2024.08.26
伊藤匠叡王就位式「藤井さんとの緊迫した一分将棋は貴重な財産」
第9期叡王戦五番勝負で、フルセットの末、藤井聡太叡王からタイトルを奪取した伊藤匠叡王の就位式が、8月23日に東京・港区「明治記念館」で開かれた。
伊藤叡王をはじめ、主催社、スポンサーの挨拶の詳細をレポートする。
【取材・田名後健吾】
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主催社の、株式会社不二家・代表取締役社長:河村宣行氏は
「今般の第9期の叡王戦で、五番勝負の激闘を制して見事に栄冠を勝ち取られ、本日の就位式を迎えられたということで誠におめでとうございます。私ども不二家は、第6期の叡王戦から主催をさせていただいております。その第6期で藤井さんが叡王になられ、第7期・第8期と防衛を重ねられました。そして今般の第9期の防衛戦を迎えられる前に八冠まで制してしまったということで、もう向かうところ敵なしかなと思っていたら、ここで伊藤叡王が誕生ということで、日本中が驚くビッグニュースになったわけでございます。この報道がされたあと、日頃は将棋に興味ないと思っていたある方から『不二家さんは将棋の叡王戦っていうのを主催してたんですね』なんて今更なんですが言われまして。改めてこれは将棋界を超えたビッグニュースとして日本中に知れ渡ったんだなという風に思いました。伊藤叡王の誕生が将棋の関心を日本中に広めるということはもちろんですが、叡王戦そのものもよい宣伝になりましたし、おかげ様で主催させていただいている不二家の知名度も好感度も上がったということで、伊藤叡王に感謝申し上げなければいけないなと思っているところでございます。2019年から『ペコちゃん初めての将棋教室』というお子様に将棋を普及する活動をやってまいりました。たまたま明日が今年の開催ということでありまして、たくさんの方からご応募いただいています。伊藤叡王もお子様の時から将棋に励まれたということでございますので、将棋に限りませんが、子どもの時から学んでいるということが大事です。明日の将棋教室から、お子様に将棋に関心を持ってもらって打ち込み、ゆくゆくは伊藤叡王のように若くしてプロ棋士になって頂点に立つというような子が現れないかなということを夢に見ておるわけでございます。そういう子供たちの夢を背負って、伊藤叡王には目標になるように、これからも末永くご活躍いただきますことを心より願っております」
と激励の挨拶をした。
河村社長は、勝杯と賞金目録、そして副賞として『カントリーマアム』1年分を贈呈した。
続いて羽生善治会長が挨拶。
「この2人は、昨年からずっとタイトル戦を戦い続けており、現在の将棋界の屈指の好カードということになると思います。藤井さんは全冠制覇をされていましたので、そういう状況の中でどういった勝負になるかと注目されたシリーズでもありました。私自身も第1局の対局場(名古屋市『か茂免』)に観戦に伺いましたが、まさに現在の最新形の将棋を見せてくれた大熱戦だったと思います。スコア的にもフルセットまで行きまして、本当に紙一重の勝負だったんですけれども、そこで見事に勝ち抜かれた伊藤さんの頑張りと力量も素晴らしかったなと感じました。この叡王戦の挑戦者決定戦が東京の将棋会館であった日に、たまたま私も会館にいたんですけれども、師匠の宮田先生(利男八段)がいらっしゃっていて、『どうされたんですか』って聞いたら『いや、なんかちょっと伊藤が厳しそうだから応援に来た』とおっしゃっていました(笑)。それだけ弟子のことを心配して応援する師匠の力も大きかったのではないかなと思っております。伊藤さんはまだ21歳ということで、これから先も藤井さんとともに将棋界を牽引していくと思います。時代の若い人たちのアイコンとなるような存在として、これからも長く素晴らしい勝負を見せていただければという風に思っております」
と話した。
羽生会長は、叡王就位状を授与した。
特別協賛社のレオスキャピタルワークスの湯浅光裕代表取締役副社長は
「伊藤叡王には、名古屋の第1局の時に初めてお会いさせていただきましたが、緊張のためか非常に静かで、もうちょっと言ってしまうと暗いなっていう印象がありました。でも、今日久しぶりにお会いしたら、清々しい顔をしていらっしゃって明るいなと思いました。やっぱり人っていうのはいろんな経験を経てだんだんと成長していくんだなと。先ほどお母様にもお会いしましたが、お若くてびっくりしたんですけれども。やっぱり新しい世界というか世代を担っていくっていうのは、こうやって順送りでどんどんどんどん変わっていくものなんだなと。ただね、私たちは投資の仕事をしてるんですけども、投資というのは新しい世界だとか、思いを形にする時に役に立つものなんですね。その投資という意味では、私たちも特別協賛をさせていただいてるわけですけども、私たちの役割というのは、そういうステージを作って、その中で新しい人たちが出て来た時に精一杯応援をしていくと。そういうことが投資の本質でありますし、我々の役割だなという風に思っています。それを今後も精いっぱい伊藤叡王を応援して、この将棋界を応援してまいりたいと思います」
と話した。
湯浅副社長は副賞として、第5局の開催地となった山梨県甲府市の伝統工芸、『甲州印伝』を使用した鞄を贈呈した。
協賛社を代表して、日本AMD株式会社の関路子代表取締役副社長は
「私どもは半導体の企業でありまして、将棋界の棋士の皆様の多くがAMD製の半導体をご使用いただいていると聞いております。伊藤叡王も大変高性能なスレッドリッパーという製品をお使いいただいているという風に聞いており、大変感謝しております。ただ、AIを研究に使用いただいても、それはあくまでも裏方の仕事で、実際にどの手を指すかを考えていくのは棋士の皆様であると思います。AIも間違えることもありますし癖もありますので、それをどう生かしていくかっていうところは、棋士の方たちが経験に基づいて行っているのではないかなと想像いたします。私たちとしては、これからも(製品の)性能を上げて、そういった研究に協力させていただきたいと思っておりますが、それに限らずいろいろな分野で、アナログとデジタルの融合というところも含めて、PCやスマートフォン、アプリケーションといったところからも、将棋界を盛り上げるような活動ができるといいなという風にも思っております」
と挨拶した。
伊藤叡王への花束贈呈は、師匠の宮田利男八段が行った。これまで緊張のためか固かった伊藤叡王の表情が、初めて笑顔をこぼした。
「16年前の、伊藤匠5歳の時からの付き合いです、その頃は『おい、タク」とか『たっくん』とか言ったんですけども、最近はタイトルまで取られたんで『匠先生』と呼ばせていただいてます。(伊藤叡王に向かって)それでよろしいですよね? そういう時は『はい』って言っていればいいんだよ(笑)。叡王戦が始まる前は、皆さんから『今回はどうですかね?』って聞かれて『今度は何とかしてくれるでしょう』って言うんですけれども、(内心は)絶対無理だよなと思っていたんですけどね。でも私の立場ではダメですよと言えないんで。ただ、第4局はどう見ても完敗でしたけれども、匠の辛抱強さに逆に感動して、次はいけるかなというふうに思ったんですけどね。(伊藤に向かって)あの辛抱強さはよかったです。私の好きな横綱・初代若乃花の『人間辛抱だ』っていう言葉をずっと心に思っていました。記念品でいただいたカントリーマアムの1年分は、全部食べるのは大変だったら(三軒茶屋)将棋倶楽部で預かってあげるからね」
とユーモアを交えた激励を送った。
最後に謝辞に立った伊藤叡王は、
「『人間辛抱』という大変にありがたいお言葉をいただきまして、胸に刻んで生きていきたいと(笑)。 叡王戦の持ち時間は、予選が1時間、本戦が3時間と、比較的短い棋戦になります。私自身はこういう早指しの将棋はそれほど得意ではなかったんですけども、今期の叡王戦では、あまり考え込み過ぎずに自然な指し手を積み重ねていくことができて、挑戦権を得ることができました。藤井さんとの五番勝負は、竜王戦・棋王戦に続いてあまり間隔を開けずに3回目のタイトル戦となりましたが、その間に1勝も上げることができず、大変厳しい戦いが続いていました。今期の五番勝負を振り返っても、どれも苦しい将棋だったなという印象でしたが、ただやはり持ち時間が短いということで、最後はお互いに時間がなくなって正確に指していくことが難しい状況が、私にとって幸いした将棋が多かったのかなと思います。また、一分将棋の緊迫した場面で藤井さんに対局することができたのは、私にとって貴重な財産になったと感じておりますし、今後もそういう将棋を指せるよう努力していきたいという風に思いました。叡王戦は他の7つのタイトル戦と比較して、かなり新しい棋戦でして、私にとっては創設された頃から知っている唯一の棋戦となります。当時は叡王とコンピューターが対戦する電王戦が開催されて、大変大きな注目を集めました。いまでは将棋ソフトの実力は、人間をはるかに凌駕して、我々棋士にとっては日々の勉強に欠かせないツールとなっています。私自身も普段はAMD様のパソコンを活用させていただいて、棋力向上に役立てることができていると感じております。ですが、今期の叡王戦第5局では、最終盤で将棋ソフトも瞬間的に正しく評価できないという局面が現れまして、部分的に人間の判断の方が正しかったというようなケースもありました。AIの評価というのもまず絶対的なものではないということを確認させられるとともに、将棋の難しさも実感いたしました」
と、見事な挨拶で締めくくった。
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「今般の第9期の叡王戦で、五番勝負の激闘を制して見事に栄冠を勝ち取られ、本日の就位式を迎えられたということで誠におめでとうございます。私ども不二家は、第6期の叡王戦から主催をさせていただいております。その第6期で藤井さんが叡王になられ、第7期・第8期と防衛を重ねられました。そして今般の第9期の防衛戦を迎えられる前に八冠まで制してしまったということで、もう向かうところ敵なしかなと思っていたら、ここで伊藤叡王が誕生ということで、日本中が驚くビッグニュースになったわけでございます。この報道がされたあと、日頃は将棋に興味ないと思っていたある方から『不二家さんは将棋の叡王戦っていうのを主催してたんですね』なんて今更なんですが言われまして。改めてこれは将棋界を超えたビッグニュースとして日本中に知れ渡ったんだなという風に思いました。伊藤叡王の誕生が将棋の関心を日本中に広めるということはもちろんですが、叡王戦そのものもよい宣伝になりましたし、おかげ様で主催させていただいている不二家の知名度も好感度も上がったということで、伊藤叡王に感謝申し上げなければいけないなと思っているところでございます。2019年から『ペコちゃん初めての将棋教室』というお子様に将棋を普及する活動をやってまいりました。たまたま明日が今年の開催ということでありまして、たくさんの方からご応募いただいています。伊藤叡王もお子様の時から将棋に励まれたということでございますので、将棋に限りませんが、子どもの時から学んでいるということが大事です。明日の将棋教室から、お子様に将棋に関心を持ってもらって打ち込み、ゆくゆくは伊藤叡王のように若くしてプロ棋士になって頂点に立つというような子が現れないかなということを夢に見ておるわけでございます。そういう子供たちの夢を背負って、伊藤叡王には目標になるように、これからも末永くご活躍いただきますことを心より願っております」
と激励の挨拶をした。
河村社長は、勝杯と賞金目録、そして副賞として『カントリーマアム』1年分を贈呈した。
続いて羽生善治会長が挨拶。
「この2人は、昨年からずっとタイトル戦を戦い続けており、現在の将棋界の屈指の好カードということになると思います。藤井さんは全冠制覇をされていましたので、そういう状況の中でどういった勝負になるかと注目されたシリーズでもありました。私自身も第1局の対局場(名古屋市『か茂免』)に観戦に伺いましたが、まさに現在の最新形の将棋を見せてくれた大熱戦だったと思います。スコア的にもフルセットまで行きまして、本当に紙一重の勝負だったんですけれども、そこで見事に勝ち抜かれた伊藤さんの頑張りと力量も素晴らしかったなと感じました。この叡王戦の挑戦者決定戦が東京の将棋会館であった日に、たまたま私も会館にいたんですけれども、師匠の宮田先生(利男八段)がいらっしゃっていて、『どうされたんですか』って聞いたら『いや、なんかちょっと伊藤が厳しそうだから応援に来た』とおっしゃっていました(笑)。それだけ弟子のことを心配して応援する師匠の力も大きかったのではないかなと思っております。伊藤さんはまだ21歳ということで、これから先も藤井さんとともに将棋界を牽引していくと思います。時代の若い人たちのアイコンとなるような存在として、これからも長く素晴らしい勝負を見せていただければという風に思っております」
と話した。
羽生会長は、叡王就位状を授与した。
特別協賛社のレオスキャピタルワークスの湯浅光裕代表取締役副社長は
「伊藤叡王には、名古屋の第1局の時に初めてお会いさせていただきましたが、緊張のためか非常に静かで、もうちょっと言ってしまうと暗いなっていう印象がありました。でも、今日久しぶりにお会いしたら、清々しい顔をしていらっしゃって明るいなと思いました。やっぱり人っていうのはいろんな経験を経てだんだんと成長していくんだなと。先ほどお母様にもお会いしましたが、お若くてびっくりしたんですけれども。やっぱり新しい世界というか世代を担っていくっていうのは、こうやって順送りでどんどんどんどん変わっていくものなんだなと。ただね、私たちは投資の仕事をしてるんですけども、投資というのは新しい世界だとか、思いを形にする時に役に立つものなんですね。その投資という意味では、私たちも特別協賛をさせていただいてるわけですけども、私たちの役割というのは、そういうステージを作って、その中で新しい人たちが出て来た時に精一杯応援をしていくと。そういうことが投資の本質でありますし、我々の役割だなという風に思っています。それを今後も精いっぱい伊藤叡王を応援して、この将棋界を応援してまいりたいと思います」
と話した。
湯浅副社長は副賞として、第5局の開催地となった山梨県甲府市の伝統工芸、『甲州印伝』を使用した鞄を贈呈した。
協賛社を代表して、日本AMD株式会社の関路子代表取締役副社長は
「私どもは半導体の企業でありまして、将棋界の棋士の皆様の多くがAMD製の半導体をご使用いただいていると聞いております。伊藤叡王も大変高性能なスレッドリッパーという製品をお使いいただいているという風に聞いており、大変感謝しております。ただ、AIを研究に使用いただいても、それはあくまでも裏方の仕事で、実際にどの手を指すかを考えていくのは棋士の皆様であると思います。AIも間違えることもありますし癖もありますので、それをどう生かしていくかっていうところは、棋士の方たちが経験に基づいて行っているのではないかなと想像いたします。私たちとしては、これからも(製品の)性能を上げて、そういった研究に協力させていただきたいと思っておりますが、それに限らずいろいろな分野で、アナログとデジタルの融合というところも含めて、PCやスマートフォン、アプリケーションといったところからも、将棋界を盛り上げるような活動ができるといいなという風にも思っております」
と挨拶した。
伊藤叡王への花束贈呈は、師匠の宮田利男八段が行った。これまで緊張のためか固かった伊藤叡王の表情が、初めて笑顔をこぼした。
「16年前の、伊藤匠5歳の時からの付き合いです、その頃は『おい、タク」とか『たっくん』とか言ったんですけども、最近はタイトルまで取られたんで『匠先生』と呼ばせていただいてます。(伊藤叡王に向かって)それでよろしいですよね? そういう時は『はい』って言っていればいいんだよ(笑)。叡王戦が始まる前は、皆さんから『今回はどうですかね?』って聞かれて『今度は何とかしてくれるでしょう』って言うんですけれども、(内心は)絶対無理だよなと思っていたんですけどね。でも私の立場ではダメですよと言えないんで。ただ、第4局はどう見ても完敗でしたけれども、匠の辛抱強さに逆に感動して、次はいけるかなというふうに思ったんですけどね。(伊藤に向かって)あの辛抱強さはよかったです。私の好きな横綱・初代若乃花の『人間辛抱だ』っていう言葉をずっと心に思っていました。記念品でいただいたカントリーマアムの1年分は、全部食べるのは大変だったら(三軒茶屋)将棋倶楽部で預かってあげるからね」
とユーモアを交えた激励を送った。
最後に謝辞に立った伊藤叡王は、
「『人間辛抱』という大変にありがたいお言葉をいただきまして、胸に刻んで生きていきたいと(笑)。 叡王戦の持ち時間は、予選が1時間、本戦が3時間と、比較的短い棋戦になります。私自身はこういう早指しの将棋はそれほど得意ではなかったんですけども、今期の叡王戦では、あまり考え込み過ぎずに自然な指し手を積み重ねていくことができて、挑戦権を得ることができました。藤井さんとの五番勝負は、竜王戦・棋王戦に続いてあまり間隔を開けずに3回目のタイトル戦となりましたが、その間に1勝も上げることができず、大変厳しい戦いが続いていました。今期の五番勝負を振り返っても、どれも苦しい将棋だったなという印象でしたが、ただやはり持ち時間が短いということで、最後はお互いに時間がなくなって正確に指していくことが難しい状況が、私にとって幸いした将棋が多かったのかなと思います。また、一分将棋の緊迫した場面で藤井さんに対局することができたのは、私にとって貴重な財産になったと感じておりますし、今後もそういう将棋を指せるよう努力していきたいという風に思いました。叡王戦は他の7つのタイトル戦と比較して、かなり新しい棋戦でして、私にとっては創設された頃から知っている唯一の棋戦となります。当時は叡王とコンピューターが対戦する電王戦が開催されて、大変大きな注目を集めました。いまでは将棋ソフトの実力は、人間をはるかに凌駕して、我々棋士にとっては日々の勉強に欠かせないツールとなっています。私自身も普段はAMD様のパソコンを活用させていただいて、棋力向上に役立てることができていると感じております。ですが、今期の叡王戦第5局では、最終盤で将棋ソフトも瞬間的に正しく評価できないという局面が現れまして、部分的に人間の判断の方が正しかったというようなケースもありました。AIの評価というのもまず絶対的なものではないということを確認させられるとともに、将棋の難しさも実感いたしました」
と、見事な挨拶で締めくくった。
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