対談 久保利明王将―菅井竜也王位「振り飛車に限界はない」2/2|将棋情報局

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対談 久保利明王将―菅井竜也王位「振り飛車に限界はない」2/2

【11月2日発売、将棋世界2017年12月号に掲載の本記事一部をご紹介します】

振り飛車に活気が出ている。菅井竜也新王位のタイトル奪取劇は、将棋界に衝撃を与えた。新春に防衛戦が始まる久保利明王将も、銀河戦で初優勝を飾るなど波に乗っている。このお二方に、振り飛車について大いに語ってもらった。スペシャリスト同士の会話から垣間見える、振り飛車の神髄をお楽しみいただきたい。

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ふわっとした手渡し

――今回は事前に、菅井王位から見て印象に残る久保将棋と、久保王将から見て印象に残る菅井将棋を、3局ずつ挙げていただきました。それを見ながら振り飛車の極意に迫っていきたいと思います。まずは菅井王位に挙げていただいた久保将棋からで、第1図は平成13年の順位戦B級1組、高橋道雄九段との一戦です。

【第1図は▲2八飛まで】

菅井  実は奨励会時代に、久保先生の順位戦をC級2組から全局、1時間くらいずつかけて並べたんです。ここで△5四飛と浮いたのですが、当時の僕は、こういう軽い手を指せませんでした。△1三桂と跳ねて2五の歩を守るとか、△4六銀と出て、▲2五飛に△2三歩と受けておくとかが第一感でしたね。ここまでは、振り飛車側が押さえ込んでいる感じです。それなのに、△5四飛と軽く浮いて手を渡すのは、当時の僕の発想にはなく、すごくいい手に見えました。

久保  確かに菅井初段と将棋を指しているときは、すごい攻め将棋だったんですよ。攻めと守りのバランスは9対1ぐらいでしたね(笑)。直接手が多かったので、こういうふわっとした手は考えづらかったのでしょう。手の意味としては、次に△4六銀と出ていきたいのだけど、2四の角が浮いているので、ワンクッション置いているんですね。▲2五飛を防ぐなら△3三桂か△1三桂だけど、△3三桂は▲3四歩があります。

菅井  △1三桂と跳ねると▲1五歩と攻めを催促されて、あとが忙しくなりますよね。当時の僕は、攻めを急かされて負けることが多かったです。でも、久保先生もC級2組の頃は、「攻めるだけ」の将棋を指していましたよね。

久保  みんな攻めが好きだからね(笑)。奨励会の級位まではそれで通用するかもしれないけれど、有段になってくると受け止められて勝てなくなる。そこで散々揉まれて、ようやくこの△5四飛みたいな手が指せるようになっていくよね。自分も含めて、最初からこういう手が指せる人は、ほとんどいないと思います。

菅井  僕の場合、三段くらいになって、ようやく「攻めさせて手厚く勝つ」という指し方もできるようになりました。

久保  自分の腕力だけで勝とうとしても、必ずどこかで壁にぶつかります。相手の反動を利用して勝つ、というのは振り飛車の理想でもあるんですよ。

 

意味はない?

――第2図は平成14年の順位戦B級1組、神谷広志八段との一局です。

【第2図は△8四歩まで】

久保  ずいぶんと渋いのを挙げてきたね。これ、何の意味もないやつでしょ(笑)。

菅井  久保先生にとっては何でもない手なのかもしれませんが、当時の僕はこの△8四歩の意味がわからなくて、何日も何日も考えたんです。▲7五桂のキズはあるし、バランスで考えたら△7四歩のほうがいい。でも、絶対に意味があるはず。その頃、基本的に僕のほうから話しかけることはなかったのですが、ある日、思いきって△8四歩の意味を聞いてみたんです。そうしたら、「意味はない」と答えられました(笑)。

久保  それ、話しかけられたのが、エレベーターに乗って帰ろうとしているときだったよね。早く帰って風呂に入りたいとでも思っていたんじゃないかな(笑)。この将棋は自分にしては珍しく、△5四歩―△4三銀型ですね。振り飛車は左銀の使い方で大まかに2通りに分けることができて、1つは△5三歩―△5四銀型で、もう1つは△4五歩―△4四銀型です。自分が好きなのはさばきやすい前者で、後者はどうしてもさばくまでに時間がかかる。しかし本局は、後者のほうですね。玉形も△7一玉―△5二金左型のように低い構えから△7三桂と跳ねて、「行くぞ、行くぞ」という指し方が多かったので、少し珍しいです。きっとこのときは、じっくり指すつもりだったのでしょうね。居飛車の陣形はここから▲6八銀~▲7七銀右という繰り替えを狙っている。振り飛車としては▲6八銀と引いた瞬間に、△4五歩~△5五歩といった感じで仕掛けたい。そのときに△7四歩だと、形はいいけど振り飛車からの攻めがゼロじゃないですか。でも△8四歩と突いてあれば、いつでも△8五歩▲同歩△8六歩の玉頭攻めがある。じっくりとした展開になれば同じになるかもしれないけど、それが大きいんですよ。さすがに意味はありました(笑)。

続きは本誌にてお楽しみください。

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著者

将棋世界編集部(編集)