ゴルフの師匠  八段 泉 正樹|将棋情報局

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ゴルフの師匠  八段 泉 正樹

お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中 河口先生とはゴルフで師弟の仲だった。
およそ20年前のこと。武者野先輩(勝巳七段)の住む館林ショートコースに若手棋士が集まると知って、はるばる神奈川から河口先生が参上した。
来るなり「まあ、君たちのはゴルフじゃないと思うが見てあげよう」。トゲのある言い回しは先生特有、笑みを返すしかない。
ショートコースは9ホールのパー27。入れ込んでいる若手棋士たちは、今日こそ夢の20台と息まくるが、35程度で回るのがやっと。つまり将棋でいうところの「目指せアマ初段」レベルなのですが、颯爽と現れた先生は「30は切らなきゃ君たちと同等だな」とか言いつつ、なんとあっさり28。1つボギーのあとすべてパーというスコアだった。「悪いけど、アイアンだけならプロと変わりゃあしないんだ」。
プレー後の打ち上げでは、ゴルフ歴20年の思い出話を披露。皆ゴルファーを招いたような感覚で先生の話に聞き入った。面倒見のよい先生は、さらに「君らが本気でうまくなりたいんなら、坂田プロにレッスンしてもらおう」と、すぐさま交友関係の広さを示す。坂田信弘といえば泣く子も黙る「坂田塾」の総帥、レッスンプロの第一人者、数多くの有名ゴルファーを育てた方だ。
河口先生は「坂田さん、泉というのは週5ラウンドする熱の入れようなんだけど、球がどこに飛ぶかわかんない、危険な男です」。もちろん、他の若手たちも粉みじんに紹介されて、この貴重なご指導は数回にわたった。
この影響で、将棋連盟にゴルフ部ができたくらいやる人が増え、「棋士がクラブを振り回して遊んでいるとはなにごとだ!」との批判も多かった。野獣にはそんなご意見は何のその。「河口先生~、そろそろ本格的なコースに連れて行っていください」。週一で、しかも泊り込みで指導を要求。あの「対局日誌」を抱えているのにですよ。
先生は決して誘いを断らない。「昨日はほぼ徹夜で原稿書いたよ」と言っても、ティーグランドに立つと、疲れなど吹っ飛ぶのでしょう。ドライバーは常に真ん中に200ヤードきっちり。古い骨董品かと思えるパーシモンを使用、ボビージョーンズよろしく英国式を醸し出していました。
残り200ヤードの2打目、通常の人なら大きめのクラブでパーオンを狙いますが、先生は「これでいいんだ」と7か8番アイアンをもらい、グリーン手前に難なく運び、3打目のアプローチで1メートル以内に寄せ、パーを拾います。同じ局面でスプーンかクリークを持つ野獣に対し、「泉君、あれだけバンカーが口を空けてしまってんだ。刻む勇気も必要だぞ」と暴走を抑えてくれる。そういえば、OBや池のエジキになって玉を年中買い占めていたのが徐々に少なくなったのも事実。
月3、4回は先生に指導を仰ぎ、順調にレベルアップ。80台がたまに出るようになっていったのです。それと、豈図らんや、対局が絶好調。一時22勝3敗とかで、「野獣のゴルフ三昧生活」が話題となったほど。
「そんなにクラブばっかり振り回しているヤツに負けてられるか!」。反発強し!
次第に成績は落ち着いていきますが、他の先輩方とは違い、河口先生だけは「ゴルフ減らしたのか、それじゃ勝てなくなるのも仕方ないな。逆にもっと極めてみる必要があるんじゃないか」と楽観主義を貫けば道は開けるとの信念があるみたいです。
何を書くにも中途半端を嫌う先生は、よく「勉強すれば勝てるじゃつまらない。魅力ある棋士になってくれよ」と、こんな三流棋士にも期待をかけてくれていた。
ゴルフ帰りには、なぜか銀座に連行された。車だから嫌がると、「あのな泉君、19番ホールを最後にしっかりこなさなきゃ、優雅な遊びとはいえないぞ」と本物志向を訴える。遊びにしても、質の高さを重んじていたのでしょう。
それから数年後、久しぶりでプレーした際「私もそろそろ40で身を固めます。ゴルフもほぼ終了です」と言うと、先生は日焼けした茶色い顔をなお濃くして、「なんだ話が違うじゃないか、ゴルファーになるんじゃなかったのか」と残念がっていました。ロマン派の先生ですから、1人くらいプロゴルファーが棋士から出たら面白いんだけどな、なんて思っていたかもしれません。
「泉君、また腕を磨いといてくれよ」と別れ際にいつも同じ言葉をかけてくれる、先生に悲しい別れの言葉は似合わない。ゴルフを題材として人生勉強をいろいろと、ありがとうございました。 お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中
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