【ノーカット版】インタビュー カロリーナ・ステチェンスカ女流3級「人生が変わった」|将棋情報局

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【ノーカット版】インタビュー カロリーナ・ステチェンスカ女流3級「人生が変わった」

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ここでは将棋世界9月号に掲載されている、カロリーナ・ステチェンスカ女流3級インタビューのノーカット版をお送りします。誌面に入りきらなかった女流王座戦の話など、盛りだくさんの内容です。どうぞご覧ください。
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―― 本日は、史上初めて外国人として女流棋士3級の資格を得た、カロリーナ・ステチェンスカさんにお話を伺っていきたいと思います。数年来の親交のある北尾まどか女流二段に、師匠として同席していただきました。
 まずは女流3級昇級おめでとうございます。もう日本には慣れましたか?

カロリーナ女流3級(以下カロ) はい。だいぶ慣れました。
―― 日本に住むようになってどのくらいですか?
カロ 2年くらい?
北尾まどか女流二段(以下北尾) 一昨年の10月に来たので、1年半くらいですね。
―― 研修会には約2年間在籍していたわけですが、その間の成績は、ご自身では満足のいくものでしたか?
カロ 最初はたくさん負けました。でもだんだん勝てるようになりました。
北尾 連勝連敗型なんですよ。Bにも何回か落ちていて、落ちるたびに3連勝で浮上してまたギリギリ昇級までいって戻るみたいな。波があるので、どこかで一気に勝てればいいなあとずっと思っていました。
―― 将棋が安定していなかったということでしょうか。
カロ 自信が持てるときもあったり、自信がないときもあったり……。
北尾 気分でけっこう変わっちゃうので、いい将棋もあれば、ひどい将棋もあるという感じで、ムラがありました。
―― 研修会で苦労したことはありますか?
カロ 最初は正座が大変でした。あと相手が子どもだったので、心を乱されたり、集中できないこともありました。それから、どうして私はまだプロになれないのか、と悩んでストレスを感じたりもしていました。
北尾 日本に来て正座ができるようにならないといけないから、練習はしました。詰将棋が解けるまで正座とかね(笑)。最初はううーとかいって倒れていました。
カロ 泣きましたねぇ(笑)。
北尾 いまは何分くらいできるようになった?
カロ 分からない(笑)。
―― 先日行われた、女流王座戦2次予選の対中井広恵女流六段戦では正座はどうでしたか?
カロ けっこう席はたちましたが、それは足が痛くてではなくて、緊張していたからです。歩いて気持ちを落ち着かせていました。
 

 プロ2人を破った女流王座戦

―― 今期の女流王座戦は、アマチュア予選から勝ち上がりました。アマチュア5人に勝って1次予選進出を決めましたが、将棋は納得のいくものでしたか?
カロ プロの公式戦につながるので、しっかり指そうと思っていました。いい将棋が指せていたと思います。
―― 1次予選でも相川春香女流初段、伊奈川愛菓女流初段と2人のプロを破りました。終盤力が際立っていたという印象ですが、やはりそこは自分の長所ですか?
カロ ポーランドでも、将棋の本が読めなくて、詰将棋の図面だけ見て解いていたので、終盤が強くなりました。
北尾 序盤を勉強するのは難しいんですよね。手を追うことはできても、感覚とかが書いてあっても説明が読めないですから。
―― 1次予選の2局を簡単に振り返っていただけますか。まずは相川春香女流初段戦からお願いします。
カロ 作戦勝ちになって、途中乱れてしまいましたが、最後はなんとか勝つことができました。
―― どのあたりで有利を意識しましたか。
カロ ▲4五飛(第1図)と回ったところは先手ややよさそうです。△4四銀は勝負手ですね。少し進んで、△3七歩に▲2五角と桂馬を取ったのがちょっとおかしかった。ここは▲3七同銀と取ったほうがよかったです。



―― ▲2五角はよくなかったですか?
カロ 後手に1筋、3筋を清算されて、△2二香(第2図)がぴったりになってしまい、危なかったです。



―― あまり有利ではなくなってしまった感じですか。
カロ はい。さらに、▲5三銀打がちょっとやりすぎてしまいました。ここで後手は1六に角を打つ手があったかもしれません。後手は攻防手がたくさんあります。
―― △7一銀と引かずに△1六角で大変?
カロ 先手玉が詰めろになるので大変でしょう。
―― 勝てそうだったのに急に危なくなったんですね。
カロ そうです。たくさん駒を交換したので。最後も、▲4二飛成に△6二歩は詰みがあったのですが、見えなくて。迷ってるうちに秒読みがあるから、ていねいに指しました。
―― 先手玉は打ち歩詰めの形でしたね。
カロ そうだけど、ギリギリでした(笑)。
―― 続いて伊奈川愛菓女流初段戦をお願いします。
カロ 難しい将棋でした。▲8三角(第3図)と打った手に、△5一金と寄られていたらちょっと分かりませんでした。本譜は△6二金だったので、▲5五角と切ってチャンスが出てきました。



―― ちょっと盛り返したという感じですか?
カロ はい。まだ難しいと思いましたが。後手としては、▲7七角のところで△5二飛と回らないで、△6四銀と引いたほうがよかったかもしれないです。
―― 飛車回りが危なかった?
カロ 危なかったというか、私から見て不自然というか。飛車が8筋からいなくなったので、後手は攻めがなくなりました。銀引きには▲4六歩~▲4五歩という攻め筋が見えますが、それは少し足りないかもしれません。
―― 59手目、2度目の▲7一銀のあたりは手応えはいかがでしたか。
カロ 銀打ちは重かったかもしれません。△6九銀以下の手順は、相手がちょっと間違えました。



―― ▲5八同飛(第4図)に馬を逃げるとどうなるのでしょうか。たとえば△8九馬とか。
カロ それはゆっくり▲6二銀成とか。▲5二銀と打っても先手がよさそうです。
―― なるほど。本譜は金を食いちぎって、▲同飛とさせて5筋から飛車をどかしたんですね。
カロ その代わり後手は攻め駒がなくなりました。
―― このあたりはやれそうかなと思いましたか。
カロ はい、これはなんかちょっと勝ちそうな感じ(笑)。だけどどうやって最後までいくかは分かりませんでした。▲8四角も悪くはないと思いますが、自信はありませんでした。攻めきるのはまだ大変です。たくさん駒を渡すとこちらも危ないですから。
―― ▲4八歩は手堅いですね。
カロ ただ、歩を打たずに単に玉を逃がしたほうがよかったかもしれないと、周りの人がアドバイスしてくれました。
―― 一転、▲2二金と攻めました。
カロ もう1手受けてから攻めるか迷いました。後手は、▲7一飛(第5図)と打ったところで1回△3二銀と受けたほうがよかったと思います。ここは後手のチャンスでした。打てば一気に堅くなります。だから、△4八銀を見て、心の中で喜びました(笑)。後手陣は銀を持つと詰みそうな形ですし。



―― 銀が手に入りそうです。
カロ 以前、羽生先生が山梨に来て将棋を指したときに、金銀を入れ替えて詰ますテクニックを使っていました。この対局中に私はそれを思い出して、使ったのです。最後はうまく詰ますことができました。
―― 女流王座戦は以前にも出ていますが、そのときは1次予選を抜けられませんでした。以前より自分が強くなったという実感はありますか?
カロ うーん、少し(笑)。
―― 以前本誌でインタビューをしたときには、振り飛車党だけど中飛車はあまり好きではない、という話でしたが、女流王座戦では中飛車を指していましたね。
カロ 最近変わりました。ずっと三間飛車だけを指すわけにもいかないので、他の戦法も指そうと思いました。日本語ができるようになって、本が読めるので、中飛車のことも分かってきました。
―― 中井女流六段との将棋は惜しくも敗れてしまいましたが、手ごたえはいかがでしたか?
カロ 対局が終わってすぐは、よく頑張ったと自分で思いました。でも次の日起きて棋譜を見たら、何これ、と思いました(笑)。
―― 1日ですごく強くなったのかもしれませんね。では、いまの自分の将棋の弱点や、これから伸ばしたいところはどんなところでしょうか。
カロ 日本語が分かるようになったので、三間飛車と中飛車の定跡をもっと勉強したいです。いまはまだプロレベルではないので、しっかりと指せるようにしたい。
―― もう棋書は普通に読めるのですか?
カロ はい。だいたいは分かります。分からないところはすぐに辞書を引いて調べます。でも全部調べるととても時間がかかってしまうので、本当に分からない単語だけ調べるようにしています。
―― 四間飛車は指さないのですか?
カロ みんなよく知っている定跡で、1回間違えると悪くなってしまうので、ちょっと心配です。
―― なるほど。ではいまはどちらかというと力戦型になったほうがいいという気持ちがある?
カロ リキセンケイ?
北尾 力戦型っていうのは、定跡から外れた将棋のこと。
カロ あ~。それ好き(笑)。力将棋ね。
北尾 そうそう。力戦は力に戦うで力戦。
カロ あー! OK!
北尾 これでまた1つ覚えたね(笑)。
―― これからやってみたい形や、学びたいことはありますか? 居飛車をやってみたいとか。
カロ いろいろな中飛車の形を考えたいので、他のことはまだです。
―― 現在の将棋の勉強方法を教えてください。
カロ 棋書を読む、インターネットで指す、棋譜を見る、詰将棋はもちろん解いています。
―― 以前は、短い手数の詰将棋をよく解いているとおっしゃっていましたが、いまでもそうですか?
カロ はい。短いのはやはり基本ですから。繰り返し。
―― 道場に行ったりはしますか?
カロ 最近は時間がなくて、行けていないです。
北尾 前はたまに行ってたよね。土日になると山梨からうちに来て、泊まって、道場に行ったりしていました。
カロ 研修会があると、その前はちょっと休みたい、ということもあるので。
 

 好きな食べ物はソバと天ぷら

―― 日本の生活で不自由を感じることはありますか?
カロ 日本語だけかな。もっとうまくなりたい。将棋の仕事がちゃんとできるか心配。
北尾 指導対局とかもありますし、対局するときでも、分からないことがあっても聞くのが大変じゃないですか。対局規定ももちろん理解しないといけないですし。
―― 食べ物などはもう大丈夫ですか。
カロ はい、大丈夫。
北尾 だいぶ食べられるものの種類も増えてきましたね。最初はお刺身とか生魚がダメだったんですけど、最近は問題なく食べます。サバとかね。
カロ サバ~♪
北尾 サーモンは向こうにもあるんですけど、日本って魚の種類が豊富ですよね。でいろいろ食べるようになって、特にサバが好きみたいです。
―― 他には?
北尾 ソバが好きだよね。最初来た頃はソバばっかり食べていました。
カロ ソバ好きです。山梨のソバおいしい。あと天ぷら。ソバと天ぷら(笑)。
―― 新しく発見したおいしい食べ物や、新しく好きになったものなどはありますか?
カロ カボチャ。
北尾 カボチャ!?
カロ パンプキンスープとか、パンプキンパイとか。カボチャはあまり好きではありませんでしたが、日本で食べたらおいしかったです。
―― 普段の食生活はどんな感じですか?
カロ 最近はお弁当を買って食べています。料理もしたいのですが……。
北尾 この間、自分でカレーを作ったんだよね。
―― うまくできましたか?
カロ おいしかった、と思う(笑)。

 日本とポーランドの違い

―― 日本に住んでみて、改めて感じる日本のよさはありますか?
カロ たくさんあるけど……。コンビニエンスストアがある。
―― ポーランドにはないんですか?
カロ北尾 ないない。
カロ あとは、どこでもエアコンがある、これ便利。
北尾 あとは自動販売機。どこにでもあるよね。
カロ あー自動販売機、そうね。
―― 電車はよく乗りますか?
カロ おー、電車は好き。
北尾 いま大学の関係で甲府に住んでいて、東京と甲府をいつも行ったり来たりしているので。
―― けっこう時間がかかりますよね?
カロ 普通電車で3時間くらい。時間があるので本を読んでいます。
―― ポーランドのことを知らない読者の方々に、カロリーナさんから簡単に説明をしてほしいのですが。
カロ 海に面していて、山もあって、とても景色が綺麗なところです。大きな湖があって、ヨットを楽しむこともできます。あと歴史が好きなら、大きなお城のあるクラクフという都市がおすすめです。現在のワルシャワになる前の首都で、地区として世界遺産にもなっています。
北尾 すごく美しい都市で、ポーランドってけっこう街が戦争で壊されてしまっているんですけど、そこは残っているんです。私も行ったことがありますが、ヨーロッパ将棋選手権のときで、ずっと会場にいて全然観光できなくて。また行きたいです。
―― ポーランドには定期的に帰省しているのでしょうか?
カロ はい。
北尾 夏と、年末はポーランドに帰ることが多いです。今年の夏も帰る予定で、ちょうどヨーロッパ選手権があるので、出場はしませんが顔を出すかもしれないということでいま調整しているところです。
―― いま日本は梅雨ですごく雨が降りますが、ポーランドも同じように雨が降りますか?
カロ 雨は降りますが、こんなには降りません。いまのポーランドはすごく暑いと聞いています。最近ポーランドも昔と気候が変わって、私も詳しくは分かりません(笑)。いま私は甲府に住んでいますので、すごく暑いです(笑)。周りが山で、フライパンみたいな地形なので。
北尾 あー、盆地ってこと(笑)? 確かにそうだね。
カロ この前、友達と自転車に乗って話していたのですが、途中で雨がすごく強くなって、逃げました(笑)。びっくりした。
―― 日本でどこか行ってみたいところはありますか?
カロ うーん、まだ考えたことなかった(笑)。
北尾 この間、奈良に行ったんだよね。鹿に鹿せんべいをあげたらしいです(笑)。元々「NARUTO」に出てくる奈良シカマルというキャラクターが好きで将棋を始めたから、奈良に行って鹿に会いたかったみたいです。
―― 鹿が寄ってきて大変だったのでは?
カロ そうなんだけど、ゴールデンウィークだったから鹿もおなかいっぱいでイマイチでした(笑)。
―― 観光地にはよく行くんですか?
カロ たまに。
北尾 前、京都の宇治に一緒に行って茶畑を見たりしました。あとは天童とか。
カロ 宇都宮も。
北尾 そうそう。カロリーナは餃子が好きなんですよ。なぜかというと、ポーランドにピエロギっていう餃子にそっくりの食べ物があるんです。日本に来て餃子を食べたときに、これポーランドのと似てる!っていう話になって、天童の帰りに、宇都宮にも寄りました。
―― なるほど。他にどこか気になる場所は?
カロ まだ北海道とか沖縄とか行ったことがないので、行ってみたい。
―― 今度は1人旅でどうですか。
北尾 奈良は1人で行ったんだよね。彼女は1人でどこでも行けちゃうので、それは全く心配していないです。
カロ どこでもは分からないけど……(笑)。

 海外普及への思い

―― 将棋以外で興味のあることはありますか?
カロ 普段はよくヨーロッパやアメリカの音楽を聴いています。日本の音楽も少しは聴きますが、まだ何を言おうとしているかよく分かりません。
―― いまでもマンガは読んでいますか?
カロ 最近時間がなくて読めていないです。英語の小説をたまに読んでいます。ずっと日本語ばかりだと疲れるから、ちょっと英語の本を読みたいと思いました。
―― 英語も使いこなせるんですね。
カロ ヨーロッパの人はだいたい英語はできます。
―― 息抜きしたいときは何をしていますか?
カロ 音楽とゲーム。スマホのアプリとかコンピュータゲームとか。そういえば昨日も新しいアプリのゲームをインストールしたけど、まだやってなかった(笑)。ポーランドでITを勉強していたので、そういうの好き。
北尾 カロリーナはゲーム好きですよ。だいたい何でも初見でけっこう点を出します(笑)。あと最近、私がボードゲーム会とかをやるので、それに交じって一緒にやったりしています。
カロ 全部日本語で大変!
北尾 日本語の勉強にもなるでしょ(笑)。
―― 兄弟は、妹さんが1人いるとお聞きしました。
カロ 双子の妹がいます。
―― 妹さんは日本に興味を持っていますか?
カロ はい、妹も「NARUTO」が好きなので。
―― 妹さんは将棋は指しますか?
カロ 私としては姉妹なので同じことをやりたいと思いましたが、妹はあまり興味を示しませんでした。考えるゲームとかも多分あまり好きではないと思う(笑)。双子だけど性格は違いますね。
北尾 顔はすごく似ているんですけどね。
―― 現在、日本語の勉強はどのくらいしていますか?
カロ 山梨学院大学で日本語の授業があるのと、あと公文の日本語教室に週2回通っています。
―― 海外普及という点で、カロリーナさんは非常に貴重な存在になると思います。例えばポーランドで、将棋を広めたいとか教えたいという気持ちはありますか?
カロ それはあります。ポーランド語や英語で将棋の本を書いたり、レッスンをしたり。私がポーランドにいたとき、日本語だけだったので大変でした。だからこれから将棋を勉強する人がいたら、助けてあげたいです。
―― ご家族には、女流棋士3級の資格取得の報告はしましたか?
カロ 父親にメールしました。母親に連絡すると、生活のこととか口うるさく言われるので、しませんでした(笑)。母は私のフェイスブックを見ていますし。父の返事は素っ気ないものでしたが、向こうではかなり喜んでいると思います。さすが私の娘だ、と鼻が高くなっている様子が目に浮かびます。きっと帰ったらハグをされて、パーティーが開かれると思います(笑)。
―― 今後の目標を教えてください。
カロ まず将棋をもっと強くなりたい。初段になりたいです。女流初段。あと日本語ももっとじょうずになりたい。難しいけど敬語を学びたいです。それから、女流3級になれて人生が変わったのですが、嬉しいだけではいけなくて、現実はいろいろ考えなければいけないし、やることも多くてとても忙しいので、バランスを取ってうまくやれるように考えて頑張りたい。
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