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対局は勝負と表現の場 -赤丸急上昇イケメン棋士の素顔-

第88期棋聖戦で羽生善治棋聖に挑戦中の斎藤慎太郎七段。第3局は7月1日に行われる。
斎藤七段の素顔に迫るインタビューを公開する。写真はWeb限定公開だ。
(構成・写真 諏訪景子)

厳しく長い1分将棋

――棋聖戦挑戦権獲得、おめでとうございます。挑戦者決定戦は、糸谷哲郎八段の横歩取り勇気流になりました。

「後手番なら横歩取りの予定でしたが、勇気流はほとんど予想していませんでした。ただ、長考したときには局面の均衡を取る手を選べたと思います。いちばん好きな終盤の競り合いになり、こちらだけ秒読みでしたが気持ちは穏やかでした」

【第1図は☖9八銀まで】
――☖9八銀(第1図)と放り込んだ手が、鮮烈でした。

「☗9八同香は☖8五歩☗9六玉☖8六金以下の即詰みです。実際の形勢はわからないですが、少し前に決め損ねて、対局中は不利だと思っていました。逆転したいという思いで☖9八銀のタイミングを考えていました。実現してもきわどいかと思っていましたが、逆転していたみたいです。全てを正確に指すことができなかったですが、最後の最後に☖9八銀が閃いたのはよかったです」

――糸谷八段が投了した瞬間の気持ちはどうでしたか。

「とにかく、この厳しく長い一分将棋を乗り越えたという喜びがありました」

五番勝負に向けて

――お祝いの連絡は多かったでしょう。

「皆さん『もうひとつ』『まだ次があるから』と言ってくださるので、そのたびに復唱して気を引き締められます」

――師匠の畠山鎮七段は挑決当日、関西将棋会館2階道場で研究会をしていました。一度3階の棋士室に来て『皆さん、私がいると気を遣うでしょうから』と言って出ていきました。

「ははは。わざわざそれを言ってから出ていったのですか。気にしてくださったんですね。対局後に電話をいただきまして、喜んでくださっているのは電話越しにもすごく伝わりました」

――斎藤七段が三段の頃、新人王戦の観戦記者が棋士室で『斎藤さんのことを取材したいが、親しい人は誰だろうか』と尋ねたところ、ある奨励会員が『畠山先生』と答えていました。

「確かに、他の師弟関係とは異なるかもしれません。小5で弟子入りしたときには『自分の対局もあるので将棋を教えることは難しい』と言われ、それなら指導対局を受けようと師匠が指導対局する場所に出向いていました。そのうちに師匠が根負けした形で1対1で指していただくようになりました。夕食にも連れて行ってくださり、周囲からは親子のような関係に見えたと思います」

――挑決後の打ち上げで、千田翔太六段や、対局相手の糸谷八段からアドバイスを受けたと聞きました。

「ありがたかったです。和服での振る舞い方や、買うときの注意点を教えてもらいました。前夜祭を途中で退席して自室に戻ったあとのことを、『暇だから覚悟してください』と言われました」

――五番勝負開幕まで1ヵ月ほどです。和服は間に合いそうですか。

「すぐに白瀧呉服店さんに伺いまして、3着お願いしました。開幕には間に合うようで、ほっとしています」

――羽生棋聖との五番勝負の抱負をお聞かせください。

「羽生先生は私の生まれた年(平成5年)に棋聖を初めて獲得されていて、それから24年後に棋聖戦で対局できることに縁を感じます。対局は、棋士にとって勝負の場でもあり、表現の場でもありますが、楽しみが多いです。でもいろいろ準備してくださる方がいるので、自分が楽しんでいるだけではダメだとも思います。決勝トーナメントでは、どう転んだとしても自分にはプラス面が大きいと思って指してきたので、まずはこのままの気持ちでぶつかっていきたいです」

――普段より1時間早い、朝9時開始ですが順応できそうですか。

「普段から6時に目覚まし時計をセットしています。鳴るのが怖くて毎日5時50分に目が覚めるので、9時開始でも違和感はないかと思います」


質問コーナー

――ここからは主に女性ファンにお届けする質問コーナーです。
Q.五番勝負ではメガネをかけますか。

「かけると思います。眼科で目が強くないと言われたことがあります。めばちこ(関西弁で「ものもらい」のこと)もできやすく、手術をしたことがあって、メガネは目の保護で使っています。かけていないときは、忘れたときです」

Q.最近、料理はしていますか。

「遠征が続いたので頻度は減っていますが、1日空いたら作ります。よく買うのがたまねぎ、ピーマン、きのこ。この3つを軸にして考えます。特にたまねぎとピーマンをどう消費するかが課題です。ナポリタンにしたり、ナスと豚肉で味噌炒めにしたり。秋だとホイル焼きや、きのこご飯。卵料理が難しいです。油を入れすぎるのは体によくないし、少なすぎると焦がすし、そこが戦いなんですよね。あと、豚の角煮を1回だけ作ったのですが、焦がしました。頑張ったので、悲しかったです」

――レパートリーが豊富ですね。

「切り干し大根や、ナムルも作ったことがあります。手際はよくないですよ。それと、料理には必ず後片付けがついてくるのですが、それだけは好きになれないです」

Q.好きな詰将棋を3つ挙げてください。

「これは難問ですね。よく言っているのは相馬慎一さんの作品(平成4年度看寿賞受賞作)です。詰将棋の面白さを知ることができました。(数分の長考後)絞り切れないので、今回は好きな分野である七種合(作意手順の中に、飛角金銀桂香歩の七種の合駒が1回ずつ生じる詰将棋)と煙詰(初形で攻方の玉以外の39枚の駒が盤上に配置され、詰め上がりが玉を含めて3枚になる詰将棋)を同時に実現している『大航海』(添川公司さん作)と『虹色の扉』(藤本和さん作)にします。どれも奨励会時代に解いた作品で、こんなことが詰将棋で表現できるのかと驚きました」

Q.これだけは羽生棋聖に負けないということを挙げてください。

「将棋がめちゃくちゃ好きという気持ちは他の棋士には負けないと思いますが、その頂点にいるのが羽生先生なので、この質問の答えにはならないですね」

――料理は負けないでしょう。

「わからないですよ。羽生先生のチャーハンはめっちゃおいしいかもしれないじゃないですか。ではカラオケにします。行った回数では負けないと思います」

Q.対局中に驚いたことはありますか。

「加藤(一二三)先生との対局は忘れられないです。私の手番で加藤先生が後ろに回ったんですよ。ひふみんアイです。そしたら、ヘビににらまれたカエルのようになってしまいました。指したいのに動けない。半ば意識が飛んだような感覚になりました。加藤先生が席に戻られると、空気がふっと緩みました。あれはすごい体験でした」

Q.映画『3月のライオン』で主人公の桐山零が叫んだ場面がありました。斎藤七段は叫んだことはありますか。

「そこはいちばん印象に残っているシーンです。クリスマスの対局で勝ったけど、そのせいで対局相手が娘さんと会えなくなったことに心を痛めたんですよね。
叫んだことはないですが、本当に複雑で微妙な感情です。勝負の世界なので、自分が勝てば相手は負けます。私が勝って、なんとも言えない気持ちになるファンの方もいるんだろうと思ったこともありますし。いまは自分は自分で、恥ずかしくない将棋を指して、恥ずかしくない生き方をしようと割り切っています。でも気持ちはわかりますよ。あのシーンは私たちが隠している感情を出していて、棋士が考えないようにしていることを表現した、すごい場面だと思いました」

Q.最後の質問です。『聖の青春』や『3月のライオン』の映画化で、将棋ファン層が変わっていると感じますか。

「将棋のことを『将棋』ということば以外で知らない人の受け取め方は変わってきているのではないでしょうか。私自身は将棋がとても好きなので、これだけ面白いものをもっと知ってくれたらいいのにと思っています。まず知ってもらわないと評価もしてもらえないから、将棋連盟の動きは大事ですよね。私がこどもの頃に見ていた棋士像とは変わってきたし、それに私も適応していきたいです」

(取材・5月4日。将棋世界7月号より一部抜粋)
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