座談会 映画『3月のライオン』はここが面白い! 先崎九段×村中六段×藤森四段|将棋情報局

将棋情報局

座談会 映画『3月のライオン』はここが面白い! 先崎九段×村中六段×藤森四段

お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中

映画『3月のライオン』は
ここが面白い!

将棋ファン待望の、映画『3月のライオン』(原作・羽海野チカ、監督・大友啓史)が、
いよいよ3月18日より前編、4月22日より後編の連作で全国ロードショーされる。原
作コミックの世界観が実写でどう表現されるのか、いまから興味津々だ。将棋指導・監修として撮影に関わった、先崎九段、村中六段、藤森四段が、撮影エピソードを交えて見どころを語る。


【構成】田名後健吾
【取材協力・スチール写真提供】©2017年 映画「3月のライオン」制作委員会


※本記事を掲載した「将棋世界3月号」は、紙版、電子版ともに絶賛発売中です。また、判型が2倍サイズの大きな「将棋世界3月号ワイド版」もどうぞ。「マイナビBOOKS」による、限定販売です。詳しくはこちら

----------------------------------------------------------------------------

 先崎 僕は原作の監修も担当しているんですけど、羽海野チカ先生が作品を書き始める5年ほど前からなので、実質15年くらいなんですね。それくらいのスパンでやってきた作品が、いつか実写映画でまとまるといいなと思っていたので、こうして形になって本当にうれしいです。完成した試写を観て、とても感動しました。この映画の将棋監修は、村中君と藤森君と田中誠君(指導棋士三段)の3人が全部やってくれました。僕は好きなときにお邪魔して、偉そうにして帰るだけだったけど、村中君と藤森君を選んだのが、僕の唯一の素晴らしい仕事だったと思っています。二人を選んだ理由は自分でも分からない。私の中に人事の神が舞い降りたとしか(笑)。
 藤森 映画の仕事は初めての経験でした。撮影期間は3月から6月までの4ヵ月間で、何日も撮影現場に通いました。大変なことも多かったですが、監督からは将棋に関することは全部お任せしますと信頼してくださったので安心してやれました。
 村中 僕たちの仕事は、将棋シーンでの棋士役の俳優さんの手つきやしぐさの指導とか、映画で使われる棋譜の内容を、監督さんや役者さんにお伝えしたりといった感じです。例えば、この場面で指されるこの手がどういう意味を持っているのか。そういうときに棋士はどういうことを考えているのかなど。まあ、将棋全般のサポートですね。監督も俳優の方々も、皆さんすごく熱心に聞いてくださいました。完成作品を観て、リアルにできたのではないかと満足しています。
 先崎 何てったって、僕たちがまず腰を抜かしたのは撮影初日でしょう。映画の現場の雰囲気はカルチャーショックというか。
 村中 監督や俳優さんをはじめ、照明や美術スタッフにカメラマンなど大勢の人たちがいて、緊張感があって圧倒されました。


撮影現場で対局シーンの映像をチェックする先崎九段、村中六段、藤森四段

 先崎 こちらは映画のことは分からないけど、向こうも将棋の世界を知らないわけだから、異種格闘技戦みたいな空気だった。
 藤森 最初の撮影は、椿山荘での宗谷冬司(加瀬亮)と島田開(佐々木蔵之介)のタイトル戦のシーンでした。
 村中 たった10秒くらいのカットを2時間くらいかけて撮るんです。何度も同じカットを繰り返すので驚きました。
 藤森 長かったですね。将棋でいうと順位戦みたいな時間で進んでいくんです。
村中 最初は自分たちがどこにいればいいのかも分からなかったのですが、監督の真後ろのすごくいい位置で見させていただきました。撮った映像を、その場でチェックしなければいけないので。
 先崎 二人とも偉いよ。いつもスーツで来てたから。僕は気を遣わせてはいけないと思って、Tシャツにジーンズだった。
 藤森 映画の人たちは動きやすいラフな服装で、自分たちも私服でいいんですよって言っていただいたのですが、恥ずかしい姿は見せられないので。
 村中 暑い季節になってきて心が折れそうになりましたけどね(笑)。でも結局、最後までスーツで通しました。
 先崎 いろいろ驚いたことがあったけど、まず大友啓史監督の声が大きいことにびっくりした。「ヨーイ、スタート!」って。映画監督ってあんなに声が大きいものなんですかね。「いいんだけど、いいんだけどもう1回だけ」とか(笑)。クランクアップしても1ヵ月くらい耳から離れなかった。
 藤森 カメラも、いろんな角度から何度も撮っていました。
 先崎 現場ですごく感じたのは、皆さん将棋に対して敬意を払ってくれたことですね。対局の雰囲気など、細かいところまでこだわってくださって、すごく気持ちよく仕事ができました。あと、僕が最高に驚いたのがですね、お昼ご飯が美味しかったこと。映画というとロケ弁をイメージするけれど、ケータリングでいろいろ選べて、毎回楽しみでした。

 徹底的なリアリティー
 先崎 この映画は、細かいところまで全部しっかりと作り込んでいる。劇中に出てくる将棋の局面は全部、村中君と藤森君が用意した。数秒しか映らない局面でも、初手から最終手の詰みまでの棋譜が必ずある。全部ある。無駄にある(笑)。何局集めたの?
 藤森 30局くらいですか。その1つ1つにちゃんとしたテーマがあって、話の流れから逆転したとか、いろんなシチュエーションに合わせた棋譜を探しました。
 村中  「藤森哲也勝局集」もあったね。

藤森四段が用意した棋譜集

 先崎 あと、宗谷冬司の写真集が出てくるシーンがあるんだけど、表紙だけでなくて、ちゃんと中身も30ページくらい作ってある。実際にはそこまで映らないんだけどね。映画っていうのは、目に見えないところへのこだわりがすごい世界なんだなあと改めて思いました。「神は細部に宿る」っていう言葉がありますけど、まさにこの目で体感しました。
 藤森 対局シーンは責任を持ってサポートしました。指し手の意味を俳優さんにお伝えしなければいけないので、お会いして一緒に棋譜並べをやりました。攻めあぐねたとか、勢いに乗っているとか、自信がなくて守っているとか、そういう気持ちの動きを伝えます。主演の神木隆之介さん(桐山零役)と僕が、いちばん会って練習したと思う。
 村中 僕は主に加瀬亮さんとやりました。
 先崎 役者は皆さんプロですから、当たり前といえばそれまでだけど、こちらの言うことを真面目にやろうとするんですよね。
 藤森 手つきの練習はしっかりやりました。A級棋士の手つきがヘタだと観ていただく方に申し訳ないので。持ち駒を駒台にそろえて置くとか、そういう細かい動きとかも全部やってくれてます。
 先崎 でも、神木さんは将棋を知っているだけあって、手つきはすごくよかったね。伊藤英明さん(後藤正宗役)や加瀬さんとかは、駒の名前も知ってるかどうかのレベルで、そういう方にビシッとやっていただくのはけっこう大変だったみたいだね。


主人公・桐山零を演じる神木隆之介さん

 村中 すごく忙しい方ばかりで、1時間だけ練習に来て次の仕事場に移動する人も。それぞれ盤駒を持って帰って家で練習されたようです。次にお会いしたときにはしっかり上達していたので感心しました。さすがはプロだなと。
 藤森 撮影が進むにつれ、皆さんだんだん将棋の興味が深まって、どんどん質問してくれるようになったのがうれしかった。
 村中 棋士って動きが少ないじゃないですか。指す以外にどういう動きやしぐさをすれば棋士っぽく見えるのかはよく質問されました。例えば扇子で仰ぐとか、どれくらい立つとか、どういうふうに間を取るのかとか。ただ自分たちも普段意識していないので説明するのが難しいんです。だから実際に2人で指してみていただいたりして、いろいろやりながら形にしていきました。リアリティーのこだわりはすごかったですね。
 藤森 投了のシーンも、スタジオで何回も練習しました。心配でしたが、実際に撮影に入ったら、見事にA級棋士の顔になってましたよね。
 村中 あれほど格好いい棋士がいたら、さらに将棋がはやりますよ。
 先崎 リアリティーといえば、面白かったのは大広間での対局シーン。6対局があって、記録係役が6人いるわけだ。最初はエキストラを配置したんだけど、監督がね、「なんかしっくりこない」って言うんですよ。そこで、若手棋士に代えてみたところ、「これなんだよ、これ!」だって(笑)。どこがいいんですかって聞いたら、「このね、微妙にかったるい感じがいいんだよなあ」って(笑)。
 藤森 エキストラの方は経験がないから、すごく気合を入れてやるんですけど、現実の対局は長丁場なので、いつも緊張しているわけではない。たまにぼーっとしてたりとか、そういうのがあったほうがそれっぽいって言ってましたね。
 村中 あと、すごい地味な発見ですけど、駒を駒袋から出したときに、山の中から王将がなかなか見つけられないっていう(笑)。上座の棋士が王将をまず置かないと始まらないから、宝探しみたいになって焦ってくるんです。
 藤森 それ、あるあるだ。やっと見つけたと思ったら金だったり。
 先崎 王将と玉将の違いも、棋士は見慣れているからすぐに見つけ出すんだけど。
 村中 だから、駒袋に玉将をいちばん下に入れ、王将を上に入れて工夫しました。そうしないとほかの駒にまぎれてしまって。
 藤森 僕が対局の撮影で大変だったと思ったのは、後編のある対局シーンです。移動撮影をする際に、カメラの台車を乗せるためのレールを敷くじゃないですか。あれが360度の円状になっていて、カメラが対局者の周りをぐるぐる回りながら撮影したんですけど、それがすごかったですね。まるで汽車みたいで。


A級八段・島田開役の佐々木蔵之介さん(右)と、桐山のライバル・二階堂晴信役の染谷将太さん(中央)。左は神木さん

 村中 その日は結局、家に帰れなかったんだよね?
 藤森 朝6時から始めて、終わったのが夜中の2時くらい。翌日の撮影も朝6時からだったので、泊まりました。
 村中 いつも2人そろうわけではないので、仕事の分担の引き継ぎとかもやりました。今日はこのシーンをやって、ここが撮りきれてないので、明日はこの続きになるから藤森君よろしくとか。
 先崎 4日連続で朝の6時から夜中まで撮影って、ちょっと狂気の世界ですよ。でもよく考えてみたら、5分のシーンを朝から夜中までかけて撮っていく映画の世界と、一局の将棋を朝から夜中まで考え続けて指す将棋の世界って、世間の人から見たら同じくらい狂気なことなんじゃないかと気がついた。
 村中 1回カットが入って、もう1回撮ってみようとなったら、当たり前ですけどスモークを炊き直したり、前の状況に戻すのに10分くらいかかる。その繰り返しなわけですから。いままで完成した映画を観る側だったので、映画の撮影というのはこんなに大変なんだと分かりました。すごい貴重な経験でしたね。

 3月のライオンの魅力
 先崎  『3月のライオン』っていうのは、原作もこの映画も、将棋の持つ魅力、勝負の持つ魅力、棋士の持つ魅力、この3つのいいところをぎゅっと抽出しているところがあるので、同じ棋士としては共感というより理想像がここにあるっていう気がします。いろんな事情を抱えている棋士がたくさん登場して、私生活のことも描かれているけれど、棋士同士って案外お互いの家庭事情は知らないことが多いんです。ひとりひとりバックグラウンドがあり、それぞれ違うんだよなあって改めて気づかされました。「自分には将棋しかない」っていう気持ちは、棋士ならどこかで必ず感じる通過儀礼みたいな感覚で、子どもの頃から奨励会っていう特殊な世界で将棋をやっていると、そこまで思いつめていくってことですね。あそこがいちばん棋士が共感できるところだと思います。
 村中 高校の屋上で桐山が独りでパンを食べるシーンがありましたけど、僕も奨励会時代はクラスで浮いた感じだったなあと思い出しました。周りとちょっと違った学生生活を過ごしたので、気持ちが分かりますね。
 藤森 出演者の皆さんを本当の棋士に見せるのが自分の使命だと思って今回の仕事をやらせていただきました。映画を見るときは、ストーリーのほかに、その成果も観ていただきたいです。
 村中 こんなに棋士を格好よく描いていただいて本当にうれしいし、いい部分を出してもらっています。あと、脇役の棋士もすごくリアルで、登場人物それぞれにすごく魅力があります。
 先崎 この映画を観て、将棋を好きになる方がいっぱい出ると思うんですよね。若い女性ファンが増えるのは非常にうれしいことなんですが、独身の二人だけがいい思いをするのかと思うと、僕はそれが腹立たしい(笑)。
(取材・1月6日)



【前編】3/18(土)  【後編】4/22(土)

【監督】大友啓史
【原作】羽海野チカ「3月のライオン」(白泉社刊・ヤングアニマル連載)
【脚本】岩下悠子・渡部亮平・大友啓司
【制作プロダクション】アスミック・エース、ROBOT
【配給】東宝=アスミック・エース
©2017年 映画「3月のライオン」制作委員会



なお、「将棋世界4月号」(3月3日発売)も予約を開始しました。
こちらもお楽しみに。

 

お得で気軽に参加できる将棋大会『第6回 将棋情報局最強戦オンライン』11月13日開催! エントリー受付中
将棋情報局では、お得なキャンペーンや新着コンテンツの情報をお届けしています。

著者