将棋情報局

チャンク式将棋ドリル

効率的に強くなろう!絵美菜流チャンク式将棋ドリル 第1回「チャンク式ってなに?」

京大卒女流棋士、山口絵美菜女流1級が卒業論文の研究を元にした新しい将棋上達法「チャンク式将棋ドリル」を紹介します。

みなさんこんにちは。この度ちょっと変わった将棋上達法の連載をさせていただくことになりました、女流1級の山口絵美菜です。お付き合いのほどよろしくお願いいたします。

将棋の「上達法」といえば「対局」「詰将棋」「棋譜並べ」の3つが主流ですが、私がご紹介するのは「チャンク式」

……チャンク?何それおいしいの?初耳!というかたがほとんどかと思います。まずは1問トライしてみましょう。

(問題1)次の局面を記憶してください。(制限時間なし)



「よし、覚えたぞ!」と思ったら盤に再現してみてください。どうでしょう?40枚中何枚覚えられましたか?

問題1は終盤の入り口。全部を覚えるのに苦労した方もおられるでしょうが、プロ棋士だとわずか3秒見るだけで、どこに何の駒があるかをほぼ正確に記憶できてしまうのです!

それでは次の問題に移りましょう。
(問題2)次の局面を記憶してください。(制限時間なし)


どうでしょう?どのくらい覚えられましたか?

「覚えられなかった」「難しかった」というかた、ご心配なく。これは実際の対局で現れそうにない「ランダム問題」といって、ぐちゃぐちゃに駒を配置したもの。問題1と比べて問題2の成績は低くなっていて、2002年に伊藤毅志先生、松原仁先生、ライエル グリンベルゲン先生が行った将棋の認知科学的研究では問題1では3秒でほぼ正確に盤面を記憶できたプロ棋士でも、問題2のようなランダム問題(制限時間3秒)では正解率が50%を切っています。

問題1は覚えられても、問題2は難しかった。それはなぜでしょう??

実は!ここででてくるのが初めにお話しした「チャンク」、日本語に直すと「塊(かたまり)」という意味です(伊藤,松原,Grimbergen,2004)。

問題1をもう一度見てみましょう。


先手の囲いは「穴熊」で、後手の囲いは「銀冠」というどちらもよくある囲いです。先手も後手も一段竜で玉を寄せようという局面。似たような局面を見たことがある方も多いのでは?

問題1の「穴熊」や「銀冠」が、いわゆる「チャンク」。何個かの駒の塊です。初段レベルになれば囲いや戦法をいろいろ知っているので、問題1を見ても「先手は穴熊かー」「後手は銀冠かー」で玉周りの暗記はほぼ終了。

でも、もし、穴熊を知らない人だったら?

「右の端っこに玉がいて、その上に香車がいるな……香車の横には銀がいて、その左には金がいて……」と、神経衰弱のように一個ずつ見て、覚えていかなくてはいけません。盤上にある駒を全部見るだけでも一苦労です。

反対に1個ずつ駒を見ていかなくても、プロ棋士が局面をすぐ記憶できるのは、この「チャンク」のおかげ。4~5個の駒の塊をまとめてみているので、盤をくまなく見なくても、正しく認識することができます(伊藤他,2004)。

では問題2はなぜ覚えるのが大変なのでしょう?


問題2は玉が6六に飛び出ていて、飛車も角もおかしなところに……なんだか「見覚えがない」「経験がない」駒の配置ばかり……そう、知っているパターンにあてはめられないので、「玉が6六にいて、その下に歩がいて……」というように、新しく認識しなおさないといけません。

「チャンク=囲いや戦法など見覚えがある駒の配置」くらいに思っていただいて構いません。一度に認識できる駒の枚数ともいえます。どうでしょう?「チャンク」についてなんとなくイメージがわいてきましたか?

この「チャンク」は将棋が強くなればなるほど、塊に含まれる駒の数が増えていく、つまり棋力と比例の関係にあるというのが、研究でも示されているんです(伊藤他,2004)。
じゃあ、把握できる「チャンク」を大きくすれば強くなれるのでは?というのが「チャンク式」の原点です。

ここまでのお話を読んで「強い人はチャンクが大きいのは分かったけど、チャンクがどう強さにつながるの?」と思ったあなたは目の付け所が鋭い。

それでは考えてみてください。将棋には序盤・中盤・終盤がありますが、例えば序盤を強くしたければ定跡を勉強しますよね。いざ定跡の本を読んでも定跡の手順や仕掛けの形を覚えられない……本で読んだ形と違う気がするけど実戦はどう指したらいいんだろう……なんて経験はありませんか?

囲いや戦法、手筋や定跡など、将棋は「考える」だけでなく純粋に「記憶」しなくてはいけないことがたくさんあります。戦型だけでも居飛車や振り飛車など色んな形があり、1つを覚えるだけでも骨が折れますよね。しかし駒の配置パターンをたくさん知っていれば、見た局面をパターン分けすることができ、その分駒を認識しやすくなるので囲いや戦法も比較的早く覚えることができます。それが序盤や中盤の「知識」の強さにつながっていきます。

よくある駒の配置を記憶する練習をする→認識・記憶できる駒の数が増える→定跡や囲いを覚えるのが楽になる→知識を増やしやすくなる→強くなる

といったところでしょうか。チャンク式とは将棋の「覚える」力を鍛えるトレーニングです。

とはいえ、今日の問題のようにいきなり9×9マスに駒40枚の配置を覚えるのは大変なので、はじめは駒1~2枚から少しずつレベルアップしていきましょう!

「チャンク」については文中でも触れた伊藤毅先生他による研究をもとにしていますので、参考文献もぜひお読みください!文末に文献名を付記しておきます。

次回は「囲い編」。美濃囲いや矢倉囲いなど人気の高い囲いを覚える問題を出題しつつ、囲いごとの特徴をご紹介しますのでお楽しみに!

女流1級 山口絵美菜

【参考文献】
-伊藤毅志,松原仁,ライエル・グリンベルゲン, 将棋の認知科学的研究(1)-記憶実験からの考察,情報処理学会論文誌, Vol.43, No.10,  pp.2998-3011 (2002).
-伊藤毅志,松原仁,ライエル・グリンベルゲン, 将棋の認知科学的研究(2)-次の一手実験からの考察,情報処理学会論文誌,Vol.45, No.5, pp.1481-1492 (2004).

『チャンク式将棋ドリル』の記事一覧はこちら


将棋情報局では、お得なキャンペーンや新着コンテンツの情報をお届けしています。

著者

山口絵美菜
1994年5月4日宮崎県出身の女流棋士。小学5年生の時に将棋と出逢い、女流棋士になるために京都大学文学部に進学。2017年に卒業し、現在は大阪を拠点に将棋の棋力向上と普及に努めている。史上初の京大卒女流棋士で、将棋をテーマとした卒業論文『将棋の「読み」と熟達度』では「チャンク」について研究を行った。趣味は勉強と文を書くこと。