「上を目指して」―斎藤慎太郎七段インタビュー|将棋情報局

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「上を目指して」―斎藤慎太郎七段インタビュー

第88期棋聖戦挑戦者決定戦が4月25日に行われ、糸谷哲郎八段を破った斎藤慎太郎七段が挑戦を決めた。斎藤七段はこれがタイトル初挑戦となる。

若くてかっこいい斎藤七段には女性ファンも多く、将棋世界では2015年10月号で異例の斎藤慎太郎インタビューを実施した。挑戦を記念して当時の記事を紹介する。

※成績や肩書・段位は記事作成時のものです。

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糸谷竜王や豊島七段をはじめ、二十代の台頭が著しい関西棋界。それに続く躍進が期待される新鋭が斎藤六段である。今期は記録三部門で目下トップを争い、女性ファンも熱い視線を送るうわさのイケメン棋士はどんな人!?
【写真・インタビュアー】池田将之  「将棋世界」平成27年10月号より

――今期は16勝2敗(2015年8月3日時点)と好調です。大きな要因は?

「3月の電王戦があったのはやはりひとつかなと思います。あの対局に勝ったことで『自分はできるんだ』という気持ちを持ち、公式戦でも同じように臨めているような気がします。将棋の内容では、有利や優勢に持っていければ、電王戦で見せた自分なら逃さないという気持ちで指せているかと思います。負けてしまった将棋は有利や優勢に届かず、序盤で苦しくしてそれを広げられ、相手が強かったという将棋でした」
 

強さを求めた電王戦


――4月で棋士生活4年目に入りました。過去の3年間はどう振り返りますか?

「波があったと思います。1年目はプロの水に慣れようということで気楽に指すことができました。でも2年目、3年目は壁を感じたというか、トップの先生になかなか歯が立たないところや、そもそも上位者と当たるところまで行けなかった後悔などがありました」

――厳しさを感じたような負けとは?

「去年7月の森内俊之九段(当時竜王)との棋王戦は全く届かなかったという思いがありました。第1図から▲3五歩△同歩に、①▲同銀△3四歩▲2六銀としたのですが、いまなら指さない手順です。ただ1歩を交換しておくだけの手なので勢いに欠けるんです。



 いまなら▲3五同銀ではなく②▲4五歩をもっと読むと思います。以下△同歩なら▲7一角△7二飛▲3五角成△4六角▲3七桂でどうか。対局中は受けの名手である森内先生なので、攻めを切らされてしまうのではと……。抽象的というかぼんやりとした恐怖を感じてしまい、本譜の順を選んでしまいました」

――トップ棋士との対局での発見は?

「あまりに将棋がじっくりし過ぎているとようやく痛感し、このままでは強くなれないと危機感を持ちました。同じ頃に電王戦出場の依頼があり、この将棋では勝てないだろうなと思ったので、強くなろうという覚悟ができました」
 

研究の重要性


――電王戦の勉強を通じて自分が変わったと感じるところは?

「もともと自分は攻め6・受け4の棋風でした。ソフトは攻め8・受け2で、先後を問わず先攻されることが多かったです。公式戦ではあまりない攻めをされて負かされることもありました。ソフトは攻めの発想が人より多いと感じます。攻めの気持ちを思い出させてもらったというか、自分も攻めの方にシフトしていきたいと思っているところです。
 あとは研究の重要性です。電王戦が終わってから何が重要だったかを考えると、研究の量でした。そんなこともあり、いまの公式戦に対する研究量はこれまでの比ではなくなっています。以前なら打ち切っていた局面から先を考えています」

――ソフトの攻めを活かせた将棋は?

「7月に指した大平武洋五段との叡王戦です。第2図は脇システムの将棋で、以前は先手の攻めがやや細いとされていました。ここから▲2六銀が前例でありました。遊んでいる銀を活用するのですが、これでは足が遅い。



 実戦は図から、▲2五歩△同歩▲1七桂と攻めました。ギリギリの攻めなのですが、これで繋がるのではないかと思えたのはソフトと対局して感覚が変化したからだと思います。実戦はうまく攻めて勝つことができ、感想戦でも後手が受け切るのは大変とされました。一方的に攻める将棋がようやく指せるようになったのは大きかった。細い攻めを繋げられると思えるようになったのは大きく変わったところでした」
 

課題は序盤


――今期のここまでの2敗は、同世代の菅井竜也六段と永瀬拓矢六段からのものですね。

「勝っていけば必然と強い若手に当たることも多いので、彼らとの対戦が重要になってくると思います。永瀬さんと菅井さんには大事なところで負かされました。彼らの実力は勿論ですが研究や勉強量もすごい。いまは2人より劣っていると思うので早く追いつきたいです」

――関西の棋士室では多くの若手が勉強しています。距離はどう保っていますか?

「そこは難しいですね。自分は去年辺りからですが、大事な将棋の深い中身の話はあまりしない方がよいかなと。研究会も減らしていっています。研究は公式戦でぶつけて戦う方が本来の形かなと思うので。たわいもない話は気を許してできますが、重要な将棋の変化の話は口が閉じてしまうことが増えてきたと思います。同じステージで戦っているんだという意識は強くなっていると思います」

――関西は、糸谷竜王や豊島七段がタイトル戦で戦っていますね。斎藤さんは2人をどう見られていますか?

「ステージをさらに上げられたんだなと。いまのところはまだ実力が離れているので追いつきたいという気持ちでしょうか。ですが、戦うとなれば負けないと思って、いまなら指せるかなと。自信を持って臨めていると思いますので」

――斎藤さんの強みとは?

「そうですね。その強みをプロ2年目から3年目は探していたんだと思います。今年になって徐々に分かってきました。中終盤の正確性は大分よくなってきていると自分の中では思っています。最初の数年は逆転負けや競り負けがありました。その悔しさが慎重さや確実性を高めてくれたのだと思います。最近は逆転勝ちを増やせています。課題は序盤ですね。中盤までを互角で乗りきるためにいまは研究を大事にしています」


 

斎藤六段に50の質問


――ここからは、斎藤さんへの質問攻めです。昔『近代将棋』にあった若手棋士への質問コーナーを参考にしています。

Q1】将棋を始めて何年になりますか。

「7歳からなので15年ですね。羽生先生の入門書を手にとって、両親に質問したのがきっかけです」

【Q2】好きな駒は?

「いろいろあるのですが、ここ最近は桂馬です」

【Q3】自分の棋風を一言で表すと?

「いまのところは、我慢強い」

【Q4】反則をしたことは?

「研修会で二歩を打ってB(降級点)に落ち、母親から『ニフビー』と呼ばれたのが屈辱で、それ以降はありません」

【Q5】実生活で、棋士だと実感するときは?

「電車にピッタリ乗れたときに『味がいい』と言っちゃうとか、将棋用語が出てしまうことでしょうか」

【Q6】影響を受けた将棋の本は?

「谷川浩司九段の『光速の終盤術』(日本将棋連盟刊)です。終盤は感覚ではなく、読みがすべてなのだと理解することができました。これを読んで、棋士になれたというくらいの本です」

【Q7】上達にオススメの棋書は?

「次の一手集。自分がアマの頃にいちばん強くなった自信があるものです。詰将棋より実戦で応用しやすいと思います」

【Q8】古今東西指してみたい棋士は?

「大山康晴十五世名人。自分に全く指せない将棋を指されていたと思っているので。指したことがない現役棋士とは、これから全員と指したいです」

【Q9】将棋を辞めよう思ったことは?

「ないですね。負けても面白いゲームという原点は変わりませんから。ただ奨励会時代は微妙な感情でした。勝負に疲れを感じるところはありました」

【Q10】将棋を通して得たことは?

「挨拶は、将棋をやってきたから重んじたことですね。小学生の頃、職員室に深々とお辞儀をして入っていく子どもでした」

【Q11】将棋に必勝法はあると思う?

「ないと思います。行くところまで行けば千日手という可能性はあるかも」

【Q12】現段階で将棋を何パーセント理解していると思いますか?

「大抵の人は3パーセントや5パーセントと書かれていましたよね。ここ数年で研究のスピードが速くなっているので、将棋界全体として少なく見積もっても間違いなく10パーセントはいっていると思います」

【Q13】将棋の神様と指すなら、手合いは?

「平手。差を見極め何かを得たいです」

【Q14】好きな駒の書体は?

「巻菱湖が好きです。すらっとしたかっこいい字が好きですね」

【Q15】持ち時間を自由に決めるなら?

「7時間をやってみたいです」

【Q16】対局中の飲み物は?

「自分はブドウ糖を補給するのが好きなので、そのために水が多いです。ほかはお茶か缶コーヒーです」

【Q17】よく注文する食事は?

「とろろ蕎麦。夏だと特にですかね。根底には粘り強くというのがあるかも」

【Q18】明日将棋がなくなるとしたら?

「世界ではなく将棋ですか(笑)。僕は詰将棋を解いて終わるかもしれません。将棋なら100局も指せませんが、詰将棋なら1000問くらい解けそうなので」

【Q19】棋士にとっていちばん大事な資質は?

「年間360日くらい将棋が好きな人」

【Q20】好きな映画は?

「洋画が好きです。ここ数年では『インセプション』がお気に入りの一つです」

【Q21】子どもの頃のあだ名は?

「しんちゃん」

【Q22】ファッションにこだわりは?

「あまりないんですよね、本当は。でも棋士はここ最近いろいろな方面に出ることがあるので、あまり棋士のイメージが下がらないように心がけてはいます」

【Q23】自分を動物に例えると?

「犬ですかね。真面目でルールに従順、伝統をしっかり守りたい。それでいて、のんびりもしているので」

【Q24】口癖は?

「そうですね」

【Q25】いまいちばん欲しいものは?

「時間ですかね。将棋に音楽に睡眠など、ほかにもやりたいことが多いです」

【Q26】よく聴く音楽は?

「男性ロックバンドの曲が好きですね。Mr.ChildrenとかBUMP OF CHICKENとか、ほかにもたくさんあります」

【Q27】カラオケの十八番は?

「ポルノグラフィティさんがいちばん歌いやすくて好きですかね。ひとつあげるとすると『ジョバイロ』という曲です」

【Q28】好きなテレビ番組は?

「スポーツニュース。スポーツをしている人はキラキラして刺激をもらえます。同世代の若い人ならなおさらですね」

【Q29】好きな食べ物はなんですか?

「寿司ですかね。生魚が好きなので」

【Q30】いちばんの趣味は?

「やはり音楽ですね。いまは一人暮らしですけど、家にいるときは10時間くらい音楽を流しているような気がします」

【Q31】得意料理は?

「料理はいろいろやっている方だと思うのですが、『肉すい』が得意です」

【Q32】UFOや超能力は信じますか?

「信じている方だと思います」

【Q33】昔は何になりたいと思っていましたか?

「子どもの頃に書いていた夢を見ると、『普通のサラリーマンになってお昼ご飯に好きなものを食べたい』でした。独りで好きな物を選んで食べることに憧れていたようです」

【Q34】棋士になっていなければ?

「父親がゴルフ好きなので、ゴルフの選手を目指していたかもしれません。実は小学2年生の頃まで習っていました」

【Q35】何をしているときがいちばん楽しい?

「次の日に仕事がなく、ゆっくり寝られるときですね」

【Q36】あなたの野望は?

「棋士として納得できる成績を全て出せたとして、その後の話なのですが、将棋会館の近くに飲食店を開いて、棋士とか奨励会や関係者、ファンが集えるような場所を作りたいです。ほんと夢物語なのですが」

【Q37】5年後の自分予想図は?

「実績が上がり、より将棋を理解していて、地位は分かりませんが印象に残るような好局を1局でも多く指したいです」

【Q38】結婚するつもりはありますか?

「あります。落ち着くことでプラスになることが多いと思います」

【Q39】お相手は将棋関係者? それとも?

「棋士としての自分を理解し、応援してもらえる人ならどちらでも」

【Q40】最近うれしかったことは?

「初めて賞金をいただけました。これでちょっと贅沢してもいいかなと」

【Q41】運転免許は持っていますか?

「持っていないです。大阪は電車網が便利なのであまり車は使わないかなと」

【Q42】愛用のブランドは?

「特にありません」

【Q43】自分の長所と短所は?

「気が長いことでしょうか。短所も一緒で気が長すぎることでしょうか」

【Q44】自分を、四文字熟語で表現すると?

「一所懸命。一つに打ち込むということが不器用でも自分らしいと思うので」

【Q45】将来、弟子を取ることは?

「あると思います。自分の知識や技術を伝えられる人が出てきてくれればいいと思いますが、これは縁ですからね」

【Q46】いつまで将棋を続けますか?

「楽しいという気持ちが続く限り」

【Q47】あなたにとって将棋とは?

「人生を表すゲーム。序、中、終盤とストーリーがあり、一局一局違うので」

【Q48】突然ですが現在恋人は?

「いないです」

【Q49】女性人気が沸騰中ですが?

「どうしてなんでしょうかね。気恥ずかしいのですが、将棋界の面白さを知るきっかけになればうれしいです」

【Q50】将棋をやってきてよかったですか?

「やってきたというか、将棋を見つけてよかった。ほんと偶然の重なりというものが多くあって、たまたま将棋に出合って、本当にいまでもすごいことだなと思います」



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