ユーモアを届けるアクセシビリティ|MacFan

アラカルト Dialogue with the Gifted 言葉の処方箋

ユーモアを届けるアクセシビリティ

2011年から私は眼科医として、日本全国のアップルストアや盲学校などの支援施設、眼科医会や患者会を中心にiPhoneやiPadのアクセシビリティ機能の活用に関するワークショップを行ってきました。今回はアクセシビリティ機能とユーモアの大切さについて紹介したいと思います。

「アクセシビリティ(accessibility)」は「近づきやすさ」を意味し、「どんな人でも使いやすいように配慮して工夫する」という文脈で使用されます。製品においては「ユーザの年齢、性別、身体的特徴の違いなどの影響を減らして誰でも同じように使えるための設定」という意味を持ちます。Webサイトの仕様については、「ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)」が定める「Web Content Accessibility Guidelines (WCAG)」というガイドラインなどが存在しています。

iPhoneやiPadにおけるアクセシビリティ機能の設定には、テキストの読み上げや画面拡大、色の反転、文字サイズの変更など、視認性を向上させる機能が実装されています。またライダー(LiDAR)を搭載したiPhoneおよびiPadでは、目の不自由な方が「拡大鏡」アプリのドア検知機能(Door Detection)により、位置や距離を把握して開閉状態を検知したり、開閉方法(押す、ノブを回す、ハンドルを引くなど)を音声で受け取ることが可能です。またオフィスの部屋番号やバリアフリーマークの有無など、ドア周辺のシンボルも読み取ることが可能となります。

昨今オンラインのテレビ会議等が増えていますが、ライブキャプションが導入されるとリアルタイムで字幕が表示されるため、聴覚に障害のある方にとってますます情報へのアクセス性が向上すると考えられます。アクセシビリティの現場ニーズに合わせた開発と実装により、視覚障害者が情報障害や移動障害を感じたり、聴覚障害者がコミュニケーションに隔たりを感じたりする時代の終わりが近づいているのかもしれません。

私のワークショップにはさまざまな障害を持つ方々が参加しますが、彼らの感動体験にアクセシビリティの本質を知ることができます。たとえば、アップル製品では「ボイスオーバー(Voice Over)」機能を有効にすることで、テキストや選択しているアイコンを読み上げが可能となります。音声の補助を受けながら、フリックとタップの操作で画面の表示された視覚情報に依存することなく端末を操作することができるのです。

Macでは初回起動時にボイスオーバーを有効にするかの確認の音声が流れますが、視覚に障害がある方が使うことを前提にシステムと端末がデザインされているという開発者の想いと優しさを感じることができます。さらに環境音の取り込みに優れたエアポッズ・プロ(AirPods Pro)、どんな環境下でも情報が取れるアップルウォッチ・ウルトラ(Apple Watch Ultra)、必要な情報を身体的および外部環境的な障害に依存することなく受け取れる手段を確保することは、広義のアクセシビリティであると私は解釈しています。

私のワークショップに参加する方々にとって、手で持つ必要のないアップルウォッチは、ボイスオーバーが実装されているとても利用頻度の高い端末です。参加者に聞いたもっともうれしかった機能は、アップルウォッチ標準のミッキーマウスとミニーマウスの文字盤が、ボイスオーバーを有効にした際に、キャラクターの声で時間を教えてくれるギミックだそうです。最適な形でユーモアを届けるアップル製品、僕がアップルの精神に魅了される理由は、このような配慮を忘れない姿勢にあるのかもしれません。

 

ミッキーマウスの声とユーモアが届く、おもてなし。

 

 

Taku Miyake

医師・医学博士、眼科専門医、労働衛生コンサルタント、メンタルヘルス法務主任者。株式会社Studio Gift Hands 代表取締役。医師免許を持って活動するマルチフィールドコンサルタント。主な活動領域は、(1)iOS端末を用いた障害者への就労・就学支援、(2)企業の産業保健・ヘルスケア法務顧問、(3)遊べる病院「Vision Park」(2018年グッドデザイン賞受賞)のコンセプトディレクター、運営責任者などを中心に、医療・福祉・教育・ビジネス・エンタメ領域を越境的に活動している。また東京大学において、健診データ活用、行動変容、支援機器活用関連の研究室に所属する客員研究員としても活動中。主な著書として、管理職向けメンタル・モチベーションマネジメント本である『マネジメントはがんばらないほどうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)や歌集・童話『向日葵と僕』(パブリック・ブレイン)などがある。