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飛車と角はどちらが強いのか?【将棋世界版】

こんにちは。将棋世界の国沢です。
明日から、いよいよニコニコ超会議が始まります。現地に足を運ばれる方、ニコ生で観戦される方、いろいろいらっしゃると思いますが、今回、将棋ファンにとってもっとも興味深いのは「角と飛車はどちらが強いのか【二番勝負】」ではないでしょうか。実際に佐藤紳哉七段と飯島栄治七段が二番勝負で戦うこの企画、私も興味津々です。

「角と飛車はどちらが強いのか【二番勝負】」はこちら

実は将棋世界でも9年前、誌上で先崎学九段と中田功七段が飛車VS角で戦ったことがあります。
せっかくの機会なので、全文公開します。(2007年5月号掲載 棋士の段位は当時のまま)

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 先チャンとコーヤンの検証! ハンディキャップ戦
 ~[前編]飛飛VS角角の巻~


将棋のハンディキャップには駒落ちという優れたものがすでにあるけれど、もっと遊び感覚で楽しめて平手に近い指し方ができるハンディ戦はないものでしょうか。そこでひとつ、誌上で考えてみようではないかというのがこの企画です。
今回のテーマは「飛車2枚と角2枚で戦うとどうなるの?」というもの。先崎学八段と中田功七段が真剣勝負で対局してくれました。

 この珍企画。プロ棋士の誰に指してもらおうかと考えたとき、真っ先に浮かんだのがコーヤンこと中田功七段である。大のゲーム好きの彼は、ゲームの本質を究明せずにはいられない性分。本誌の熱心な読者なら覚えているだろうが、以前、王手をしたら勝ちという「王手将棋」の連載をしたことがあり、長年の研究結果を分かりやすく解説してくれた。「これで○手勝ち」「この手が最善」とはぎれのよい決断が好評だった。
 そんな彼なら、きっとこういうおバカな企画にも興味を示してくれるだろうと思ったのだ。案の定「おもしろそうっすね。ぜひやらせてください」と二つ返事でOKしてくれた。
 さらに嬉しい誤算があった。当初は、コーヤンの相手は編集部員が務める予定だったが、たまたま顔を見せた先崎学八段が「なんじゃその企画。でも、コーヤンが相手ならやってみたいな」と彼のほうから引き受けてくれた。先チャンもまたこういうものに目がないのだ。
 というわけで、話はとんとん拍子に進み、二人の真剣勝負という形で行なうことにした。
「コーヤンはね、天才なんだよ。ぜったい数学者になるべき。数学者になっていればきっと“コーヤンの定理”やら“コーヤン定数”やら発見してたよきっと」としみじみ語っていた。
 話によると、コーヤンはゲームセンターに置いてあるコンピュータ麻雀の、プログラムの癖(バグ)を発見してしまう特技があるという。そんな鋭い目を持った棋士なら、きっと面白い検証結果を出してくれるに違いない。
 さっそく二人の実戦結果をご覧いただこう。

  実証「飛2枚VS角2枚」戦

 持ち時間各15分
 角側 ▲八段 先崎 学
 飛側 △七段 中田 功
▲3六歩△8四歩 ▲7六歩△8五歩
▲7七角△8四飛 ▲4八銀△2四飛
▲3八金△7四飛 ▲7八金△7六飛
▲6六歩(第1図)


 なんとなく不利と思われる角側を先手番とし、先チャンに持ってもらった。「飛車を持った方が有利」と断言するコーヤンを負かせば、先チャンの面目躍如というものだ。
 先チャンの初手は▲3六歩。それを見てコーヤンは「ほう、そっちですかあ」と思わず呟いた。通常の将棋では▲7六歩と突くので、いきなり逆側の角道を開けられて違和感があったらしい。でも左右対称なので結局同じなんだけどね。
 序盤の後手の構想で大事なのは、必ず先手の突いた歩の逆側の飛車先を突くということ。つまり本譜でいえば▲3六歩に△8四歩(逆に初手▲7六歩なら△2四歩を突く)。それはなぜか?
 本譜のように角頭の弱点をつくべく浮き飛車にすれば、先手の左右どちらかの歩をかすめ取ることができるのだ。序盤の一歩得は非常に大きい。コーヤンが「飛車側が有利」と強調するのはこのためだ。
 人一倍理詰めの考え方をするコーヤンは△2四飛と回って先手に▲3八金と形を決めさせてから△7四飛とした。だが、ただちに△7四飛とする手もあった。以下▲3五歩△7六飛に▲3四歩が予想される変化。これも有力である。
 後手は勇躍一歩を取ることに成功した。先手としては、歩を取らせる間に態勢を整えることが大事だ。


 第1図以下の指し手
△7四飛▲6八銀 △6二銀▲4六歩
△6四歩▲4七銀 △6三銀▲4五歩
△8二飛▲6七銀 △4二玉▲5六銀右
△5四銀▲3五歩 △3二銀(第2図)


 棋譜を並べていて、横歩取りの将棋を思い浮かべた方も多いだろう。まったく不思議な将棋である。
 この日将棋会館に研究会で来ていた村山慈明四段と佐藤天彦四段がこの将棋の立会人を買って出てくれた。佐藤はコーヤンの愛弟子だ。実戦には役に立たない研究にも関わらず積極的に意見を述べた。
 △7四飛は「下がらないほうがよかったね」とコーヤン。局後、村山四段が指摘していたが、△8二飛と回り、△7二銀~△8三銀と棒銀を目指せば後手が簡単によくなることが分かった。なにしろ飛車2枚の棒銀である。かなりの破壊力が見込める。振り飛車党のコーヤンは「そうか~棒銀なんてまったく発想なかったよ」と笑っていた。
 後手は振り飛車党らしく△3二銀と美濃囲いを目指したが、△3二玉のほうがよかったか。先手は▲3四歩△同歩▲6五歩が狙いの攻め筋だが、以下△同歩▲1一角成に△2二銀▲1二馬△6六歩(A図)で、銀がただで取れる。





 第2図以下の指し手
▲3四歩△同 歩 ▲6五歩△3三桂
▲6四歩△8六歩 ▲同 歩△6六歩
▲5八銀△5二金右▲8七金(第3図)


 先チャンは角道を開けて成り込みを狙う。コーヤンは△3三桂と受けた。次に△4五銀とぶつける狙いで、先手は居玉なので、4五桂から5七地点の攻めを見れば早い勝負が見込める。
 しかし、△3三桂では△3三銀が安全だった。実戦は桂頭の弱点をつかれる展開になり、危険だった。
 ▲6四歩に△8六歩の突き捨てから△6六歩の叩きが機敏。対して▲6六同銀は△8六飛でまずい(▲同角は△7八飛成)。また▲6六同角も△8六飛~△6六飛がある。よって先手はこの歩を取ることができず、先チャンはしかたなく▲5八銀と引いたが、6六に嫌な拠点ができてしまった。



 第3図以下の指し手
△8八歩▲7五歩 △8四飛寄▲8八金
△4五銀▲6五銀 △8五歩 ▲同 歩
△同 飛▲8六歩 △7五飛▲6三歩成
△同 金▲6四銀 △同 金 ▲同 角
△6五飛▲5五金 △6四飛 ▲同 金
△4六角(第4図)


 コーヤンは△8八歩と手筋の歩を放った。▲同金なら△4五銀からさばく狙いだ。この歩を打たず単に△4五銀は、以下▲6五銀△7五飛に▲7六金で飛車が死んでしまう。そこであらかじめ金を引かせようというのである。
 しかし、先チャンも負けていない。▲7五歩がうまい切り返し。その手を見てコーヤンは「う~ん」とうなった。△同飛は▲7六歩~▲8八角で膠着状態となる。「△8八歩はいい手じゃなかったですね」(中田)
 △8五歩の合わせもコーヤンが「重かった」と悔やんでいた手。△8六飛▲同角△同飛と玉の堅さを頼りに強気にいくべきだった。先チャンは▲8五同歩と取ったがコーヤンは「▲6六角から▲3五歩と桂頭に味をつけられるのがイヤだった」という。
 飛車角交換になり、コーヤンが△4六角と金香両取りに打った第4図。先チャンはどうするのか?



 第4図以下の指し手
▲7二歩△5二銀 ▲6三歩△6七歩成
▲同 銀△6一歩 ▲6二歩成△同 歩
▲7一歩成△6四角▲8一と△同 飛
▲3七桂△4六銀 ▲2六桂(第5図)


 両取り逃げるべからず。先チャンは▲7二歩の手筋を放った。「自慢の垂れ歩だったんだがなあ」と局後、先チャンが残念がっていた幻の妙手だった。
 ▲7二歩に△6四角は▲6二飛の王手角取り。7二の歩が後手の飛車の利きを遮断しているわけだ。といって、△7二同飛には▲6一飛と桂取りに打ち込む手がきつい。
 後手しびれたかに見えたが、じっと△5二銀が当然ながら手堅い受け。飛車の打ち込みと、後手陣の手薄い5三地点をガードして一石二鳥である。「いやあ、いい手だったねえ」と先チャンも感心していた。
 実戦は金桂交換となった。△8一同飛では、△8六飛と激しくいく手もあった。▲同角は△同角で、以下▲7七桂には△7九角が激痛だ。後手の美濃囲いは飛車打ちには怖いところがない。



 第5図以下の指し手
△5七銀成▲6六飛△5五角▲6二飛成
△7七角成▲同 金△8四飛▲7五角
△5四飛▲5五歩 △同 飛 ▲3四桂
△3一玉▲5七角 △同飛成(第6図)


 ▲3六桂に構わず、コーヤンは△5七銀成と成り込んだが、△3五金や△2四金と手堅く受けて▲3四桂の筋だけ気をつけておけば分かりやすかった。
 ▲6六飛に△5五角と逃げた手が「ありえない」とコーヤンが悔やんだ手。▲6二飛成で一大事となった。▲3四桂に備えて、5一の退路を確保すべきで「角を逃げずに△6三歩ぐらいでよかった」。
 △8四飛は、飛車の横利きで▲3四桂を防いだ手。先手は▲7五角~▲5五歩と飛車をいじめにいく。とにかく▲3四桂が実現しないと先手は勝てない。
 ▲5五歩に△同飛と取ったのが悪手。負ければ敗着になっていたところだ。ここは△6八角▲4九玉△4四飛と王手で手順にかわせばよかった。以下▲4五歩△同桂▲5三角成△3三玉(B図)で後手玉は寄らず。先手玉は△3七桂不成以下の詰めろになっているので後手一手勝
ちだった。



 実戦はついに▲3四桂と跳ねさせてしまった。△3一玉に▲5七角と銀を取る手が気持ちいい。次の▲2二銀の詰みと▲4二歩△同金▲5一竜の筋が受からないのだ。
 コーヤンは観念したように△5七同飛成としたが…。



 第6図以下の指し手
▲5八銀△6八金 ▲同 竜△同 竜
▲同 玉△6四飛 ▲6七金△3四飛
▲3五歩△7四飛 ▲7六歩△8八角
▲7七桂△9九角成▲3六飛△1四角
▲2六飛△6一香 ▲3四銀△7七馬
▲同 玉△5八角成(投了図)
 まで、112手で中田七段の勝ち。


 先チャンは逆転勝ちの手ごたえを感じていた。竜の王手を防げば、▲5八歩と受ければコーヤンは投了していたかもしれない。
 ところが、勝利を目前に先チャンは色気を出してしまった。
 “どうせ勝つんだったらかっこよく決めてやれ”
 先チャンの指が6七の銀をつまみ、さっと5八へ。▲5八銀――。
 ああ、それだけは!!!
 遊び駒を活用しつつ。6二竜の利きが通る▲5八銀は、いかにもプロ好みの受けである。しかし、この場合は最悪の手なのだ。
 △6八金からばらして△6四飛。なんと、王手で3四の桂が抜かれてしまった。
 再逆転で、コーヤンの勝利となった。
 「歩を打ってれば勝ってたろー」と、先チャンは投了直後に叫んだ。実験将棋とはいえこんな負け方はやはり悔しい。



  結論

 非常に面白い将棋だったが、まとめとして結論を報告したい。ふたりが戦前に予想していた通り、やはり飛車を持った方が有利なのは確かなようだ。一歩を確実に得できるのは大きい。
 7六の歩を取ったら△8二飛から棒銀。それで角側が勝ちにくいだろう。
 先チャンとコーヤンに若手棋士ふたりが加わり、1時間近くもあれこれと検討がなされた。通常ではぜったいに現れない将棋だが、どちらが有利かはっきりさせたがるのはプロ棋士の性なのだ。
 この手合で互角の勝負をするには次の結論に達した。
 初形がC図のように7六歩と3六歩が突いている状態から指し始めること。



 C図の形なら、飛車側か先手を持っても一歩を取られることはない。みなさんも試しに指してみてはいかがだろう。

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結果は中田七段(飛飛)の逆転勝ちでしたが、終盤は先崎九段(角角)優勢で進んでいました。とはいえ、局後の検討では、飛車側がやや有利というのが当時の結論でした。
もっとも明日の番組は1手5秒の超超早指し。何が起こるかわかりません。さあ、どちらが勝つんでしょうか。



 
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