AIの公私混同はお控えを|MacFan

アラカルト “M世代”とのミライ

AIの公私混同はお控えを

文●松村太郎

大学は今、学期末でレポートシーズン。学生たちの間でも、「ChatGPT」をはじめとするAI(人工知能)ツールが話題になっています。AIに尋ねれば的確な答えを教えてくれるのですから、「レポートをAIに書かせればいいじゃないか」という悪知恵を働かせる学生だって出てくるのかもしません。そうなったら採点する教員は、果たして、ChatGPTで書かれたレポートを見破れるのでしょうか。

学生のレポートを評価するうえで、多くの教育機関では剽窃チェックツールを使用しています。第三者のレポートやネット上の情報をそのまま貼りつけて提出すると、自動的に弾かれてしまう仕組みです。

もちろん、教員側が毎年課題を変えたり、より自分の知識や考えを述べさせるレポートを出題したりすべきだという意見もごもっともです。しかしながら、AIが答えられない課題を出すのはなかなか難しく、頭を悩ませている教員は多いはずです。

もしほとんどの学生たちが、ChatGPTが出力した内容を提出してきたとしたら、同じレポート内容になるはずで、見破ることは容易いかもしれません。しかし、テーマを学生側が決めて、それについて論じるタイプの課題の場合、たとえ学生が同じAIツールを使ったとしても、異なる回答が提出されることになり、それが学生の言葉なのか、AIが出力したものなのか、わからないのではないかと思います。

AIがなぜ的確な答えを教えてくれるかというと、膨大な情報をAIが学習しているからです。これは人間も同じことで、学習していない知識をテストで問われても、類推で正解になる場合以外は、正確に答えることができません。つまり、チャットでAIが答えている内容は、AIが学習済みの内容であると考えることができます。

AIが我々の生活の中に溶け込んだ結果、日々さまざまな情報を学習したAIは、何を尋ねても答えてくれるようになり、使う人間からすれば「賢い」と感じることになるでしょう。

では、ChatGPTに自分自身のことを尋ねたとき、生い立ちや家族構成まで詳細に答えられてしまったとしたら、あなたはどう感じるでしょうか。自分以外の誰かにも、自分自身の詳細な情報が回答として伝わるとしたら…。

iPhoneに備わるSiriは、その人がどこに住んでいて、どこで働いていて、いつも朝にコーヒーショップでコーヒーを買うためにアプリを開くことを知っており、どんなドラマやアニメを視聴しているのかも把握しています。

それでも、アップルは個人情報について、その大部分を極力デバイス内に留め、デバイス上で処理し、そのデバイスを使う人のためだけに役立てる仕組みを作り出しています。

あなたのSiriはあなたのことについてよく知っていたとしても、他の人のSiriはあなたのことを知らない、という状況を作り出そうとしているのです。

パブリックに使われるAIが、全能といえるほどの知識を備えることで、必要な情報を得るための効率性は飛躍的に向上するでしょう。ただ、そうしたAIと、個人のことをよく知っているパーソナルなAIを混ぜるべきではないのです。

Siriは、最初からユーザのプライバシーを守るように設計されているほか、アップルは常に保護機能の強化に取り組んでいます。Siriの目的はあくまでも、より早く、より簡単に物事を片づける手伝いをすること。公私混同はAIも控えるべきで、また、AIを使う我々が注意しなければなりません。

 

対話型AIツールとして注目を集める「ChatGPT」。たとえば、学生がこれを使ってレポートを作成した場合、教員は気づけるのでしょうか。これからはAIがある前提で、さまざまな物事を考える必要が出てきそうです。
【URL】https://openai.com/blog/chatgpt/

 

 

Taro Matsumura

ジャーナリスト・著者。1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒業後、フリーランス・ジャーナリストとして活動を開始。モバイルを中心に個人のためのメディアとライフ・ワークスタイルの関係性を追究。2020年より情報経営イノベーション専門職大学にて教鞭をとる。