叡王戦に吹くシンガポールの風 第11期叡王戦第1局取材記(1)|将棋情報局

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叡王戦に吹くシンガポールの風 第11期叡王戦第1局取材記(1)

シンガポールで行われた第11期叡王戦五番勝負第1局の模様を現地からお届けします

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シンガポールは文化の交差する国である。マレー半島にもともとあった東南アジアの文化と、華僑により伝えられた中国文化が入り混じり、さらにイギリスの統治によってヨーロッパの文化も流入している。結果として、プラナカンスタイルと呼ばれるカラフルな文化が育まれた。
 
 
 

このカラフルさは、多様なものを受け入れるシンガポールの懐の深さをそのまま表しているようにも思われる。そしていまそこに、日本の将棋文化がさらに一滴の絵具となって投じられる。
第11期叡王戦(主催:株式会社不二家)の第1局が、日本とシンガポールの外交関係樹立60周年記念事業の一環として、シンガポールで行われた。昨年の第73期王座戦第1局が当地で指されたのに続いて、2回目のタイトル戦開催となる。伊藤匠叡王はその王座戦でもシンガポール対局を経験。「最初で最後のシンガポール対局かと思っていたら、思いのほかすぐに次の機会をいただけたので、うれしく思っています」と話す。挑戦者の斎藤慎太郎八段は、初めてのシンガポールであり、海外対局もまた初めての経験。「新たな文化に触れられることを楽しみにしています」と好奇心旺盛なところを見せた。

Anmako
 両対局者は、4月1日の早朝にシンガポールのチャンギ国際空港に到着。この日は観光の予定が組まれ、記録係の宮嶋健太四段、大盤解説聞き手の野原未蘭女流二段と連れ立って街へ繰り出した。まずは、シンガポール高島屋へ向かい、ブティック「Anmako」へ。ここでプラナカンの伝統的なデザインが施された服を購入し、観光気分を盛り上げようという算段だ。

 

伊藤叡王と宮嶋四段、斎藤八段と野原女流二段がペアとなり、ペア間でお互いにいちばん似合う服を選び合うという趣向が凝らされ、伊藤叡王は赤の入った情熱的な柄、斎藤八段は青と金の色味が印象的なクールな柄の服を着用。
 
 
 
 
 


Anmakoの服は、手縫いで1点1点のドットを縫い付けて作られているとのこと。それだけに、完全に同じ柄の服は複製できず、全てが一点ものなのだという。自分に似合う、自分だけの服を手に入れた一行。ちなみにいちばんの高級品を着ることになったのは宮嶋四段で、見えない裏地までしっかり仕上げられた作りだけに、一際暑そうでもあったのはここだけの話である。



肉骨茶(バクテー)
昼食はシンガポールのソウルフードを味わうべく、昔ながらの屋台が集まった場所(ホーカーセンター)の中にある「歐南園亞華肉骨茶」というお店へ。


 
肉骨茶(バクテー)は豚のスープをベースに、ニンニクやハーブなどを加えた滋養の深いスープだ。斎藤八段は、日本でもバクテーを食べたことがあったというが、「本場のバクテーはさらにパンチが強い」と感銘を受けた様子。「揚げパンを浸して食べるというのも新鮮」と話し、その後の会見でもシンガポールでいちばん気に入った食べ物に挙げていた。伊藤叡王も「濃厚なスープに対して、お肉はあっさりと食べやすくなっており、バランスの取れた組み合わせがすばらしい」と絶賛。ほかにもたくさんのシンガポール料理に囲まれて、笑顔のあふれる食事となった。
 
 
 



ティータイム
昼食後は、イーストコーストロードと呼ばれる一角へ移動。ここはプラナカン文化が建築面で残されている通りであり、ショップハウスと呼ばれる昔ながらの2階建て建物が並ぶ。1階は店として、2階を住居として使用されることが多かったそうで、商人文化を色濃く残す建築、景観である。ここでは当初、食べ歩きをするという案もあったが、何しろ昼食のボリュームが絶大だったこともあり、一店にしぼってティータイムに。「金珠肉粽」というお店では、1階の店舗を抜けて2階へ上がると、伝統的な意匠や装飾物に囲まれた見事な喫茶スペースが広がっており、一行はここでお茶と3種のお菓子を楽しんだ。
 
 
 
 
 
 
 


お茶は鮮やかな青が印象的なもので、蝶豆に由来する色だという。青とピンクに彩られた茶器とも相まって、見ただけで幸せな気持ちになるようなポップさだ。


 
お茶請けも、クエと呼ばれる伝統的なお菓子は赤と緑の層が交互に重ねられた色彩豊かなもので、卓上をいっそう華やかに彩る。そうかと思えば、ニョニャ・チャンと呼ばれるお菓子は、日本人にもなじみの深いちまきのような見た目をしており、蒸した米で具材を包んだ料理。店員も「日本のオニギリみたいなもの」と説明しながらの提供となった。異文化の中に、自国の文化とつながっている側面も発見した一行は、シンガポールならではの奥深い融合文化に感慨を深くした様子だった。
 

 
 


逆バンジー
続いては、スリングショットと呼ばれるアトラクションに挑戦。これは地上から上空70メートルまで一瞬で打ち上げられるというアトラクションで、いわゆる逆バンジーである。


 
対局者はさすがに……ということで、宮嶋四段と野原女流二段が挑む。野原女流二段は、「これまで、お化け屋敷とバンジージャンプだけはNGだと言ってきたんです」と話すが、今回は企画側が「バンジーじゃなくて逆バンジーだから」と丸め込んだのか(?)は不明ながら、意を決して乗り込むことになった。不安そうな2人。
 


一方、伊藤叡王は「他人事なので」と涼しい顔。斎藤八段も笑顔で見送る。
 

 

覚悟を決めた2人。「Five…Four…」とカウントダウンが始まるも、アトラクションスタッフのいたずら心なのか、なぜか「Three」で打ち上げられる事態に2人は絶叫。歴戦のAbemaカメラも一瞬置いていかれ、さらに想像以上に高く打ち上げられたこともあって、最高到達点を撮影できたメディアはなかったのではないかと思う。


 
私もどうにか追いかけて撮れたのがこちらの写真だが、これは2度3度伸び縮みしたあとの位置で、地上70メートルではないはずだ。それでもこの高さ。しかも、伸び縮みが落ち着いたかと思えば、今度は座席がくるくると回転し始めて、2人の絶叫は収まらない。
無限にも思える恐怖の時間を経て、無事に地上に帰還した2人だが、今度は座席に備え付けられていたカメラの動画をみんなで見るという恥ずかしさとも直面することに。強烈なリアクションに、関係者は大ウケ。のみならず、通りすがりの人まで集まって、街に笑顔が広がっていった。
 


度胸を見せた宮嶋四段は、イタリア人の女性2人組に気に入られた様子で、しきりに言葉を交わしていた。ちなみに、両対局者にも「もし対局翌日だったら飛んでいたか」と試しに聞いてみたところ、斎藤八段は「それでも飛んでいなかったでしょう」という冷静な返事だったが、伊藤叡王は「そうする必要があるのならやります」と前向き?な姿勢も見せた。


巨大植物園
最後は、シンガポールの巨大植物園であるガーデンズ・バイ・ザ・ベイへ。
 


なんと東京ドーム22個分の広さを誇る植物園で、中でもメインの温室であるフラワードームは、世界最大のガラス温室としてギネスブックに記載されている。ここでは折しも桜を主役とする展示が開催中であり、日本の象徴がシンガポールのテイストで再解釈されている庭づくりの妙を楽しんだ。
 

 
 


観光を通じてシンガポールへの理解を深めた対局者。翌2日は逆に、日本文化の代表として両国のかけ橋となる役目を担った。(続く)
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