世界的な「健康支援プラットフォーム」アプリの波に日本は乗れるか?|MacFan

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世界的な「健康支援プラットフォーム」アプリの波に日本は乗れるか?

文●朽木誠一郎

Apple的目線で読み解く。医療の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

中国発ユニコーン企業「平安保険」のアプリが今、危機的状況にあった同国の医療環境を激変させている。世界的に起きる健康支援プラットフォームの波。医療ビジネスが硬直化する日本では実現できるだろうか。「医療情報の提供」「医療相談」により、平安保険の背を追う国内企業・株式会社メディカルノートを取材した。

 

中国で誕生した健康支援アプリ

体調への不安を感じたら、スマホでアプリを起ち上げ、自分の状況をチャットで送る。すると、数分で医師による診断結果が返ってきて、病院に行くべきかどうかの判断ができる。「受診の必要あり」となったら、同じアプリから医師の予約をする。ページには医師のプロフィールやクチコミまで掲載されていて、ワンストップで予約フォームへ。予約時間になったら病院に行ってスマホを見せれば診察スタート、待機時間も大幅に短縮。処方された薬もアプリ経由で自宅に配達される――。

SFのように思われるかもしれないが、現実の世界で起きていることだ。場所は中国。非国有企業ではアリババ集団、テンセントに次ぐ時価総額3位を誇る保険会社・平安保険がリリースするアプリ「平安好医生(ピンアンハオイーシャン)」は現在、前述のサービスで約2億人のユーザを確保している。舵取りが難しい医療ビジネスの分野において、瞬く間に成長した世界的ユニコーン企業の1つだ。では、医療ビジネスが硬直化するきらいがある日本で、同様のサービスは浸透するだろうか。

実は、日本でも着実に、健康支援プラットフォームの構築に歩みを進める企業がある。2015年に医師らが起ち上げた株式会社メディカルノートだ。本稿では今、静かに市場を塗り替えつつある同社のビジネスモデルと、今後の展望を紹介する。

 

一時は流入減少も…

“医師と患者をつなぐ”という理念を掲げるメディカルノートの事業は、主に社名を冠する「メディカルノートプラットフォーム事業」と「医療プラットフォーム事業」の2つ。このうち前者が、平安好医生のような医療・健康支援プラットフォームだ。

ユーザにとって入口となるのが、一般向けの医療情報を提供するメディア「メディカルノート(Medical Note)」。現在、2000以上の疾病についての情報を提供し、5000記事以上の医師インタビューを掲載している。記事制作にあたっては、医療系資格保持者が執筆や監修するほか、著名な医師らによりアドバイザリーボードやキー・オピニオン・リーダー(KOL)を組織、さらなるチェックを実施する。医師らが運営する強みを活かした体制といえる。

同社が創業以来、注力してきたのはSEO(検索エンジン最適化)だ。病気やケガをしたとき、今やほとんどの人がネットで検索をする。健康分野は検索サービス経由での集客と相性がよく、大手から個人までがその対策にしのぎを削る状況が続いてきた。しかし、大手検索サービス、すなわちグーグル(Google)の方針次第で流れが変わってしまうのがSEOでもある。同メディアも度々、グーグルのアップデートの影響を受けてきた。流入が減少した時期もあるが、現在では一定の水準まで回復。月間で1000万のユニークユーザを確保しているという。2018年6月からはヤフーと提携し、病名などの検索結果にメディカルノートのコンテンツを優先表示する施策にも取り組んでいる。たとえば「脳卒中」とヤフー!ジャパン(Yahoo! JAPAN)で検索すると、検索結果の上部に同社がまとめた病気の概要や症状、原因などの情報が表示される。

同社はこれまで、メディカルノート によって患者やその家族などの医療課題を解決しようとすることで、自社のブランド価値を高めてきた。一方、病院やクリニックの開業や経営コンサル、在宅医療の支援事業、医療機関WEBサイトの制作、病院・学会・医局の広報、マーケティング支援事業などで収益性を担保。そこに2019年2月、満を持して新たな展開が加わった。

 

 

医師らが創業し、2015年に医療情報サイト「Medical Note」を起ち上げた。同サイトを中心とした健康支援プラットフォーム事業と、病院等のWEB制作やコンサルティングをする事業がある。

 

 

総合ヘルスケアアプリを公開

メディカルノートは総合ヘルスケアアプリとして今年2月に「メディカルノート」を発表。WEB上で公開してきた病気の情報を「病気・症状辞典」としてアプリ内に収録した。また別途、有料で展開していた医師によるオンライン医療相談サービスをアプリからも利用可能に。こちらは4月現在、アプリ上であれば期間限定無料で体験できる。アプリ制作をきっかけに、プラットフォーム化に踏み出した形となる。

アプリ制作を担当したのは、メディカルノートの執行役員である松岡綾乃氏。ミクシィ社などでの豊富な開発経験を持ち、同社に参画した。不安定なSEOによる集客から満を持しての転換のようにも見えるが、アプリの制作期間はなんと約2カ月。開発は他の制作も兼ねる社内のエンジニア2名を含む少数精鋭のチームで行ったという。

「やはり、スマホでWEBブラウザを開く前に、メディカルノートを開いてほしいという思いがあります。それだけでは解決しない場合はスムースに医療相談に移行することで、利用者の方の不安を解消していければ」

現時点でアプリのプロモーションなどはほぼ行っていないと言うが、すでに「想定を大幅に超えるダウンロード数」があり「需要の大きさを感じた」そう。医療相談サービスには、相談窓口に医師と看護師が常駐。現在は無料だが、今後は「月内◯回までは無料、以降は有料」のような形で収益化を図る予定だという。

 

 

株式会社メディカルノートの松岡綾乃氏。株式会社ミクシィを退職後、起業し、ディレクター・プロジェクトマネージャーとして活動。ビジョンに共感し、メディカルノートに入社、執行役員に就任。

 

 

地道に運営を続けて活路を拓く

メディカルノートは平安好医生のように、医療の包括的なプラットフォームになり得るのか。もともと医師の質にバラつきが大きく、特定の医師に人気が集中する中国。「受診の整理券を取るのに1週間」「その整理券がダフ屋で数万円に」といったニュースがあるほど、医療環境が良好とは言い難かった。ここで、中国の人口はおよそ14億人。この状況をビジネスチャンスとして受け止めたことが、成功のポイントだったと言える。

また、本業が保険会社であることも強みだ。平安好医生では集めた個人情報を、保険や健康関連のサービス・商品の営業のために利用している。生活に密接に食い込むインフラになっているため、ビジネスの基盤は強固と言えるだろう。

一方、メディカルノート はこれまで、基本的に“to D”(医師や医療機関向け)のビジネスに取り組んできた。今後はその範囲にとどまらず、着実にメディアを成長させて得た“to C”(消費者向け)のチャンネルを活用し、ビジネスモデルを多角化させつつある。

課題も多い。もともと日本の医療サービスは世界的に見ると過剰なほど質が高く、中国のように切実な需要を生みにくい。また、医療業界のIT化が遅れていることもあり、ワンストップの予約サービスや医薬品の配達サービスといった拡張性を持たせられるかについては疑問符がつくだろう。個人情報の利用のハードルも高く、そもそも人口は約1億2000人ほど。当然、平安好医生の戦略をそのままは参考にできない。

今後活路を開くとすれば、それはメディカルノートをこれまでも牽引してきた、ある意味での「熱意」になるはずだ。超高齢化社会を迎える日本において、医療はさらに拡大する市場である一方、医療業界のICT活用にはまだ改善の余地があり、その中で同社は地道にビジネスに取り組み続けた。さまざまな試練を乗り越えながらも、プラットフォームになり得るアプリ開発にまで漕ぎ着け、順調に利用者数を伸ばしている。

日本には日本の戦い方がある――世界的に巨大な医療ビジネスが存在感を示す中、メディカルノートは、日本においても医療ビジネスが決して「無理筋」ではないことの証明として、貴重な事例となるはずだ。

 

 

「医師・病院と患者をつなぐ」をコンセプトにした「医療の検索サイト」。約1800人の専門家が協力し、運営されているという。病気や症状だけでなく、医師も検索できる。

 

 

WEB版の医療相談サービスでは、月額432円でいつでも、何度でも相談可能。各科の専門医を中心とする医療チームが迅速に回答し、回答内容に疑問があれば、さらに質問できる。また、他の人の相談内容も参考にできる。

 

 

「エビデンス」と「専門家の臨床におけるエクスペリエンス」を重視しているという同社。著名な医師らによりアドバイザリーボードやキー・オピニオン・リーダー(KOL)を組織、内容の監修を実施している。

 

 

メディカルノート

【開発】株式会社メディカルノート
【価格】無料
【場所】App Store>メディカル

 

「メディカルノート」のココがすごい!

□2000以上の病気についての解説記事が無料で読める
□アプリ上では現在無料で医師による医療相談が可能
□中国では同様のアプリが生活に不可欠なインフラに