフォローするといったことも行いました。救いだったのは、ベテラン層の先生が積極的に取り組んでくれたことです。おかげでiPadを活用していくムードが全体的に盛り上がっていきました」

永山教頭はそう当時を振り返るが、同校でICT教育の基盤が出来上がったのは決して偶然ではない。永山教頭の情熱が原動力になったのは間違いないことだ。

たとえば、同校では「iPad自主学習チャレンジ週間」や「タイピング選手権」といったイベントをいくつも企画してきたが、これらのイベントは、永山教頭とICT活用のリーダー役の先生が一緒に意見を出し合い、形になったものだ。さらに永山教頭は、自ら教壇に立ち、さまざまな教科でiPadを活用した授業を繰り返し実践してきた。

「最近だと、図工の授業で子どもたちが描いた絵を写真で撮って、キーノートを使って動かすという取り組みを実施しました。それぞれの学年でiPadをどのように活用できるのかを考え、担任の先生に提案しています」

永山教頭は、各教師のさまざまな実践を共有するための「教頭通信」というペーパーも自主的に発行している。自らページズ(Pages)で作成しているというが、そうすることで、写真や動画、音声ファイルをたくさん入れられるほか、ePubで書き出すことで、ブックで閲覧できるのだという。

教頭という立場は、校外とのやりとりや事務処理など多岐に渡る。本来なら授業を担当したり、何かを作り上げる時間を捻出したりするのも一大事なはずだ。しかし、永山教頭にとってはどこ吹く風。このエネルギッシュさが、iPad活用を根づかせた大きな要因だろう。

 

先生自身が夢中になれる授業を

2023年4月、永山教頭はアップルの教育者認定プログラム「ADE(Apple Distinguished Educator)」のメンバーに認定された。その後ADEが一堂に集まってノウハウを共有する「インスティテュート(研修会)」に参加し、たくさんの刺激を受けたという。

「アップルの教育に対する考えを聞いたり、ほかのADEの先生のプレゼンを見たり、非常にエキサイティングな時間でした。ただ、先輩のADEの先生からは、その熱をいったん冷まさないと周りと温度差ができてしまうと指摘され、しばらく黙っていたんです。夏休みの校内研修でやっとそのときの話をしました」

その校内研修の中で、永山教頭は「これからも探究的な学びを磨き、取り組んでいってほしい」と改めて教師たちに伝えた。児童はもちろん、担当する教師自身も夢中になれるような授業が大切だと、永山教頭は考えている。

「以前、4年生の社会科の授業で『大阪府のデジタルガイドブックをつくろう』という取り組みがありました。担当した先生は最初アップル純正アプリに興味がないと言っていましたが、徐々に楽しさを見つけ出し、プロジェクトを達成しました。すでにその先生はほかの学校に転勤してしまいましたが、転勤先でも小倉小学校で身につけたノウハウを広げてくれています」

公立の小学校は教師の入れ替わりも多く、毎年意識の方向性を共有するのが大変だと永山教頭は言う。しかし、永山教頭の元で思いを共有した教師がほかの学校へ巣立ち、またそこで夢中になれるICT教育を浸透させていく。こうして探究的な学びが広がっていくことは、日本の教育にとって大きなプラスになるのではないだろうか。

 

 

4年生の国語の授業で児童が作成したレポート。この授業ではレポートの作成用アプリの候補がいくつか用意されており、上の図ではKeynoteを使ってまとめられている。

 

 

生活科では、校区内のお店を取材し、iMovieとKeynoteで編集したものをQRコードで掲示してまとめている。

 

 

1年生の「学校紹介ムービー」。iMovieで学校の様子を編集し、次の1年生のために動画を作り上げた。

 

 

「クリエイティ部」による校内テレビ番組。リアルタイムのカメラ映像と用意していた映像素材をスイッチングしながら、本格的な番組を配信している。

 

 

小倉小学校では、教師たちが互いに交流しながら日々iPadの活用ノウハウを深めている。学校一丸となってICT教育に取り組む雰囲気がしっかりと根づいている。

 

 

永山教頭が校内の教師向けに配付している「教頭通信」。教頭自らPagesで作成している。動画や音声ファイルを含むePub形式で配付した。

 

永山宜佑教頭の教授のココがすごい!

□Apple純正アプリの楽しさを学校全体に浸透させている
□教頭自ら授業を行い、クリエイティブな学びを牽引している
□教頭という管理者の立場でADEに認定された