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対談 久保利明王将―菅井竜也王位「振り飛車に限界はない」1/2

【11月2日発売、将棋世界2017年12月号に掲載の本記事一部をご紹介します】

振り飛車に活気が出ている。菅井竜也新王位のタイトル奪取劇は、将棋界に衝撃を与えた。新春に防衛戦が始まる久保利明王将も、銀河戦で初優勝を飾るなど波に乗っている。このお二方に、振り飛車について大いに語ってもらった。スペシャリスト同士の会話から垣間見える、振り飛車の神髄をお楽しみいただきたい。

――今回の対談のテーマは、絞り過ぎずに「振り飛車」とさせていただきました。久保利明王将と菅井竜也王位に、振り飛車についてのお話を広く伺いたいと思いますが、お二人はとても親しい間柄と聞いていますので、まずはその辺りのお話から聞かせてください。

久保  10年くらい前に「将棋倶楽部24」で、いつも上位にいるハンドルネームがあったんですよ。自分が指して普通に負けることもあったので、「いったい誰なのかな」と思っていたら、「それは奨励会員の菅井君らしい」という話を聞いて、彼のことに興味を持ちました。

菅井  当時は僕がまだ初段で、阪口先生(悟五段)から、「久保先生が将棋を指してあげると言っているよ」という話を聞きました。それで関西将棋会館で教わることになり、5局指して結果は1勝4敗。いきなり4連敗して、最後の1局は花を持たせていただいた感じですね。

久保  あと、一緒に研究会を行っていた今泉さん(健司四段)から、彼が2度目の三段リーグを退会する際に、「自分の代わりに菅井君を入れてほしい」というお願いをされました。そんなこともあって、1ヵ月に1度くらいのペースでVS(1対1の実戦形式で行う研究会)をするようになりましたね。

菅井  久保先生にVSで教えていただけるなんて夢のような話です。でも、こちらは奨励会の初段。久保先生から見たら、得るものなど何もなさそうじゃないですか。だから「変な手を指したら、いつでも切られる」と思っていました(笑)。そうならないようにしっかり準備もしたし、覚悟を持って教わっていましたね。

久保  VSは菅井君がプロになってからも、都合が合えばやっていますよ。

限界を感じたことはない

――お二人が振り飛車を指すようになったきっかけを教えてください。

久保  自分は将棋を覚えたのが4歳の頃で、最初は美濃囲いがシンプルでいいなと思いました。それと本で大野源一九段の勝局を見たときに、「とてもきれいだな」という感覚がありました。まだ幼くて指し手の意味はわからないから、これは感性ですね。いろいろな絵画を見て、「自分はこの絵が好き」というのと同じ感覚です。

菅井  僕は最初に覚えた戦法が四間飛車だったので、そのまま自然と振り飛車党になりました。奨励会に入ってからもそのままで、居飛車穴熊には▲6六銀型や△4四銀型で対抗していました。美濃囲いには愛着があり、居飛車も指すようになったのはプロになってからですね。

――コンピュータ同士の対局だと、対抗型は振り飛車の勝率が低いそうで、少し前には、振り飛車党から居飛車党に転向していく棋士が目立ちました。

久保  もっと振り飛車を指してほしいという気持ちもありますけど、プロは勝たなければなりません。転向していった人はどこかで限界を感じて、居飛車のほうが勝ちやすいと考えたのだと思います。自分としては、居飛車だろうが振り飛車だろうが、結局は終盤が強いほうが勝つと思っているので、「この戦型が優秀だから、そっちへ行こう」というようなことは全くないですね。もちろん、振り飛車に限界を感じたこともありません。

菅井  勝率4割台の振り飛車党の棋士が居飛車党になったらいきなり7割勝つようになった、というような話は聞いたことがないですね。コンピュータ同士で振り飛車の勝率が低いということについても、全く同じ強さのソフト同士が対戦しているわけではないので、ちょっと違うんです。同じソフトで同じ棋力に設定して対戦させても、入れているデータで振り飛車の勝局が少なかったりするから、公平ではないです。また、ソフトの序盤の見立ては当てになりません。例えば僕がやっている戦型だと、新しい手を指した瞬間に、評価値がマイナス300くらいになってしまうんです。でも、それが20手ぐらい進むと、振り飛車が有利の評価値になったりします。プロでも居飛車側の棋士が強くて、振り飛車側の棋士が弱いというケースもあるから、一概には振り飛車が不利とはいえません。久保先生は実際に勝っていますし、僕も振り飛車でタイトルを取りました。

 

(次回へ続く)


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著者

将棋世界編集部(編集)