正確さから柔軟さの価値を見直す時代|MacFan

アラカルト Dialogue with the Gifted 言葉の処方箋

正確さから柔軟さの価値を見直す時代

3年におよぶコロナ禍において、ようやく明るい未来が見え始めたのか、リアルな講演も再開され、タクシーを利用する機会が増えました。今回は視覚障害者の中で話題に上がっている、とあるタクシーアプリの機能をとおして見える、今後のサービスに求められる柔軟さの意義について考察していきたいと思います。

皆さんはタクシー配車アプリにどのような機能を求めますか? 配車精度、送迎料、車種選択、車内充電器の有無など、人によって重要視している点はそれぞれかと思います。私が日頃利用しているタクシーアプリ「GO」の解説ページを参考に、最新の配車アプリの機能を見てみましょう。

「GO」では配車位置に近いタクシーがマッチングするため、乗車までの待機時間は短く済みます。またリアルタイムに到着時間や車両位置を確認できるので待機時間を有効活用できます。緊急時はメッセージ機能で直接、乗務員と連絡が取れる点も、詳細な待ち合わせ位置を説明できるので助かります。煩雑になりやすい支払いや経費精算に関しても、「GO Pay」を使えば、アプリ内で事前キャッシュレス決済が可能であり、領収書もアプリから一括してPDFでメールへ送れるなど、忙しい日々の業務改善に使える機能が満載です。

また「AI予約」は、あらかじめ日時を指定することで、指定した時間前後に乗車できるように車両を優先的に自動で手配するサービスです。乗りたい車両を指定でき、ベビーカーなど荷物が大きいときでも乗り降りしやすいスライドドアの車両を指定したり、車いす対応の研修などを受けた乗務員が乗務するユニバーサルデザインタクシーを指定して車両を手配したりすることができます。

ここまで、私が日々活用しているタクシー配車アプリについて紹介しましたが、患者会で話題に上がっていたアプリ「フルクル」は、私の想像している機能とはまったく異なる視点で視覚障害者の評価を得ていました。フルクルのアップストアのレビューを見ると、「正確に配車されない」など、精度の低さを指摘する声が並んでいます。しかしこのアプリの説明欄にはこのように記されています。

「フルクル」はスマホを振って「タクシーに乗りたい」というサインを出すだけで、周辺の空車のタクシーが集まってくる、タクシーと利用者を「ゆるーく」つなぐマッチングアプリです。

このアプリはタクシー配車アプリではなく、周囲のタクシーが集まってくるだけであり、この精度の低いマッチングシステムが視覚障害者のニーズを満たすというのです。視覚障害者がタクシー配車アプリを使用する際の壁は、音声読み上げ機能にアプリが対応しておらず、操作性に課題が残っていること。加えて、配車タクシーがどのタクシーかわからないことやいつまで待てばいいかわからないこと、配車したタクシー以外のタクシーに乗ってしまった際のキャンセル動作などにありました。

フルクルでは周囲のタクシーが集まってくるだけなので、スマホを振っている人をタクシーが見つければ寄ってきます。または手を振っている動作からフルクルと関係ないタクシーが配車希望かと勘違いして止まるなど、厳密なマッチングではなく、とにかく止まったタクシーに乗れば問題ないという、なんともゆるいサービスです。過度なゼロリスクを求めがちな昨今、ファジーな曖昧さを残したゆるさの大切さを再確認しています。

 

正確さよりも柔軟さと偶然性を楽しもう。

 

 

Taku Miyake

医師・医学博士、眼科専門医、労働衛生コンサルタント、メンタルヘルス法務主任者。株式会社Studio Gift Hands 代表取締役。医師免許を持って活動するマルチフィールドコンサルタント。主な活動領域は、(1)iOS端末を用いた障害者への就労・就学支援、(2)企業の産業保健・ヘルスケア法務顧問、(3)遊べる病院「Vision Park」(2018年グッドデザイン賞受賞)のコンセプトディレクター、運営責任者などを中心に、医療・福祉・教育・ビジネス・エンタメ領域を越境的に活動している。また東京大学において、健診データ活用、行動変容、支援機器活用関連の研究室に所属する客員研究員としても活動中。主な著書として、管理職向けメンタル・モチベーションマネジメント本である『マネジメントはがんばらないほどうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)や歌集・童話『向日葵と僕』(パブリック・ブレイン)などがある。