2024.10.25
伊藤匠叡王、誕生日を下北沢で祝う
【取材】田名後健吾
伊藤匠叡王の初タイトル獲得と誕生日を祝う会が10月10日、東京・下北沢のイタリアレストラン「ピッツェリアエイト下北沢」で開かれました。
下北沢では毎年ゴールデンウィークに、将棋・囲碁・チェス・バックギャモンなど世界中のボードゲームが一堂に会するイベント「シモキタ名人戦」が開催されています。
伊藤叡王も同じ世田谷区民として3年前から協力しており、初参加の2022年には、世田谷区政90周年にちなんで90面指しを行っています。
この誕生日会は、シモキタ名人戦の発起人であり実行委員長である下平憲治さんが、同イベントでお世話になっている関係者に呼びかけて企画したものです。
下平憲治さん
下平さん
「シモキタ名人戦は、今年で13年。プロもアマチュアも仲よくワイワイガヤガヤやってきましたが、そんな中で嬉しいニュースが今年6月にありました。デビュー以来ずっとシモキタ名人戦に参加していただいている伊藤匠さんが、なんと、叡王を勝ち取りました。お祝いの会をやろうという話になり、シモキタ名人戦の実行委員会および参加していただいている皆様をお招きしております」
下平さんの呼びかけに、保坂展人世田谷区長を始め、将棋界からは宮田利男八段(伊藤匠叡王の師匠)や森内俊之九段、鈴木大介九段、中倉宏美女流二段(LPSA)ら多くの棋士や女流棋士が出席。
また麻雀の井出洋介名人やバックギャモン世界チャンピオンの望月正行さん、矢澤亜希子さんらも顔をそろえ、約50人が集まりました。
金子健太郎さん(下北沢東会あずま通り商店街会長)の音頭で乾杯
最初に保坂展人世田谷区長が挨拶しました。
保坂区長
「伊藤匠さん、今日は叡王獲得とお誕生日、おめでとうございます。22歳ということで、私とは半世紀以上も離れているわけですが(笑)。叡王のタイトルを取られて1週間後ぐらいでしたか、宮田先生と一緒に世田谷区役所に嬉しい報告をしにきていただきました。伊藤さんは世田谷生まれの世田谷育ち、区立の小学校で学んで現在に至っているということで『今後は区の子ども将棋大会や小中学生竜王戦などに可能な限り登場していただいて、子どもたちを激励してほしい』とお願いしたら『ぜひやっていきます』との嬉しいご返事もいただきました。伊藤さんはこれからも大きく勝ち進んでいかれることは間違いないと思っておりますので、世田谷区を挙げて応援をしていきたいと思います」
と話しました。
保坂区長(右)の挨拶を聞く伊藤叡王(中央)と宮田師匠(左)
下北沢は、近年の再開発で近代的な街に生まれ変わりました。オシャレなお店が立ち並ぶ「ミカン下北」は京王井の頭線の高架下を利用して建設された新施設で、昼夜問わずにぎわっています。この誕生日会の会場の「ピッツェリアエイト下北沢」もこの中にあります。
その「ミカン下北」を管理している京王電鉄の井出さんは、なんと麻雀の井出洋介名人の息子さんで、シモキタ名人でも大会会場やノベルティグッズの提供などで協力してくださっています。下平さんも最近知って驚いたそうですが、もっと驚いているがお父さんの井出名人ご自身でした。
井出名人
「私は毎年シモキタ名人戦の麻雀を担当しているのですが、まさか自分の息子が絡んでくるとは思わなかったですね(笑)。でも、親子で仕事ができて嬉しいです」
と笑顔で語ってくれました。
井出さん(息子さん)も
「私は麻雀が全くできません。人に『井出洋介の息子です』と言うとウソのように疑われるのですが、今日は逆のパターンで驚いていただいて、何となく嬉しい気持ちになりました」
と話しました。慶応大学卒業後に京王電鉄に入社されたそうで、これがホントの「ケイオーボーイ」(?)
麻雀の井出洋介名人(右)と、バックギャモン世界チャンピオンの矢澤亜希子さん(左)
会には小田急電鉄の向井さんも出席されていました。下北沢の再開発には小田急電鉄も大きく関わっていますが、向井さんも9年前から街づくりに取り組まれていて、シモキタ名人戦の開催には欠かせない存在。小田急線駅上の商業施設を名人戦の会場として提供してくださっています。
「将棋は子どもの頃、親父と兄に鍛えられました。思い入れのある将棋のイベントに携わらせていただいて非常にありがたいなと思っています」
と話しました。ちなみに小田急電鉄は世田谷区経堂でも「経堂コルティ」にて毎年3月に「きょうどう名人戦」を開催しています。
さて、プロ雀士としての顔も持つ鈴木大介九段が祝福の挨拶をしました。
「私の自慢は、伊藤君が四段になる前から大ファンであったこと。今回タイトルを取ってくれたので、いかに自分に先見の明があったかを証明できたと思います。今期の順位戦で、なんと伊藤匠君の指導対局(?)を受けられることが決まっていて(笑)。引退(?)する前にそれだけは勝とうと思っています(笑)」
と自虐ネタを盛り込みながら笑いを取っていました。
10月10日といえば、森内俊之九段の誕生日でもあります。
森内九段
「シモキタ名人戦には、第1回からずっとお世話になっています。最初は小さい会からの始まりでしたが、今やこんなに大きくなったので感無量の気持ちです。伊藤さんはたまたま自分と誕生日が同じということで、小さい頃から注目していました。伊藤さんが小学生の頃にある大会で優勝したことがあって、これから強くなるんだろうなと思っていたんですけど、そこから順調にプロになって成長されて、こうやってタイトルのお祝いをすることができて大変嬉しく思っています。これから将棋界を牽引していく存在になると思いますので、ますますのご活躍を期待しています」
伊藤叡王と誕生日が同じの森内九段
実はもう一人、将棋界には同じ誕生日の棋士がいるのですが、ご存知でしょうか? これについては関わりの深い宮田八段が話してくれました。
宮田八段
「私の師匠・高柳敏夫(名誉九段)のそのまた師匠の金易二郎先生(名誉九段)が10月10日生まれなんです。初めて知った時は本当にびっくりしました」
一門に同じ誕生日の棋士がいるなんて、何か縁を感じさせますね。
宮田八段
「金先生の娘さん、つまり高柳先生の奥さんは将棋が大好きで、よく三軒茶屋のうちの道場にいらしてくれました。当時80歳後半ぐらいでしたが、小学1年生の匠に『伊藤君、将棋やろ将棋やろ』って誘うんですよ。でも、どっちが強いかと言ったら匠のほうがはるかに強いわけです(笑)。師匠の奥さんですから断れず『やってあげて』と頼んだら、匠は嫌な顔もせず『はい、わかりました』と言ってくれたんです。その時に、この子は頭がいいなあと感心しました」
とエピソードを話してくれました。
「宮田先生は匠君に甘いなあ」と鈴木九段からツッコミが入り、照れる宮田八段
宴もたけなわとなり、伊藤叡王には、中村真梨花女流四段から花束が手渡されました。また、世田谷区在住の画家・山脇浩子さんが描いた伊藤叡王の似顔絵が、内山あや女流初段から手渡されました。
伊藤叡王は
「本日は、私の誕生日を開いていただいてありがとうございます。今日で22歳になるわけですが、ここ1年は3回連続でタイトル戦に出場し、激動の1年だったと感じています。その反動がすでにきてしまっている感じもありますが(笑)。せめて順位戦だけは鈴木(大介)先生(8回戦で対戦・1月15日)に勝って昇級したいです」
と話し、最後は参加者全員の「エイ・エイ・オー(叡王)」のコールで楽しい会はお開きとなりました。