2015.06.08
【ノーカット版】天野貴元さんが嬉野流編を語る
お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中
ここでは将棋世界7月号に掲載されている「天野貴元さんが話題の新刊『奇襲研究所 ~嬉野流編~』を語る」のノーカット版をお送り致します。
誌面には入りきらなかった嬉野流の魅力や天野さんご自身の活動など、盛りだくさんの内容です。どうぞご覧ください。
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5月23日(土)に発売され、早くも大きな話題となっている書籍「奇襲研究所 ~嬉野流編~」。
元奨励会三段の天野貴元さんによるもので、初手から▲6八銀!△3四歩▲7九角!という奇想天外な出だしで始まる「嬉野流」を解説した一冊だ。
今回、天野さんに嬉野流との出会いから将棋への思いまで、熱く語っていただいた。
嬉野さんの初手がまさかの
▲6八銀!で(笑)
―本日はよろしくお願いいたします。
「よろしくお願いします」
―まずは、今話題の嬉野流との出会いから教えてください。
「私は2010年に三段リーグを退会したのですが、それから1年ほど将棋から離れていました。
1年して将棋の世界に戻ってきたのですが、戻ってきた場所というのは、ある東京の企業の将棋部でした。
幹事をされていた方が私の元生徒さんで、『遊びに来てもらえませんか?』と誘っていただいたのがきっかけです。
そこには、社内の将棋部員の他に、何かの縁で集まった外部の方も多くいらっしゃったのですが、その中の一人が嬉野さんでした」
―そういう出会いだったのですね。嬉野さんはどういった方なんですか?
「九州出身のアマチュアの方です。同じく九州出身の深浦康市九段、とまではいかないまでも、地元では名の知れた強豪だったようです。失礼ながらお会いしたときは存じ上げなかったのですが」
―なるほど、それで書籍の冒頭にも書いてあるように、天野さんと嬉野さんが対局することになったんですね。
「そうです。平手で挑んで来られたので、強気な人だなーと。どんな将棋を指してくるんだろうと思って見ていたら、嬉野さんの初手がまさかの▲6八銀!で(笑)。え?なに?このオッサン、となったわけです」
―まぁそうなりますよね(笑)そのあとはどうなったんですか?
「▲6八銀△3四歩▲7九角となったときに誰しもが最初に思うのは△8四歩と突いたらどうするの?ってことじゃないですか。
飛車先の歩交換が避けられませんから。私も△8四歩から飛車先を伸ばしていって、労せずして歩を交換できたんですが、そこで指されたのがこれまたびっくりの▲8八歩!で。
えっ?8七じゃねぇの?って(笑)」
―思いますよね。
「感想戦で嬉野さんが▲8七歩と打つと棒銀が受けにくい、ということと、将来△8八歩と打たれて▲同金で壁にされるのが嫌だとおっしゃっていました。あ、この人つえーなと(笑)。
見たこともない戦法でしたが、意外に理にかなっていて、自分でも研究してみようかなと思ったのが始まりです。
嬉野さんもある程度研究されていたようで、完成度は高かったんですが、ところどころ雑な部分もあったので、その辺りを私が研究してカバーした、という感じです」
―なるほど。それからご自身で研究して、ネット対局で試しながらこの戦法を磨いていったわけですか?
「いや、ネットで使う前にいきなり実戦に投入しました。加古川青流戦の選抜予選で、中川慧梧さんに当たったんですが、そこで初手▲6八銀から少し違う形で嬉野流を試したら勝っちゃったんですよ。マジか(笑)、と思いましたね」
―またすごい相手に使いましたね。
「逆にトップクラスのほうが一発入ると思いました。いつも力で勝負してくるようなアマチュアより、目が慣れてないだろうと思って」
嬉野流は急戦矢倉と
同じくらい優秀な作戦
―衝撃的な出会いとデビューでしたね。続いて嬉野流の魅力について教えてください。
「まずは誰が相手でも使える、ということですね。羽生さんにでも、10級の初心者にも使えます。
そして、自分から動いていけるのも大きな魅力です。相手の出方を見て、この時はこう、この時はこうと研究していくのはアマチュアの方にとっては大変でしょうし、疲れてしまいます。その点、嬉野流は基本的に自分から速攻を仕掛けていく作戦なので、覚えることは少ないですし、気分もいいです」
―相手を驚かせる楽しさもありそうですね?
「目が慣れていませんからね。将棋を覚えたばかりの頃、初手▲6八銀と指すと△3四歩▲7六歩と進んだとき角をタダで取られてしまうので、先に▲6八銀と上がってはいけないと教わります。嬉野流はその大前提に反するわけですから、普通びっくりしますよね」
―嬉野流を指す上でのコツや心構えはありますか?
「玉を囲うことを考えないことです。囲おうとしても堅くなりませんし、相手の囲いが完成する前に攻めることが主眼の戦法なので、そこを意識して使ってほしいと思います。
現代将棋は穴熊や銀冠など、堅く囲うことが主流で、それが良しとされていますが、嬉野流はそういった考え方とは一線を画す戦法です。
嬉野流を採用する場合は、『囲わないで勝つ』ことを念頭に置いてほしいですね」
―なるほど、出だしのインパクトもさることながら、考え方も斬新な戦法ということですね。
「はい。嬉野流をナメると怪我するぞ、と言いたいですね(笑)。
正直、いい戦法だと思いますよ。急戦矢倉と同じくらい優秀な作戦なんじゃないかと考えています。
奇襲戦法の一つ、という位置づけですけど、戦法自体の優秀性でいえば、奇襲のワクを超えていると思います。でも、今のところ嬉野さんと私しか使っていないので、やっぱり奇襲戦法ですかね(笑)」
―続いて、書籍の執筆についておうかがいします。今回、初めての戦術書ということでしたが、いかがでしたか?
「初めてでしたので、手探りの部分もありましたが、最終的には恥ずかしくないものができたと思っています」
―前著『オール・イン』(宝島社)との違いはどの辺りに感じましたか?
「私は書くことに関しては全く苦にならないのですが、戦術書の場合、手順や研究の内容が伴っていなければいけません。私はアマチュアですが、戦術書を出す以上は、戦術の内容の面でプロの水準にも引けをとらないものにしなければ、出す意味がないと思っていました。その点少し不安もあったのですが、データを集め研究もして、いいものになったのではないかと思っています」
―逆に楽しかったことはありますか?
「今回の嬉野流などは特にそうなんですが、実用性があることですね。私自身大会でこの戦法を使っていますから。そういう意味では執筆しているというより、研究しているという方が感覚的に近かったですね」
―タイトルも「奇襲研究所」となっていますしね。
「そうですね。奇襲と研究は一見すると相反する言葉に見えるかもしれません。普通研究されるのは定跡で、定跡を研究しないような人が奇襲を用いるわけですから。奇襲を研究する人なんてそうはいません。だからこそ逆に『奇襲』を大真面目に『研究』していることを謳ったタイトルにすれば、インパクトがあるかと思ってこのタイトルにしました」
そろそろ自由に指したいなと思っています
―ここからは最近の天野さんご自身の将棋との関わり方について教えていただけますでしょうか。
「先日三段リーグ編入試験を受けました。全力は尽くしたんですが、結果は残念ながら不合格でした。悔しいですが、ベストは尽くしたので納得しているところもあります。
天野さんの編入試験の結果
○?○?○○? 4勝3敗で不合格
三段リーグ復帰はなりませんでしたが、これで将棋人生が終わるわけではありませんし、未来がどうなるかは誰にも分かりません。へこたれずに一から出直して、またアマ大会で活躍できるように頑張ります」
―これから将棋を続けていくに当たってどのような将棋を指していきたいですか?
「編入試験のときに思ったのですが、三段リーグの将棋というのはとてもカラくなってしまうんですよね。自分が指したい将棋というよりは、とにかくカラく、手堅く、という将棋になりがちです。
それもあってアマチュアに戻ったときに、これからは自分の将棋を指そうと思ったんです。
嬉野流もそうですが、自分らしい自由な将棋を指した結果、赤旗名人になることができ、編入試験の受験資格も得ることができました。だからこそ試験本番もそういう将棋で、好き放題指してやれ、と思ったんです。
でも、できなかったんですよね。
始まる前は全局嬉野流でいってやるなんて思っていたんですが、いざあの現場に座って奨励会の空気を吸ってしまうと、どうしても指すことができなかったんです。本能的にカラく指してしまう、そういう体になってしまっていたんですね。
アマチュアの世界に戻って将棋を続けていくに当たって、そろそろ自由に指したいなと思っています」
―いつか全局嬉野流が見たいです。楽しみにしています。では最後に読者の方に一言いただけますでしょうか。
「そうですね。この本で将棋の奥深さを知っていただければいいなと思っています。こんな手もあるんだっていう。
だって、初手▲6八銀なんて、こんな手ないでしょう?普通(笑)。
でも、じゃあどうやってとがめるの?と聞かれたら、実際は難しい。将棋はそう簡単に断定できるゲームじゃないんですね。この本で『将棋には無限の可能性がある』ということを知っていただければ著者として何よりうれしいです」
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誌面には入りきらなかった嬉野流の魅力や天野さんご自身の活動など、盛りだくさんの内容です。どうぞご覧ください。
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5月23日(土)に発売され、早くも大きな話題となっている書籍「奇襲研究所 ~嬉野流編~」。
元奨励会三段の天野貴元さんによるもので、初手から▲6八銀!△3四歩▲7九角!という奇想天外な出だしで始まる「嬉野流」を解説した一冊だ。
今回、天野さんに嬉野流との出会いから将棋への思いまで、熱く語っていただいた。
嬉野さんの初手がまさかの
▲6八銀!で(笑)
―本日はよろしくお願いいたします。
「よろしくお願いします」
―まずは、今話題の嬉野流との出会いから教えてください。
「私は2010年に三段リーグを退会したのですが、それから1年ほど将棋から離れていました。
1年して将棋の世界に戻ってきたのですが、戻ってきた場所というのは、ある東京の企業の将棋部でした。
幹事をされていた方が私の元生徒さんで、『遊びに来てもらえませんか?』と誘っていただいたのがきっかけです。
そこには、社内の将棋部員の他に、何かの縁で集まった外部の方も多くいらっしゃったのですが、その中の一人が嬉野さんでした」
―そういう出会いだったのですね。嬉野さんはどういった方なんですか?
「九州出身のアマチュアの方です。同じく九州出身の深浦康市九段、とまではいかないまでも、地元では名の知れた強豪だったようです。失礼ながらお会いしたときは存じ上げなかったのですが」
―なるほど、それで書籍の冒頭にも書いてあるように、天野さんと嬉野さんが対局することになったんですね。
「そうです。平手で挑んで来られたので、強気な人だなーと。どんな将棋を指してくるんだろうと思って見ていたら、嬉野さんの初手がまさかの▲6八銀!で(笑)。え?なに?このオッサン、となったわけです」
―まぁそうなりますよね(笑)そのあとはどうなったんですか?
「▲6八銀△3四歩▲7九角となったときに誰しもが最初に思うのは△8四歩と突いたらどうするの?ってことじゃないですか。
飛車先の歩交換が避けられませんから。私も△8四歩から飛車先を伸ばしていって、労せずして歩を交換できたんですが、そこで指されたのがこれまたびっくりの▲8八歩!で。
えっ?8七じゃねぇの?って(笑)」
―思いますよね。
「感想戦で嬉野さんが▲8七歩と打つと棒銀が受けにくい、ということと、将来△8八歩と打たれて▲同金で壁にされるのが嫌だとおっしゃっていました。あ、この人つえーなと(笑)。
見たこともない戦法でしたが、意外に理にかなっていて、自分でも研究してみようかなと思ったのが始まりです。
嬉野さんもある程度研究されていたようで、完成度は高かったんですが、ところどころ雑な部分もあったので、その辺りを私が研究してカバーした、という感じです」
―なるほど。それからご自身で研究して、ネット対局で試しながらこの戦法を磨いていったわけですか?
「いや、ネットで使う前にいきなり実戦に投入しました。加古川青流戦の選抜予選で、中川慧梧さんに当たったんですが、そこで初手▲6八銀から少し違う形で嬉野流を試したら勝っちゃったんですよ。マジか(笑)、と思いましたね」
―またすごい相手に使いましたね。
「逆にトップクラスのほうが一発入ると思いました。いつも力で勝負してくるようなアマチュアより、目が慣れてないだろうと思って」
嬉野流は急戦矢倉と
同じくらい優秀な作戦
―衝撃的な出会いとデビューでしたね。続いて嬉野流の魅力について教えてください。
「まずは誰が相手でも使える、ということですね。羽生さんにでも、10級の初心者にも使えます。
そして、自分から動いていけるのも大きな魅力です。相手の出方を見て、この時はこう、この時はこうと研究していくのはアマチュアの方にとっては大変でしょうし、疲れてしまいます。その点、嬉野流は基本的に自分から速攻を仕掛けていく作戦なので、覚えることは少ないですし、気分もいいです」
―相手を驚かせる楽しさもありそうですね?
「目が慣れていませんからね。将棋を覚えたばかりの頃、初手▲6八銀と指すと△3四歩▲7六歩と進んだとき角をタダで取られてしまうので、先に▲6八銀と上がってはいけないと教わります。嬉野流はその大前提に反するわけですから、普通びっくりしますよね」
―嬉野流を指す上でのコツや心構えはありますか?
「玉を囲うことを考えないことです。囲おうとしても堅くなりませんし、相手の囲いが完成する前に攻めることが主眼の戦法なので、そこを意識して使ってほしいと思います。
現代将棋は穴熊や銀冠など、堅く囲うことが主流で、それが良しとされていますが、嬉野流はそういった考え方とは一線を画す戦法です。
嬉野流を採用する場合は、『囲わないで勝つ』ことを念頭に置いてほしいですね」
―なるほど、出だしのインパクトもさることながら、考え方も斬新な戦法ということですね。
「はい。嬉野流をナメると怪我するぞ、と言いたいですね(笑)。
正直、いい戦法だと思いますよ。急戦矢倉と同じくらい優秀な作戦なんじゃないかと考えています。
奇襲戦法の一つ、という位置づけですけど、戦法自体の優秀性でいえば、奇襲のワクを超えていると思います。でも、今のところ嬉野さんと私しか使っていないので、やっぱり奇襲戦法ですかね(笑)」
―続いて、書籍の執筆についておうかがいします。今回、初めての戦術書ということでしたが、いかがでしたか?
「初めてでしたので、手探りの部分もありましたが、最終的には恥ずかしくないものができたと思っています」
―前著『オール・イン』(宝島社)との違いはどの辺りに感じましたか?
「私は書くことに関しては全く苦にならないのですが、戦術書の場合、手順や研究の内容が伴っていなければいけません。私はアマチュアですが、戦術書を出す以上は、戦術の内容の面でプロの水準にも引けをとらないものにしなければ、出す意味がないと思っていました。その点少し不安もあったのですが、データを集め研究もして、いいものになったのではないかと思っています」
―逆に楽しかったことはありますか?
「今回の嬉野流などは特にそうなんですが、実用性があることですね。私自身大会でこの戦法を使っていますから。そういう意味では執筆しているというより、研究しているという方が感覚的に近かったですね」
―タイトルも「奇襲研究所」となっていますしね。
「そうですね。奇襲と研究は一見すると相反する言葉に見えるかもしれません。普通研究されるのは定跡で、定跡を研究しないような人が奇襲を用いるわけですから。奇襲を研究する人なんてそうはいません。だからこそ逆に『奇襲』を大真面目に『研究』していることを謳ったタイトルにすれば、インパクトがあるかと思ってこのタイトルにしました」
そろそろ自由に指したいなと思っています
―ここからは最近の天野さんご自身の将棋との関わり方について教えていただけますでしょうか。
「先日三段リーグ編入試験を受けました。全力は尽くしたんですが、結果は残念ながら不合格でした。悔しいですが、ベストは尽くしたので納得しているところもあります。
天野さんの編入試験の結果
○?○?○○? 4勝3敗で不合格
三段リーグ復帰はなりませんでしたが、これで将棋人生が終わるわけではありませんし、未来がどうなるかは誰にも分かりません。へこたれずに一から出直して、またアマ大会で活躍できるように頑張ります」
―これから将棋を続けていくに当たってどのような将棋を指していきたいですか?
「編入試験のときに思ったのですが、三段リーグの将棋というのはとてもカラくなってしまうんですよね。自分が指したい将棋というよりは、とにかくカラく、手堅く、という将棋になりがちです。
それもあってアマチュアに戻ったときに、これからは自分の将棋を指そうと思ったんです。
嬉野流もそうですが、自分らしい自由な将棋を指した結果、赤旗名人になることができ、編入試験の受験資格も得ることができました。だからこそ試験本番もそういう将棋で、好き放題指してやれ、と思ったんです。
でも、できなかったんですよね。
始まる前は全局嬉野流でいってやるなんて思っていたんですが、いざあの現場に座って奨励会の空気を吸ってしまうと、どうしても指すことができなかったんです。本能的にカラく指してしまう、そういう体になってしまっていたんですね。
アマチュアの世界に戻って将棋を続けていくに当たって、そろそろ自由に指したいなと思っています」
―いつか全局嬉野流が見たいです。楽しみにしています。では最後に読者の方に一言いただけますでしょうか。
「そうですね。この本で将棋の奥深さを知っていただければいいなと思っています。こんな手もあるんだっていう。
だって、初手▲6八銀なんて、こんな手ないでしょう?普通(笑)。
でも、じゃあどうやってとがめるの?と聞かれたら、実際は難しい。将棋はそう簡単に断定できるゲームじゃないんですね。この本で『将棋には無限の可能性がある』ということを知っていただければ著者として何よりうれしいです」
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