将棋世界10月号穴熊対談「プロが選んだ昭和&平成穴熊名局 Best5」|将棋情報局

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将棋世界10月号穴熊対談「プロが選んだ昭和&平成穴熊名局 Best5」

お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中  皆さんこんにちは。将棋世界の下村です。現在発売中の将棋世界10月号では穴熊特集を掲載しております。対談、講座、定跡研究、自戦記、次の一手と盛りだくさんです。今回は穴熊対談の一部を皆さんにお見せします。居飛穴のスペシャリスト田中寅彦九段と、振り穴で一時代を築いた大内延介九段を師匠にもつ鈴木大介八段が、独断で選んだ平成&昭和の名局を振り返りながら、対談をお楽しみください。


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──プロ将棋における穴熊の変遷を俯瞰するために、田中九段には昭和の時代、鈴木八段には平成の時代から、穴熊の名局を独断で選んでいただきました。ランキング形式で紹介していきます。まずは昭和の5位からお願いします。
田中 順位を付けるのは非常に難しかったですね。企画の性質上、暫定的に付けましたが、どの将棋が上位に来てもおかしくありませんので、ご了承ください。最初に多くの人たちが穴熊戦法に関心を持ったという意味では、▲升田幸三九段──△大山康晴名人戦の居飛車穴熊の将棋(第27期名人戦七番勝負第2局)を挙げます(第1図)。当時としては升田先生らしい画期的な指し回しです。名人戦の大舞台で結果は負けてしまいましたが、迫力あるねじり合いになりました。驚くべきことは、大山先生の指し方が現代風味満点なんですよね。


──第1図から、△8三銀▲3五歩△同歩▲同角△3二飛▲2六角△5一角▲4八銀△3四飛▲3五歩△3一飛▲5七銀△7二金▲3八飛△3三角▲3四歩△2二角▲1五歩△6一飛と進んでいます。鈴木 定跡がないこの時代に、この形に組めること自体が驚きですよね。
田中 昭和43年に、誰も経験したことがないこの局面をパッと作り上げられる、2人のすごさがよくわかります。
── 大山十五世名人は、振り飛車党に転向したときに、居飛車穴熊が主流になることは予見していたと思いますか。
鈴木 予見はしていないでしょうね。ただ、大山先生はいまの時代で振り飛車を指したら、相当楽でしょうけどね。穴熊退治はうまいですし、もともと押さえ込んで3~4手くらい余して勝つ将棋ですから、穴熊とは対極です。いま大山先生がいたら、穴熊を余す技術がすごく発達したかもしれないですよね。受けの達人がいれば、居飛穴の流行に歯止めがかかってたかもしれません。いまは、受ける棋士が少なすぎます。


半手違いを勝つ現在の穴熊


──平成の5位をお願いします。
鈴木 ▲広瀬章人五段─△村山慈明五段戦(平成20年9月24日・順位戦C級1組・棋譜P52)を挙げます(第2図)。現代穴熊の戦いらしい、終盤の1手争いがキレイに局面に現れた一局ということで、印象に残っています。



──第2図から、▲3三角△同桂▲3二歩△同銀▲4二金△2一銀打▲5一飛△2二飛▲3一金打△5四角▲3二金引△同飛▲同金△同角▲2二金△同玉▲3一銀△1一玉▲2二飛まで。▲3三角捨てのような派手な手が実戦で現れました。鈴木 平成と昭和の穴熊の差は、半手違いを確実に勝ちきる穴熊側の能力。この将棋は参考になる一局です。これはプロアマ問わず、絶対並べるべき将棋です。
──現代の穴熊は、昭和からどういう部分で進化したのでしょうか。
鈴木 細い攻めを繋げる技術が格段に上がりました。昔だったら切れていると判断された局面でも、攻めが続けば何とかなるという技術が棋士の共通認識としてあり、寄せ方も体系化されてきました。ですから、穴熊が勝ちパターンになれば、昔より逃しづらいです。
──昭和の穴熊は、体系化されていなかったのですか?
鈴木 振り穴でタイトル(十段)を獲った福崎先生(文吾九段)は、大駒をバッサバッサと切る将棋ですし、居飛車穴熊を流行させた田中先生は、序盤でいろいろ工夫されている。怒濤流と呼ばれた師匠(大内延介九段)の豪快な振り穴もそうですが、一人一人個性があって、考え方自体が違うのが昭和の穴熊です。いまの穴熊使いは、堅く囲って半手勝つという方向性がみんな一緒で、味のある将棋の趣は減っています。
田中 森下君(卓九段)が昔研究会で、居飛穴の序盤をいろいろ質問してくるから「居飛穴は組み上がるまでが勝負で、組んでからではなく、組み上がれば勝ちなんだ」ということを説明した覚えがありますね。
鈴木 確かにいまは、穴熊に組んだら勝ちという時代になっていますからね。
田中 だから昔の穴熊の使い手は、見ている場所が少し大衆とずれていたと思います。ただ、大山先生や升田先生は何をやってもずれていない。本筋に手がいくんです。強い人は何をしても強いですね。鈴木 ずれない人はいますよね。現在では広瀬さん(章人八段)が、現役で3本の指に入る筋のよさだと思います。だから最終盤になっても必ず駒がいい位置にあり、勝ち筋が落ちているときが多いんですね。筋が悪い人はどこかで無理をしているので、終盤で負けるような形になることが多いですね。
──広瀬八段は、現役棋士では穴熊の第一人者です。
鈴木 広瀬さんは平成の穴熊の名手ですが、若いときは私も含め、藤井さん(猛九段)や三浦さん(弘行九段)もみんなガッツで穴熊に組むんですよね。組んでしまえば穴熊の特長で、終盤で競り合いになりやすいので、若さと体力で勝つという将棋の作りになります。しかし、広瀬さんだけは別格で、ベタベタ自陣に駒を埋める穴熊ではなく、切れ味で勝負できる穴熊なんですよね。それを最大限に生かすための穴熊囲いで、そういう将棋だから、駒の配置もすごく美しいです。他の人のは〝穴熊囲い〟ですが、広瀬さんは、終盤力を生かす意味で〝穴熊戦法〟を使っています。
田中 広瀬さんの穴熊は、振り穴に居飛穴で対抗するのが当たり前になったときからずっとやっているので、出だしがすごく繊細でまさに〝戦術〟です。
鈴木 私も師匠からは「穴熊囲いではなく戦術として取り入れろ」と言われました。師匠は、穴熊の遠さで1手勝つということを意識して穴熊に囲った、という話を聞きました。


と残念ながらここまでです(泣)。
4位以降は本誌をお楽しみください。皆様も4位以降の名局を考えてみながら、本誌と比較してみるのもおもしろい楽しみ方かもしれません。
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