2015.06.17
【ご本人登場】嬉野流創始者が嬉野流を語る
お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中
皆さんこんにちは
編集部の島田です。
現在、大好評いただいている天野貴元さんの書籍「奇襲研究所 ~嬉野流編~」。
今回、なんとこの奇抜にして優秀な嬉野流の創始者である嬉野さんに、直接お話しを伺うことができました。
嬉野流の誕生秘話から書籍に紹介されていない振り飛車対策まで、幅広く語っていただきました。それではどうぞ!
====================================
物心ついたときには
初段はあったらしい
―本日はよろしくお願いいたします。
嬉野「よろしくお願いします」
―まずは、嬉野さんご自身の将棋とのかかわりからお聞かせください。
「将棋は祖父から教わりました。祖父はアマ四段くらいの棋力があるんですが、たくさんある趣味の中からなぜか将棋を教えてくれました。私は絵本を読むか将棋の本を読むか、という幼少時代を過ごしたようです」
―よく将棋の本が読めましたね?
「祖父いわく、文章は読めていなかったけど、図面と記号だけで読んでいたそうです。全く記憶はないんですが、物心ついたときには初段はあったらしいです」
―すごいですね。
「それで父親がこれは強い、ということで大会によく連れて行ってくれました。幼稚園生だったのに小学生の大会に無理やり出させてもらって優勝した、ということもあったようです。私は知りませんでしたが、私が小学校の低学年の頃に、当時高学年だった深浦康市九段に勝ったということがあったそうです。その関連の話は深浦先生の自叙伝にも掲載されています。ただ、小学校卒業辺りで将棋から離れてしまったんですよね」
―えーっ!なんともったいない。
「その時は他にやりたいこともたくさんありましたので、特に未練はなかったです。それからはほぼ毎晩の家族将棋とたまに大会に呼ばれて指しに行くくらいで、大学では強くなりたいというやつに駒落ちで教えるばかりで平手で指すことはほとんどなかったですね。結局20年くらい将棋から離れていました」
もっと面白い初手はないかと
―何か将棋に戻ってくるきっかけがあったんですか?
「ゲームセンターに『天下一将棋会』というのができて、友だちに誘われてやるようになったんです。やってみると結構勝てて、『あ、俺まだ勝てるやん』と思いまして、それからまた少しずつ将棋をやるようになりました。あるとき社団戦に助っ人として呼ばれて行きました。私はそのときどうせ助っ人なので、角頭歩か初手端歩縛りで指したんですが、周りを見ると堅く囲う将棋ばっかりじゃないですか。つまらんなぁと。途中までは誰が指しても同じような将棋ばっかり。それがどうも私としては面白くなかったんですね。それで何か考えてみようと思って、それまでは初手に角頭の歩や端歩を突いていたんですがもっと面白い初手はないかと。いろいろ考えたんですが、左の銀を上がってみたらどうだろうと思ったんです」
―それが嬉野流の▲6八銀ですね?
「そうです。初手▲6八銀で3手目に▲7九角として、それで勝てたらかっこいいなと思いましてね。インパクトもありますし。実際天下一将棋会やネット対局で使ってみたんですがこれが自分でも驚くくらい勝てたんですよ。それからひたすら実戦で試しながらこの戦法を練り上げていきました。そうしていく中で天野さんにも使ってみたというわけです」
―そこで天野さんと出会うんですね。
「はい。そのときの感想戦で話したんですが天野さんも最初は意味不明だったようです。でもいろいろ説明していくうちに『意外と理にかなってますね』と言ってくださって、『今度大会で使ってみます』というので、『またまたご冗談を』なんて返したんですが、ものすごい強豪を相手に使われて、しかも勝ったと聞いて、こちらがびっくりしましたよ」
穴熊にこもっているだけじゃ
見えない世界がある
―どのような発想から嬉野流が生まれたんですか?
「まず、私は駒落ちの上手を多く指していた経験がありまして。駒落ち上手というのは堅い玉にしませんよね。常に玉の可動域を広くしておいてあわよくば入玉を狙うのが王道です。その経験もあって今はやりの穴熊はどうも息苦しくて。平手なら大将がトーチカにこもって指示だけ出してないで、自ら刀持って出てこいや、っていう思いがありました。嬉野流にすれば相手も穴熊に囲っている暇はありませんから完全な力勝負になります。それに見たこともない局面になるので将棋の読みの力が試されます。そういう将棋が指したかったということもありますね。穴熊を否定するわけじゃないですけど、私が穴熊を採用してもあまり楽しくないもので。もう一つ付け加えるなら私の地元には鳥刺し戦法が得意な方が多かったので、その記憶が残っていたのかもしれません」
―なるほど。嬉野さんの考え方と記憶が組み合わさって生まれたわけですね。
「あと、これは副産物のようなものですけど、ソフト指し対策、という意味もあります。数手指してみて、これはソフト指しだな、と思ったら嬉野流から稲庭にシフトチェンジできます。ネットで対局しているとこれが結構いるんですよね」
―そうなんですか。嬉野流の新たな一面を知りました。次に、嬉野流の魅力についてはどうお考えですか?
「まず、相手をびっくりさせる、ということですね。ギャラリーもおっ、と思ってくれますから目立つ。目立ちたがり屋の方にはオススメですね。あとはこの戦型ならではのスリリングな攻防、それに観たこともない局面で考えるという将棋本来の能力が試されることですね。穴熊にこもっているだけじゃ見えない世界がそこにはあります」
切っ先が届けば
それで勝ちです
―嬉野流を指す上でのコツは何でしょう?
「うーん、私の場合感覚で指しているところが多いので難しいですね」
―天野さんは「玉を囲おうとしないこと」とおっしゃっていましたが。
「あ、それはその通りです。この戦法の場合、王様は堅くなりませんから。囲うんじゃなくて、相手の攻めをかわす、ずらす、そらすという考え方です。穴熊のように城壁を作ってそれを壊したり修復したりというのではなく、王様同士が日本刀を持って戦うことになるので、斬ってきたら受けるのではなく、ギリギリでかわす見切りが大事。この感覚でやってほしいですね。
他には駒交換を厭わない、それから駒損を気にしない、ということもあります。この戦法は玉を囲わなくていいんですが、その代わり援軍が送りにくいんです。だから歩損を代償にして銀が前に出て行く展開になることもよくあります。これは書籍で天野さんも書いてましたけど、横歩取りの後手番は歩損してもそのあとが良ければいいっていう発想じゃないですか、それと同じだと考えればいいわけです。重視するのはスピード感、切っ先が届けばそれで勝ちです」
―ひとつお聞きしたかったんですが、あの▲8八歩という手はどうやって編み出したのですか?
「最初は▲8七歩と打っていたんです。ただ、実戦を重ねていく中で△8八歩▲同金とされて負けるパターンが出てきて、これが結構キツいんです。例えば嬉野流では角銀総交換になる変化がありますけど、最後に▲2四同飛と取ったときに金が8八にいると△7九角が飛車金両取りになってしまいますし、直接手段は無くとも中盤に効かされて壁金を強要され狭くなるのが非常に痛い。これをどうにかしなきゃいけないと考えたときに思いついたのがまず、右銀を上がらない、ということです。こうしておけば先ほどの両取りに角を打たれたときにも飛車を引けば受かりますし、壁金の苦労も若干減る。ただ、右銀を使わないとなると2、3筋を受け止められたときに援軍が送れないので、攻めに迫力が出ない。速攻が売りなのにこれはさすがに無理だと断念しました。それからいろいろ考えてたどり着いたのが▲8八歩です。こうしておけば△8八歩と打たれることはありませんし、さらなるインパクトも得られます。それに▲7六歩▲7七桂と援軍を送りたい時に相手の角道を遮断している。これは使い方によっては一石二鳥にも三鳥にもなると思いましたね」
―なるほど、試行錯誤の末の結論だったんですね。
「戦法の内容で言うと、書籍で天野さんは相手が振り飛車にしてきたときは鳥刺しのように戦うと書いていますが、私は他の指し方も使っています。それが『嬉野流相振り飛車』です」
―どんな指し方ですか?
「▲6八銀~▲7九角の出だしは同じです。それで相手が飛車先を突かないで振り飛車にしてきた場合、▲5六歩~▲5七銀の形にして、向かい飛車にします」
―ははぁ、なるほど。これはまた斬新な指し方で楽しそうですね。
「善悪は別として、相手が振り飛車のときにはこういうバリエーションもあると思ってもらえればと。この戦法を指すなら先入観を持たず自由に組み立てる感覚も重要です」
将棋には無限の
可能性がある
―続きまして、今回の著者、天野さんについてはいかがですか?
「実はそんなに何回もお会いしたことはないんですが、私の考えた戦法をここまで評価していただいて、書籍まで出していただいて感謝しています。天野さんとはこれまで2回対局したことがあるんですが両方とも負けています。いい勝負にはなっていると思うんですが、やはり鍛えが入っているというか、壁はあるなと感じました。闘病中でありながら将棋も頑張っていらっしゃって、ああいうバイタリティのある人は好きなので、今回のお話をいただいたときも光栄だなと思いました。それにしても、私が考えた戦法を天野さんのような実績のある方に本にしていただいて、ここまで広まるとは夢にも思いませんでしたね。
あと、天野さんが偉いなと思うのは、普及ということを非常に大事に考えておられることです。あれだけいろいろな活動をされて将棋の楽しさを知ってもらおうと頑張っている人はプロの中にもそれほどいないんじゃないでしょうか。そういう天野さんのスタンスがいいなと思いましたので、今回書籍に名前を出すことも快諾させていただきました」
―最後になりますが、読者の方に一言お願いします。
「こう言うのはなんなんですが、正直に言うとこの戦法は非常に難しい戦法なので、初級者の方は使わない方がいいかもしれません(笑)。実は書籍化の話をいただいたときにそれが一番心配したことだったんです。嬉野流は指しこなすのに相当な力が必要なので、下手にやると自分もろとも吹っ飛んでしまいます。でも、これだけ将棋の定跡が整備された中でこの本を読んだ方が、こういう戦法があるんだ、将棋というのは自由なんだと思っていただけたとしたら、この本を出して良かったと思っています。
将棋には無限の可能性がある、こういう楽しみ方もある、自分さえ納得していれば何を指してもいいんだということです。それでもし負けたとしても、負けたのは全て自分の責任。それが将棋のいいところです。だから嬉野流で負けても戦法のせいにしないで下さいね(苦笑)」
―私も初めて嬉野流を指したときのワクワク感はすごかったです。
「結局のところ、将棋をもっと楽しみましょう、ということですね。自分が考えた戦法、自分が考えた手を指して、それで大会で勝てたりしたら最高じゃないですか。私自身、ここ2年、社団戦やネット将棋では殆ど嬉野流縛りで戦ってます(笑)。将棋は記憶ゲームじゃないんです」
―なるほど。本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。
「こちらこそ、ありがとうございました」
※嬉野さんにサインをいただきました。来月のアンケートのプレゼントにしたいと思います。
お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中
編集部の島田です。
現在、大好評いただいている天野貴元さんの書籍「奇襲研究所 ~嬉野流編~」。
今回、なんとこの奇抜にして優秀な嬉野流の創始者である嬉野さんに、直接お話しを伺うことができました。
嬉野流の誕生秘話から書籍に紹介されていない振り飛車対策まで、幅広く語っていただきました。それではどうぞ!
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物心ついたときには
初段はあったらしい
―本日はよろしくお願いいたします。
嬉野「よろしくお願いします」
―まずは、嬉野さんご自身の将棋とのかかわりからお聞かせください。
「将棋は祖父から教わりました。祖父はアマ四段くらいの棋力があるんですが、たくさんある趣味の中からなぜか将棋を教えてくれました。私は絵本を読むか将棋の本を読むか、という幼少時代を過ごしたようです」
―よく将棋の本が読めましたね?
「祖父いわく、文章は読めていなかったけど、図面と記号だけで読んでいたそうです。全く記憶はないんですが、物心ついたときには初段はあったらしいです」
―すごいですね。
「それで父親がこれは強い、ということで大会によく連れて行ってくれました。幼稚園生だったのに小学生の大会に無理やり出させてもらって優勝した、ということもあったようです。私は知りませんでしたが、私が小学校の低学年の頃に、当時高学年だった深浦康市九段に勝ったということがあったそうです。その関連の話は深浦先生の自叙伝にも掲載されています。ただ、小学校卒業辺りで将棋から離れてしまったんですよね」
―えーっ!なんともったいない。
「その時は他にやりたいこともたくさんありましたので、特に未練はなかったです。それからはほぼ毎晩の家族将棋とたまに大会に呼ばれて指しに行くくらいで、大学では強くなりたいというやつに駒落ちで教えるばかりで平手で指すことはほとんどなかったですね。結局20年くらい将棋から離れていました」
もっと面白い初手はないかと
―何か将棋に戻ってくるきっかけがあったんですか?
「ゲームセンターに『天下一将棋会』というのができて、友だちに誘われてやるようになったんです。やってみると結構勝てて、『あ、俺まだ勝てるやん』と思いまして、それからまた少しずつ将棋をやるようになりました。あるとき社団戦に助っ人として呼ばれて行きました。私はそのときどうせ助っ人なので、角頭歩か初手端歩縛りで指したんですが、周りを見ると堅く囲う将棋ばっかりじゃないですか。つまらんなぁと。途中までは誰が指しても同じような将棋ばっかり。それがどうも私としては面白くなかったんですね。それで何か考えてみようと思って、それまでは初手に角頭の歩や端歩を突いていたんですがもっと面白い初手はないかと。いろいろ考えたんですが、左の銀を上がってみたらどうだろうと思ったんです」
―それが嬉野流の▲6八銀ですね?
「そうです。初手▲6八銀で3手目に▲7九角として、それで勝てたらかっこいいなと思いましてね。インパクトもありますし。実際天下一将棋会やネット対局で使ってみたんですがこれが自分でも驚くくらい勝てたんですよ。それからひたすら実戦で試しながらこの戦法を練り上げていきました。そうしていく中で天野さんにも使ってみたというわけです」
―そこで天野さんと出会うんですね。
「はい。そのときの感想戦で話したんですが天野さんも最初は意味不明だったようです。でもいろいろ説明していくうちに『意外と理にかなってますね』と言ってくださって、『今度大会で使ってみます』というので、『またまたご冗談を』なんて返したんですが、ものすごい強豪を相手に使われて、しかも勝ったと聞いて、こちらがびっくりしましたよ」
穴熊にこもっているだけじゃ
見えない世界がある
―どのような発想から嬉野流が生まれたんですか?
「まず、私は駒落ちの上手を多く指していた経験がありまして。駒落ち上手というのは堅い玉にしませんよね。常に玉の可動域を広くしておいてあわよくば入玉を狙うのが王道です。その経験もあって今はやりの穴熊はどうも息苦しくて。平手なら大将がトーチカにこもって指示だけ出してないで、自ら刀持って出てこいや、っていう思いがありました。嬉野流にすれば相手も穴熊に囲っている暇はありませんから完全な力勝負になります。それに見たこともない局面になるので将棋の読みの力が試されます。そういう将棋が指したかったということもありますね。穴熊を否定するわけじゃないですけど、私が穴熊を採用してもあまり楽しくないもので。もう一つ付け加えるなら私の地元には鳥刺し戦法が得意な方が多かったので、その記憶が残っていたのかもしれません」
―なるほど。嬉野さんの考え方と記憶が組み合わさって生まれたわけですね。
「あと、これは副産物のようなものですけど、ソフト指し対策、という意味もあります。数手指してみて、これはソフト指しだな、と思ったら嬉野流から稲庭にシフトチェンジできます。ネットで対局しているとこれが結構いるんですよね」
―そうなんですか。嬉野流の新たな一面を知りました。次に、嬉野流の魅力についてはどうお考えですか?
「まず、相手をびっくりさせる、ということですね。ギャラリーもおっ、と思ってくれますから目立つ。目立ちたがり屋の方にはオススメですね。あとはこの戦型ならではのスリリングな攻防、それに観たこともない局面で考えるという将棋本来の能力が試されることですね。穴熊にこもっているだけじゃ見えない世界がそこにはあります」
切っ先が届けば
それで勝ちです
―嬉野流を指す上でのコツは何でしょう?
「うーん、私の場合感覚で指しているところが多いので難しいですね」
―天野さんは「玉を囲おうとしないこと」とおっしゃっていましたが。
「あ、それはその通りです。この戦法の場合、王様は堅くなりませんから。囲うんじゃなくて、相手の攻めをかわす、ずらす、そらすという考え方です。穴熊のように城壁を作ってそれを壊したり修復したりというのではなく、王様同士が日本刀を持って戦うことになるので、斬ってきたら受けるのではなく、ギリギリでかわす見切りが大事。この感覚でやってほしいですね。
他には駒交換を厭わない、それから駒損を気にしない、ということもあります。この戦法は玉を囲わなくていいんですが、その代わり援軍が送りにくいんです。だから歩損を代償にして銀が前に出て行く展開になることもよくあります。これは書籍で天野さんも書いてましたけど、横歩取りの後手番は歩損してもそのあとが良ければいいっていう発想じゃないですか、それと同じだと考えればいいわけです。重視するのはスピード感、切っ先が届けばそれで勝ちです」
―ひとつお聞きしたかったんですが、あの▲8八歩という手はどうやって編み出したのですか?
「最初は▲8七歩と打っていたんです。ただ、実戦を重ねていく中で△8八歩▲同金とされて負けるパターンが出てきて、これが結構キツいんです。例えば嬉野流では角銀総交換になる変化がありますけど、最後に▲2四同飛と取ったときに金が8八にいると△7九角が飛車金両取りになってしまいますし、直接手段は無くとも中盤に効かされて壁金を強要され狭くなるのが非常に痛い。これをどうにかしなきゃいけないと考えたときに思いついたのがまず、右銀を上がらない、ということです。こうしておけば先ほどの両取りに角を打たれたときにも飛車を引けば受かりますし、壁金の苦労も若干減る。ただ、右銀を使わないとなると2、3筋を受け止められたときに援軍が送れないので、攻めに迫力が出ない。速攻が売りなのにこれはさすがに無理だと断念しました。それからいろいろ考えてたどり着いたのが▲8八歩です。こうしておけば△8八歩と打たれることはありませんし、さらなるインパクトも得られます。それに▲7六歩▲7七桂と援軍を送りたい時に相手の角道を遮断している。これは使い方によっては一石二鳥にも三鳥にもなると思いましたね」
―なるほど、試行錯誤の末の結論だったんですね。
「戦法の内容で言うと、書籍で天野さんは相手が振り飛車にしてきたときは鳥刺しのように戦うと書いていますが、私は他の指し方も使っています。それが『嬉野流相振り飛車』です」
―どんな指し方ですか?
「▲6八銀~▲7九角の出だしは同じです。それで相手が飛車先を突かないで振り飛車にしてきた場合、▲5六歩~▲5七銀の形にして、向かい飛車にします」
―ははぁ、なるほど。これはまた斬新な指し方で楽しそうですね。
「善悪は別として、相手が振り飛車のときにはこういうバリエーションもあると思ってもらえればと。この戦法を指すなら先入観を持たず自由に組み立てる感覚も重要です」
将棋には無限の
可能性がある
―続きまして、今回の著者、天野さんについてはいかがですか?
「実はそんなに何回もお会いしたことはないんですが、私の考えた戦法をここまで評価していただいて、書籍まで出していただいて感謝しています。天野さんとはこれまで2回対局したことがあるんですが両方とも負けています。いい勝負にはなっていると思うんですが、やはり鍛えが入っているというか、壁はあるなと感じました。闘病中でありながら将棋も頑張っていらっしゃって、ああいうバイタリティのある人は好きなので、今回のお話をいただいたときも光栄だなと思いました。それにしても、私が考えた戦法を天野さんのような実績のある方に本にしていただいて、ここまで広まるとは夢にも思いませんでしたね。
あと、天野さんが偉いなと思うのは、普及ということを非常に大事に考えておられることです。あれだけいろいろな活動をされて将棋の楽しさを知ってもらおうと頑張っている人はプロの中にもそれほどいないんじゃないでしょうか。そういう天野さんのスタンスがいいなと思いましたので、今回書籍に名前を出すことも快諾させていただきました」
―最後になりますが、読者の方に一言お願いします。
「こう言うのはなんなんですが、正直に言うとこの戦法は非常に難しい戦法なので、初級者の方は使わない方がいいかもしれません(笑)。実は書籍化の話をいただいたときにそれが一番心配したことだったんです。嬉野流は指しこなすのに相当な力が必要なので、下手にやると自分もろとも吹っ飛んでしまいます。でも、これだけ将棋の定跡が整備された中でこの本を読んだ方が、こういう戦法があるんだ、将棋というのは自由なんだと思っていただけたとしたら、この本を出して良かったと思っています。
将棋には無限の可能性がある、こういう楽しみ方もある、自分さえ納得していれば何を指してもいいんだということです。それでもし負けたとしても、負けたのは全て自分の責任。それが将棋のいいところです。だから嬉野流で負けても戦法のせいにしないで下さいね(苦笑)」
―私も初めて嬉野流を指したときのワクワク感はすごかったです。
「結局のところ、将棋をもっと楽しみましょう、ということですね。自分が考えた戦法、自分が考えた手を指して、それで大会で勝てたりしたら最高じゃないですか。私自身、ここ2年、社団戦やネット将棋では殆ど嬉野流縛りで戦ってます(笑)。将棋は記憶ゲームじゃないんです」
―なるほど。本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。
「こちらこそ、ありがとうございました」
※嬉野さんにサインをいただきました。来月のアンケートのプレゼントにしたいと思います。
お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中
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