2013.02.19
「升田幸三の孤独」もうすぐ発売!!
「升田幸三の孤独」は、升田・大山・芹澤・花村・郷田・藤井…らの栄光や葛藤を、老師河口俊彦が描いた本。
本日はその中から、筆者が読んで印象深かった芹澤博文の章の一部をご紹介します。
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芹澤が特に可愛がったのは、中原、米長、大内で、夕方競輪から帰って、将棋会館に彼らがいると、高級料理店に連れていった。八時か九時ごろに腹ごしらえをすますと、中原を帰し、米長、大内とバー、クラブへ行った。そうして行儀作法を教えた。勘定はすべて芹澤が持った。そして、「将来君らが偉くなったとき、オレにお返しすることはない。後輩に返してくれ」が口ぐせだった。
こんな男だから、棋士仲間、ファンを問わず、誰からも好かれた。芹澤の方も、人が好く、淋しがり屋だったから、好かれようと気を遣っていた。だから山田とあんなにまずかったのが、不思議なくらいだ。
三十歳前後になると芹澤を愛するファンが増えてきた。山口瞳さんと知り合ったのもこの頃のはずで、会うやたちまち親しくなった。
名著「血涙十番勝負」には芹澤がしばしば登場し、才気煥発、当意即妙を絵に描いたような男として描かれている。
その中から私がもっとも好きな一節を引用すると、
*
その芹澤博文が、あるとき、激しく泣いた。
芹澤が屋台のオデン屋で飲んでいて、急に涙があふれてきたというのである。
そのとき、芹澤は、突如として、
「ああ、俺は、名人になれないんだな」
という思いがこみあげてきたのだそうだ。
その話をしてくれたのは僕の家でであって、米長邦雄も一緒だった。
米長は、言下に、
「そんなことはないよ」
と言った。僕も、そうだそうだと言った。
その日、芹澤も米長も僕の家に泊った。翌朝、二人は早く起きた。
「おい、米長。いっちょう稽古をつけてやろうか」
と、芹澤が言った。二人は、ランニングシャツにステテコという白一色の姿で正座して盤にむかった。激しい将棋になった。
*
これを読むと、堕落どころじゃない、根性ある将棋指しである。こちらが芹澤の真の姿であったと思いたい。
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発売は2月23日(土)の予定です。お楽しみに。
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