学校を飛び出せ! ICTで高校生と地域社会をつなぐ|MacFan

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学校を飛び出せ! ICTで高校生と地域社会をつなぐ

文●三原菜央

Apple的目線で読み解く。教育の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

2015年に開校した宮城県登米総合産業高校は、農業、工業、商業、福祉の4学科が揃った宮城県内初の総合産業高校。同校で情報技術科を担当する傍ら、校内のICT推進や積極的な外部交流を行っているのが千坂大輔教諭だ。校内のみならず、県下での情報共有にも尽力している千坂教諭に、これまでの取り組みについて話を聞いた。

 

 

ノウハウのオープン化

宮城県では、2015年より、学校現場におけるICT環境の整備・ICT活用を推進するための「MIYAGI Style」という取り組みが行われている。インフラ整備が一段落した同事業は現在、「教員のICT活用指導力の向上」や「教科指導におけるICT活用」に注力している。

そんなMIYAGI Styleを推進する役割を担うMIYAGI Styleスタイリストとして活躍しているのが、宮城県登米総合産業高等学校の千坂大輔教諭だ。千坂教諭は、前任校にいた2013年頃からタブレットの活用を始めた。現在は同校の情報技術科教諭、また情報管理部の部長として、主に端末管理を指揮している。

「最初は先生方の授業を視覚的にわかりやすくすることで、生徒の興味関心を引き出すための手法としてICTを使っていました。先生方がICTを使いこなせるようになってきたタイミングで次に取り組んだのが、支援が必要な生徒に対するICTを活用したアプローチでした。ユニバーサルデザインを実現する使い方に今は移行しています」

初任校に勤務していた頃から、パソコンを活用した授業を展開していた千坂教諭だったが、2015年に現在の勤務校に赴任したタイミングで、どう活用していくかをより考えるようになったそうだ。同校では、1年生がBYAD(Bring Your Assigned Device)でWi-FiモデルのiPadを、2年生は公費端末を使用している。来年度より全学年で1人1台の端末整備が実現する。

自身の授業をオープンにし、ほかの先生がいつでも見学できるようにしているという千坂教諭。情報管理部として端末管理を行うだけでなく、授業デザインの相談があれば、先生の相談を受けたり、授業のサポートをしたりすることもあるそうだ。年1回の授業研究会では、ICT機器を使った授業のアドバイスをしている。

また、ICTが苦手な先生をサポートするきっかけになればと、放課後に「ICTカフェ」と名づけた研修会を企画・運営。先生同士の情報共有やコミュニティづくりに尽力してきた。その結果、最近ではICTが得意な先生とそうでない先生が自然とサポートし合う仕組みが出来上がってきたという。

「ICT導入については、うまくいかないと思うことよりも、うまくいっていると思うことのほうが実感としては多いです。ただ、端末の台数が増えてくると端末管理の面では大変ですね。今後は、BYADに関するノウハウをほかの学校に役立ててもらうためにノウハウのオープン化を進めていきたいと思っています」

 

千坂大輔教諭

宮城県登米総合産業高等学校情報技術科/情報管理部部長。2006年より宮城県の県立高校教諭に。2015年に開校した宮城県登米総合産業高等学校には創立準備から携わり、情報技術科の授業を受け持ちながら、現在は情報管理部部長を務める。2019年より、Apple Distinguished Educator。

Apple Distinguished Educator(ADE)…Appleが認定する教育分野のイノベーター。 世界45カ国で2000人以上のADEが、Appleのテクノロジーを活用しながら教育現場の最前線で活躍している。

 

 

学校と社会をつなぐ

「私の授業ではiPadを使って何かをするというよりも、iPadを使って、学んだことをアウトプットすることが多いです」と語る千坂教諭。情報科の授業では、今まで紙で提出してもらっていたレポートの一部を、今年から動画提出に切り替えた。最近では紙の手順書よりも、ユーチューブ(YouTube)を見ながら何かを制作することが増えてきていることから始めた取り組みだそうだ。

「動画制作をするにしても、アプリの指定はしないようにしています。昔は、iMovieやクリップス(Clips)を使うように指定していた時期もありました。最近は生徒たちが使いやすく、得意なツールで作ることが強みになると考え、何でもいいよと伝えています。最近生徒たちに人気の動画編集アプリは、キャップカット(CapCut)で、私が生徒から教わることも多いですね」

動画制作だけでなく、プログラミングアプリの「ビスケット(Viscuit)」を使って、2進数や10進数を教えたり、単語学習アプリ「クイズレット(Quizlet)」を活用して、知識習得の確認やトレーニングを行ったりしているそうだ。アプリの使い方については、教員同士で情報交換を行っているという。

校内でのICT活用が進む中、千坂教諭が大事にしているのは、どう学校と社会をつなげていくかということだ。同校では、開校2年目から高校生が地域の小・中学校に赴き、高校生が教える出前授業を行っている。

「小学校でプログラミング教育が始まった頃に、『この地域の専門高校として、情報技術やプログラミングを学んでいる君たちが、学んだことを地域に還元するのはどうだろう?』と生徒に提案したところから、出前授業がスタートしました。GIGAスクールで小・中学校に端末が1人1台に整備されると、今度はキーボードのローマ字入力を教えてほしいという小学校からの依頼がくるようになりました。ICTの活用が授業だけでなく、外での活動が増えるにつれ、どのように生徒たちの活躍の場を作るか?と考えるようになりました」

千坂教諭が顧問を務める写真部では、「みやぎふるさとCM大賞」にも挑戦したそうだ。生徒たちにMacBookとカメラとiPadを預け、プロの方にアドバイスをもらいながら、生徒たちが地域の魅力を見つけて発信するCM制作に2年ほど取り組んでいる。

 

学校外の関わりが成長に

千坂教諭のここ最近の大きな仕事になっているのが、プロジェクションマッピングだ。今ではショッピングモールから依頼を受けるなど、引き合いが増えているという。プロジェクションマッピングを手掛けるきっかけになったのが、ADE(Apple Distinguished Educator)の仲間だった。

2019年にADEの認定を受けた千坂教諭。ADE仲間からの誘いで、2019年12月に生徒の有志が静岡県掛川城でのプロジェクションマッピング制作に参加した。それをきっかけに生徒たちが地元でも行いたいと声を上げたが、残念ながらコロナ禍によって実現できなかった。しかしあるとき、地域の商工会からプロジェクションマッピングをやってみないかと打診される。この取り組みがメディアにたびたび取り上げられたことで、引き合いが増えたという。

「今年は消防署から、子どもたちが作った防火ポスターをプロジェクションマッピングで上映したいという依頼がありました。『それだけではつまらない』と生徒たちと話し、キーノート(Keynote)やiMovieを使って動くポスター映像を制作したんですよ。消防署の方も書いたポスターが動くなんて思ってもみなかったと、すごく喜んでくださって。何よりポスターを書いた小・中学生の子どもたちが一番喜んでいました。やはり生徒は、学校外の人たちと関わりながら成長していくことが一番だと私は思っています。どんどん生徒が社会とつながって学ぶ機会を作っていきたいです」

 

プログラミングアプリViscuitを使った授業の様子。2進数や10進数を学んでいる。

 

 

Quizletを使ってゲーム感覚で学ぶ生徒たち。知識習得の確認やトレーニングに活用しているという。

 

 

千坂教諭が顧問を務める写真部が「みやぎふるさとCM大賞」に応募する作品を撮影している様子。プロの方にアドバイスをもらいながら、2年ほど取り組んでいる。

 

 

学校で行ったプロジェクションマッピングの様子。地域の商工会でのプロジェクションマッピングがメディアに取り上げられたことから、ショッピングモールや消防署からも依頼がくるようになった。

 

 

ショッピングモールでのプロジェクションマッピングの床面投影。「子どもたちに遊んでもらう」をコンセプトに制作した。

 

千坂大輔教諭のココがすごい!

□ICTに関する先生同士の情報共有やコミュニティづくりに尽力している
□授業だけでなく課外活動でもiPadを使ったアウトプットに取り組んでいる
□小中学生への出前授業など高校生が地域貢献する機会を創出している