ニュージーランド人ADEが実践する「地域貢献×テクノロジー×英語」|MacFan

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ニュージーランド人ADEが実践する「地域貢献×テクノロジー×英語」

文●三原菜央

Apple的目線で読み解く。教育の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

福岡県北九州市にある西南女学院大学の英語学科で学科長を務めるマルコム・スワンソン教授。「Apple changed my life.」と語るスワンソン教授に、Apple製品を使ったICT活用事例、またその魅力について話を聞いた。

 

 

98%の学生がiPhoneを利用

福岡県北九州市にある西南女学院大学。同大学の英語学科は、1年次から4年次まで英語4技能(聴く・話す・読む・書く)を中心とした体系的な学習と、地域活動や諸外国との交流など、実践的に英語力が身につく学習環境が特長だ。同大学において英語学科長を務めるマルコム・スワンソン教授が担当する「英語プレゼンテーション」や「メディア英語」も、基本的に英語で行われるなど、語学力が養われる環境が充実している。

スワンソン教授の英語プレゼンテーションの授業は、英語力の向上だけでなく、プレゼンテーションデザインの技術も飛躍的な向上が期待できる。実際に学生が制作したプレゼンテーションデザインの変化には、目を見張るものがある。プレゼンテーションの作成には、多くの学生が「キーノート(Keynote)」を使用するそうだ。

「私のプレゼンテーションの授業では、学生にMacを使用してもらいます。ですが、プレゼンテーションの作成は、キーノート、パワーポイント(PowerPoint)、グーグルスライド、どれを使用しても構いません。これまでの経験から、最初はパワーポイントを使う学生が多いのですが、授業が進んでくるとほとんどの学生がキーノートを使うようになります。キーノートの魅力は、何と言っても直感的に操作できるところ。本学は運よく98%の学生がiPhoneを利用しているため、ほとんどの学生がMacやiPadといったアップル製品の操作に慣れており、キーノートも、使い方を調べなくてもある程度は操作できますね」

スワンソン教授は、キーノートの魅力について、デザイン性の高さも忘れてはならないと続ける。

「ほんの少しのコツさえ掴んでしまえば、きれいにデザインされたプレゼンスライドを作成できます。あとは『マジックムーブ』といったアニメーションを効果的に使うことも大事です。エアドロップ(AirDrop)で写真を共有し、iPhone版の「キーノート」アプリでプレゼンテーションを編集することもできるので、シームレスかつスムーズですよね」

スワンソン教授はニュージーランドの小学校で9年間教鞭を執ったあと、グラフィックデザイナーとして働いていた異色の経歴を持つ。そのため、グラフィックデザイナーの知見を活かしたプレゼンテーション作成のコツを学生に伝授している。フォントの大きさや色、配置する写真のバランス、コントラストやスペースの調整など、レクチャーを受けた学生のプレゼンテーションは見違えるほどの出来栄えになる。

 

 

マルコム・スワンソン 教授

1955年、ニュージーランド生まれ。パーマストンノース教育大学で学び、1978年に小学校教諭に。ニュージーランドで9年間教鞭を執ったあと、1989年に来日。近畿大学での非常勤講師を経て、2006年に西南女学院大学英語学科に赴任し、現在に至る。Apple Distinguished Educator 2013。

Apple Distinguished Educator(ADE)…Appleが認定する教育分野のイノベーター。 世界45カ国で2000人以上のADEが、Appleのテクノロジーを活用しながら教育現場の最前線で活躍している。

 

 

ESD視点の地域プロジェクト

北九州市は「ESD(Education for Sustainable Development:持続可能な開発のための教育)」に力を入れており、公害を克服し、環境未来都市としてのさまざまな取り組みが産官学のみならず、草の根レベルでも行われている。

スワンソン教授も「地域プロジェクト」という授業科目の中で、SDGsのアクティビティを通じて地域の課題を国際的な視点から捉え、英語で「北九州版SDGsカルタ」を作成するというプロジェクトを行った。このプロジェクトの実施をとおして、北九州の環境問題、地域の課題について学び、それらを英語で発信する力を身につけるのが狙いだ。

「北九州版SDGsカルタは、デジタル版も制作しました。ここでもキーノートを活用したんです。授業以外でも、私のゼミでは若者の“伝統離れ”に着目し、北九州小倉の郷土料理である『ぬか炊き』をゼミの学生と同年代の若者に知ってもらい、興味を持ってもらうことを目的に、新商品の開発を行いました。ぬか炊きとは、イワシやサバといった青魚をぬか床で炊き込んだ郷土料理です。ぬか炊きを知らない若者や、ぬか炊きに抵抗がある若者に対して、ぬか炊きを身近に感じることのできるハンバーガーなどを開発しました。メニューやポスターは、学生たちがMacで作りました」

商品を販売して得た収益は、“北九州の台所”と言われる「旦過市場」に寄付をしたそうだ。旦過市場は2022年に二度の火災に見舞われたこともあり、小倉の伝統が詰め込まれた場所の復興にもつながると考えてのことだという。

 

アップルが人生を変えた

2018年9月、西南女学院大学の中に、iMacを約40台整備した「MacRoom」というデザイン性の高い学習空間が作られた。一方で、最近では私物のiPadを使って卒業論文を仕上げる学生も増えているという。

スワンソン教授がICT活用を始めたのは、2008年のこと。まだ校内にWi-Fiが整備されておらず、iPadを授業に持っていって写真を見せるのが精一杯だったそうだ。

2013年頃から校内Wi-Fiの整備も進み、キーノートやページズ(Pages)を授業で活用し始めた。この同時期に、友人を介してADE(Apple Distinguished Educator)の存在を知り、すぐさま申し込み、見事認定を受けられたのだという。

「世界各国のADEが集まって実践を共有し合う『インスティテュート(研修会)』では、周りのADEのレベルの高さに驚きました。ADEになって一番良かったことは、インスピレーションを受けられることです。インスピレーションを受けて、それを試して、『自分でもできる』という経験を重ねることで、大きな自信がつきました。この経験をとおして受け取ったアップルからのメッセージは、『誰でもできる』ということです。はじめは『そんな実践はすごすぎて、私にはできない!』と思うのですが、一歩ずつ前に進むことで、『できた!』という体験を繰り返していく。キーノートも最初は難しいイメージがあると思いますが、ちょっとしたコツさえ掴むことができれば簡単なんです。そうすると徐々にオリジナルのデザインが出来上がっていきます。学生もプレゼンテーションができるようになると、自信がついていきます。これが『Anyone can do it.(誰でもできる)』ということです」

「Apple changed my life.(アップルは私の人生を変えました)」とも語るスワンソン教授。アップル製品は、仕事はもちろん、日々の暮らしを楽しくしてくれるという。「月曜日が嫌だと思ったことはない。学生に教えることが楽しいんです」と語るスワンソン教授にとって、アップル製品はなくてはならない存在のようだ。

 

 

英語学科の学科長を務めるスワンソン教授。授業ではMacを採用し、「英語プレゼンテーション」といった科目を担当している。

 

 

英語プレゼンテーションの授業で、学生がKeynoteを使って作成したプレゼン資料のビフォー(左)/アフター(右)。元グラフィックデザイナーとしての知見が指導にも活かされているという。

 

 

学生は北九州の自然や歴史を表現した「ジオかるた」の英語版を作成。北九州の環境問題、地域の課題について学び、それらを英語で発信する力を身につける。

 

 

西南女学院大学は地域貢献活動に力を入れている。スワンソン教授のゼミでも、イワシやサバといった青魚をぬか床で炊き込んだ北九州小倉の郷土料理「ぬか炊き」を使った新商品の開発を行った。ポスターの制作にはKeynoteを使用しているという。

 

 

2018年9月に校内に作られた「MacRoom」。約40台のiMacが設置されている。iMacが引き立つデザインのデスクが印象的で、まるでApple Storeの店内のようだ。

 

マルコム・スワンソン教授の教授のココがすごい!

□「地域貢献×テクノロジー×英語」という唯一無二のアクティブラーニングを実践している
□元グラフィックデザイナーの知見を活かしたプレゼンテーションの指導を行っている
□ADE仲間の実践にインスピレーションを受け、スキルアップを繰り返している