忘れない一局|将棋情報局

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忘れない一局

お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中 先週の初めに編集部で、河口先生の文章で何が印象深いか、そんなような話になった。
私も咄嗟に思い付いた一局があったが、なかなか口に出せずにいた。
私は先生と直接お会いしたことはない。
しかもその一局というのが、文章もさることながら、対局内容の印象が強い一局のため、このような場にはあまりふさわしくないと思ったからだ。
しばらくして、遠慮がちに私がその一局を口にすると「よくぞご存じで」とおどけた口調で、先輩が面白い話を聞かせてくれた。
最後の打ち合わせで、河口先生が次の書籍化の際に収録したいと強く希望した一局が、まさにこの一局だと言うのである。
 
今あらためて読み返すと、当時まだ小学生だった自分に指し手の意味を理解できたとはとても思えない。
しかし、体に染み込ませるように必死に手順を反芻し続けていたことを、今でも覚えている。
 
253手の大熱戦、最後の場面だけ紹介します。
 
 
(新・対局日誌より 1997年9月17日 A級 ▲森下卓八段-△森内俊之八段)
 
森内八段はとっさに△9六金と捨て、△9七竜と活用する。やっぱり寄っているように見える。

 第5図以下の指し手
▲8七金打△同 と ▲8五竜 △8六竜
▲同 竜 △同 と ▲3四銀 △1六玉
▲1九香           (第6図)
 ついに止めの一手が出る。▲8七金打が好手。これで森下八段は勝ちを確信しただろう。△同と、と取るよりなく、▲8五竜で包囲網が破れた。△8六竜は最後の食いさがりだが、あまりに駒を渡しすぎた。
 ころやよしと森下八段は▲3四銀と打ち、ありあまる持ち駒にものを言わせて詰ます。9五の玉はついに動かなかった。
 並べ終ると、誰もがため息をもらした。ここ五年間で一番の熱戦、に異論はないだろう。まるでよく出来た詰将棋を見たようである。森下八段の「将棋に対する考え方が変るかもしれない」も、お説の通り。
 だが、これほどの応酬もすぐ忘れられてしまう。熱戦は覚えていても、9五の玉をめぐる部分の手順は、二度と現れず、実戦の役に立たない、という理由でである。
 こういう考え方は、どこか誤っている、そういう方向では技術の進歩はありえない、と思うがどうだろう。
 
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私はこの一局を絶対に忘れません。

書籍編集部 米澤孝至
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