将棋情報局

新刊案内「夢の華 山田修司詰将棋作品集 プレミアムブックス版」 ~追い求めた図巧・無双~

このたび「夢の華 山田修司詰将棋作品集」がプレミアムブックス版として復活しました。そこで本書について、看寿賞作家の角さんにお話を伺いました。めくるめく詰将棋の世界のはじまりはじまり~。

島田「よろしくお願いいたします」

角「よろしくお願いします」

島田「まず、著者の山田修司さんについて教えてください」

角「はい。大正生まれで柏川さんという大先輩がいて、そのあと、昭和生まれの作家として出てきたのがこの山田さんと、北原さん、巨椋さん、駒場さんといった方たち。戦後、昭和20年代後半くらいからググググッと出てきて、そこから昭和詰将棋の黄金時代になります。
その中でも山田さんは特に構想作のジャンルをリードした方。ただの手筋物や難解作じゃなくて、設計図が合ってそれを実現するような、そういう作品を作った人です」

島田「なるほど。私も今回『夢の華』を一通り並べた(決して解いてはいない)ので、なんとなくわかります」

角「例えば、第42番の『新四桂詰』。桂をトントントントーンと中合します」


第22期塚田賞を受賞した『新四桂詰』。途中▲1七飛の王手に△2七桂▲同飛△3七桂▲同飛△4七桂▲同飛△5七桂▲同飛と四連続で桂の中合が出現し、その4枚の桂を使って最後は9一の地点で詰む。


島田「はい。これすごい」

角「この辺りは塚田賞を5連続で受賞していて、山田さんの全盛期です」

島田「塚田賞と看寿賞ってありますよね。今では看寿賞が最高の栄誉ですけど当時はどうだったんでしょう?」

角「塚田賞が昭和20年代からずっと続いていたのに対して、看寿賞は途中やっていない時期があった。それに塚田賞は塚田正夫九段が選ぶということもあって、当時は塚田賞の方が重みがあったのかもしれません。近代将棋が詰将棋にかなり力を入れていて、山田さんはその中でのスター作家でした」

島田「私もこの本を読んでいて『次は何をしてくれるんだろう』とワクワクしましたよ。近代将棋の読者もそうだったんでしょうね」

角「私のように行き当たりばったりで作るのと違って(笑)、山田さんはプランを大事にする人。趣向があって、それを実現するためにどうするか考える」

島田「はい。計画性は大事です」

角「山田さんが最初にやった趣向というのも多くてね。例えばさっきの『新四桂詰』もそう。同じ駒を4連続で中合するというのはそれまでになかった。あれができてから、4連続香合、4連続銀合、4連続金合も生まれました。最初に、作れるんだっていうことを示したことがすごい」

島田「順列七種合も山田さんが初めて作ったらしいですね」


第49番『天にかかる橋』。手順中、飛角金銀桂香歩の順に合駒が発生する。

角「今となっては七種合も珍しくありません。私でさえ作ってるくらいだから(笑)。でも煙詰もそうだけど、最初はできるかどうかさえ分からなかった。それにチャレンジして成し遂げたことに価値がある。しかも1号局というのは作品としてのレベルが低いものが多い中で、山田さんの作品は1号局なのに完成度が高い」

島田「なるほど」

角「ただ作るんじゃなくて、一つ一つの作品に強い意志がある。例えばこれ(第73番『伏線遠打』)も」


角「途中5七や5八でなく▲5九香と、と金の横にくっつけて打つ。それで△同とと取らせることで最後にそのと金が玉の退路をふさいで詰むという仕組み。そういう仕組み自体は考えつくかもしれないけど、それを作品にできるかといったらできない。しかも何もない5筋に、あえてと金につけてビシッと▲5九香と打つ、しびれるような作りになっている」

島田「序盤の香打ちが最後に利いてくるのがかっこいいです。これが『1号局なのに完成度が高い』ということなんですね」

角「そうです。他に、後に与えた影響が大きかったものでいうと、第82番の『禁じられた遊び』」




角「この途中図2の▲6八桂がポイント。あとで▲3九飛と回って王手するんだけど、玉方の龍が三段目にいると龍の利きに△3七桂と合駒されて詰まない。そこで▲6八桂△同龍として龍を二段目に移動させておくことで▲3九飛と回ったとき、今度は禁じ手なので△3八桂とは打てない。『禁じられた遊び』というのはこの禁じ手のことです」

島田「あ、そういう意味だったんですか。気づかなかった・・・」

角「最初から龍が二段目にいたら何の意味もないんだけど、桂を捨てて二段目に移動させるから意味がある。この作品によってこういうことができることがわかったので、今では一つの手筋になってます」

島田「なるほど。禁じ手といえば、山田さんには打ち歩詰を利用した趣向作も多いですよね」

角「そうです。あと、趣向作もいいけど、曲詰もすごい。『夢の華』にはあまり収録されていませんが『イの字』とか」




第13番。詰め上がりがカタカナの「イ」の字になる。

角「これまでにも曲詰はありましたが、遠くから玉を引っ張り込んで無理やりその文字にするようなものが多かった。でも山田さんはその文字の範囲内で駒を動かして成立するような作品を作って、曲詰全体のレベルを大きく上げた。これも山田さんの業績の一つだと思います」

島田「そのジャンルでも先駆者なんですね。ちなみに『夢の華』の中で角さんの好きな作品はどれですか?」

角「私はコレ。第14番の『捨て小舟』」



角「途中『金を捨てる→金を取る』を繰り返しながら龍で王手して、横ばいで玉を移動させて、また帰ってきて詰むという趣向作。昭和26年、戦後間もない時期にこの完成度はすごい。王様と遊ぶような手順の楽しさは趣向作の醍醐味でしょう」

島田「なるほど。リズムがいいですよね。それにしても、こんなにたくさんの趣向にチャレンジして実現していくパワーがすごいです」

角「山田さん自身も書かれているけど、この世代の人たちは『図巧、無双を超える』ということが大きなモチベーションとしてあった。だから山田さんも煙詰や裸玉を作ってる。宗看、看寿に並び、さらにそこを超えるために常に新しい趣向を追いかけていたんだと思います。
今は若島さんや上田さんが新しい教科書としているけど、当時は宗看、看寿を超えることこそが詰将棋作家の使命だった」

島田「第99番『幻影』の解説のところにも書いてありますね」


※第99番『幻影』の解説より抜粋
「今だから告白するがこの飛合の繰返しによる金鋸をおもいついたとき、かすかにこれであの図巧第1番を捉えることができるかも、という思いが脳裏をよぎった。いや、夢を見た。(中略)
 結局、合駒で出現する7八飛の後処理を含む収束形にえらく手こずって、今一つ詰上がりに満足できる形が得られず、その夢は幻であることを思い知らされた。『幻影』とした意である。(中略)
 図巧第1番を捉えるには、趣向詰の域を越える何かが必要なのであろう。詰棋作家、永遠の「夢」であったか」

島田「図巧第1番って、どんだけすごいんだよ、って話ですよね。そして第100番『夢の華』につながると」


第100番『夢の華』は盤上に何もなく、解説には「未完」と書かれている。

角「まだ作ってないものが自分の中にある、ということでしょうね。もちろん、こんなこと普通の人がやったら、『なにキザなことやってんだよ』と笑われるだけ。『1番足りねーじゃねーか』って(笑)。でも山田さんにはそれは言えない。あれだけ真摯に図巧、無双を追い求めて、素晴らしい作品を発表し続けてきた山田さんだからこその締めくくり方でしょう。あの人にとって第100番はまさに『夢の華』だった」

島田「なるほど。第100番にも山田さんの意志が込められているんですね。探究心というか、志の高さがすごすぎます」

角「山田さんは出そうと思えばたくさんの作品を発表することができたし、出せば受賞回数ももっと増えたはず。でも自分の意に沿わないものは決して世に出さなかった。だからこそ、山田さんの作品が出ればみんな解こうと思ったわけです」

島田「いやー、なんだか背筋を伸ばして読まなきゃいけない本ですね。収録されている作品は選び抜かれた至宝ですな」

角「そういうことです」

島田「なるほど。よくわかりました。ありがとうございました」

角「ありがとうございました」

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山田修司さんの魂が込められた『夢の華』。みなさんも味わってみてはいかがでしょうか。

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著者

島田修二(編集)