2024.12.23
将棋戦略「配置理論」講座 第1回~概論&駒の働きの基本成分について~【全4回】
全4回にわたって、将棋戦略にまつわる理論「配置理論」の講座を行っていきます。耳慣れない理論ですが、どういったものなのでしょうか?今回は、今後の講座にも影響する、配置理論の基礎的な考え方をご紹介します。
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皆さんこんにちは。
本記事では、将棋の最善手を導き出すための新しい理論、「配置理論」をご紹介します。
詳しくは、2024年12月24日に発売の『配置理論で学ぶ 将棋戦略思考』(著:ゆに@将棋戦略)にも載っていますので、チェックしてみてくださいね。
※本稿は、ゆに@将棋戦略著『配置理論で学ぶ 将棋戦略思考』の内容をもとに編集部が再構成したものです。
人間が将棋の手を読む際、「第一感」と呼ばれるパッと思いつく手を出発点にして、思考を行っています。こうすることで、余計な手を読まずにすむというわけです。優秀なプレイヤーは、この第一感の精度が優れていると考えられます。
しかし、「優秀なプレイヤーが、どのようにして精度の高い第一感を生み出しているのか?」は、明らかにされていません。
これを言語化出来れば、どんな人でも、精度の高い第一感を思いつくことができるようになるはずです。
今回は、その言語化にチャレンジしてみます。
そのためのヒントになるのが、「形勢判断」です。形勢判断とは、いくつかの指標を用いて、その局面が「勝ち」か「負け」かを判定するものです。
従来から使われている指標は、以下の4つです。
①駒の働き
②駒の損得
③玉の安全度
④手番
精度の高い第一感を生み出すためには、正しく局面を判定していること、すなわち正しく形勢判断がなされていることが必要なはずです。
では、その形勢判断の中でも、特に重要な要素、指標はどれなのか?
結論から言うと、それは「①駒の働き」です。
そもそも①駒の働きとは何なのでしょうか?
②~④はイメージが付きやすいと思いますが、①はどうも説明しにくい概念です。
今回はこの謎の概念に「将棋ゲームの目的達成に対する、1つ1つの駒の寄与」という定義を与えてみます。このように定義すると、先ほどの4つの指標は、このような関係になっていると考えることができます。以下の図をご覧ください。

いかがでしょうか。
①が②~④をすべて包括しており、②は駒の働きの総量、③は守りの駒の働きに注目したものであることが分かると思います。
また、駒がどう配置されているかによって、駒の働きは変わります。このことから、④は駒の配置を変えて駒の働きを変える権利、と捉えることができます。
以上のことから、①駒の働きこそが、形勢判断の本質であると考えられます。
この概念をより正しく理解することで、「優秀なプレイヤーが、どのようにして精度の高い第一感を生み出しているのか?」という問いの答えに近づけると思われます。
ここでは、駒の配置と働きの関係を、「駒の働きの位置依存性」と呼びます。これを数値などで明らかに出来れば理想ですが、厳密に求めることは到底できません。駒の働きは、異なる位置依存性を持った複数成分の和で表されるからです。以下の図をご覧ください。

駒の働きが、「攻めの働き」「守りの働き」「第3の働き」の3つの成分から構成されています。
これらの最大化はいかにも難しそうです。なぜなら、攻めの働きを高めれば守りの働きが低くなってしまうといったことが起こり得るからです。
そこでまずは、これらの成分を1個ずつ分析し、位置依存性を定性的に理解していきます。
最初の実験はこうです。銀を2枚、5三の位置と5七の位置に試しに置いてみました(第1図)。これらの銀はどんな働きを持つでしょうか?

王様がいないと働きは定義出来ません
答えは「定義できない」ですね。
将棋は玉を詰ますゲームなので、玉がいないとダメです。
今度は相手の玉を5一に置きます(第2図)。

5三銀の方が相手玉に近く、より相手玉の詰みに寄与すると考えます
そうすると、どんなことが言えるでしょうか?この場合、盤上の2枚の銀には相手玉の詰みへの寄与を定義することができます。2枚の銀を比較すると、5三銀のほうが相手玉に近く、より働きが大きいことは明白です。このように、相手玉を盤上に設置したことで駒の働きを定義づけることができました。
ここで、相手玉の設置によって定義づけられた駒の働きを、「攻めの働き」と呼ぶことにします。攻めの働きは基本的に相手玉との位置関係に依存し、相手玉に近づけば近づくほど大きくなります。
攻めの働きに着目した指し方の例を少し示します。
第3図では5六の金と4六の銀が攻めの主役です。ここではより玉から遠い4六の銀を▲5五銀とすると駒の働きを大きく高めることができます。

5六金と4六銀が攻めの主力。なるべく王様から遠い駒を活用するのが肝心です
また少し進んだ第4図では5五の金に着目し、▲6四歩△同歩▲同金とする手が最も駒の働きを高めます。

▲6四歩として、王様から遠い5五の金をさらに活用します。放っておくと▲6八飛の活用があります
今度の答えはどうなるでしょう?

5七銀の方が自玉に近く、より自玉の安全度に寄与すると考えます
第5図の場合、盤上の2枚の銀には自玉の安全度への寄与を定義することができます。2枚の銀を比較すると、5三銀は自玉からより遠く、5七銀は自玉により近く配置されています。
例えば相手に迫られた第6図では、5七銀のほうが自玉の安全度への寄与が大きいことは明らかです。

迫られても、5七銀のおかげでまだ詰みません
このように今度は自玉を盤上に設置することで駒の働きを定義づけることができました。ここで自玉の設置によって定義づけられた駒の働きを「守りの働き」と呼びます。
また守りの働きは攻めの働きと同様に、自玉との位置関係に依存し、自玉に近づけば近づくほど大きくなります。守りの働きに着目した指し方の例を少し示します。
第7図では自陣の角、金銀4枚、左辺の桂香が守りの働きを担っています。

自玉の安全度を高めるなら、やはり王様から遠い駒を活用するのが効果的です。攻めに活用するなら▲4六歩でもいいです
金銀の中では自玉に近い8七の銀や7八の金が比較的、働きが強く、自玉から遠い6七の金や5七の銀は守りの働きが弱いです。
このようなときは働きの弱い駒に着目して、▲6八銀と玉に近づける手が最も効果的な手でしょう。
また第8図は後手の5五歩が5六銀を狙っていますが、逃げるなら▲6七銀と王様の近くにいくほうが働きます。

▲6七銀一択と考えてOKです。▲4七銀と馬取りに逃げたくなりますが、△同馬▲同金△6九角で危なくなります
馬取りになるからといって、▲4七銀とするのは方向違いとなります。
まずは大駒について考えてみましょう。例えば第9図では飛車を二段目に打ちたくなりますが、どこに打つのがよいでしょうか?

2段目のどこに飛車を打つか。大駒は遠くから使う方がいい場合が多いです
玉に近いほうがより働くと考えるなら▲6二飛ですが、△7二金と受けられて飛車を逃げるしかないですね。この場合は▲2二飛などと離して打って、△7二金▲6三金と攻めるほうがいいです。
また受ける側に立って考えると、歩があるとき(第10図)は△6二歩と打って、▲同飛成と近づけてから△7二金と受けるのがよくなります。

今度は後手が歩を持っているので、▲2二飛には△6二歩▲同飛成△7二金▲2二竜△6二歩などと受けます。大駒は近づけて受けよ
「大駒は近づけて受けよ」という言葉がありますね。第10図がまさにそれです。大駒はとても強い駒である分、相手に取られた場合の損失が大きいので、相手の駒に近いと都合が悪い、というのがその理由です。
また大駒と小駒の最も大きな違いは、大駒は遠くまで利いているため、近くにいても遠くにいても、働きの差が小さいということにあります。すなわち、大駒は駒の働きの位置依存性が小さく、基本的には大駒を動かす手の価値は小さいと言えるのです。
例えば第11図で▲2六飛とする方もいますが、それはオススメしません。

大駒の働きは位置依存性が小さいため、▲2六飛と大駒を動かす手は価値が小さく、オススメしません
もちろん▲3六飛から▲3四飛が実現すればいいですが、実現しなかった場合(第12図)は大駒に手数をかけすぎている分、小駒の働きに差が出て形勢を損なってしまいます。

第12図からゆっくりした展開になると、金銀の働きに差が出てきて先手が劣勢になります
また同じ大駒でも、飛車と角では異なる性質を持っています。角はちょっと特別で、盤上のどの位置に設置されているかによって、駒の利きの数が大きく変わります。
からっぽの将棋盤に、2枚の角を設置した図を示します(第13図)。角は特に中央に設置されているときに駒の利きが多く、最大で16マスに利きます。

角は9九にいると8マスにしか利きを持ちません。一方、5五にいるとそれが16マスに増えます
一方、飛車にはそのような性質はなく、からっぽの盤上のどこに飛車を置いても、16マスに利いています(第14図)。

飛車はどこにいても16マスに利きを持ちます。将棋は飛車ゲー?
「将棋は飛車ゲー」と言われるゆえんかもしれませんね。角はなるべく中央付近で安定している状態がよいと言えそうです。
なお、大駒の働きの位置依存性は小さいということでしたが、その代わりに盤上の駒の影響で駒の働きが大きく変わります。それについては次節にて考えていきます。
次に、持ち駒について考えてみましょう。持ち駒には次の2つの性質があります。
①盤上の空いたスペースで、かつ禁手でなければどこにでも打てる。
②自分の手番に、1枚ずつしか打てない。
1つ目の性質から、大駒と同様に持ち駒も盤上の駒の影響を受けます。これも後程改めて考えます。見落としがちなのが2つ目で、これも持ち駒の働きに大きく影響することがあります。
例えば第15図のような展開で、後手が△5七歩と軽手を放ったところ。

後手は持ち駒の金2枚以外に歩しか攻め駒がなく、一見して先手が何とかなりそうに見えますが、形勢は難解です。
先手は大駒4枚を手にしていて、右辺にある後手の銀が機能していないことから、先手がよさそうに見えるかもしれませんが、実は形勢は難解です。
第15図から▲7三歩と攻め合う手が見えますが、これは駒の働きの観点からはやや疑問の一手で、以下第16図のようになって受けが難しく、先手劣勢となります。

第15図から▲7三歩とした場合、△6八金▲8九銀△6二金寄▲3五馬△5八歩成▲4一飛△3四銀▲同馬△7八歩▲8五桂△7九歩成▲7七玉△8九とと進み、本図となります
第16図から仮に▲5四歩と逃げ道を確保しようとしても、△7五銀(第17図)で簡単に受けなしになってしまいます。

逃げようとしても簡単に捕まってしまいます。先手は受けるスペースがなく、持ち駒が役に立ちません
また、かわりに▲7六銀と受けても、△6七銀▲同銀△5七金(第18図)と絡まれて、先手玉は安全になりません。

ここから▲5八銀と頑張っても、△5六金▲6八玉△7四飛の詰めろ馬取りが厳しいです
このような状況になってしまうと、いくら先手が自陣に駒を投入してもたちまち駒を消されてしまいます。これではせっかくの持ち駒も宝の持ち腐れです。
このような局面で着目すべきは、先手の駒台にある(歩を除いて)4枚の駒です。4枚も持ち駒を持っているということは、先ほどの性質②から全ての駒をアウトプットするのに4手もかかるということに相当します。でも、こんな終盤戦で、本当に4手も自由な手番が回ってくるでしょうか? もし回ってこないとすれば、持ち駒は使えないわけで、遊び駒のようなものです。
とすると、第15図で考えるべきは▲7六銀(第19図)のように自陣に駒をアウトプットすることなのです。

とにかく駒台にある駒をアウトプットするのが肝心です
以下△6八金▲7九歩△5八歩成▲8五桂△6七金打▲9六歩(第20図)のように進めば、自陣に7六銀や7九歩が残っていて、何とか踏みとどまっています。

素っ裸の第16図よりはいくらかマシです
形勢はやはり難解ですが、攻め合いより大分マシです。
なお、性質②が持ち駒の働きに大きく影響してくるのは、穴熊囲いのように王手がかからない場合が多いです。もし連続王手がかけられれば、いくらでも持ち駒が消費できるからですね。
もう1つ、例を挙げてみますが、こちらも穴熊戦です。

盤上の駒の枚数を増やす▲7八銀がオススメ
第21図では▲4三歩成と取りたくなりますが、例えば△7七竜▲同金△7六銀▲同金△8七桂▲8八玉△7九桂成(第22図)でどうか。

第21図から▲4三歩成とした場合。滅茶苦茶な攻めのようですが、▲同玉と取ってしまうと△8七角で意外にうるさいです
盤上の駒が減ってしまい、駒台にある大量の持ち駒は働くかどうか不透明です。第21図では直ちに▲7八銀と埋めるほうがよいでしょう。
まずは第1図において、持ち駒の金銀の働きを考えてみましょう。

▲5三銀と打てば相手玉は受けなし
持ち駒の働きを考える場合は、最も効果的なアウトプットを想定すればいいです。この場合は簡単ですね。▲5三銀とすれば、次に必ず頭金で相手玉を詰ますことができます。
それでは次に、相手陣に駒を1枚だけ増やしてみることにしましょう。
例えば、5三の地点にポンと1枚、歩を置いてみるのです(第2図)。するとどうなるでしょうか?

今度は▲5三銀が打てません。銀を打つなら4三や6三ですが・・・
今度は、歩が邪魔をして▲5三銀と打てなくなってしまいました。代わりに▲6三銀や▲4三銀と打ってみます。すると、▲6三銀には△4二玉、▲4三銀には△6二玉で、玉は全く捕まりませんね(第3図)。

第1図は受けなしでしたが、今度は全く捕まらなくなってしまいました
このように、持ち駒の働きは盤上にあるたった1枚の駒で、天と地ほど変わってしまうことがあります。こう考えますと、将棋の駒にはほかの駒を妨害する働きがありそう、と思われないでしょうか?
さらに、第3図から4三の地点、6三の地点に歩を足してみます(第4図)。

こうなると全く手出しができなくなります
先ほどの第2図と比べ、▲4三銀も▲6三銀も打てなくなり、相手玉に迫る手段が全くなくなってしまいました。
ちなみにですが、第4図で先手の持ち駒が金銀桂だと、▲5四桂(第5図)が習いある手筋で、△同歩に▲5三銀が打てます。

習いある手筋で、△同歩に▲5三銀と打ちます
この場合は持ち駒の桂よりも5三歩の妨害を打ち消すほうがより価値が高いというわけですね。
なお、このような妨害の影響を受けるのは必ずしも持ち駒だけに限りません。あらゆる駒は盤上の、いわば「場」を感じながら存在していると考えます。盤上の「場」は、盤上にある一つ一つの駒から形成されていて、それら一つ一つの寄与を「第3の働き」と呼ぶことにしましょう。先述したように、「第3の働き」とは、平たく言ってしまえば駒を妨害する働きと言えます。ただし、妨害を受けるのは相手の駒だけでなく、自分の駒もそうです。実際、初形では2七歩や7七歩が大駒の利きを止めていますね。
第3の働きは、攻めや守りの働きとは全く異なる位置依存性を持っています。第6図はお互いに大駒を手持ちにした仮の局面ですが、先手陣は金銀が玉に近すぎて飛車を打ち込み放題になっている一方、後手陣は有効な大駒の打ち込み場所がありません。

先手と後手では駒台にある大駒の価値が全く違います
同じ駒台の飛車でも、盤上の駒の第3の働きによって全く価値の異なる駒になりえます。以上のことを利用して、第7図のように積極的に大駒をぶつけていく指し方もあります。駒は必ずしも、玉の近くにいるほうが働いているとは言えないのです。

左辺に配置した7八金のおかげで、先手の方が駒台の飛車の価値が高くなっています
例えば、第8図では、次に飛車の横利きを生かして△7九銀が狙いです。

▲6九歩が金底の歩
こういったときに▲6九歩と打つのが、「金底の歩、岩より堅し」の格言に沿った手です。
飛車は盤上に駒がなければ16マスに利きますが、盤上に駒を置けばこのように利きをブロックすることができます。そのため、大駒の利き筋にある駒は第3の働きが大きい、ということが言えるでしょう。特に金底の歩は、歩といういちばん弱い駒で飛車という強い駒をブロックできるので、とても強いと言えますね。
なおこのような場合、攻める側は第9図のように△6七歩とするのがいいです。

金底の歩を打たれたら攻める側は直ちに反応するべきです。歩があれば図のように△6七歩。なければ△4八飛成などとします
▲同金なら△6九飛成と金底の歩を取り払うことができますし、放っておいても△6八歩成で玉の近くにと金ができます。飛車をブロックされた際には、攻める側としては直ちに飛車を働かせるための何らかのアクションを取るべきで
す。
また大駒の利きをブロックする駒には、ちょっと面白い性質があります。
例えば第10図は第8図と同じように一段目に飛車を打たれたところ。

底歩を打つなら▲3九歩の方が勝ります
この飛車を金底の歩でブロックするわけですが、打ち場所が3九と6九の2か所あります。
こういうときは3九に打つほうがいいです。そのほうが単純に飛車の利きが少なくなってよいですし、仮に△3七歩~△3八歩成(第11図)とこられてもと金が遠い分、玉本体にはあまり響いていません。

△6七歩~△6八歩成と取られるより、△3七歩~△3八歩成と取られる本図の方が手が稼げています
このように、大駒をブロックする駒は玉から遠いほうがかえってよいことが多々あります。
当然ながら、以上のことは飛車に対してだけでなく、角に対しても同様です。飛車と違って角を遮断する歩には名前がついていないのですが、やはりいちばん弱い駒である歩で遮断できるといちばん効率がよいです。第12図では角が玉を睨んでいてとても強い駒になっていますので、直ちに▲5六歩や▲6五歩としましょう。

黙っていると次に△4五歩が来ます。大駒の利きはすぐにでも止めておきましょう
なお、なるべく玉に遠い位置でブロックするほうがよいことから、どちらかと言えば▲6五歩のほうがよいですね。
逆に角の利きを生かす立場としては、第13図のような場面で▲5六角とするのはよくありません。

角を打って金を狙う場面ですが、歩で止められないように注意します
そうすると△4五歩で止まってしまうからですね。こうした場合は▲1六角や▲6一角などとして、歩で止められない位置から角を利かすようにします。
大駒は将棋というゲームにおいて特別に強い駒です。したがって大駒の利きをブロックする駒は、それ自身が攻めや守りに全く機能していなくても、十分機能しているとみなされます。実際、第14図や第15図のように、歩や金銀を使って序盤から大駒を押さえにいく指し方が古くから有力な戦術として知られています。(第14図は阪田流向かい飛車、第15図はメリケン向かい飛車という名前がついています)。

金だけでなく銀も使って飛車を押さえ込む指し方。玉はスカスカですが、飛車さえ押さえ込めれば十分と考えます。実際、この局面は既に先手有利
例えば将棋の初形では三段目に相手の歩が並んでいますが(第16図)、その影響で小駒がスイスイ進んでいけるのは五段目までで、第17図のようにそれ以上前に進むと歩に取られてしまいますよね。

将棋の初形では歩が3段目に並んでいて、4段目は全て歩が利いています

将棋は単体の駒だと、歩が邪魔で5段目以上にはいけない仕組みになっています
従って攻める立場からすると、小駒単体で五段目より前に進めることは基本的にできないため、ある一定以上、攻めの働きを高めることができないような構造になっています。
実際には、お互いに防衛ラインをさらに上げて、基本的に「攻め駒を五段目に出させない」ようにして陣形を組みます。攻め駒を五段目に進出させると、「数の攻め」で守りを突破されてしまう可能性があるからです。有名な攻め方として、棒銀の攻めがありますね(第18図)。

▲同歩△同銀となれば銀の進出が止まりません。このように駒が5段目以上に来れば、攻めの起点になります
このような攻めを受けてしまうと大駒の侵入も誘発してしまうので、攻め駒を前に出させないのはとても大事です。具体的には第19図のように、「歩越し銀には歩で対抗」の格言通り、歩のバリアーを使って攻め駒を通せんぼするのがよいとされます。

歩越し銀には歩で対抗。5段目に出させないのが基本的な考え方
さらにもう一段、歩の防衛ラインを上げて、駒を四段目に出させない指し方もあります。例えば第20図(先手番とする)で、▲6五歩(△同銀なら▲7七桂)△5三銀▲6六銀右と指します。

ここから▲6五歩(△同銀なら▲7七桂で銀が取れる)△5三銀▲6六銀と位+4段目の銀の形を作ると、さらに駒の働きが高まります
このような五段目の歩を、「位」と呼び、五段目に歩を進めることを「位を取る」などと言います。6五歩6六銀のような形は1段防衛ラインが上がっている分、相手の攻め駒が前に出られなくなるので、第3の働きがとても高いと考えます。また▲6六銀右以下、さらに▲7五歩と突いて五段目に銀を進出し、▲7四歩(第21図)と垂らせば、もっと働きが大きくなります。

5段目の銀+6段目の歩はさらに強力
なお小駒に対する第3の働きの影響は以上のような単なる通せんぼだけではなく、「攻め駒を責める」ことによって駒得につなげる働きもあります。例えば第20図(後手番とする)から△7五歩と突くと、すかさず▲6五歩△同銀▲7五歩(第22図)で、銀が立ち往生してしまい、次の▲6六歩で銀が詰まされます。

次の▲6六歩が受からない。これも第3の働きの効果と考えます
第22図のような状況は「銀ばさみ」と言います。このように第3の働きを利用して駒得を狙う手筋は「小駒の詰将棋」とも言えそうですね。
第23図の△2五銀も駒得を狙う手筋で、相手の駒を押さえ込みつつ攻め駒を責めているので、ソッポの駒のようでも立派に働いていると考えます。

ソッポの銀ですが、次に△3六銀を狙っていて、十分働いています
②人間は「第一感」を活用して、読む量を減らしている
③「精度の高い第一感をどのようにして導くのか?」を解き明かすため、「駒の働き」の言語化を試みるのが本連載のテーマ
④駒の働きには「攻めの働き」「守りの働き」「第3の働き」の3成分がある
⑤攻めや守りの駒の働きは、玉に近づくほど大きくなる
⑥大駒や持ち駒は、第3の働きの影響を受ける
以上が、配置理論の概論と駒の働きの基本成分についての講義です。
詳しくは、2024年12月24日に発売の『配置理論で学ぶ 将棋戦略思考』(著:ゆに@将棋戦略)に載っています。
本書ではほかにも、「境界効果」「偶奇バランス」などの新たな概念を用い、駒の働きの言語化に挑んでいます。 ぜひ読んでください。
限定記事や限定動画など特典が盛り沢山!将棋情報局ゴールドメンバーご入会はこちらから
「配置理論」講座一覧
第1回:概論&駒の働きの基本成分について(今読んでいる記事)
第2回:coming soon
第3回:coming soon
第4回:coming soon
第1回:概論&駒の働きの基本成分について(今読んでいる記事)
第2回:coming soon
第3回:coming soon
第4回:coming soon
皆さんこんにちは。
本記事では、将棋の最善手を導き出すための新しい理論、「配置理論」をご紹介します。
詳しくは、2024年12月24日に発売の『配置理論で学ぶ 将棋戦略思考』(著:ゆに@将棋戦略)にも載っていますので、チェックしてみてくださいね。
※本稿は、ゆに@将棋戦略著『配置理論で学ぶ 将棋戦略思考』の内容をもとに編集部が再構成したものです。
本記事の目次
0 はじめに
1 駒の働きと3つの基本成分
1-1 駒の働きは3つの成分の和
1-2 攻めの働き
1-3 守りの働き
1-4 駒の働きと駒の種類
1-5 第3の働きと持ち駒の働き
1-6 第3の働きと大駒の働き
1-7 第3の働きと小駒の働き
2 本記事のまとめ
3 配置理論を体系的に学ぶならこの本がおすすめ
0 はじめに
1 駒の働きと3つの基本成分
1-1 駒の働きは3つの成分の和
1-2 攻めの働き
1-3 守りの働き
1-4 駒の働きと駒の種類
1-5 第3の働きと持ち駒の働き
1-6 第3の働きと大駒の働き
1-7 第3の働きと小駒の働き
2 本記事のまとめ
3 配置理論を体系的に学ぶならこの本がおすすめ
はじめに
将棋とは「読み」のゲームであると言われます。しかしそれは、「ルール上指せる手をすべてシミュレーションし、勝ちに結びつくと結論付けた手を選ぶ」という意味ではありません。われわれ人間はコンピューターではありませんので、そんなことは実践できないからです。人間が将棋の手を読む際、「第一感」と呼ばれるパッと思いつく手を出発点にして、思考を行っています。こうすることで、余計な手を読まずにすむというわけです。優秀なプレイヤーは、この第一感の精度が優れていると考えられます。
しかし、「優秀なプレイヤーが、どのようにして精度の高い第一感を生み出しているのか?」は、明らかにされていません。
これを言語化出来れば、どんな人でも、精度の高い第一感を思いつくことができるようになるはずです。
今回は、その言語化にチャレンジしてみます。
そのためのヒントになるのが、「形勢判断」です。形勢判断とは、いくつかの指標を用いて、その局面が「勝ち」か「負け」かを判定するものです。
従来から使われている指標は、以下の4つです。
①駒の働き
②駒の損得
③玉の安全度
④手番
精度の高い第一感を生み出すためには、正しく局面を判定していること、すなわち正しく形勢判断がなされていることが必要なはずです。
では、その形勢判断の中でも、特に重要な要素、指標はどれなのか?
結論から言うと、それは「①駒の働き」です。
そもそも①駒の働きとは何なのでしょうか?
②~④はイメージが付きやすいと思いますが、①はどうも説明しにくい概念です。
今回はこの謎の概念に「将棋ゲームの目的達成に対する、1つ1つの駒の寄与」という定義を与えてみます。このように定義すると、先ほどの4つの指標は、このような関係になっていると考えることができます。以下の図をご覧ください。

いかがでしょうか。
①が②~④をすべて包括しており、②は駒の働きの総量、③は守りの駒の働きに注目したものであることが分かると思います。
また、駒がどう配置されているかによって、駒の働きは変わります。このことから、④は駒の配置を変えて駒の働きを変える権利、と捉えることができます。
以上のことから、①駒の働きこそが、形勢判断の本質であると考えられます。
この概念をより正しく理解することで、「優秀なプレイヤーが、どのようにして精度の高い第一感を生み出しているのか?」という問いの答えに近づけると思われます。
駒の働きと3つの基本成分
ここからは、駒の働きについて一般的に成り立つ性質を明らかにし、駒の働きの理解をより深めていきます。駒の働きは3つの成分の和
ここでは、駒の配置と働きの関係を、「駒の働きの位置依存性」と呼びます。これを数値などで明らかに出来れば理想ですが、厳密に求めることは到底できません。駒の働きは、異なる位置依存性を持った複数成分の和で表されるからです。以下の図をご覧ください。

駒の働きが、「攻めの働き」「守りの働き」「第3の働き」の3つの成分から構成されています。
これらの最大化はいかにも難しそうです。なぜなら、攻めの働きを高めれば守りの働きが低くなってしまうといったことが起こり得るからです。
そこでまずは、これらの成分を1個ずつ分析し、位置依存性を定性的に理解していきます。
攻めの働き
これから簡単な実験をいくつか行い、駒の働きが3つの成分に分解できること、それらの成分がどういった性質を持つかを示していきます。最初の実験はこうです。銀を2枚、5三の位置と5七の位置に試しに置いてみました(第1図)。これらの銀はどんな働きを持つでしょうか?

王様がいないと働きは定義出来ません
答えは「定義できない」ですね。
将棋は玉を詰ますゲームなので、玉がいないとダメです。
今度は相手の玉を5一に置きます(第2図)。

5三銀の方が相手玉に近く、より相手玉の詰みに寄与すると考えます
そうすると、どんなことが言えるでしょうか?この場合、盤上の2枚の銀には相手玉の詰みへの寄与を定義することができます。2枚の銀を比較すると、5三銀のほうが相手玉に近く、より働きが大きいことは明白です。このように、相手玉を盤上に設置したことで駒の働きを定義づけることができました。
ここで、相手玉の設置によって定義づけられた駒の働きを、「攻めの働き」と呼ぶことにします。攻めの働きは基本的に相手玉との位置関係に依存し、相手玉に近づけば近づくほど大きくなります。
攻めの働きに着目した指し方の例を少し示します。
第3図では5六の金と4六の銀が攻めの主役です。ここではより玉から遠い4六の銀を▲5五銀とすると駒の働きを大きく高めることができます。

5六金と4六銀が攻めの主力。なるべく王様から遠い駒を活用するのが肝心です
また少し進んだ第4図では5五の金に着目し、▲6四歩△同歩▲同金とする手が最も駒の働きを高めます。

▲6四歩として、王様から遠い5五の金をさらに活用します。放っておくと▲6八飛の活用があります
守りの働き
それでは次に、いったん相手玉を駒箱にしまっておいて、今度は自玉を5九の位置に置いてみます(第5図)。今度の答えはどうなるでしょう?

5七銀の方が自玉に近く、より自玉の安全度に寄与すると考えます
第5図の場合、盤上の2枚の銀には自玉の安全度への寄与を定義することができます。2枚の銀を比較すると、5三銀は自玉からより遠く、5七銀は自玉により近く配置されています。
例えば相手に迫られた第6図では、5七銀のほうが自玉の安全度への寄与が大きいことは明らかです。

迫られても、5七銀のおかげでまだ詰みません
このように今度は自玉を盤上に設置することで駒の働きを定義づけることができました。ここで自玉の設置によって定義づけられた駒の働きを「守りの働き」と呼びます。
また守りの働きは攻めの働きと同様に、自玉との位置関係に依存し、自玉に近づけば近づくほど大きくなります。守りの働きに着目した指し方の例を少し示します。
第7図では自陣の角、金銀4枚、左辺の桂香が守りの働きを担っています。

自玉の安全度を高めるなら、やはり王様から遠い駒を活用するのが効果的です。攻めに活用するなら▲4六歩でもいいです
金銀の中では自玉に近い8七の銀や7八の金が比較的、働きが強く、自玉から遠い6七の金や5七の銀は守りの働きが弱いです。
このようなときは働きの弱い駒に着目して、▲6八銀と玉に近づける手が最も効果的な手でしょう。
また第8図は後手の5五歩が5六銀を狙っていますが、逃げるなら▲6七銀と王様の近くにいくほうが働きます。

▲6七銀一択と考えてOKです。▲4七銀と馬取りに逃げたくなりますが、△同馬▲同金△6九角で危なくなります
馬取りになるからといって、▲4七銀とするのは方向違いとなります。
駒の働きと駒の種類
ここまでの話は、実は小駒(金、銀、桂、香、歩)をベースとしたお話で、大駒(飛、角)や持ち駒の場合は大分、事情が異なってきます。まずは大駒について考えてみましょう。例えば第9図では飛車を二段目に打ちたくなりますが、どこに打つのがよいでしょうか?

2段目のどこに飛車を打つか。大駒は遠くから使う方がいい場合が多いです
玉に近いほうがより働くと考えるなら▲6二飛ですが、△7二金と受けられて飛車を逃げるしかないですね。この場合は▲2二飛などと離して打って、△7二金▲6三金と攻めるほうがいいです。
また受ける側に立って考えると、歩があるとき(第10図)は△6二歩と打って、▲同飛成と近づけてから△7二金と受けるのがよくなります。

今度は後手が歩を持っているので、▲2二飛には△6二歩▲同飛成△7二金▲2二竜△6二歩などと受けます。大駒は近づけて受けよ
「大駒は近づけて受けよ」という言葉がありますね。第10図がまさにそれです。大駒はとても強い駒である分、相手に取られた場合の損失が大きいので、相手の駒に近いと都合が悪い、というのがその理由です。
また大駒と小駒の最も大きな違いは、大駒は遠くまで利いているため、近くにいても遠くにいても、働きの差が小さいということにあります。すなわち、大駒は駒の働きの位置依存性が小さく、基本的には大駒を動かす手の価値は小さいと言えるのです。
例えば第11図で▲2六飛とする方もいますが、それはオススメしません。

大駒の働きは位置依存性が小さいため、▲2六飛と大駒を動かす手は価値が小さく、オススメしません
もちろん▲3六飛から▲3四飛が実現すればいいですが、実現しなかった場合(第12図)は大駒に手数をかけすぎている分、小駒の働きに差が出て形勢を損なってしまいます。

第12図からゆっくりした展開になると、金銀の働きに差が出てきて先手が劣勢になります
また同じ大駒でも、飛車と角では異なる性質を持っています。角はちょっと特別で、盤上のどの位置に設置されているかによって、駒の利きの数が大きく変わります。
からっぽの将棋盤に、2枚の角を設置した図を示します(第13図)。角は特に中央に設置されているときに駒の利きが多く、最大で16マスに利きます。

角は9九にいると8マスにしか利きを持ちません。一方、5五にいるとそれが16マスに増えます
一方、飛車にはそのような性質はなく、からっぽの盤上のどこに飛車を置いても、16マスに利いています(第14図)。

飛車はどこにいても16マスに利きを持ちます。将棋は飛車ゲー?
「将棋は飛車ゲー」と言われるゆえんかもしれませんね。角はなるべく中央付近で安定している状態がよいと言えそうです。
なお、大駒の働きの位置依存性は小さいということでしたが、その代わりに盤上の駒の影響で駒の働きが大きく変わります。それについては次節にて考えていきます。
次に、持ち駒について考えてみましょう。持ち駒には次の2つの性質があります。
①盤上の空いたスペースで、かつ禁手でなければどこにでも打てる。
②自分の手番に、1枚ずつしか打てない。
1つ目の性質から、大駒と同様に持ち駒も盤上の駒の影響を受けます。これも後程改めて考えます。見落としがちなのが2つ目で、これも持ち駒の働きに大きく影響することがあります。
例えば第15図のような展開で、後手が△5七歩と軽手を放ったところ。

後手は持ち駒の金2枚以外に歩しか攻め駒がなく、一見して先手が何とかなりそうに見えますが、形勢は難解です。
先手は大駒4枚を手にしていて、右辺にある後手の銀が機能していないことから、先手がよさそうに見えるかもしれませんが、実は形勢は難解です。
第15図から▲7三歩と攻め合う手が見えますが、これは駒の働きの観点からはやや疑問の一手で、以下第16図のようになって受けが難しく、先手劣勢となります。

第15図から▲7三歩とした場合、△6八金▲8九銀△6二金寄▲3五馬△5八歩成▲4一飛△3四銀▲同馬△7八歩▲8五桂△7九歩成▲7七玉△8九とと進み、本図となります
第16図から仮に▲5四歩と逃げ道を確保しようとしても、△7五銀(第17図)で簡単に受けなしになってしまいます。

逃げようとしても簡単に捕まってしまいます。先手は受けるスペースがなく、持ち駒が役に立ちません
また、かわりに▲7六銀と受けても、△6七銀▲同銀△5七金(第18図)と絡まれて、先手玉は安全になりません。

ここから▲5八銀と頑張っても、△5六金▲6八玉△7四飛の詰めろ馬取りが厳しいです
このような状況になってしまうと、いくら先手が自陣に駒を投入してもたちまち駒を消されてしまいます。これではせっかくの持ち駒も宝の持ち腐れです。
このような局面で着目すべきは、先手の駒台にある(歩を除いて)4枚の駒です。4枚も持ち駒を持っているということは、先ほどの性質②から全ての駒をアウトプットするのに4手もかかるということに相当します。でも、こんな終盤戦で、本当に4手も自由な手番が回ってくるでしょうか? もし回ってこないとすれば、持ち駒は使えないわけで、遊び駒のようなものです。
とすると、第15図で考えるべきは▲7六銀(第19図)のように自陣に駒をアウトプットすることなのです。

とにかく駒台にある駒をアウトプットするのが肝心です
以下△6八金▲7九歩△5八歩成▲8五桂△6七金打▲9六歩(第20図)のように進めば、自陣に7六銀や7九歩が残っていて、何とか踏みとどまっています。

素っ裸の第16図よりはいくらかマシです
形勢はやはり難解ですが、攻め合いより大分マシです。
なお、性質②が持ち駒の働きに大きく影響してくるのは、穴熊囲いのように王手がかからない場合が多いです。もし連続王手がかけられれば、いくらでも持ち駒が消費できるからですね。
もう1つ、例を挙げてみますが、こちらも穴熊戦です。

盤上の駒の枚数を増やす▲7八銀がオススメ
第21図では▲4三歩成と取りたくなりますが、例えば△7七竜▲同金△7六銀▲同金△8七桂▲8八玉△7九桂成(第22図)でどうか。

第21図から▲4三歩成とした場合。滅茶苦茶な攻めのようですが、▲同玉と取ってしまうと△8七角で意外にうるさいです
盤上の駒が減ってしまい、駒台にある大量の持ち駒は働くかどうか不透明です。第21図では直ちに▲7八銀と埋めるほうがよいでしょう。
第3の働きと持ち駒の働き
先述したように、主に大駒や持ち駒などの働きは、それら自身と王様の位置からだけでは決めることができません。それらは、盤上にあるあらゆる駒の「第3の働き」の影響を常に受けていると考えます。どういうことか、具体的に考えてみましょう。まずは第1図において、持ち駒の金銀の働きを考えてみましょう。

▲5三銀と打てば相手玉は受けなし
持ち駒の働きを考える場合は、最も効果的なアウトプットを想定すればいいです。この場合は簡単ですね。▲5三銀とすれば、次に必ず頭金で相手玉を詰ますことができます。
それでは次に、相手陣に駒を1枚だけ増やしてみることにしましょう。
例えば、5三の地点にポンと1枚、歩を置いてみるのです(第2図)。するとどうなるでしょうか?

今度は▲5三銀が打てません。銀を打つなら4三や6三ですが・・・
今度は、歩が邪魔をして▲5三銀と打てなくなってしまいました。代わりに▲6三銀や▲4三銀と打ってみます。すると、▲6三銀には△4二玉、▲4三銀には△6二玉で、玉は全く捕まりませんね(第3図)。

第1図は受けなしでしたが、今度は全く捕まらなくなってしまいました
このように、持ち駒の働きは盤上にあるたった1枚の駒で、天と地ほど変わってしまうことがあります。こう考えますと、将棋の駒にはほかの駒を妨害する働きがありそう、と思われないでしょうか?
さらに、第3図から4三の地点、6三の地点に歩を足してみます(第4図)。

こうなると全く手出しができなくなります
先ほどの第2図と比べ、▲4三銀も▲6三銀も打てなくなり、相手玉に迫る手段が全くなくなってしまいました。
ちなみにですが、第4図で先手の持ち駒が金銀桂だと、▲5四桂(第5図)が習いある手筋で、△同歩に▲5三銀が打てます。

習いある手筋で、△同歩に▲5三銀と打ちます
この場合は持ち駒の桂よりも5三歩の妨害を打ち消すほうがより価値が高いというわけですね。
なお、このような妨害の影響を受けるのは必ずしも持ち駒だけに限りません。あらゆる駒は盤上の、いわば「場」を感じながら存在していると考えます。盤上の「場」は、盤上にある一つ一つの駒から形成されていて、それら一つ一つの寄与を「第3の働き」と呼ぶことにしましょう。先述したように、「第3の働き」とは、平たく言ってしまえば駒を妨害する働きと言えます。ただし、妨害を受けるのは相手の駒だけでなく、自分の駒もそうです。実際、初形では2七歩や7七歩が大駒の利きを止めていますね。
第3の働きは、攻めや守りの働きとは全く異なる位置依存性を持っています。第6図はお互いに大駒を手持ちにした仮の局面ですが、先手陣は金銀が玉に近すぎて飛車を打ち込み放題になっている一方、後手陣は有効な大駒の打ち込み場所がありません。

先手と後手では駒台にある大駒の価値が全く違います
同じ駒台の飛車でも、盤上の駒の第3の働きによって全く価値の異なる駒になりえます。以上のことを利用して、第7図のように積極的に大駒をぶつけていく指し方もあります。駒は必ずしも、玉の近くにいるほうが働いているとは言えないのです。

左辺に配置した7八金のおかげで、先手の方が駒台の飛車の価値が高くなっています
第3の働きと大駒の働き
次に、盤上の駒が大駒の働きにどのように影響するか考えてみます。例えば、第8図では、次に飛車の横利きを生かして△7九銀が狙いです。

▲6九歩が金底の歩
こういったときに▲6九歩と打つのが、「金底の歩、岩より堅し」の格言に沿った手です。
飛車は盤上に駒がなければ16マスに利きますが、盤上に駒を置けばこのように利きをブロックすることができます。そのため、大駒の利き筋にある駒は第3の働きが大きい、ということが言えるでしょう。特に金底の歩は、歩といういちばん弱い駒で飛車という強い駒をブロックできるので、とても強いと言えますね。
なおこのような場合、攻める側は第9図のように△6七歩とするのがいいです。

金底の歩を打たれたら攻める側は直ちに反応するべきです。歩があれば図のように△6七歩。なければ△4八飛成などとします
▲同金なら△6九飛成と金底の歩を取り払うことができますし、放っておいても△6八歩成で玉の近くにと金ができます。飛車をブロックされた際には、攻める側としては直ちに飛車を働かせるための何らかのアクションを取るべきで
す。
また大駒の利きをブロックする駒には、ちょっと面白い性質があります。
例えば第10図は第8図と同じように一段目に飛車を打たれたところ。

底歩を打つなら▲3九歩の方が勝ります
この飛車を金底の歩でブロックするわけですが、打ち場所が3九と6九の2か所あります。
こういうときは3九に打つほうがいいです。そのほうが単純に飛車の利きが少なくなってよいですし、仮に△3七歩~△3八歩成(第11図)とこられてもと金が遠い分、玉本体にはあまり響いていません。

△6七歩~△6八歩成と取られるより、△3七歩~△3八歩成と取られる本図の方が手が稼げています
このように、大駒をブロックする駒は玉から遠いほうがかえってよいことが多々あります。
当然ながら、以上のことは飛車に対してだけでなく、角に対しても同様です。飛車と違って角を遮断する歩には名前がついていないのですが、やはりいちばん弱い駒である歩で遮断できるといちばん効率がよいです。第12図では角が玉を睨んでいてとても強い駒になっていますので、直ちに▲5六歩や▲6五歩としましょう。

黙っていると次に△4五歩が来ます。大駒の利きはすぐにでも止めておきましょう
なお、なるべく玉に遠い位置でブロックするほうがよいことから、どちらかと言えば▲6五歩のほうがよいですね。
逆に角の利きを生かす立場としては、第13図のような場面で▲5六角とするのはよくありません。

角を打って金を狙う場面ですが、歩で止められないように注意します
そうすると△4五歩で止まってしまうからですね。こうした場合は▲1六角や▲6一角などとして、歩で止められない位置から角を利かすようにします。
大駒は将棋というゲームにおいて特別に強い駒です。したがって大駒の利きをブロックする駒は、それ自身が攻めや守りに全く機能していなくても、十分機能しているとみなされます。実際、第14図や第15図のように、歩や金銀を使って序盤から大駒を押さえにいく指し方が古くから有力な戦術として知られています。(第14図は阪田流向かい飛車、第15図はメリケン向かい飛車という名前がついています)。

金をグイグイ出ていって飛車を押さえ込む指し方。金が王様から離れている上に、馬まで作られている現局面ですが、飛車を押さえているのが大きく先手悪くありません

金だけでなく銀も使って飛車を押さえ込む指し方。玉はスカスカですが、飛車さえ押さえ込めれば十分と考えます。実際、この局面は既に先手有利
第3の働きと小駒の働き
最後に、盤上の駒が小駒(この場合は金、銀、桂、歩を想定します。香は大駒に近い性質を持ちます)の働きにどのように影響するか考えてみます。大駒の場合は利き筋に駒があると利きが止まってしまい、利きの数が減ってしまうのですが、小駒の場合は利きが止まるということがありませんので、第3の働きの影響は限定的となります。どのように影響するかと言うと、盤上の駒は小駒を、いわば通せんぼするような働きを持っています。例えば将棋の初形では三段目に相手の歩が並んでいますが(第16図)、その影響で小駒がスイスイ進んでいけるのは五段目までで、第17図のようにそれ以上前に進むと歩に取られてしまいますよね。

将棋の初形では歩が3段目に並んでいて、4段目は全て歩が利いています

将棋は単体の駒だと、歩が邪魔で5段目以上にはいけない仕組みになっています
従って攻める立場からすると、小駒単体で五段目より前に進めることは基本的にできないため、ある一定以上、攻めの働きを高めることができないような構造になっています。
実際には、お互いに防衛ラインをさらに上げて、基本的に「攻め駒を五段目に出させない」ようにして陣形を組みます。攻め駒を五段目に進出させると、「数の攻め」で守りを突破されてしまう可能性があるからです。有名な攻め方として、棒銀の攻めがありますね(第18図)。

▲同歩△同銀となれば銀の進出が止まりません。このように駒が5段目以上に来れば、攻めの起点になります
このような攻めを受けてしまうと大駒の侵入も誘発してしまうので、攻め駒を前に出させないのはとても大事です。具体的には第19図のように、「歩越し銀には歩で対抗」の格言通り、歩のバリアーを使って攻め駒を通せんぼするのがよいとされます。

歩越し銀には歩で対抗。5段目に出させないのが基本的な考え方
さらにもう一段、歩の防衛ラインを上げて、駒を四段目に出させない指し方もあります。例えば第20図(先手番とする)で、▲6五歩(△同銀なら▲7七桂)△5三銀▲6六銀右と指します。

ここから▲6五歩(△同銀なら▲7七桂で銀が取れる)△5三銀▲6六銀と位+4段目の銀の形を作ると、さらに駒の働きが高まります
このような五段目の歩を、「位」と呼び、五段目に歩を進めることを「位を取る」などと言います。6五歩6六銀のような形は1段防衛ラインが上がっている分、相手の攻め駒が前に出られなくなるので、第3の働きがとても高いと考えます。また▲6六銀右以下、さらに▲7五歩と突いて五段目に銀を進出し、▲7四歩(第21図)と垂らせば、もっと働きが大きくなります。

5段目の銀+6段目の歩はさらに強力
なお小駒に対する第3の働きの影響は以上のような単なる通せんぼだけではなく、「攻め駒を責める」ことによって駒得につなげる働きもあります。例えば第20図(後手番とする)から△7五歩と突くと、すかさず▲6五歩△同銀▲7五歩(第22図)で、銀が立ち往生してしまい、次の▲6六歩で銀が詰まされます。

次の▲6六歩が受からない。これも第3の働きの効果と考えます
第22図のような状況は「銀ばさみ」と言います。このように第3の働きを利用して駒得を狙う手筋は「小駒の詰将棋」とも言えそうですね。
第23図の△2五銀も駒得を狙う手筋で、相手の駒を押さえ込みつつ攻め駒を責めているので、ソッポの駒のようでも立派に働いていると考えます。

ソッポの銀ですが、次に△3六銀を狙っていて、十分働いています
本記事のまとめ
①将棋における読みとは、「全ての手をシミュレーションすること」のみを示すものではない②人間は「第一感」を活用して、読む量を減らしている
③「精度の高い第一感をどのようにして導くのか?」を解き明かすため、「駒の働き」の言語化を試みるのが本連載のテーマ
④駒の働きには「攻めの働き」「守りの働き」「第3の働き」の3成分がある
⑤攻めや守りの駒の働きは、玉に近づくほど大きくなる
⑥大駒や持ち駒は、第3の働きの影響を受ける
配置理論を体系的に学ぶならこの本がおすすめ
ここまでお読みいただきありがとうございました!以上が、配置理論の概論と駒の働きの基本成分についての講義です。
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