雨宮編集長のコゴト@まさかの投了|将棋情報局

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雨宮編集長のコゴト@まさかの投了

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『将棋順位戦30年史 1984-1997年編』という本が発売された。週刊将棋に掲載された記事と写真を再構成したもの。ページ数が600を超える冗談みたいなボリュームだが、タイトルの通りこれはまだ前編。1998年以降を収めた後編は、鋭意製作中である。
 
 順位戦の対局は週刊将棋にとって大事なコンテンツだ。A級は全局、B級1組以下は好カードをピックアップして取材、掲載している。前期はC級2組の全局取材にもチャレンジした。「リーグ表を見ているだけで楽しい」という読者もいるらしい。今後もご期待に沿えるように、頑張ります。
 
 週刊将棋の記者にとって、順位戦の取材は鬼門だ。対局が長時間に及ぶので、ずっと将棋会館で張り付いているわけにはいかない。普通は朝に対局開始の取材、撮影をすると、次は夕食休憩前後に現場入りする。そうすると、早めに終わってしまった対局は取り逃がしてしまい、うろたえることになる。
 
 筆者にとって最も強烈な体験は、2002年9月のことだった。21日の土曜日に羽生善治竜王-島朗八段のA級4回戦があり、取材担当になった。土曜日に公式戦が組まれることは少ないが、記録を見ると羽生竜王はこの9月に9局あり、厳しい日程のやりくりがあったのだろう。また、土曜日は週刊将棋にとっても最終校了~印刷がある大事な日なのだ。
 
 当時の編集部は将棋会館近くにあったが、印刷所は江東区越中島にあり、土曜日はそちらに詰めることが多い。詳細は覚えてないが、おそらく朝の撮影を済ませた後に越中島へ回り、印刷後に用事をこなし、再び将棋会館に入ったのは午後7時くらいだった。
 
 玄関から入ると、ある棋士が筆者に声をかけてきた。
「A級なら、終わっちゃいましたよ」
 
 え…………
 
 あわてて対局室がある4階へ駆け上がり、特別対局室に飛び込んだ。
 暗かった。すでに盤駒など対局用具はすべて片付けられ、当然ながら対局者はいなかった。
 
 呆然として控室に行った。毎日新聞の名物記者だった加古明光さん(故人)が、所在なさげにサンドイッチをかじっていた。この対局の観戦記担当だった。記録係の天野貴元三段もいた。
 
 話を聞くと、夕食休憩に入る直前の午後6時に、先手の島八段が図の局面で突如投了した。羽生竜王は「え、それは」というような声を発したらしい。後日、筆者の取材に「少し模様がいいとは思っていましたが、まさか投了されるとは」と語った。
 
 感想戦も少し行われた。その内容を天野三段が解説してくれて、これで記事が書けるとホッとした。天野三段は取材陣にいつも気を使ってくれて、取材する対局の記録係が彼だと妙に安心できたものだった。
 天野三段のていねいな解説によると、確かに先手の島八段が苦しい。玉形の差が大きく、少々の駒得でも右翼を突破されたらひとたまりもない。
 それは分かった。でも、ここで投げるのか…
 
 当時はかなり話題になった対局だった。あらためて記録を確認し、もう12年も前のことだったのが少々驚きだった。
 

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