2016.10.06
新刊案内「内藤國雄のすべて」@サイン本予約受付中 ~「この子は将来名人になる」谷川少年戦自戦記~
こんにちは。
「神は細部に宿る」でおなじみの編集部島田です。
やや久しぶりの新刊案内いきます。本日紹介するのは大物です。10月26日発売予定の内藤國雄九段の新刊、その名も「内藤國雄のすべて」。
本書は「自在流」と呼ばれる華麗な棋風で活躍し、昨年引退された内藤國雄九段の棋士人生56年の集大成と言える、記念碑的な一冊となっております。
収録している内容は以下の通りです。
・巻頭インタビュー
・自戦記(+対局相手とのエピソード)
・観戦記
・タイトル戦解説(将棋年鑑形式)
・詰将棋(解説付き、『実戦初形』『ベン・ハー』など)
・必至
・どっちが勝ち
・エッセイ
・対局データ
これ以上ない盛りだくさんの内容となっております。多方面で溢れんばかりの才能を発揮された内藤國雄九段だからできる書籍内容といえましょう。まさにタイトル通り「内藤國雄のすべて」です。
さて、これだけあるとどこを紹介しようか迷いますが、やはりメインの自戦記から一局いきたいと思います。
自戦記には
・VS升田幸三 憧れの人との初対局
・VS大山康晴 生涯最高の一着「▲3六歩」
・VS塚田正夫 盤上大荒れ盤外静寂
・VS佐藤大五郎 初の棋戦優勝
・VS山田道美 緩手をとがめる猛攻
・VS二上達也 ひねり出した端の角
・VS中原誠 初タイトル獲得の一局
・VS大内延介 決勝にふさわしい熱戦
・VS米長邦雄 緊張の中に楽しさ
・VS加藤一二三 前代未聞の一局
・VS有吉道夫 火の玉流を攻め倒す
・VS谷川浩司 光速の寄せの片鱗を見る
・VS羽生善治 予定の順に誤算
と、これまたどれを紹介しようか迷う面白いものばかりなんですが、今日は私の独断と偏見で「谷川浩司戦 光速の寄せの片鱗を見る」を紹介したいと思います。
本局は昭和46年8月14日、商店街の広場に舞台を作って行われた公開対局。内藤先生31歳、対する谷川先生はなんと9歳。神戸新聞に掲載されたバリバリのトップ棋士と地元期待の天才少年による二枚落ち対局です。
この歴史に残る一局を内藤先生の自戦記で振り返れるという贅沢。プライスレス。
さて、早速将棋を見てみましょう。
下手の谷川先生は元気な仕掛け。厳密には▲4八銀~▲4七銀としてから▲3四歩とした方がいいそうですが、積極的です。ここから盤面中央で激しい戦いが起こり局面は下図に。
下手は飛車の成り込みに成功しましたが上手の玉は空中遊泳。さらに角を取られてかなり攻め込まれています。ここからA級棋士に勝てと言われたら・・・まぁ無理です。
局面は今上手が△6五銀と歩を取りながら進軍したところ。
普通なら銀取りをかわしながら相手玉にプレッシャーを掛ける意味で▲5五銀とします。よね?
しかしかかし!ここで谷川少年の一手は▲5五銀打!!
なぬーーー!?
銀タダですけど!?
でもここ▲5五銀では△7八銀成▲同玉△6六桂▲6九玉△7八金▲5九玉△7七角▲4八玉△5八桂成▲同玉△5五角成!(下図)で銀を抜かれて一巻の終わりなんですね。
にゃるほど。この手には内藤先生も驚いたと書いています。
「次の▲5五銀打に驚いた。9歳の少年が指せるような手ではない。鋭さだけでなく、懐の深さも感じさせる一着であった」(本文より)
さて、谷川少年の好手が出ましたが上手も伝家の宝刀「入玉狙い」で激戦が続き、局面はいよいよクライマックスを向かえます。
かなり際どい場面。ここで内藤先生の読み筋は▲8九桂△同成桂▲9八銀△9六玉▲6七竜でまだ戦いが続く、というもの。
しかし実戦の進行は▲8九桂△同成桂▲9八金!△9六玉▲8四銀!!(下図)まで、谷川少年の勝ち。
次に成桂が取れるので▲9八銀が普通の感覚ですが、▲9八金と打って▲8四銀でなんと受けなし。おそるべし。
本文を見てみましょう。
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▲8九桂△同成桂――次に銀でなく▲9八金と打たれた瞬間ハッとした。
詰将棋では最終手に金を打つことが多く、またこの将棋では後に▲8九銀と成桂が取れるから、9八に打つのは銀だと決め込んでいたのである。△9六玉に▲8四銀(投了図)で受けなし。谷川は後に名人となり、”光速の寄せ”とうたわれるが、その片鱗がここに表れた。
10手以上前から秒読みが始まっていたが、突然の終了で観戦の人たちも驚かれたようであった。
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はぁ~。すごいわー。もちろんその場にはいないんですが、観客の一人の気になって思わずパチパチパチと拍手を贈りたい気持ちになりました。終局後、内藤九段は「この子はプロ入りすれば名人になる」と記者の方に言ったとか。実際そうなったところがまたすごいです。
さて、今回は自戦記の中から1局だけ紹介しましたが、最初に述べた通り本書にこういう自戦記が13局、さらに観戦記やタイトル戦解説、詰将棋や必至やエッセイと本当に盛りだくさんの内容になっています。
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