病院へ遊びに行こう|MacFan

今回は、私が“病院に遊びに行こう”というコンセプトのもと、建築家・山﨑健太郎氏を中心として、家具デザイナー・藤森泰司氏、ブックディレクター・幅允孝氏らとともに作りあげた「ビジョンパーク」(A https://ykdw.org/works/ビジョンパーク/)という空間について紹介します。

ビジョンパークは、iPS細胞による再生医療を行う神戸市立神戸アイセンター病院のエントランス部分に位置する総合的な情報支援空間です。視覚障害者が情報障害に陥ることを防ぎ、患者がたとえ失明しても失望させないこと、またすべての人に見ることの本質に関する気づきを提供することを理念としています。

開放的なオープンキッチンを中心として、体格に合わせて掴めるノッチを持った家具を渦巻状に配置したり、床の素材の変化や階段による高低差で空間の意味づけを変えたり、光と音を頼りに楽しめるクライミングウォールを壁に設えたりなど、ビジョンパークは既存の病院デザインと大きく異なる特徴を持っています。

なぜ人は病院に行くと、元気がなくなるのか|コンセプトディレクターとしての病院づくりは、私の中にあるそんな素朴な疑問から始まりました。建築家である山﨑氏との対話を通じて、これまでの病棟のデザインが、安全な管理を行うための“管理者のニーズ”に焦点を当てたものであることを知りました。

しかし、意欲と希望を処方する病院のデザインには、“患者のニーズ”にフォーカスした空間づくりが必要です。そう考えた私は、患者が失明宣告を受けた絶望のステージから、目が見えなくても未来が見える再起のステージへと向かうためには、彼らの声を感情ごとに分けて聞くことが必要であると感じました。

手すりに代わる家具のあり方から素材の違いにより生まれる感情の変化まで、デザイナーが当事者と対話を通じて学ぶことで、コンセプトはデザインへと落とし込まれて行きました。担当したデザイナーたちは、この対話が自身の気づきと成長につながったと語っています([URL ] https://parkful.net/2018/04/kobe-vision-park/)。

開院から約3年、施設利用者の成長を信じて“計画的な偶発性”という余白を残した空間デザインの最後のピースは、ここで過ごす笑顔の人々の存在であると実感しています。コロナ禍においてビジョンパークの運営もオンラインとリアルのハイブリット化が進んでいますが、私たちはリアルに集うことの意味や空間が持つ力の再発見を目指し、日々進化しています。

ビジョンパークは患者だけでなく、すべての人々に気づきを処方する開かれた空間です。そしてこれは、私の社会医としてのはじめての社会的処方箋です。空間が持つ力と効果は「実際に訪れる」という体験を通じて実感できるものであり、そこには分野を超えた気づきがあると私は信じています。神戸にお越しの際は、ぜひ遊びに来てください。

 

患者の視点で、病院を再定義しよう。 Photo◦Masato Chiba

 

 

Taku Miyake

医師・医学博士、眼科専門医、労働衛生コンサルタント、メンタルヘルス法務主任者。株式会社Studio Gift Hands 代表取締役。医師免許を持って活動するマルチフィールドコンサルタント。主な活動領域は、(1)iOS端末を用いた障害者への就労・就学支援、(2)企業の産業保健・ヘルスケア法務顧問、(3)遊べる病院「Vision Park」(2018年グッドデザイン賞受賞)のコンセプトディレクター、運営責任者などを中心に、医療・福祉・教育・ビジネス・エンタメ領域を越境的に活動している。また東京大学において、健診データ活用、行動変容、支援機器活用関連の研究室に所属する客員研究員としても活動中。主な著書として、管理職向けメンタル・モチベーションマネジメント本である『マネジメントはがんばらないほどうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)や歌集・童話『向日葵と僕』(パブリック・ブレイン)などがある。