プロジェクトベースの学習体験が生徒の主体性に火をつける!|MacFan

教育・医療・Biz iOS導入事例

プロジェクトベースの学習体験が生徒の主体性に火をつける!

文●三原菜央

Apple的目線で読み解く。教育の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

東福岡自彊館(じきょうかん)中学校・東福岡高等学校は、博多駅から徒歩15分の好立地にある私立中高一貫の男子校。同校にてラーニングファシリテーターの肩書きで、生徒主体の学習体験を実現するべく、ICT整備から教員研修、プロジェクト型学習に力を入れているのが今井孝治教諭だ。生徒の学び方の転換に挑戦する今井教諭の多彩な実践に迫る。

 

 

2400台のiPadが稼働

東福岡自彊館中学校・東福岡高等学校では、授業改革と校務改善を目的に、2017年からICT整備の検討を始め、2018年にiPadを貸し出す形で150台を整備。2020年より1人1台環境を実現し、現在は中高合わせて約2400名分のiPadが稼働している。大量のICT端末がスムースに稼働できるよう、ルール作りや教員研修の指揮を取ったのが約15名の教職員で構成されるICT推進委員会だった。同校の英語科・今井孝治教諭も委員会のメンバーの1人として、他校への視察や端末選定などに携わった。

「タブレット端末にするか、PC端末にするかなど、端末の選定は難航しました。その中で決め手となったのが、iPadの作業効率の高さです。アップルTV(Apple TV)があればシームレスに画面投影ができ、エアドロップ(AirDrop)で簡単にデータ共有ができる。授業の側面でも、写真や動画を気軽に撮影できるうえ、簡単に美しいプレゼンスライドや動画といったアウトプットを作成できるのは、iPadならではだと思います。このような質の高い学習体験ができると、生徒たちの挑戦へのハードルが下がり、行動を喚起させることにつながります」

同校では、入学時に生徒自身が指定のiPadを購入し、キーボードやデジタルペンの使用は任意としている。また、教員の校務用のパソコンは、MacBookとウィンドウズPCから選択できる。校務においては、クラウド型校務支援システム「BLEND」を導入し、施設予約や出張届など、これまで紙でやりとりしていた業務をすべて電子化し、授業の出欠や成績など教務関係のデータにおいても、同サービスに一元化。教員間のコミュニケーションは「マイクロソフト(Microsoft)365」を活用し、日々のスケジュール管理から共有、会議資料のやりとりも同サービス内で完結するため、ペーパーレスを実現している。

 

今井孝治教諭

東福岡自彊館中学校・東福岡高等学校にて、英語科を担当。日中はラーニングファシリテーター、放課後は日本一のラグビー部のコーチを務める。テクノロジーの力を借りて、生徒も教員もワクワクする授業を模索中。Apple Distinguished Educator 2019。

Apple Distinguished Educator(ADE)…Appleが認定する教育分野のイノベーター。 世界45カ国で2000人以上のADEが、Appleのテクノロジーを活用しながら教育現場の最前線で活躍している。

 

 

英語の授業はすべてPBL

今春に全学年の端末整備が完了し、教員のiPad利活用が前進したため、ICT推進委員会は解散。その代わりに、ICTを活用した学びの転換を実現するため、「ラーニングファシリテーター」という役割が新たに追加され、今井教諭を含む3名の教員が任命された。工業化社会に重宝された詰め込み型の教育から、今の時代に合った生徒主体の学びにどう転換していくかを焦点に、教員研修の企画から運営までを担っている。

「時代に合わせて教育も変化していく必要がありますが、なかなか過去の成功体験から抜け出すのは難しいものです。そこで、最先端の学びに触れられる教員研修を年に4回ほど企画し運営しています。昨年は、アップルやグーグルから認定を受けている教員をゲストに招き、オンラインでつないで研修を実施しました。ラーニングファシリテーター3名が一番大事にしていることは、職員室の席が近い教員、同じ教科の教員など、身近な先生方の良い刺激になり、モチベーションを高められるような情報共有や、対話をすることです。全体研修ではどうしてもICTの使い方に話が寄ってしまい、なぜ今、学びにICTが必要なのか、一緒に考える時間を持つことができません。先生一人ひとりの得意分野を伸ばしたり、悩みを聞いたりすることで、先生たちの学びも個別最適化できたらいいなという思いもあり、対話を大切にしています」

教員の学び方に配慮する今井教諭は、全員参加を基本とする悉皆研修ではなく、選択制のワークショップ型で研修を実施している。研修を任意参加とし、運営側も参加教員と一緒に作り上げるようにしたことで、職員室では自然と学んだことを教え合う姿が見られるようになったそうだ。

その一方で、あくまでICTは生徒の学びを広げるための手段であると語る今井教諭の授業は特徴的だ。今井教諭の授業スタイルは、PBL(Project Based Learning)と呼ばれるプロジェクト型学習で行われている。

「町について英語で学ぶという単元では、アメリカの学校と連係して、アメリカの学生に対して自分の住む町を紹介するというプロジェクトを実施しました。時差の関係でリアルタイムでの交流は難しかったので、掲示板アプリ『パドレット(Padlet)』を使い、生徒たちはSNSのように町の写真と紹介コメントをアップし、それに対してコメントをもらうというやり方にしました。国際交流にもなり、生徒たちの満足度がとても高い取り組みでした」

 

学び方の転換にICTは必須

今年度、高校では英語科のカリキュラムが新しくなり、「英語表現」に代わって「論理・表現」という科目が新設された。「話すこと(やりとり・発表)」「書くこと」といった英語のアウトプットを強化することを目標にした科目だ。週に2時間しかない授業枠の中で、いかに教員の解説時間を減らし、生徒たちの発信・定着に時間を割くことができるかを考えた結果、今井教諭は「反転学習」を取り入れた。反転学習は、生徒が家庭で学習内容を予習してから授業に臨み、授業では予習内容に基づいて演習問題を解いたり、議論を行う学習方法だ。ほかにも、隔週でフィリピン・セブ島の学校と連係した「英会話」の授業を行ったり、教科横断で授業を展開するなど、PBLを基本とした授業のバリエーションは計り知れない。

「PBLのような生徒主体の学び方を経験していない生徒たちが多いので、最初は戸惑う様子も見られました。学習内容とテストや受験の成果は結びつけられますが、学習内容と実生活や実社会を結びつけて考えられないのです。それでは学びが活かされず、社会で役立てていくことができません。PBLは、生徒の学習体験を変える学習方法です。正直、やみくもにICTを授業で使うことには意味がないと思っています。しかし、PBLのような生徒の学び方を転換する学習方法を実践する過程において、ICTの活用は欠かせないと考えています」

今井教諭は、多彩な実践が評価され、2019年にはADE(Apple Distinguished Educator)の認定を受けている。

「ADEとの出会いが、私の人生を大きく変えてくれたと思います。ほかのADEの先生方の実践に触れる機会が増えたことで、学びへの意欲も増しました。今の着眼点は、生徒がどう端末を使うかではなく、どのように彼らの学びを広げられるかです。生徒も私自身もワクワクする授業や学習体験をこれからも作り続けていきたいです」

 

写真や動画を手軽に撮影でき、クオリティの高いアウトプットを簡単に生み出すことのできるiPadは、子どもたちの挑戦へのハードルを下げ、行動を喚起させている。

 

 

謎解き×英語の授業の様子。生徒は暗号を解読するためのミッションに取り組んでいく。ミッションの内容は「クイズスライドをKeynoteで作成せよ」「スキットをiMovieで作って提出せよ」など、創造的かつ協働作業が欠かせない仕立てになっている。

 

 

授業には反転学習も導入している。YouTubeに5~8分の動画を公開し、ペアでそれぞれ異なる動画を視聴後、それぞれの内容を伝え合うという取り組みを行った。英語の発信と定着に向いた学習方法だ。

 

 

今井教諭が企画する教員研修は選択制となっており、特設サイトで参加者を募る形式だ。運営や発表者も公募制とし、教職員とともに作り上げる研修にこだわっている。

 

 

授業の中では「Padlet」を活用。アメリカの学生に対して自分の住む町を紹介し、コメントをもらうという双方向の取り組みで、国際交流にもつながった。英語の授業8コマで実施している。

 

今井孝治教諭のココがすごい!

□ 英語の授業をすべて生徒主体のプロジェクト型学習(PBL)で実施
□ 海外の学校と連係し、国際交流を兼ねた英語の授業を実現
□ 悉皆(しっかい)研修をやめ、選択制のワークショップ型の教員研修を実施