カカクコムのMac導入に見た、今すぐ実践するべき“ある施策”|MacFan

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カカクコムのMac導入に見た、今すぐ実践するべき“ある施策”

文●井上晃

Apple的目線で読み解く。ビジネスの現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

企業が従業員にMacを配付するとき、導入担当者には一体どのような苦労があるのだろうか。2018年頃からMacの本格導入を進め、現在では約500台のMacを配付している株式会社カカクコムの例を参考に、スムースに導入するためのコツや準備、そしてMDMツールの選び方のポイントを知っておこう。

 

 

約3割はMacを選択

株式会社カカクコムは、主力事業として「価格.com」や「食べログ」、「求人ボックス」などのWebサービスを運営する企業。グループ会社を含めると、総合映画情報サイト「映画.com」や総合保険比較サイト「価格.com保険」など、より幅広い分野でWebサービスを展開している。約1200名の従業員を抱える同社では、一体どのような体制で従業員のデバイスを運用しているのだろうか。その運用方法と課題、これからMacを導入したいと考えている企業やすでにMacを扱っている企業へのアドバイスまで幅広く伺った。

同社のプラットフォーム技術本部・コーポレートIT室の室長を務める栗山嘉唯氏は、デバイスの運用体制について「デバイスの調達やキッティングなどを担当する『フィールドチーム』と、従業員からの質問や設定周りのサポートをする『ヘルプデスクチーム』などに分かれています」と話す。チームで従業員のデバイス情報を共有しつつ、その導入から設定周りまでを包括的にサポートする体制を採用している。

同社の従業員数とアップル製品の配付数については、同室のフィールドチームでMacの導入を担当した松村裕二氏が以下のように話してくれた。

「従業員数は約1200名です。デバイスの配付数は、iPhoneが500台、iPadが250台、Macが500台ほどです。MacとウインドウズPCは大体3:7くらいの比率ですね」

導入当初はシステムエンジニアやデザイナーにMacを配付していたが、次第にビジネス職でも「プライベートで利用している」などの理由でMacを使いたいと希望するユーザが増えたそうだ。

 

本格運用は約5年前

同社が事業部や職種を限定してMacを導入し始めたのは2015年頃からだ。導入のきっかけは、入社面接の際にMacを使った開発環境を強く希望するエンジニアが増えてきたためだという。

「従業員がウインドウズPCかMacを選択できるようにしたのは2017~2018年です。それまではエンジニア職など一部の例を除き、基本的にウインドウズPCを配付していました。Macの導入当初はiMacを配付することもありましたが、最近は自宅に持ち帰る機会も想定してMacBookシリーズを中心に配付しています」(松村氏)

同社で現在配付しているデバイスはM1シリーズのチップを搭載したMacBookが中心で、M2世代モデルへの入れ替え手続きを進めているタイミングだという。企業でMacを導入する際は、固定資産として購入する以外にもリース契約を結ぶという選択肢もあるが、同社では昨年から後者を選択している。

「以前はデバイスを購入していましたが、昨年からリースを選択するよう方針を変更しました。昨今の為替変動の影響もあって、ここ数年でアップル製品の価格が高騰してきたことが理由です。固定資産として4年使うよりも、リースで安価に導入して3年サイクルで回していこうと判断しました」(松村氏)

なお、コロナ禍の前後でMacの導入台数に変化はなかったそうで、テレワークについてはコロナ禍以降に本格導入を始めている。

「もともと弊社では、一部の例外的なケースを除いてテレワークが認められていませんでした。従業員に広くテレワークが推奨されたのは、コロナ禍に突入してからです。現在は、事業部ごとに業務を行いやすい形でテレワークと出社の比率を決めています」(栗山氏)

この勤務スタイルの実現に必須なのがMDM(Mobile Device Management)ツールだった。同社では、テレワークを推奨する前からMDMツールを導入していたため、大きなトラブルは起こらなかったという。

 

管理者の業務効率を改善

2018年から、同社ではアップル製品向けのMDMツールとして「ジャムフ・プロ(Jamf Pro)」を採用している。

「ジャムフ・プロはアップル製品に特化しているのが特徴で、新しいOSへの対応の早さが決め手になって導入しました。OSがアップデートされるタイミングでも、そこまでツールの挙動を意識せずに運用できるんです。また、ジャムフ・プロにはセルフサービス(Self Service)という機能があって、デバイス管理者が許可したソフトをユーザ自身が自由にインストールできるのも好印象でしたね。ほかにも、テレワークなど社外にいる環境でも一時的な管理者権限を付与できる機能にも助けられています」(松村氏)

同室のヘルプデスクチームに所属する櫻井正毅氏は、こうしたツールの導入後に業務効率が改善したと話してくれた。

「ジャムフ・プロの管理画面を確認することで、クライアント端末それぞれの状況を把握できるようになりました。たとえば、管理画面でデバイスごとのOSアップデート状況がわかるため、OSアップデートを行わないままデバイスを利用しているユーザに通知するなど事前に対策できるようになりました。またトラブルが起こった際、ジャムフ・プロを導入する以前は従業員に状況をヒアリングするしかなかったので、時間も手間もかなり掛かっていましたし、従業員が話してくれる内容が必ず正しいと言い切ることはできません。それをツールひとつで確認できるようになったことで、原因を推測して対処しやすくなったのも助かっています」

しかし一方で、2018年にジャムフ・プロを導入した際には苦労したこともあったという。

「ジャムフ・プロを導入する前は、macOSサーバで約100台のMacを管理していました。これらをジャムフ・プロに登録し直す作業が大変でしたね。従業員からデバイスを回収して、MDMのプロファイルを設定したあとに動作確認をするという単純作業の繰り返しです。ただ今になって考えれば、現在ほどの台数になる前にやっておいて良かったとも感じています」(松村氏)

 

企業担当者へのアドバイス

Macを導入し始めた当初、松村氏はMacにそこまで詳しくなかったという。

「実はMacの導入当時、使い慣れていて知識もより豊富なのはウインドウズPCでした。Macにはそこまで詳しくなかったですし、Mac導入当初は1台に2時間ほどかけてキッティング作業をしていた記憶があります。ですが、MDMツールを導入したことでデバイスのキッティングや管理を一括で行えて、状況も可視化できるようになりました。ジャムフ・プロを使うようになってから、ようやくMacのことが好きになってきた感じです(笑)」(松村氏)

同氏のように、Macを使い続けてきたユーザでなくてもMacとMDMツールと合わせて導入することで、デバイス管理状況を大きく変えられるかもしれない。また、すでにMacを導入しながらもMDMツールの導入を躊躇っている企業や導入の必要がないと感じている企業、BYOD(Bring Your Own Device=故人の所有デバイスを業務で利用する制度)を導入している企業でも、MDMツール導入を一考する価値はありそうだ。

「あくまでも当社の場合ですが、MDMツールを最初に導入するのは大変でしたし、MDMツールの利用にあたってはデバイス1台ごとにライセンス料もかかります。それでも、今後の企業の成長やデバイスの増加が予想できるのなら、デバイスの台数が少ないうちにMDMツールも併せて導入しておくことを強くおすすめしたいですね」(松村氏)

 

 

カカクコムでは、基本的に従業員1人に1台のパソコンを配付するルールでCYOD(Choose Your Own Device)を展開している。Windows PCかMacを選択でき、現在の配付比率はWindows PC7割、Mac3割の構成だ。

 

 

左から、プラットフォーム技術本部・コーポレートIT室の室長である栗山嘉唯氏、同室の松村裕二氏、櫻井正毅氏。デバイスの調達やキッティングなどを担当する「フィールドチーム」と、従業員からの質問や設定周りをサポートをする「ヘルプデスクチーム」などで、従業員のデバイス情報を共有している。両チームでデバイス情報を共有しているおかげで、ヘルプデスクチームは従業員が使っているパソコンのOS情報やデバイスを使った日時を把握したうえで相談に対処できる。

 

 

「Jamf Self Service」とは、Jamf Proが備える機能のひとつ。同機能を通じて、エンドユーザは組織がインストールを許可しているソフトの一覧を確認し、必要なものを選んでインストールできる。

 

 

Jamf Proは、米Jamfが提供するMDMツール。iPhoneやiPad、MacなどのApple製品に特化して作られているのが特徴で、各種デバイスの一元管理やセキュリティ管理などの機能を備えている。

 

カカクコムのココがすごい!

□職種や部署に垣根を設けず、グループで500台のMacを導入
□3年でのデバイス交換を前提に、リース契約で最新機種を投入
□MDMツールの導入により、管理者の負担を大幅に軽減