遊びから得た財産  九段 青野照市(専務理事)|将棋情報局

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遊びから得た財産  九段 青野照市(専務理事)

お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中 棋界随一の文筆家であり、また粋人であり、私にとっては最後と言ってよい、親しい先輩だった。
最初のつき合いは私が20代の前半で五段の時、河口さんが師範をしている豊田通商の将棋部の方々、勝浦修九段らと、シンガポール、マレーシアに旅行した時からだから、かれこれ40年近くになる。
シンガポールの街を歩いていると、交差点ごとに「見るだけ(女性を)タダよ」と声をかけられて、観光にならない。そこで氏が「よしオレが先頭になって歩く」と言って歩き出したら、誰も寄ってこない。どうやらすでにポン引きにつかまった日本人に見られたようで、「どうだ」と自慢げな氏を見て、面白い先輩だなと思ったのが、第一印象だった。
世界中に支店のある豊田通商の方達とも何度も旅行をしたが、これが後年、北京の春節(正月)の豊田通商杯につながっていった。
また河口さんは、まったくお酒が飲めないのに銀座に出かけ、人と交流するのが好きだった。メンバーズクラブ「マンクマ」での『銀座会』という将棋教室を手伝ったり、文壇バー「アイリーン・アドラー」を紹介されて会った人達は、その後の私の大切な友人にもなっている。
「自分のお金を使って遊んでこそ、真の交流ができる」と言う哲学は、私の中に今も生きている。
多分、私の影響でクラシック音楽を聞き始めたと思うのだが、アッという間に追い抜かされてしまった。亡くなってから御自宅に伺うと、何と千枚くらいのCDがある。同じ曲を違う演奏で聞き、その批評をよく熱く語っていた。練馬区役所で、故・五味康祐のオーディオ装置で聞かせるコンサートがあるから、と教えてくれて出かけたのだが、そこまで行くともうマニアの世界であろう。
それらの遊びから得た知識が、氏の財産であり、名文につながっていると私は思う。いわゆる『引き出しが無限にある』から、いつまでも文章が輝きを失わないのである。
氏の最後のコンサートは昨年11月、私が海外に出かけるので行けなくなったオペラ『ドン・カルロ』だと思う。「やたら長いだけのオペラかと思ったら、名演奏なので驚いたよ」と言ってくれたのが嬉しかった。
亡くなった第一報を私は、大阪の出張中に奥様の留守電で聞いた。2日前は「ICUから出たばかりだから」と、病院名を言わなかったのに、前日には教える電話があったので、会議の最中ずっと気になっていたのだった。
向こうの世界では盟友、芹沢博文(娘さんは博子・文子で名付け親)九段が「河、やっと来たか。ここではお前も酒を飲めよ」と言っているかも知れない。
「死んだ時は音楽で送ってくれ」と言っていたのを聞いた私は、膨大なCDの中から、マタチッチ指揮・チェコフィルの「ブルックナー交響曲」第7番、第2楽章を選んだのだが、納得してもらえただろうか。 お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中
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