【ノーカット版】コンセンの中飛車左穴熊・後手向かい飛車編|将棋情報局

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【ノーカット版】コンセンの中飛車左穴熊・後手向かい飛車編

お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中 将棋世界で好評連載中の「コンセンの中飛車左穴熊・後手向かい飛車編」。

ここでは将棋世界11月号に掲載した、今泉健司四段による「コンセンの中飛車左穴熊・後手向かい飛車編」のノーカット版をお送りします。

中飛車志向に対し、後手が向かい飛車で応じるのはしばしば見る形。ぜひこれを読んで、実戦でお試しください。

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みなさん、こんにちは。今泉健司です。
最近、なぜか三段リーグの夢を見るんです。やっぱり勝負の世界に入っていちばん苦しかった時期がそこだからなのかな。まあ、それだけならよくある話だと思うのですが、なぜか相手がいつも阪口君(悟五段)なんですね。奨励会では一局も指していないのに、何でやろ?
こういう夢を見るってことは多少、過去にとらわれているところもあるんでしょうか。プロ入りして半年経って、戦績はここまで4勝4敗(9月4日現在)と平凡な数字です。
自分の中では「俺はもっとやれる」という思いですが、周囲の人からは「こんなもの」と見られているんだろうな、という気もして……。まあ、自分としては全力で指すしかないわけで、これまで以上に気合を入れていきます!
これからは未来志向で、タイトル戦で戦うのを夢見て頑張ります! あ、夢で見るのが夢じゃないですよ?
さあ、今月は対向かい飛車編に移ります。張りきっていきましょう。
◇ ◇ ◇
初手からの指し手
▲5六歩△3四歩 ▲5八飛△3三角
▲7六歩△4四歩(第1図)▲7七角
△2二飛(第2図)

第1のポイント

これまでの対三間飛車編では後手は△3二飛と早々に飛車の位置を明示していました。それに対して左穴熊側は、▲5五歩と角道を止め、駒組みを進めていましたね。しかし、相手が向かい飛車を目指してきた場合は、ちょっと気をつけたいポイントが出てきます。順に説明しましょう。

後手は△3三角~△4四歩(第1図)と2筋に飛車を振る用意をしてきますが、ここで▲7七角が第1のポイント。▲5五歩でも左穴熊にはできますが、角上がりのほうが少し得なのです。また、▲6八玉はここではちょっと早く、以下△8四歩▲7八玉△8五歩(A図)と居飛車にされて損をします。

そういうわけで▲7七角が、さまざまな変化に対応した柔軟な一手なのです。後手はここで△2二飛(第2図)と向かい飛車を明示してきました。

第2図以下の指し手
▲4八銀△4二銀 ▲6八玉△2四歩
▲5七銀△2五歩 ▲2八飛(第3図)

第2のポイント

早めの▲4八銀が地味ながら大切で、後手の△2四歩にも▲5七銀といち早く銀を活用するのが第2のポイントです。
それはなぜか。
理由はすぐに明らかになります。△2五歩に▲2八飛を間に合わせるためだったのですね。
「でも、これって2手損じゃない?」と思われますよね。ええ、私も思いました。それだけに初めて見たときは衝撃を受けましたね。これもまた左穴熊の歴史を変えた一手なのですが、ではこの驚愕の手を指したのが誰かというと、例によって菅井竜也六段なんです。形は少し違いますが、平成25年1月の朝日杯、丸山忠久九段戦で現れました。いやあ、どれだけ新手を生み出すつもりなんでしょう、彼は。
ぱっと見、ただの2手損に見えるこの手がなぜすごいのか。△2六歩を防いだ以外の意味があるのか。それをこれから見ていきましょう。

第3図以下の指し手①
△6二玉▲7八玉 △7二玉▲8八玉
△8二玉▲9八香 △7二銀▲9九玉
△5二金左▲8八銀△6四歩▲6六銀
△4三銀(第4図)

まずは穴熊に囲う

第3図から双方駒組みに戻ります。
先手の指し手の方針は非常に分かりやすいと思います。着々と玉を固め、しっかりと穴熊に囲いきりました。金はまだ離れてはいますが、ここまでくれば一安心です。
左穴熊の目標がまずは穴熊に囲うことであるのは、向かい飛車編でも同様です。第4図でひとまず、第1目標はクリアできました。次の目標は戦いを起こすことができるかです。

第4図以下の指し手①
▲7五銀△6三金 ▲8六角△6二飛
▲2六歩(第5図)

2筋の逆襲

先手は▲7五銀といよいよ攻撃に移ります。△6三金の守りには▲8六角の足し算で6筋を狙います。後手もまた△6二飛の足し算で受け、攻め足が止まったかに見えたところで、先手に気持ちのいい追撃がありました。
もうお分かりですね。
そう、▲2六歩の逆襲が先手の真の狙いだったのです。

第5図以下の指し手
△2六同歩▲同 飛△2四歩▲5九金右
△7四歩▲6六銀 △2二飛▲6八角
△2五歩▲2八飛 △2六歩▲2四歩
△同 角▲2六飛(第6図)
まで、先手有利

先手成功

▲2五歩と取り込まれてはいけないので、△2六同歩は仕方ありませんが、▲同飛で飛車がさばけました。
後手は△7四歩で銀を追い返してから、△2二飛で再度の2筋逆襲を狙いますが、▲6八角がちょうど間に合いました。

△2五歩から2筋を伸ばす手には、▲2四歩~▲2六飛(第6図)がぴったり。かといって△2五歩で、後手が何もしなければ▲3六歩~▲3七桂と味のよい手が続きます。
第6図は大駒のさばきが確定して、先手有利の形勢です。
もうひとつ先手の成功例を見てみましょう。こちらは5筋の位を取らなかったことを生かした手順です。

第4図以下の指し手②
▲5五銀△6三金 ▲8六角△6二飛
▲2六歩△同 歩 ▲同 飛△2四歩
▲5九金右△6五歩▲3六歩△4五歩
(第7図)

もうひとつの攻め方

▲7五銀では▲5五銀とこちらに出る手も有力です。
▲6四銀の突進を避けるために、△6三金~△6二飛は先ほどと同じ。先手の2筋交換も同様です。
後手が2筋から反撃する手にはやはり▲6八角があります。そこで△6五歩~△4五歩(第7図)と5五の銀に狙いをつけてきました。

第7図以下の指し手
▲3七桂△5四歩 ▲4五桂△5五歩
▲3三桂成△同 桂▲2四飛(第8図)

2枚換えでも先手よし

▲3七桂の活用が好手。△5四歩で先手の銀は死にましたが、▲4五桂がそれ以上に厳しく後手困りました。角を逃げると銀に生還されるので、勢い、△5五歩▲3三桂成と取り合いますが、▲2四飛と飛車をさばいた第8図は先手有利。2枚換えですが、大駒の働きが大差で、穴熊の遠さも生きる展開です。

第6図も第8図も先手は2筋からの逆襲を軸に攻めを組み立てました。もしこれが▲2五歩―△2三歩型だったら、ここまでうまく攻めは決まらなかったでしょう。これも先手が2手損して、後手に△2五歩と突かせたからです。ね、手損も悪いことばかりじゃないでしょ。
さて、平凡に美濃に囲う展開は後手が面白くないので、駒組みを工夫してきます。

第3図以下の指し手②
△6二玉▲7八玉 △7二銀▲8八玉
△5二金左▲9八香△4三銀▲9九玉
△6四歩▲8八銀 △7四歩(第9図)

後手の工夫

後手は△6四歩がスムーズに指せないと駒組みが進まないのですが、先ほどはその6四の歩を狙われて不本意な展開となってしまいました。そこで△7一玉~△8二玉と囲いに手をかけた2手を△6四歩~△7四歩に変えてみてはどうでしょうか。

第9図以下の指し手
▲6六銀△6三金 ▲6八角△7一玉
▲5九金右△7三桂▲7九金△8二玉
▲6九金右△6五歩▲7七銀引△9四歩
▲7八金右(第10図)

見覚えのある形

後手がここまで慎重に駒組みをすると、先手としても一気に攻略するというわけにはいきません。互いに玉形を整え、じりじりした展開になります。
そして迎えた第10図。なんだか見覚えがありませんか?
そう、これは一昔前のノーマル四間飛車対居飛車穴熊にそっくりですね。あまりの居飛車の堅さに振り飛車党が絶滅寸前にまで追い込まれたのをご存知の方も多いでしょう。
とはいえ、まったく同じではなく、唯一にして最大の違いは、2筋の歩の関係です。先手が▲2五歩と突き越しているところが、逆に後手が△2五歩と突き越しています。いくら堅くても攻め手がなくてはいけません。▲2七歩型のまま攻めはうまくいくのでしょうか。

第10図以下の指し手
△8四歩▲3六歩 △8三銀▲4六角
△7二金▲9六歩 △4五歩▲3七角
△5四歩▲1六歩 △1四歩▲4六歩
(第11図)△同 歩▲同 角△4四銀
▲3七桂(第12図)まで、先手十分

先手十分の駒組み

地味な動きですが、▲4六角と出て後手に△4五歩と突かせるのが細かいテクニック。こうして4筋に争点を作ります。


第11図の▲4六歩でついに駒がぶつかりました。戦いさえ起こせば、穴熊の堅さが生かせます。第12図まで進めば、1歩を手にし、押さえ込まれる心配のない先手が十分なのはお分かりでしょう。
第11図で△4四銀と押さえ込みを狙う手には、以下▲4八飛△4二飛▲1七桂△4六歩▲2五桂△2四角▲4六角△同角▲同飛と駒をさばく要領です。

向かい飛車編はここで終了します。後手が向かい飛車にする形は、先手が▲6六銀型穴熊に組みやすく、序盤に細かいポイントはあるものの、私の感触では対三間飛車より指し手が分かりやすい印象があります。
まあ中飛車の影も形もありませんが。
では最後に対向かい飛車の参考棋譜を紹介しましょう。プロ編入試験第4局、石井健太郎四段との一戦です。快勝とはいきませんでしたが、私にとっては一生忘れることのできない将棋です。

今泉健司アマ プロ編入試験第4局
平成26年12月8日
於・東京「将棋会館」
持ち時間各3時間
▲アマ 今泉 健司 △四段 石井健太郎
▲5六歩 △3四歩 ▲5八飛 △4四歩
▲7六歩 △3三角 ▲7七角 △3二銀
A▲5五歩△4三銀 ▲3八銀(図)

A▲5五歩~▲3八銀=後手は飛車回りを保留し、居飛車の可能性を残しているので▲6八玉と上がりにくい。▲3八銀は先手の工夫で、続く△2二飛で△6二銀と居飛車を志向されたとき、▲4八玉とスムーズに囲えるようになっています。

△2二飛 ▲4六歩 △2四歩B▲4七銀
△2五歩 ▲2八飛(図)

B▲4七銀~▲2八飛=講座と形が違いますが、△2四歩に▲4七銀として、△2五歩に▲2八飛を用意する考えは共通。

△6二玉 ▲6八玉 △7二玉 ▲7八玉
△8二玉 ▲5八金右△7二銀 C▲5六銀(図)

C▲5六銀=やや早かった。△3五歩~△3四銀が機敏で4筋が争点になってしまいました。

△3五歩 ▲8八玉 △5二金左▲9八香
△3四銀 ▲7八金 △4二飛 D▲4七金(図)

D▲4七金=こう上がるようではやや不満。ただ形勢自体は難解だと思います。

△4五歩 ▲同 歩 △同 銀 ▲同 銀
△同 飛 ▲4六歩E△5五飛(図)

E△5五飛=先手の囲いが半端なのを見て、強く飛車角交換に。

▲同 角 △同 角 ▲7七桂 △3三角
F▲3四銀(図)

F▲3四銀=▲2三飛は△3二角▲2五飛成△1四角、▲3一飛は△4二金▲2一飛成△6五角といずれも4七金をとがめられます。銀打ちはいま冷静に見るといい手か微妙ですが、対局時はこの銀を打たないと勝負にならないと思っていました。角が逃げれば飛車を打ち込めます。

△3九角 ▲3八飛 △8四角成▲3三銀成
△同 桂 ▲3一飛 G△4八▲同 金
△2六歩(図)

G△4八歩~△2六歩=単に△2六歩も有力で、それなら攻め合うつもりでした。

H▲2一飛成△2七歩成▲同 竜(図)

H▲2一飛成~▲2七同竜=攻め合いは望めなくなるが、受け切りに勝負を懸けた手。自分の棋風に殉じるつもりでした。

△2五歩I▲3六歩 (図)

I▲3六歩=竜の横利きを通す味のいい手で指しやすさを感じました。

△6四歩 ▲2二角 △7四歩 ▲1一角成
△7五歩 ▲8六香 △5一馬 ▲2一馬
△6三金 ▲7五歩 △5四歩 ▲6六歩
△7六歩J▲3五歩(図)

J▲3五歩=桂は取られましたが、後手は歩切れ。攻めが息切れ模様に。

△5五銀 ▲5七金 △7七歩成▲同 金
△6五歩 ▲同 歩 △7三桂 ▲6八飛
△4二馬 ▲7六金 △5六銀打▲同 金
△同 銀 ▲7七竜 △9二玉K▲7四銀(図)

K▲7四銀=上から押しつぶして勝勢。

△8二金 ▲5七歩 △7四金 ▲同 歩
△6五桂 ▲同 金 △6七歩 ▲5六歩
△6八歩成▲同 銀 △6四銀 ▲5四馬
△2八飛 ▲6九歩 △6五銀 ▲同 馬
まで、105手で今泉アマの勝ち
(消費時間=▲2時間9分、△2時間59分)

コンセンの勝つためのアドバイス⑤
歩切れには気をつけろ

将棋を指す上で形勢判断が非常に大切なことは皆さんお分かりでしょう。形勢はいろいろな要素がかみ合って決まるのですが、一般的には①駒の損得、②駒の働き、③玉形、④手番などを元に状況に応じて総合的に判断するわけです。
しかし、実はもうひとつ考えていただきたい要素があります。それが歩の枚数、特に「歩切れかどうか」なんですね。もちろん、歩の枚数も駒の損得のひとつなのですが、アマチュアの方、特に級位者は、歩をちょっと軽く見がち。歩切れかどうかを意識していないことが多々あるんですよ。3歩と2歩の差は歩1枚ですが、1歩と歩切れの差は、とてつもなく大きいんです。
例えば端攻めをするとき、▲1五歩△同歩に、条件反射のように▲1二歩△同香▲1三歩△同香と叩いていませんか? ちょっと待ってください。もしかしたら▲1二歩でなく▲1三歩でも△同香と取ってくれるかもしれません。
形勢が苦しいときに、暴発気味に歩を叩いたりはしていませんか? 歩を渡せばその分、相手の攻めが楽になるのです。
歩1枚を意識できればもう有段者です。 お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中
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