わずか4人で650台の業務端末を管理するヤプリの超効率的なIT施策|MacFan

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わずか4人で650台の業務端末を管理するヤプリの超効率的なIT施策

文●牧野武文

Apple的目線で読み解く。ビジネスの現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

株式会社ヤプリでは、わずか4人のスタッフで300台のMacと350台のスマートフォンを管理している。ここでは、少数のスタッフで多くの端末を効率的に管理することを可能にした3つの理由について取り上げる。管理部門の端末管理業務を楽にするための企画・設計を行う“攻める情シス”から学べることは多いはずだ。

 

 

創業前からMacが標準

プログラミング不要でアプリを開発・運用できるプラットフォーム「ヤプリ(Yappli)」。非IT系企業でも手軽に自社アプリを制作できることから、現在はアパレル業界や飲食業界など650社以上で導入されている。これを開発する株式会社ヤプリは、2013年の創業以来、業務端末として一律でMacを採用してきた。ここでは、同社がMacを採用する理由と端末の管理テクニックについて詳しく聞いていく。

当時Macを採用した理由について、創業者のひとりである佐野将史取締役はこう振り返る。

「弊社はiOSアプリを開発する事業からスタートしたので、開発端末としてMacを採用することは必然でした。あとから振り返ってみると、Macの“かっこよさ”に助けられた面もありましたね。弊社はたった3人でマンションの一室を借りて業務を始めているのですが、成功する保証なんてどこにもありませんし、実際に売上がほとんど立たない状況も続きました。そんな環境でも気持ちを弱めず事業を続けるためには、最先端の端末を使って“自分たちはイケているんだ”と思い込む必要があったんです」

近年、業務端末をMacに統一している企業や、ウインドウズPC/Macの端末選択制を採用している企業は珍しくない。しかし、2013年当時はビジネスシーンでMacを利用する企業はそう多くない状況だった。当時、Macを使うことで問題は生じなかったのだろうか。

「実は、驚くほど問題がなかったんです。あえて言うなら、当時のメインバンクのオンラインシステムにMacが対応していなかったので、残高確認のために銀行に出向く必要があったくらいです」(佐野)

この背景には、「ヤプリ」がSaaS(Software as a Service)であることも大きく寄与している。「ヤプリ」は導入から利用までのすべてがブラウザ上で完結するプロダクトのため、特定のソフトが必要ない。そのため、MacかウインドウズPCかが問題になることは稀だった。

「むしろ、Macを採用するメリットを感じていました。UI(ユーザ・インターフェイス)設計が重要なプロダクトを開発している弊社にとって、アップルの洗練されたシステムを使うことは必要なことでしたね」(佐野)

 

業務ツールはSaaSで統一

この“業務端末をMacで統一した”ことが、現在の端末管理にも大きなメリットをもたらした。

同社の従業員と業務委託スタッフの合計は300人前後で、各人に1台ずつMacを配付している。MacBookエア/プロを各1モデル用意し、業務内容に応じていずれかを配付しているそうだ。また、開発時の動作検証を行うエンジニア用にiOS端末200台、アンドロイド端末150台も用意している。以前は検証用端末を社内で共有する仕組みだったが、リモートワークが進んだため個々人に配付する形となった。

さらに、MacとiOS端末の管理用MDM(Mobile Device Management)ツールに「ジャムフ・プロ(Jamf Pro)」、アンドロイド端末に「マイクロソフト・インチューン(Microsoft Intune)」を導入し、この650台ほどの端末管理をわずか4人で行っている。人数に対して台数がかなり多いように見えるが、同社の情報システム部門であるITグループに所属する望月真仁氏はこう話してくれた。

「端末管理部門のスタッフは、2022年に4名体制になってから増えていません。500名くらいまでの規模であれば、今の体制で管理できるとみています。業務端末にMacとウインドウズPCが混在していないため、Macの管理に集中できることは大きいですね」

同社の端末管理が効率化できる理由はあとふたつある。そのうちのひとつが、「キーノート(Keynote)」を除いて業務ツールがSaaSで統一されていることだ。これにより、アプリ配付の手間やアプリ関連のセキュリティに気を配る必要がなくなり、アカウントとSaaSの契約管理に集中できるようになった。

「ヤプリが成長する過程で上場も達成しましたが、その際に端末管理において重要なテーマになったのが“セキュリティ”です。弊社では、セキュリティに関してもSaaSの強みを活かした体制を敷いています」(望月)

セキュリティ管理ツールにもSaaSを採用する徹底ぶりで、アカウント管理には「オクタ(Okta)」、異常アクセス検知には、アクセスログを収集してリアルタイムで分析を行えるシーム(SIME=Security Information and Event Management)ツールを導入している。また、SaaSの導入を決める際は、ワールドワイドでの業界標準サービスかそれに準ずるサービスを採用するそうだ。著名なSaaSのセキュリティレベルは高く、検証機関によるレポートも豊富に公開されているため、導入時の検証を行いやすいという。

「弊社の従業員は新しいサービスに関する感度の高い人が多く、社内向け『スラック(Slack)』で、新しいサービスに関する情報が飛び交っています。従業員から要望が出る前にそれらをあらかじめ調査しておいて、要望が出たら短時間で導入できるように心がけています」(望月)

 

外部リソースを活用して考える

同社が効率的に端末を管理できる3つ目の理由が、端末導入からサポートまでをアップルの正規エンタープライズリセラーであるToo社に一本化したことだ。

2021年に半導体が不足した時期は、同社でも端末が調達できない事態に直面し、古いモデルや整備済み品で対応せざるを得なくなったことがある。そこで、アップル提供の残価設定型ローン「AFS(Apple Financial Services)」を導入し、購入に比べて手軽に端末を調達できる体制にした。Tooが揃える在庫から取り寄せられるほか、購入に比べてリースのほうが費用が安くなるなどメリットは多いそうだ。なお、端末故障時のサポートもTooに委託しているため、委託コストは以前よりも増している。しかし、AFSによる端末コストや社内管理コストの削減を考えると、同社では費用面でのメリットもあると判断した。

また、“SaaSは管理が楽”とはいうものの、従業員の入退社時期により契約時期が異なるほか、サービスごとに決済方法も異なるため、実は契約管理は複雑だ。そこで、SaaSに関しても総合管理クラウド「アドミナ(Admina)」を利用することに決めたという。

「情シスはいつも人手不足です。このような状況のなかで情シスが担うべき大きな仕事のひとつは、外部のリソースをうまく活用しながらSaaSを業務ツールの基本にすることでしょう。そのうえで、生産性の高い業務システムを設計することが必要になってきます。弊社は創業時から情シスの業務に寛容な文化なので、とてもやりやすい面がありました」(望月)

“情シス部門のコスト”というと、つい“無駄なコスト”もしくは“省くことができるコスト”と考えてしまう人もいるだろう。しかし、情報システム部門は業務の生産性とセキュリティに直結する業務を担っている。単純に部門の人数を減らす、もしくはシステムにかける費用を削減するという発想では、大きな事故につながる可能性も高まってしまう。

これを鑑みると、情報システム部門に求めるべきは単純な業務量ではなく企画力と設計力だろう。少人数で効率的に管理できる業務システムを企画・設計しつつ、外部企業のツールを活用し、少人数で運用していく。同社の事例からは、そんな新しい情報システム部門の形が見えてくるだろう。

 

 

同社の東京オフィス。コロナ禍を経て出社義務がなくなり、現在の出社率は1割から3割程度になっている。しかし佐野取締役によると、オフィスは従業員が集まる場所として必要だという。対面とリモートを使い分ける働き方が定着しようとしている。

 

 

株式会社ヤプリの共同創業者である佐野将史取締役(左)、ITグループ望月真仁マネージャー(右)。同社では、2013年の創業時からMacを標準の業務端末に定め、MacとWindows PCの二重管理を行う必要がない環境を構築している。

 

 

同社のコミュニケーションツールのひとつとして使われているのが、今年8月にリリースされた社内報アプリ「Yappli UNITE」。組織エンゲージメントを高めることを目的にしたアプリで、社長メッセージ投稿機能や社員名簿機能など多くのツールを備えている。
【URL】https://yapp.li/yappli-unite/

 

 

ノーコードでアプリ開発・運用・分析が行える「Yappli」の管理画面。非エンジニアのユーザにもアプリ開発の道を拓いた老舗サービスだ。デザイン性が優れているため、アパレルなどブランド性を重視する企業を中心に採用されている。 【URL】https://yapp.li/

 

ヤプリのココがすごい!

□2013年の創業時から業務端末に一律でMacを採用
□効率的な管理体制を採用し、650台の端末管理を4人で行う
□業務ツールをSaaSに統一してセキュリティと管理効率を向上