【人気連載第5回!】将棋ガールズ|将棋情報局

将棋情報局

【人気連載第5回!】将棋ガールズ

お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中

ここでは青山学院大学将棋部に所属する現役女子大生、多々納光さんによるエッセイを掲載します。毎週金曜日更新予定です。 今回は第5回分を掲載します。
→これまでの話はこちら

==================================

将棋ガールズ

宮崎の高校選手権(その2)


※宮崎の大会会場
 

宮崎に入って一泊した次の朝、会場となっているホテルシーズン日南に行くと、全国から選手が集まっていた。開会式で宮崎県の代表選手が選手宣誓を行って、試合が始まると、みんな真剣勝負。


※ホテルの宴会場で対局

初戦と二回戦の相手はそれほど強くなかったので、あっさり勝つことができたが、三回戦は青森の強豪で一つ年上の工藤佳織さん。これで勝てば予選を抜けられるので私も当然、勝ちたいと頑張った。

私には実は終盤で時計に追われると、間違えた手を指してしまうという弱点がある。強い相手なのでじっくり指して、角得になり局面は私が有利だった。ところが持ち時間が無くなってきて焦ってしまった。そしてつい、一瞬頭が真っ白になって、悪手だと分かっていた場所に駒を思わずおいてしまった。頭をかかえていた工藤さんは驚いたようだったが、すぐに顔色が生き返った。そこからはずるずると逆転されて、詰まされて負けてしまった。

「どうしたんですかぁ?間違えちゃいました~?」
感想戦で微笑みながら言われた時にはさすがにショックが大きかった。
予選は3勝勝ち抜けで2敗すると予選落ち。これ以上負けるわけにはいかない。はるばる飛行機で宮崎まで来たのに・・・。四回戦の相手は京都の子で強かったが、なんとか詰ませて勝ち切れた。すると、投了したばかりの彼女が憤慨したように言った。
「あなた、だれ?知らない子ね、中学選抜に出てたっけ!?私は3年間、出場したんだけど?」
なんて失礼なと思ったけれど、将棋をする関西女子はきっと負けん気の強い勝気な人が多いのかも。

とにかく私はこれでトーナメントへ進出した。トーナメント一回戦は東北女子強豪の山形の阿部美鈴さん。実は私の方がまずいと心の中でびびっていたのだが、掲示されたトーナメント表にみんなが集まって見ているとき、私の顔を知らない美鈴ちゃんが、私が目の前にいるとは気づかずに、友達に話しかけたのが聞こえた。
「わ~ 私の相手は東京の人だ。こわい、どうしよう。」
この人が阿部さんか、東京代表だというだけで、知らない相手を強いのかもしれないと恐れているんだな、私にも勝ち目があるかも。そのとき、やっと私の気持ちが落ち着いた。阿部さんは強かったが、私は相手と雰囲気にのまれることなく冷静に対局できたので、長い将棋の勝負の果てになんとか勝ち切れた。

ベスト8に勝ち残ったメンバーを見ると、やはり名前を知っている人ばかり。私の相手は二つ年上の山形の小林愛美さん。女子は各都道府県から2~3人の代表がいて人数が多かったので、私と小林さんを除くベスト8の六人が最終局を始めた時には、午後6時を過ぎていた。男子はその日の対局を終えてベスト4まで決定し、準決勝は次の日に再集合となるので、すでに対局場から帰ってしまっていた。
私の相手の小林さんは、一局前の相手との対局が長引き、私たちが対局を開始したのは午後9時近くになっていた。他の六人はもう対局を終えていた。


※最終局の様子

小林さんはいきなり居玉のまま攻めてきた。当時の私は、将棋教室で習ったお行儀のよい居飛車や矢倉囲いの将棋を主に指していたので、7筋から三間飛車で奇襲してこられて動揺してしまい、危なっかしい棒金で応戦するしかなかった。それでも、なんとか上手く囲って飛車金交換で駒得し、局面はいけそうな気がしていた。

ところが対局しているうちにだんだんと部屋が蒸し暑くなってきた。暑い8月の宮崎だったが、ホテルの人が節電のために冷房を切ってしまったらしい。タオルで顔の汗を何度も拭きながら考えていたのだが、頭が回らなくなってきた。そうこうするうち、少しずつ局面が悪くなっていき、いつのまにか負けていた。呆然となって涙がポロポロこぼれた。私の高校選手権、高校生になって初めての夏はこうして全国5位という戦績に終わった。


※入賞記念はヤシの木の絵柄の盾

優勝者は岩手の小山田友希さん、準優勝は宮崎の山口絵美菜さんで、二人とも私と同じ高校1年生だった。全国大会で知り合いになって以来、私たちは今も仲良しの友達。閉会式が終わって、ちょっと面白いことがあった。将棋連盟の担当者が、今回の結果のお祝いとして、小山田さんに二段、山口さんに初段免状を差し上げると申し出たとき、二人とも自分は三段なのでいらないとお断りしていたこと。私ですら連盟道場では三段なのに、全国で決勝戦に出て初段はないよねぇと笑ったが、きっと女子高生の棋力に対する認識は昔のままなんだろうな…。

お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中
将棋情報局では、お得なキャンペーンや新着コンテンツの情報をお届けしています。

著者